超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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19 願いを叶えて

「はぁぁ……」

 

 ため息を吐いて椅子にもたれかかった。敵の使ってるプログラムは何となくわかったんだけど、まだ足りない。それに防衛するための方策もイマイチ決まらない。自分一人で考えても埒が明かないな。それに、現時点だと即応性に欠けてる。向こうが全防壁を突破してきた時、最後の砦は俺とヤチヨしかいない。AIの出力速度に追いつくには、脳で思考したものを直接転写できればいいんだけど。

 

 現時点でもふじゅ~は脳波を感知して、それで感情の動きを捉え、再生回数などとは別に運営からの報酬提供の指標にしてる。このシステムを応用すれば、思考の転写もいけるんじゃないか。もしくは、仮想脳髄を作成して並列思考する、人間スパコン作戦とか。こんなのばっかり思い付く。いずれも不可能じゃない。ただ、俺の脳みそが修復不可能なダメージを負う可能性はゼロじゃない。

 

「ごはんだよ~」

「あぁ、ありがとう」

 

 かぐやちゃんが呼びに来てくれた。なんか凄い嬉しそうな顔をしている。良い事でもあったの……ってそうか、俺がさっき頼んだ件かな。酒寄さんからお誘いされるっていう激レアな自体でかぐやちゃんの喜びパワーが爆発したんだと思う。

 

「なんか、良い事あったね?」

「彩葉がね~、なんと! 初めて! 初めてお誘いしてくれたの~花火大会!!」

「良かったねぇ、花火は綺麗だよ。夏の風物詩だからね。これを見ずに夏を終わるのは勿体ないから」

「楽しみ楽しみ~」

 

 かぐやちゃんは踊っている。やせ我慢、という感じではない。大分ハイテンションではあるけど、それはいつも通りと言えばいつも通り。むしろ酒寄さんの方が心配になる顔をしていた。

 

「もう、そんなはしゃがないの」

「え~」

「まぁまぁ、初めてだったんだからさ、お誘いされたの」

「そうかもだけど」

 

 酒寄さんは仕方ないなぁ、という顔でかぐやちゃんを眺めてる。その笑顔が好きで、俺たちは今までこの子を守って来た。赤ちゃんの頃からずっと、変わらない笑顔を浮かべていて欲しくて。

 

「花火大会の提案、芦花と真実にしたでしょ」

「あの二人、なーんで言っちゃうかな。まぁ、なんかアイデアはないかなって聞いただけなんだけど」

「やっぱり。そうなんじゃないかと思った。方法が回りくどいから、すぐ分かったよ」

「そんなことある?」

「ある」

 

 酒寄さんは断言した。そんなに分かりやすいかな、この方法。俺自身じゃ良く分からない。自分のことだけど、自分のことを一番よく知ってるのは、実は自分じゃないのかも。肉眼で自分の背中は見えないけど、相手の背中は見ることが出来る。そういう風にして、支え合っていくのものなのかもしれない。

 

「まぁ、というわけで夏休み最終日に花火大会に行くという贅沢があるわけですよ、私たちには」

「だね。……俺も行くの?」

 

 何言ってんだコイツ、という目で見られた。そんな顔しなくてもいいじゃないか。あの二人、ちゃんと俺の話聞いてたのかな。かぐやちゃんと酒寄さんを二人にしたいってことで勧めたのに、全然曲解されて伝わってる。

 

「一緒に行かなきゃかぐやの思い出にならないでしょ。かぐやの中で、どっちか欠けてる思い出にはしたくない」

「……それもそうか」

「どうせ、屋台で持ちきれないくらい色々買うんだから。その荷物持ちが必要なの」

「はい、仰せのままに」

「よろしい」

 

 明日、ちゃんと聞こう。かぐやちゃんは、月に帰りたいのか。もし帰りたいなら、涙を呑んで帰らせてあげるしかない。それがあの子の幸せだ。でも、もし帰りたくないというのなら。その時は全力で阻止する。例え、どんな手段を使ってでも。

 

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 

 九月一日も随分と暑い日だった。近所にある和服レンタルのお店。カップルと女性陣ばっかりで、ちょっと俺には居心地が悪い。

 

「旦那さん、お待たせしました~。奥さんと娘さん、綺麗ですよ~」

 

 俺、そんなに年取って見えるのかな。てか、かぐやちゃんが仮に十五歳くらいだとして、酒寄さんは何歳なんだよ。それこそ十代で出産してないと無理だって。それでも三十ちょいくらいだし……あぁでも酒寄さんは三十代でもあんまり変わってないかも。いずれにしても、俺が家族計画が適当なヤバいやつであることに変わりはないけども。

 

 いや、妻でも娘でもなくてですね、と言おうとした時、奥から二人が出てくる。色は違うけど、お揃いのヒマワリ。髪飾りもお揃いになってる。

 

「似合ってるね」

「あ、ありがとう」

「和服良き~~☆」

 

 かぐやちゃんはグルグル回ってた。あんまり暴れてると着付けがほどけるし、髪が崩れちゃうので程々で止めておく。

 

「旦那さん、男性用もございますよ」

「え、俺ですか」

「はい、是非是非いかがですか」

「いや、俺は」

「ご家族お揃いの方が、お写真も映えますよ」

 

 かぐやちゃんが期待を込めた目をしている。そういう顔をされると、断れないんだよなぁ。

 

「わっかりました。早めに終わりますか?」

「男性の方はすぐです」

「じゃあ、お願いします……」

 

 なんでこうなったんだろうなぁと思いながら、されるがまま着替えさせられる。衣装室の鏡で見たら、案外様になってる……ような気もする。浴衣なんて久しぶりに着た。酒寄さんが白でかぐやちゃんが紺なので、俺は黒にしてもらった。黒い生地に赤い金魚が描いてある。

 

「お待たせしました」

「おぉぉ! なんだっけ、馬子にも衣装!」

「それ、あんまりいい意味じゃない」

「え、そうなの?」

 

 馬子にも衣装じゃ、俺がしょうもない存在ってことになっちゃう。まぁ確かに、顔の良さとかだとこの二人に比べたらアレかもしれないけど。勉強も運動も酒寄さんには勝てないし、元気の良さとかだとかぐやちゃんには負けるし。

 

「結構いいじゃん」

「ならいいんだけど……並ぶと俺だけ浮いてない」

「そんな事ないって。ほら、かぐやも行くよ」

「はーい」

 

 酒寄さんはかぐやちゃんを連れ出していく。ホントにこうしてみてると姉妹というか親子というか。

 

 意外と浴衣の人は結構いるみたいで、電車の中でもそこまで不自然じゃなかった。夏だし、他でもやっているのかもしれない。かぐやちゃんはずっと子供みたいにはしゃいでる。電車なんて何回か乗ったと思うんだけど、それでもいつもよりずっと楽しそうだった。色んなことに出会う度、この子は色んな表情を見せてくれる。同じ場所、同じことでも。だから親は、子供を外に連れて行くのかな。

 

 河川敷の土手に上がると、夏にしては涼しい風が吹いてきた。虫よけスプレーはバッチリ。蚊よけもバッチリ。これでかぐやちゃんと酒寄さんの肌は虫刺されから守られるはず。月から来た人の血を吸った蚊ってどうなるのかな。ちょっと怖い。

 

「屋台! 全部回る!」 

「全部は無理じゃないかなぁ」

「大丈夫大丈夫」

 

 何がどう大丈夫なのか分からない。酒寄さんと顔を見合わせた。どうする? というこちらの問いかけに、ついて行くしかない、という目線が返って来る。まぁそうだよね、と頷きながら、俺たちは足早に進んでいくかぐやちゃんの後ろを追いかけた。

 

「銃あるよ! 銃撃とう!」

 

 銃っていうか射的なんだけどね。ホントの銃があったらマズいし。酒寄さんは外して、かぐやちゃんは当たって一個景品が倒れた。上手いなぁ、流石かぐやちゃん。

 

「これ銃が悪いよ、銃が」

「そんな事ないと思うけどなぁ、ちょっと貸してみて」

 

 二人の射撃を見て、なんとなく弾の飛ぶ方向は分かった。なので、そこに合わせてあげれば――当たる。

 

「えぇ……」

「なんとなく弾の飛ぶラインが分かったから。目線よりちょい上に飛んでくっぽい」

「普通は見えないの、そんなの」

「システム防衛は0コンマ数秒の世界ですから。見落としたら大変だからね」

 

 かぐやちゃんはずんずん進んでいく。次は蟹釣り。こういうのって金魚すくいじゃないんだ。まぁ蟹の方が多少雑でも良いのかもしれないけど。釣りにくそうなほっそい糸を上手く使って、かぐやちゃんは二匹吊り上げていた。凄い。

 

「ぐえー、あのくじ引き絶対当たり入ってないよー」

「まぁまぁ、そういうもんだから」

 

 これでホントにスマコンとか当たった日にはびっくりする。そんな屋台見たことない。

 

「そろそろ花火始まるよ」

「やばっ、ご飯買わないと! タコ焼きと焼きそばとかき氷と唐揚げとじゃがバターに焼き鳥に牛串とトルネードポテトとフルーツ串ときゅうり串、それからそれから……」

 

 どんだけ買うつもりなのか、というかそんなに持ちきれるかな。人間の手足って有限なんだけど。あぁでも、皿に入っているならいけるかも。飲食バイトの酒寄さんがいるわけだし。

 

「じゃあ、ちょっと手分けしようか。そうしないと間に合わないし」

「だね。私とかぐやでこの辺回って来るから、こっちお願い」

「了解」

 

 串系が固まってくれて助かった。そこら辺を片っ端から買っていく。これでかぐやちゃんのオーダーはクリア。後は、注文にはなかったけどりんご飴も買っておいた。こういうの好きそうだから。待ち合わせ場所に戻ると、もう先に戻っていたみたい。さて、声をかけようと思った瞬間、隣にいた男性二人組の話が聞こえた。

 

「あの子たち可愛くね?」

「声かけてみっか?」

 

 ……なるほど。まぁ確かに、酒寄さんとかぐやちゃんを選ぶそのセンスは認めてあげよう。その辺の女子じゃなくて、特級の二人をいきなり攻めに行くその気概も見事だと思う。俺があの二人に釣り合ってるのかとかどうでもいい。取り敢えずこの二人よりは隣にいる資格があるはず。

 

「失礼。ウチの妻子に何か御用ですか」

「あ、すんません」

「なんだ、そういう感じか、何でもないっす」

 

 そう言って二人は去っていく。相手がいる人は狙わない。結構善良な人なのかな。もうちょっと優しい言い方をすればよかったかもしれない。でもかぐやちゃんがあんな感じの人を「私の彼氏~」なんて言って家に連れてきた日には、彼氏のSNSアカウントの投稿といいね欄を全部学校でばら撒くとかはしかねない自分がいる。なんなら酒寄さんもずっと論戦してそうだ。

 

「お待たせー。はい、ドカドカ買って来たよ」

「ありがと~。あ、りんご飴!」

「好きかなと思って」

「分かってるぅ~☆」

 

 かぐやちゃんは喜びの舞を踊りながら土手に向かっていく。酒寄さんも、今日は甘やかすなとは言わなかった。

 

 ずっしりと重い戦利品をレジャーシートの上に置いた。酒寄さんたちも含めると、ほぼ全部回ったらしい。これ、食べきれるかな。まぁかぐやちゃんの胃袋に吸い込まれていくから大丈夫か。

 

「ひょえ~~楽しすぎー! 楽しキングダム!」

 

 建国されてる。国王はかぐやちゃんかな。毎日ずっと楽しいイベントばっかり起こってそうだ。酒寄さんも真似して天に両手を突き出してる。これはこっちもこっちでハイテンションになってるな。パシャと写真を撮ったところで、我に返ったみたいだ。

 

「うぇ~~い、彩葉真似っこ~~」

「今撮った? 撮ったの? 消して頂いても……」

「思い出思い出」

「恥ずかしっ……」

 

 酒寄さんは赤い顔で体操座りの膝へと頭を突っ込んだ。かぐやちゃんがVサインをしている。

 

「ねぇ、かぐや……」

「ん?」

「……いつも着けてるよね、それ」

 

 かぐやちゃんの付けている銀のブレスレットを指して、酒寄さんは言った。もしかしたら、彼女も気付いてるのかもしれない。あの数字の意味に、かぐやちゃんを待ち受ける運命に。

 

「あーなんか落ち着くんだー。故郷って感じ?」

「そっか、故郷……か」

「うん」

 

 奇妙な沈黙が場を支配した。何か言おうかとも思ったけど、言わないことにする。これはきっと、酒寄さんとかぐやちゃんが話し合うべきことなんだから。お互いの心を、見せあいながら。河川敷は薄暗くなる。太陽は地平の先に消えて、紫の空になった。遠くから、花火大会決行の号砲とアナウンスが響く。

 

「月ってさぁ、味も温度もなくてマジつまんないの。決められた役割をずーっとプログラムみたいに繰り返すだけなんだよね」

「そう、なんだ」

「ゲームのNPCっていうか、楓の使ってる自動システムのAIみたいな感じ? 真似っこすらしてくれないんだよね。感情みたいなのも薄くって。終わればまた始まり、始まればまた終わる。そのループを繰り返して、新しいお話なんて、いつになっても始まらない」

「全然、想像つかないよ」

「そもそもそんな事考えるのが異常っていうかさ……かぐやだけ、浮いてたんだよね」

 

 月は酷い場所だ。こんな優しい子を、浮かせてしまうなんて。地球での日々を彼らは知っているのだろうか。こんなにも楽しく過ごして、あんなにも多くの人の心を動かして。システムには出来ないことをこなした。お前らが何千年かかってもかぐやちゃんにあげられなかったモノを、地球はたった数ヶ月で与えた。月がなんだ。地球が無いと宇宙のどこかに飛んでってしまうような衛星のくせに。

 

 花火がドン、と上がる。かぐやちゃんの少し悲しそうな横顔と、何て言ったらいいのか分からない酒寄さんの顔を照らしながら、夜空に色とりどりの花が咲く。

 

「綺麗……」 

 

 素直な感想だった。かぐやちゃんの口からこぼれたそれは、これまで抱けなかった思いの全部をまとめた言葉みたい。でも、でもね。これは空の上から憧れた景色のほんの一部に過ぎないんだ。世界にはもっと、綺麗なモノが沢山ある。

 

「寂しいし、退屈。毎日繰り返し、退屈、死にそう。もうやだ。どっか行きたーいって思ってたら、ある日一本の飛行機雲みたいなのが見えたの。それは地球から、月を目指して飛んでくるロケットだった。それで地球を見始めたら、みんな好き勝手に動いてて、複雑で、一回きりで、だからこそ自由に見えた」

「私たちが?」

「うん。でも、こっちに来て分かったんだ。みんな抑えてもいるんだよね、自分の気持ち。多分、もっと大事な物のために」

「なに、大人じゃん」

 

 その茶化すような酒寄さんの言葉に込められた思いはきっと俺と同じだ。かぐやちゃんの成長が嬉しくて、ちょっと怖くて、ほんの少し悲しい。そんな、矛盾みたいな思い。

 

「えへへ、彩葉の真似かな~」

 

 かぐやちゃんはそう言ってほほ笑んだ。

 

「ねぇ、一個聞いてもいい?」

「何?」

「彩葉、お母さんのこと好き?」

 

 それはきっと、俺には聞けない質問だった。その答えはきっと、かぐやちゃんにとって大事な物なんだろう。

 

「好き……好き、か。どうだろう……わかんないな」

 

 酒寄さんは遠くを見つめながら言った。その視線の先に、きっと花火はない。

 

「そうだね……嫌いになれたらなって、何回も思ったよ」

 

 その答えは、あまりにも悲しすぎた。きっと酒寄さんはお母さんのことが好きだったんだ。それがいつしか、そんな気持ちになってしまった。それはあまりにも悲しすぎる。好きだったのに振り向いてもらえなくて、嫌いにもなれなくて。どこにも行けない彼女の心は、どこに行けばいいの? 好きだって言ってもらえるような思い出も、せめて大嫌いと言えるような悪役にもなれず、酒寄さんのお母さんは彼女に何もあげられてないじゃないか。

 

 酒寄さんが俺の家に生まれていたら、きっと優しさと愛情に包まれて育ったんだろう。出来る事を褒められて、出来ないことも励まされて、きっと楽しい思い出の中で育てたはずだ。もし、願いが叶うなら。俺が酒寄さんの代わりになるから。だから、君は俺の家に生まれて、高野彩葉になって、幸せに育ってほしい。何にもできない俺なら、酒寄さんのお母さんも期待しないし、何も言わないだろうから。

 

「そんなん、彩葉、余計に可哀想じゃん~」 

 

 かぐやちゃんの明るい声音は、けれど震えていた。かぐやちゃんはまだ堪えているみたいにみえる。逆に俺の方がもう無理だった。浴衣の袖に押し付けるようにして、涙を拭く。小さい水の滲みが浴衣についた。

 

「ありがとう。かぐやも、()も」

 

 彼女は今、俺のことを名前で呼んだ。

 

「かぐやのおかげで、こんな風に言えるようになった。楓のおかげで、寄りかかってもいいって思えた。だから、ありがとう」

 

 かぐやちゃんと俺の手の上に、酒寄さんの手が置かれている。それは、真夏の夜にも負けない温かさをしていた。ありがとうなんて言われたら、俺にはどうして良いのか分からない。君にはずっと、笑っていて欲しかった。でもそれ以上に……泣けるようになって欲しかったのかもしれない。泣けないのは辛いって、俺が一番よく知っているから。

 

「ね、かぐや」

「うん?」

「かぐや……」

「……うん」

「帰っちゃうの?」

「うん」

 

 かぐやちゃんはあっさりとそう言った。

 

「いやー月の仕事と放り出してきちゃってさ。強制送還的な? あはは」

 

 苦笑いをしながら、かぐやちゃん言う。何が強制送還だ。彼女に喜びも与えられなかったような奴らの癖に。このブラック企業も真っ青の月が、ふざけんな。怒りと悲しみでぐちゃぐちゃになりそうだった。

 

「……かぐやは、かぐや姫だったみたい。次の満月にお迎えが来る」

「お迎えって、うちに来るの?」

「ううん、多分ツクヨミに来る。仮想の世界って月ととても近いから。あそこなら舟を飛ばさなくても簡単に干渉できるはず。あーでもどうだろ、舟出すのかなぁ。この前の時、全然干渉できなくて戸惑ってたし。でも舟出すのも大変らしいんだよね」

 

 悲しみを押し殺しながら、頭を回す。奴らは電脳戦を仕掛けてくる。ツクヨミなら突破できると思われてるんだ。少なくとも、舟を出すよりは楽だって。舐めたことを考えてることが分かった。そして、この前のプロテクトは月にとっても予想外、というか有効打になってる。かぐやちゃんの発言通りなら、月っていうのは電子世界、電脳生命体みたいなのがいる世界なんだと思う。なら――――勝ち筋はある。

 

「また、逃げればいいじゃん」

「え?」

「かぐやはかぐや姫じゃないよ。もっとハチャメチャで! めちゃくちゃで! だから、おとぎ話とは違うじゃん!」

 

 酒寄さんの声が響く。泣きそうな、苦しそうな声。

 

「そんなハチャメチャかぐや姫にもお迎えが来ましたが、最後の日までめちゃくちゃ楽しく過ごしましたとさ。って、そーゆーのがいいじゃん☆」

 

 いつの間にか、かぐやちゃんの声は随分と大人びていた。親だけ置いて行かれて、子供だけ大人になったみたいな、そんな感じ。大人になんて、ならなくていいのに。どれだけ時間が経ったって、俺たちが守るから。

 

「これが私のエンディング! チョー楽しく運命に向かって走ってく」

 

 それは、ハッピーエンドなの? ハッピーエンドってそんな話じゃないはず。かぐやちゃんはもう覚悟をしているのかもしれない。だったら俺たちが何か言うのは間違いなのかもしれない。本人が覚悟して進もうとしているのを止めるのが俺たちのすることなのか。迷いが浮かんでは消えていく。

 

「そりゃあ本当はさ。もっともっと彩葉と歌いたかったし、楓と遊びたかったよ。新しい曲だってたくさん歌って、みんなで色んな景色を見て。あ、そうだ。ライブしたいなー。お迎えが来る日! 派手に!」

 

 それが、かぐやちゃんの本音なら。俺は、俺がするべきことは。花火はいつの間にか終わっていた。俺たちは黙って空を見上げる。夜色の中に、細い三日月がある。あそこにミサイル打ち込んで破壊したら、全部解決するのかなとか、そんな事ばっかり考えてしまった。

 

「かぐやちゃんはさ」

「うん」

「帰りたくないんだね?」

「…………うん」

「分かった」

 

 俺の言葉はするりと出た。ツクヨミに奴らが来るなら。俺とヤチヨの作り上げた世界の中に来るのなら。勝機はゼロじゃない。かかってこい、月。人類最強のセキュリティで出迎えてやる。

 

「それがかぐやちゃんの願いなら、俺が叶えるよ」

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