超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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20 君と守りたい

 かぐやちゃんの引退が正式に発表された。SNSは大沸騰してる。コメント欄もその話題しか出てこない。真相を語る系とか陰謀論を唱える勢力まで出てる。結婚説、帰国説、就活説等々、色々出回っていた。中にはやんごとない一族の人だった説とかまである。だとしたら酒寄さんは何者だよ。こういう系は世の常だけど、身内にやられると結構イラっとするんだなって、初めて知った。

 

 俺は俺で、防衛用のシステムを再度見直してる。ヤチヨから言われた十五層の増幅は終わったけど、さらに追加で十五層目を突破した際のシステムも追加してある。十六層目が登場し、そこから累乗的に防壁が増えていく仕組み。最初は一つ。一秒後には二つ、二秒後に四つ、三秒後に八つ、四秒後に十六個、五秒で三十二個。時間が経てばたつほど、突破は困難だ。ツクヨミが稼働し続ける限り、理論上は無限に増える。

 

 やつらは卒業ライブをするかぐやちゃんを直接狙いに来るはず。だとするなら、かぐやちゃんの存在そのものに到達できなければいい。ただ、これも限界があるかもしれない。俺の頭だとこれ以上は限界だ。作戦立案なんてやったことないし。仕方ないので、脳内から直接コードを出力できるように調整する方向で切り替えた。もちろん、諸々も防衛システム強化も並行で。

 

 今日はそういえば始業式だったけ。まったく出席する気が無い。というか、なんか夏休み前からずっと休んでんな。学校の先生からは時々連絡が来てるけど、いつも曖昧な事しか言ってない。申し訳ないとは思うけど、今の俺にとって学校はどうでもよかった。一応なんかホントにヤバい事だけ無いかの確認を酒寄さんにしてもらってる。てか、住所変更の届け出もしてないな。

 

 目の下のクマがヤバい。そう思いながら、俺はキッチンで適当な昼飯をあさっていた。かぐやちゃんは俺を気にしてはいるけど、言葉はかけてこなかった。多分、集中してると思ってくれてる。気を遣われてるなぁ。情けない。

 

「ただいま……」

「お帰り」

「おか!」

 

 酒寄さんは早めのご帰宅。かぐやちゃんは昨日捕まえた蟹を洗面器に入れていた。蟹って塩水じゃないのかと思ったけど、種類的に淡水の蟹らしい。どっちにしても後で水槽を買わないと。

 

「ねぇ、かぐや……新しい曲、作る?」

「え!?」

 

 かぐやちゃんは勢いよく立ち上がった。

 

「マジ! いいの? 新曲作ってくれるの?」

「うん、いいよ」

「やひゃふー! やほやほっ、ひゅー!」

 

 あんまり暴れてるので蟹が心配。

 

「うまく出来るか分かんないけど。どんなのがいい?」

「あの途中で終わってた曲!」

「え?」

 

 酒寄さんは一瞬だけ?を浮かべて、そのあとすぐ理解したみたいだった。俺は分かってないので、かぐやちゃんが持ってきた酒寄さんのパソコンを見る。ファイルの中には、『タイトル未定(彩葉と共作)』と書いてあった。多分、亡くなったお父さんとの共作だったんだと思う。その続きを書いて欲しい。それが帰還を前にしたかぐやちゃんの願いだった。

 

「分かった」 

 

 それはきっと、酒寄さんも理解してる。だから、彼女は大きく頷いた。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 時間が過ぎていく。あっという間に夜になった。思考転写システムの完成度は四割強。これで間に合うかはトントンだ。ぶっつけ本番の可能性すらある。そろそろかぐやちゃんは寝ちゃうだろう。そんな時間まで何も思わないで作業していた。もっとこの時間を、あの子と過ごすのに使いたい。でも、それは失敗したらの話。成功すれば何十時間だって使えるんだ。そう言い聞かせてる。

 

「お風呂、入るか」

 

 夜のリビングは暗い。窓の外からは、街の明かりが星空みたいに見えた。そういえば、随分前にそんな事を親に言ったっけ。あの星空の中を普段の俺は歩いていた。そう思うと、街に出るのが楽しかった。いつからかな、外にあんまり出なくなったのは。いつからだろう、また外に出るようになったのは。後者は間違いなく、かぐやちゃんが来てからだ。

 

 失ったものが、少しずつ埋められていく。おれが紡ぎたかった思い出が、かぐやちゃんや酒寄さんと一緒に積み上げられていく。そんな感覚が、心地よかった。あの日何もかも無くなってしまったその続きを始められた気がしたから。

 

 母親は病気だった。俺は医者じゃなくて、病気を治せなかった。父親は事故だった。俺には、何も出来なかった。無力なまま、ただ失われていくのを眺めるしか、出来なかった。一度目はゆっくりと、二度目は一瞬で。もうあんな思いはしたくない。そして、今度は俺にも武器がある。俺にしかない、武器が。

 

「だから、今度は――」

「大丈夫?」

 

 いつの間にか、酒寄さんが隣にいた。彼女の瞳は、街を見ている。

 

「作曲してたんだ」

「あぁ、そうだったね。出来そう?」

「分かんない。でも、一番だけでも完成させる」

「そっか」

 

 星より街の灯よりこの瞳の方が綺麗だと、そんな事を思う。かぐやちゃんもきっと、同じものを好きになったんだ。

 

「ピアノ、触ってさ」

「うん」

「お父さんのこと、思い出した。私、怖かったんだと思う。お父さんとの思い出に触れるのが。思い出と向き合うのが」

「俺もちょっとは分かるよ。ここに越して来た時、少しだけ怖かった。ここに住むってことは、あの時の記憶と向き合わないといけないから。幸せだったものを思い出すほど、失った痛みも大きく感じる。でも――」

「多分、同じこと思ってる。あの子のおかげで、もう一回向き合えた」

 

 酒寄さんの言葉に、俺は小さく頷いた。大事な物を大事だと思って良いんだ。その先にもう一回、積み上げていけばいい。自分が解放されたような気がしたんだ。かぐやちゃんの、あの手に引かれるまま。俺と酒寄さんは同じように大事な何かを喪い、そしてあの子のおかげでもう一回取り戻せたのかもしれない。

 

「大事な人が、出来たって言いたかったな」

「まだ間に合う。あの曲を作り上げればきっと」

「そう、だね。……戦うの?」

「戦う手段が、今度はあるから。病気も事故も、俺には何も出来なかった。でも今度だけは違う。今回だけは、どうにかなるかもしれない」

「全部、失うかもしれないのに?」

「それでも、俺はその時まで諦めないよ。そうしてでも、守りたいモノが出来たから。前までの俺だったら諦めてたかもしれないけど……今は違う」

「かぐやが私たちを繋いでくれたからね」

「かぐやちゃんだけじゃないよ」

 

 俺は、そう言った。言葉に出すのは初めてかもしれないけど、かぐやちゃんだけじゃない。もちろんやろうとしてるのはかぐやちゃんの帰還阻止。でも、それだけが目的じゃない。あの子がいなくなったら、酒寄さんは壊れてしまうかもしれない。それが、どうしようもなく怖かった。あの子がいない世界の中で、俺と酒寄さんはどうやって過ごしていけば良いのか。そんなことも、分からなくなってしまった。こんな短い、夏の間に。

 

「俺は、君も守りたいんだ」

 

 酒寄さんの目が大きく見開かれた。

 

「……私、守られてるのなんて性に合わないんだけどな」

「じゃあ、一緒に戦って欲しい」

 

 その言葉は意外とあっさり出て来た。一人ではどうにもならない。作戦なんて思いつく頭もない。それに、向こうが数で攻めてくる可能性は高かった。人手は一人でも欲しい。酒寄さんがかぐやちゃんを見送るなら、俺は無理強いするつもりはなかった。でも、それは嫌だと思っているのなら。俺と同じ気持ちなら。一緒に戦いたい。

 

「俺は酒寄さんと……彩葉さんと戦いたいと思ってる。あの子の未来を守るために」

「分かった。また、始まるね」

「なにが?」

「共同戦線が」

 

 かぐやちゃんがやって来た最初の方に、そんな話をしたっけ。あれから随分と時間は流れて、俺たちの関係性も変化してる。手を取り合えて、不思議と一人で気負っていたさっきより気が楽になった。

 

 どちらからかは分からないけど、手が握られた。今なら何にも負けない気がした。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 

「かぁ~~、かぐやちゃんが本当に月のプリンセスだったとは。分かるっ!」

 

 何が分かるんだろう。帝さん、実は結構かぐやちゃんの過激派だったりしないだろうか。まぁぶっ飛んでるという意味ではあんまり変わんないかもしれないけど。帝さん含むブラックオニキスの三人と、綾紬さんに諌山さん。それとヤチヨ。当然俺も。かぐやちゃんに関わったこのメンバーがツクヨミ内のブリーフィングルームに来ていた。

 

 事情は全部説明してある。

 

「築地生まれじゃなかったんだー」

「海行っても肌真っ白だったもんね」

 

 そこなんだ。でも、二人とも懐が広いというか、現実感が無さ過ぎて逆に受け入れてくれてる感じがある。

 

「それよりお兄ちゃん的にはもっと気になる情報があったんだけど……」

「それは後で言うから」

 

 帝さんをスルーして、彩葉さんが話を始める。ここからが作戦会議だ。月からのお迎えをどう防ぐか。月は地球と時間感覚が違うらしい。アルテミスが地球から飛び立ったのは2026年の初頭。そっからすぐにかぐやちゃんは地球に飛び立ったけど、その間に既に4年が過ぎていた。お仕事をすぐに終わらせると言っても、限界があるはず。その間に俺たちは寿命を迎え、帰って来たかぐやちゃんは浦島太郎状態だ。

 

「ライブを中止して、一生ここにログインしないっていうのは?」

「すると多分、今度は舟が来る。お迎えの、絵本みたいな舟が。これを撃退するには核ミサイル基地のデータをハックして迎撃するしかない。まぁ無理だと思うけど。それよりは、ツクヨミ内で迎え撃つ方が現実的かなって思った」

 

 綾紬さんの提案は考えたけど、不確実性が高い。月が出ている限り、彼らはどこからでもやって来るはずだ。部屋の中に閉じこもっても無駄なのは、絵本で証明されてる。

 

「だからこそ、ここで倒すしかない。幸いフィールドはこっちで設定できる。ライブ会場を、強制的にKASSENのフィールドに置換する。そのルールでなら、奴らの攻撃もある程度一本化できる……はず」

「はず、かぁ」

『そもそも不正アクセスの防止装置が突破されたのもほぼ初めてだしね~』

 

 ヤチヨの言う通りだ。これまで鉄壁を誇って来たこの場所の防衛力が試されてる。

 

「とにかく人手が欲しい。こっちでも色々考えてはいるんだけど……KASSENならブラックオニキスが一番強い。是非とも、頼りたいです」

「いいぜ」

 

 帝さんは思ったよりもずっとあっさり承諾した。

 

「相手が現実で手出しできないなら、俺たちがここでやるしかない。実にシンプル! 任せとけって。宇宙人だろうがなんだろうが、ツクヨミに入って来てくれるなら好都合だろ? だから守護神も敢えてここを戦場にした」

「その通りです。ただ、当日は公認とは言え全チートを開放します。当然向こうには鬼みたいなデバフを付与しますが、評判に瑕がつく恐れもあります。それでも、やってくれますか」

「それの何が問題なんだ?」

「っ、流石黒鬼。よろしくお願いします」

「任せとけ。ただ、お前の方は大丈夫なのか?」

「問題ない、とは言いませんが。それでもどうにかします。奴らは大きなミスを犯しました。二週間弱の時間をこっちの陣営に与えてしまった。これまで0コンマ数秒の世界で戦ってきました。その俺に言わせれば、二週間なんて永遠と同じ意味ですよ」

 

 多少強がったセリフだ。それでも、ここで士気を下げるよりはずっといい。現在防衛システムに戦史を学習させてる。人類の歴史は戦争の歴史。争いなんてない月とは違って、数千年戦い続けて来た種族だ。戦争に関してなら、情報量と経験の多さでこっちが勝れるはず。

 

「みんなには当日のメイン戦力をお願いしたいの。私も、戦うから。多分同時並行でかぐやを狙うと思うけど、そっちは楓が対処してくれる」

「先ほどヤチヨに許可を貰いました。中枢システム防衛用の防壁を全部こっちに持ってきます」

「あの、無敵要塞を……?」

 

 雷さんが目を見開いた。技術系に一度携わったことのある人なら、あれがどれくらい強力な物なのかは分かるはず。一層抜くのにスパコンを並列接続でぶん回して十年はかかる。二層目はその倍。三層目はそのまた倍。増築した十六層目は無限累乗増殖システム。これを突破するのは、現在人類が持っているコンピューターをかき集めても不可能。

 

「それでも抜かれる可能性があります。みんなには、考えうる限り最悪の事態を想定して、俺に教えてください。一番悪いのその下を想定し、対策を講じます」

「勝機は限りなく少ないと思う。でも、ゼロじゃない。一パーセントに、私たちは賭ける。お願いします!」

 

 二人で頭を下げる。

 

「全部終わったら、お前らの話聞かせろよな。じゃあ作戦会議だ、行くぞ!」

「めんど~」

「リーダーは絶対」

「はーいはい」

 

 乃依もぶーたれてはいるけど、断りはしなかった。そういう人なんだと思う。だからこそ、あの三人は上手く行っているのかも。

 

「彩葉、来年もみんなで海行こうね。今度は高野君も一緒に」

「温泉も行こー!」

 

 綾紬さんと諌山さんも元気に張り切ってくれている。良い縁に恵まれた。一人で抱えるよりも二人で背負って。二人じゃ足りないなら、皆を頼って。そうやって少しずつ輪を広げて、いつかきっと大きな力になる。どこまでやれるかは分からない。でも、最後まで足掻くしかない。

 

「私は、作曲の続きをするね」

「頑張って。こっちはこっちで、まだまだ準備するから」

 

 彩葉さんはログアウトしていった。そして、空間の中には俺とヤチヨだけが残される。

 

「当日は、統括権限含めた全システムの権限を、一時的に委譲して欲しいです」

『分かったよ。カエデを信じます』

「ありがとう、ございます。ここは俺たちの作り上げた世界。そこを土足で踏み荒らす侵入者には鉄槌を下しましょう」

『そうだね。おいたをする悪い子には、オシオキしないと』

「俺たちは全力で足掻きます。だから、ヤチヨにも力を貸してほしい。どうか、お願いします」

 

 ヤチヨは奇妙な顔をしていた。泣きそうな、それでいて嬉しそうな、どこか遠い記憶を探るような顔。その真意は分からない。彼女は彼女にしか見えない何かがあるんだ。

 

『いいよ』

「大分好き勝手にやりますよ。今更ですけど、ホントに良いですね?」

『うん。これまでずっと一緒にやって来たんだから。多少滅茶苦茶でも、OKです』

「分かりました。全開で行きます」

 

 防衛策についてはまだまだ足りない。考えうる限りの全てを出し尽くさないといけないはずだ。それに、万が一作戦が全部失敗したときにでも、なるべく早くかぐやちゃんが帰還できるようにしないと。例え俺たちがいなくても、この世界は変わらず綺麗なんだから。

 

 そのほかにも奪還阻止作戦が失敗した場合、最後の足掻きとしてのプランBも用意はしている。月が完全に電子的な物の依存しているのなら、この作戦は有効なはずだ。どれだけ手を尽くしても、十全ってことは無いだろう。それでも出来る全部を出し切るんだ。俺たちを信じて作戦に参加してくれた、皆のためにも。

 

 そして全部終わったら、どこかに行こう。何度でも、どこまででも。




次回、決戦
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