超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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帝は十五日には、各役所に命じ勅使として中将高野大国を指名し、六衛府を合せて二千人を派遣した。

『Wikipedia、竹取物語より』


21 この一瞬を

 不眠不休の作業の末に、2030年の9月12日はあっという間にやって来た。何とか前日までにほぼすべてのシステム構築が完成した……けど、こちらの想定を平然と上回って来る可能性も捨てきれない。あらゆる角度から考えてはみたけれど、もう手詰まりだ。これ以上の物は多分思いつかない。

 

 彩葉さんも死ぬ気で嫌な想像をたくさん出してくれた。願わくば、月の連中がその想定を下回っていることを祈る。

 

 ここまでの日々は努めて冷静に過ごすようにした。三人でいつも通りの日々を送って、万が一にも敗北したときに、悲しい思い出で終わらないように。こうすることが正解なのかは分からない。でも、何もしないよりはずっといい。その想いは共通していた。

 

「じゃあ、俺は先に潜ってるから。最後の総仕上げ」

「うん」

「かぐやちゃん」

 

 俺は言葉に迷った。もしかしたら、これが最後のお別れになってしまうかもしれない。二人は同じ部屋にいるけど、俺は機械の都合で別の部屋だ。だからこそ、最後の瞬間まで一緒にいられないかもしれない。

 

 そんな嫌な想像を振り払う。全部勝てばいい。勝てば全部、終わるんだ。このお話は全てハッピーエンドになって、そして俺たちの未来は続いていく。

 

「合宿免許の予約しちゃったよ」

「えぇ!?」

「だから……行きたいところ、考えておいて」

「楓……大好き」

「そのセリフは、勝った時にとっておいてくれると嬉しいなぁ」

 

 大好き。そんなたった一言だけで、これまでの疲れとか全部吹き飛んでしまう。彩葉さんが泣きそうな顔をしている。君がそんな顔をしてたら、どうしようもないじゃない。そんな意図を込めて、肩をすくめた。

 

「じゃあ、またあとで」

 

 さようならなんて言わせない。それが俺の目指す、ハッピーエンドなんだから。

 

 

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

『何という急展開! 突如ツクヨミに現れたフリーダム、超新星かぐやの卒業ライブ! 最後のファンサだ、目に焼き付けろ!』

 

 オタ公さんの涙交じりのアナウンスが響いた。これまでずっとかぐやちゃんの演奏を最前列で聞きに来てくれていた人。かぐやの隆盛の一部は、この人のおかげだった。敢えてKASSENフィールドを特設会場にしている。この設計は全部ヤチヨが担ってくれていた。おかげで俺は、戦闘に集中できる。

 

 実働部隊のリーダーは帝さんに頼んだ。あの人が一番経験豊富だ。そして後方での指揮兼バフ役が俺になっている。泣いても笑ってもチャンスは一回だけ。この機会に、これまでツクヨミで築き上げてきた全部を叩き込む。

 

 最後まで出来る事を。ライブの最終チェックもヤチヨに任せ、俺は防衛システムの最終チェックだ。かぐやちゃんのライブに使うリソースだけは絶対に使えない。それ以外の全部をシャットダウンしてでも処理領域を確保する。

 

 時間ジャスト、かぐやちゃんがステージの中心に現れた。彼女は俺が何かするつもりなのは知ってるけど、他のみんなが来るのは知らないはず。きっとびっくりするだろう。そしていつもの調子で、楽しく歌ってくれるはずだ。俺たちはその間に、華麗に叩いてやる。

 

「みんな、今日はありがとー!」

 

 かぐやちゃんの声に、多くのファンが涙交じりの歓声を送る。こんなにも多くの人に惜しまれて、自慢の子だ。きっと彩葉さんもそう思ってる。俺たち二人の、自慢の娘。あんなに小さかったのに、今じゃこんなに大勢の前で歌っている。もっと聞きたいな、その声を。もっと聞かせて、その歌を。

 

「今日でお別れみたいなんだけど、悲しくはしたくないんだ! みんなでお見送りしてハッピーに卒業させて!」

 

 ファンのコールが加速する。そして、それと同時に上空から桃が七つ降り注いだ。

 

「さぁ、盛り上げて行こうぜ!」

「……勝つだけだ」

「けっこー面白そうじゃん」

 

 ブラックオニキスの三人が姿を見せる。思わぬゲストの登場に、会場は爆発寸前だ。

 

「かぐやちゃん、いえーい!」

「かぐや~見て見て~」

 

 綾紬さんと諌山さんも参戦してくれている。

 

『ホントはこの先には行けないことになってるんだけど……でも、希望を託すのも悪くないかな。ヤッチョの、師匠の頼みだからね』

「ライブの余興! かぐや、私たちは私たちで精一杯やるから。万が一勝っちゃったら、ドンキで買い出しして全部乗せパンケーキつくろ」

「彩葉……」

 

 かぐやちゃんが呟く。その瞼を見開いて、大きな涙を溜めて。

 

「その通り」

「おせーぞ!」

「色々と手間取りましたので。でも大丈夫。勝利のために、万全を期しています。前線はお任せしました」

「おぅ! 未来の弟の前で、誰が兄貴か教えてやる!」

 

 それは頼もしい。勝ったら帝さんを兄貴って呼ばないといけないのかな。ずっと一人っ子だから、それもアリか。そう思って、小さく笑った。

 

『これは世紀の大決戦だぁぁ! かぐやの卒業ライブに、まさかの面子が駆け付けました。いろPにブラックオニキス、そしてヤチヨと守護神! この錚々たる面子、一体何と戦うんだ~!?』

 

 オタ公さんの驚愕した声が響く。

 

「そっか……そっか……みんな、自由だ!」

 

 ヒマワリのように、その笑顔が咲く。あと何万回だってその笑顔にさせてあげるんだ。そのために、俺たちはここにいる。

 

警告! 警告! 何者かが侵入を試みています。アクセス防衛システム、間もなく突破されます

 

 今回はアクセス防衛は諦めた。そこにリソースを割くくらいなら、もっと違うところに割きたい。そして、ツクヨミの空が切り裂かれる。そこには花弁が降り注いでいた。中央には菩薩のような光る巨大な何者か。あれがきっと月人の親玉だと思う。おいでなすった、誘拐犯。ここに足を踏み入れたが百年目。地獄を見て帰ってもらおう。

 

「統括管理AI月見ヤチヨに全権限移譲を申請!」

『移譲、許可』

「本時刻をもって作戦を開始する。全軍、突撃!!」

 

 灯篭型の兵士は一般兵なんだと思う。菩薩の手から大量に溢れ出ていた。それこそ凄い数。そして七福神みたいな中ボス風のアバターが幾つも登場した。観客はライブの余興だと思っている。その隙に、どれだけ叩けるか。

 

 KASSENのルールを今の一瞬で理解したらしい。残機表示を出してきた。

 

――――かかった。これで奴らはこのルールの中でしか動けない。でも、忘れてるんじゃないかな。ルールを決めるのはプレイヤーじゃない。ゲームのクリエイターであり、ゲームマスターだ。ここは俺が作った戦場。なら、ルールは俺が決められる!

 

「管理権限を使用し、KASSENルールを書き換え!」

了解。プレイヤー七名に全攻撃最大強化、全防御最大強化、残機無限、無敵貫通、即時リスポーン、特大攻撃チャージ時間ゼロ、対月特攻ヒュドラシステムを付与。プレイヤーUnknownすべてに全攻撃最小、全防御最小、残機ゼロ、スリップダメージ、攻撃チャージ時間無限を付与します

「叩き込んで!」

 

 七人のプレイヤーが一斉に突撃を敢行する。これでどこまで削れるか。一瞬だけ月人の動きが止まった。膨大な数の灯篭型があふれているけれど、帝さんたちに瞬殺されている。そりゃそうだ、彼らの攻撃力はアリん子より少なく、防御力はちり紙より薄い。しかもずっと特大のスリップダメージが入り続けている上に、残機はない。こんなクソゲーに勝利できるのは、恐らく人類以外だけ。

 

 倒した敵が復活しないよう、存在そのものを抹消させるウイルスも仕込んでおいた。こっち側のプレイヤーの武器に付与されている。

 

「NPCにも同様の措置を!」

了解

 

 ダメ押しとばかりに、一般のNPCにも同様の措置をした。これで普通なら痛いだけの矢が致命傷になる。数で来るのは最初から予想していた。なら、数で叩く。戦いは数だと、防衛AIも作戦立案時に提案してきている。

 

 向こうの侵攻兵の数が止まらない。奴らもこっちが本気だと気付いたようだ。そしてすぐに気付くだろう。自分たちを押しとどめる原因が誰なのか。何のシステムで動かしているのかを。かぐやちゃんの歌が響いていく。その声が聞こえるたびに、力が湧いてくる。

 

「たまには、親父のカッコいいところ見せないとな」

警告! 統括システムへのアタックを確認

「よし、来たな。自動防衛システム、起動!!」

迎撃を開始します

 

 菩薩が俺のいる上空に手を伸ばしてくる。それを巨大な防壁が塞いだ。ガンっという大きな衝撃音が走る。感情らしいものを見せないはずの月人が一瞬だけたじろいだ。それでも技術力で劣る地球なんぞにという意思なのか、攻撃を続行してくる。だけどそれは時間稼ぎだ。

 

 この前お前たちがやってくれたのと同じ作戦を使ってる。こっちは囮。菩薩の意識を全部こっちに向けさせて、その間にみんなが奴らの天守閣を狙う。三本先取が本来のゲームルールだけど、今回は先取勝利にした。そして、こっちの天守閣には巨大なプロテクトがかかってる。ゲームルールを書き換えない限り、こっちの天守は落ちない。だから、菩薩も来ざるを得ない。これが面倒な罠だと知りながら。

 

「来いよ、全力出してな。お前の意識もリソースも、全部ぶつけてみせろ」

自動防衛システム第一階層、突破率48パーセント

 

 初めてだ、こんなに突破されたのは。さすが月の技術力、侮れない。地球人類がスパコンをぶん回して十数年は確実な防衛システムの第一階層をこの数分で半分破った。

 

「戦闘班各員に伝えます。現在敵の主力が網にかかりました。解読にはまだ時間がかかるはずです。その隙に敵をとにかく倒してください! 奴らの防衛力は最低、数だけ多い紙切れです。殴るだけでも死ぬはずなので!」 

「「「了解!」」」

 

 向こうもどんどんNPCを倒していく。それでもこっちは累乗的に増やすコマンドを使っているので、奴らがNPCを一体倒すごとに新しいのが二体出てくる。ツクヨミ全体が震えていた。こんなに負荷のかかる試合をしたのは、多分完成以来初めてだろう。

 

フィールド上の敵、損耗率28パーセント

第一階層、突破率72パーセント、85パーセント……第一階層、突破されます

「予想より早い……!」

 

 未だかつて誰も破ったことのない第一階層が突破された。でも残りはまだたくさんある。数字が増えるごとに突破は難しいはずだ。

 

「同時解析、まだか!」

敵母体の解析率、58パーセント

 

 こっちは守っているだけだと埒が明かない。どこかで攻撃に転じられるように向こうにアクセスするための解析システムを構築していた。元々あった不正アクセス防止システムの流用だけど、これが結構ちゃんと仕事をしてくれている。これが解析終了するまでに防衛できるかがカギだ。

 

フィールド上の敵、更に増大。損耗率25パーセントに低下

第二階層、突破されます

解析率、88パーセント

「敵が多すぎる」

「ちょっと、厳しいかも……!」

 

 雷さんと綾紬さんの苦しい声が耳から響く。チートバフ山盛りかつ敵に特大デバフ。これでも時間稼ぎに苦しむなんて。どこまで戦力を持っているのか分からない状態で挑んだのはやっぱり危険だったのかもしれない。AIも敵戦力不明での戦闘はリスクが大きいと進言していた。でも、やらないっていう選択肢はない。

 

「仕方ない、奥の手だ。管理者権限で全アカウントに通知!」

 

 ライブを見ているかどうかに関係なく、全アカウントに通知が発せられた。向こうが数で押してくるなら、こっちも数を増やすしかない。本当はあんまりやりたくなかった奥の手だけど、もうやれることは何でもするしかないんだ。

 

「現在臨時で発生中の戦闘に参加し、敵天守閣の撃破に成功したプレイヤーには、100万ふじゅ~並びに月見ヤチヨ配信への特別参加権、同ライブ優先当選券を付与します。参加希望者は、直ちにブラックオニキスの背後から戦闘に加わってください。プロの方の場合、事務所へはこちらから話を通します!」

 

 通知が鳴り響いた瞬間、戦場に凄まじい数のプレイヤーが一斉ログインした。かぐやちゃんのライブを見ているお客さんの中にも、卒業を阻止するためならと駆け出している人がいる。

 

 千年前は手も足も出ないまま負けた。でも、21世紀の竹取物語は違う。今度は地球が勝ってめでたしめでたし。宇宙人襲来ものの映画って、大体そうでしょ? バトルシップとか、インディペンデンスデイとかさ!

 

戦闘に参加中の友軍プレイヤー数、一万を突破

第五階層、突破されます

解析率100パーセント。解析完了。攻撃可能

 

「攻撃に移行する! ウイルス砲、打ちまくれ!」

 

 かぐやちゃんのライブ会場は城。その櫓が変形し、中から大筒型のギミックが姿を見せる。そこから大量の砲弾が敵の背後、出現座標に向かって飛んで行った。弓と刀だけだった人類も進化したんだ。その翼で月まで行った。数千年かけて、ここまで来た。それと同じことをするだけ。

 

 中には人類がこれまで短いインターネットの歴史の中で生み出し続けて来た悪意の塊。ありとあらゆる種類のコンピューターウイルスが入っている。やつらが電子生命体であり、ある種のシステムなら、これが有効なはず。かぐやちゃんの言葉がヒントになった。解除しようとした瞬間に増殖したり、アクセス側を自壊させたりする。

 

「効いてるっ……!」

 

 菩薩型が明らかな後退を見せた。背後を気にしている。切り裂かれた空間の向こうが揺らいでいた。空に見える月の映像が奇妙な変形を見せている。多分、奴らの本拠地で何か異変が起こってるんだろう。あんな数のウイルスが同時発症したらどうなるかなんて考えたくもない。

 

第七層、突破されます

フィールド上の敵増加量の減少を確認。敵損耗率52パーセント。友軍プレイヤー数、二万を突破

警告! 処理領域が足りません。このままでは、システムがダウンします

「第十三区画から二十五区画まで全部閉鎖! 不具合の通知を出せ!」

了解。当該区画を閉鎖。防衛に当てます

 

 目の前にはすでに大戦争が起こっていた。敵の増加が止まりつつある一方で、こっちの戦力は増加し続けている。雲霞のような友軍が次々と戦場を突っ走っていた。もちろん、友軍全プレイヤーにチートが付与されている。プロの人もたくさん来てくれた。流石、動きが違う。その先頭を突っ走っているのはやっぱりブラックオニキスの三人。それと気合と根性で着いてきた酒寄さん。そしてヤチヨ。この五人が中枢にたどり着こうとしていた。

 

 菩薩は奇妙な声らしきものを出して、ムニュムニュと七福神型を大量投下する。それでも長くはもたないで殲滅されていった。

 

「よし、今が最大のチャンス! 防衛システムは全自動での迎撃を続けろ!」

 

 俺は目の前のウインドウを開いた。さっきの解析で、敵とのタイマンが可能になっている。今度はこっちが攻撃を仕掛ける番だ。防衛システムの第九層が抜かれた。それでもまだまだ負けない。

 

「行くぞ、覚悟しろ!」 

 

 かぐやちゃんの歌が響いている。それに合わせて、自分の持ちうる最大限の力でキーボードを叩き続けた。相手もこっちが自分の中核にアクセスしようとしているのに気付いたらしく、全力で防御してくる。早い、それも凄まじく。こっちが突破した瞬間に無限の防壁がまた出てくる。

 

 それでも処理が手一杯になりつつあるみたいだ。どこに集中するべきか、判断が出来てない。その迷いは、こっちには願ってもない時間だった。

 

第十五階層突破されます。自動防衛システム、無限増殖機能に移行

 

 早い。どんどん早くなってる。俺の手癖に慣れて来たのか。それにしたってもうちょっと時間がかかると思ってた。ただ、こっからは自動防衛システムの本髄。無限に増殖し続ける防壁を全部突破しないことには――

 

警告! 警告! 自動防衛システム間もなく突破されます。防壁設営速度が攻撃速度に追いつきません

「そんな、バカな……」

 

 一秒ずつ倍に増えていく累乗システムだ。それがそんな簡単に抜かれるわけがない。それでも警告音は消えない。一秒じゃ、遅すぎたのか。

 

防衛システム突破まで10、9、

「システムを統括管理に移管! ここからは手動でやる!」

了解。お力添えできず、申し訳ございませんでした。統括に、月読尊の加護を

「よくやってくれた。ありがとう」 

 

 システムが移管された瞬間、とんでもない量のアタックが飛んでくる。これを捌き切るのは難しい。それでも中央だけ死守すればいいはずだ。こいつらはウォレット情報とか個人情報には興味ない。だからこそ、守るのはこのゲームのルール変更権などの中核部分だけ。

 

 眩暈がする。手が震える。キーボードじゃ、遅い。やっぱりやるしかないんだ。ぶっつけ本番、最後まで調整に手間取ったけど、四の五の言ってる場合じゃない。

 

敵損耗率、78パーセント。間もなく先陣が天守に到達します

「行ける! 脳波転写コード起動!」

 

 スマコンの警告が出たけど無視する。脳に致命的な障害を与える可能性があるらしいけど、そんなの承知の上でやっている。これを使えば、プロテクト出来る。こっちが粘り勝ちをするか、向こうのシステムがウイルスに食いつくされつつ天守閣が落とされるか。二つに一つだ。

 

「自動転写、開始!」

 

 凄まじい頭痛が俺の身体を襲った。無理やり思考を読み取りながらコードを叩き込んでいるんだから無理もない。リアルの俺の身体に、ぽちゃんと何かが垂れた。多分、鼻血かな。意識が朦朧としてくるのを、近場にあったシャーペンを手にぶっ刺して対処する。

 

「まだだ、まだ負けられない」

敵損耗率、82パーセント。天守までの距離、あと少し

 

 目がチカチカする。それでもまだ、防衛は出来ている。

 

「かぐやちゃんに、楽しさも喜びも与えられなかったお前たちなんかに」

 

 飛んでくる矢を跳ね落とす。俺のアバターごと攻撃して叩き潰すつもりらしい。なんて野蛮な。これが月人の戦い方か? やっと俺たち地球人と同じところまで落ちて来たな。

 

「あの子がどんな笑い方をするかも知らない、お前らなんかに!」

 

 呼吸が苦しい。脳が締め付けられるような感覚。スマコンも半ば暴走状態だった。

 

「舐めやがって……俺の、娘は、誰にも――渡さない! この後予定が詰まってるんだよ、俺たちはな。かぐやちゃんの戸籍を確保して、三人で旅行とか行って、幸せな家庭を作る。俺たちのハッピーエンドを作るっていう予定が、あるんだ――ッ!」

 

 叫んだその時、俺の視界が一瞬だけ霞んだ。敵の入力を見れなかったほんの一瞬。その刹那の時間は、奴らには十分すぎた。

 

「しまっ!」

防衛システム突破されます!

 

 バリン、とガラスの割れる音がした。俺のアバターから、撃破されたときに出る花弁が散っている。薄くなった視界で戦場を見た。この一瞬でシステムを掌握された。そのせいで、初期の七人を除いて全プレイヤーがログアウトさせられている。チートもデバフも全部剥がされた。そして、空から大量の灯篭が降って来る。

 

「奪還、するだけだ」 

 

 でも、奪還作業が開始されない。脳波読み取り装置が負荷のせいで故障している。なら、と思ったけど指が動かない。脳の負荷のせいか、上手く動いてないみたいだ。

 

「こんな、ところで……! あと、ちょっとなのに……!」

 

 帝さんが月人に撃破される。乃依も雷さんもヤチヨも、撃破された。残機をゼロにされているのは、意趣返しかもしれない。かぐやちゃんの歌は終わって、全てを悟ったような笑みのまま、彼らを受け入れた。

 

「はるばるようこそ」

 

 月人がかぐやちゃんを囲う。小さくなった菩薩型が恭しく頭を下げた。

 

「逃げちゃってごめん。でも、すっごい、すっごい、楽しかったんだ」

 

 待って、待ってくれ。まだ、まだやれる。俺はまだ、戦える。喉の奥をきしませながら、システムの再起動をかけた。行きたいところが、したいことが、沢山あったんだ。この先もずっと三人で、色んな思い出を作るんだ。

 

 彩葉さんのバイト先のカフェに行こう。綾紬さんとか諌山さんも待ってる。黒鬼とゲームして、かぐやちゃんは悔しがったり笑ったりして、俺は管理室からそれを見守って。料理しよう、旅に出よう、歌を歌おう。これから何度だって、何回だって。だからお願いだ、行かないでくれ。俺を、俺たちを置いて行かないで。

 

 月人は顔を変えない。なのに、なんだか微笑んでいるようにすら見えた。畜生、なんだよ。お前ら、感情あるんじゃないか。だったら、どうしてこの子を開放してやれなかったんだ。あんな寂しい言葉を言わせたんだ。

 

 かぐやちゃんは空に昇っていく。足元に乗った光る雲に乗って。犬DOGEが傍にいた。そうだ、プランBがまだ残ってる。

 

「最高の卒業ライブでした! いっぱいお土産貰っちゃった。みんな、ありがとう!」

 

 かぐやちゃんはファンに手を振った。その後、俺の方を見る。

 

「楓、褒めてくれて、嬉しかったよ」

 

 そして、彩葉さんを見た。

 

「名残惜しいけど、これでおしまい。彩葉、大好き」

 

 かぐやちゃんの肩に着物が着せられる。奴らがロストするまで、あと数秒。

 

「システム・オリオンを始動。ただちに発射」

システム・オリオンを始動します。目標との距離、誤差あり

「補正、計算をして、ただちに発射しろ!」

 

 残った大砲から、一発の砲弾が飛んでいく。地球が出来る最後の抵抗。この中にはかぐやちゃんがやらないといけない仕事を肩代わりさせるためのシステムの作り方が書いてある。と言ってもヤチヨと共作した、ただのAIシステムみたいなものだけど。それでもいつか、俺たちがいなくなった後でも、かぐやちゃんが愛したこの星に戻ってこれるように。

 

 敗北の中、俺は空を見上げた。倒れ伏して薄れ行く視界の中で、菩薩が俺に静かに礼をしている。敬礼のつもりか、あの野郎。敬意を示すんなら、俺の娘を返してくれ。あんなに小さかった、料理を教えたらうれしそうで、一緒に買い物に行くと目を丸くして、プログラミングを教えたら楽しそうにこなして、優しい心を持ってて。世界で一番、いい子なんだ。だから、お願いだ。俺からもう、何も奪わないでくれ。

 

 そんな願いも虚しく、かぐやちゃんは虚空に消えていく。俺の伸ばした手は、届かない。また、何も出来なかった。

 

「楓!」

 

 叫ぶ彩葉さんの声を遠くに聞きながら、俺の意識は消えていった。




かぐや姫防衛戦争

月側
・最終的に戦闘要員の92パーセント喪失。リスポーン不可
・中枢システムに深刻なダメージ。
・各種機能に損傷多数

地球側
・プレイヤー損失1、ユーザー名かぐや
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