超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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投票の多かった酒寄夫妻の結婚式をお送りします。


蛇足~
Extra:酒寄夫妻の結婚式


 2037年も既に秋に入り、あの卒業ライブから7年が経過したことになる。月日って流れるのが早い。大人になってから振り返ると、あっという間だった気がする。なんか俺たちの場合は別の理由な気もするけど……。かぐやのボディはしっかり適合し、ちょいちょい改良を加えつつ、より発展したボディの開発も進んでいる。人間にも適応できないと意味がないからね。

 

 現在は身体欠損などに対する臨床実験を行っている最中だ。今はまだ腕とか足のような部分だけど、将来的には半身不随や麻痺なんかにも対応できるようになるのが理想形。先天的な疾患を持ってしまった人、或いはがんなどにより苦しんでいる人に、人体ではないけど健康な体を持って生活できるように、というコンセプトだ。

 

 まぁかぐやを蘇らせるためだけに始めた研究だけど、実際それだけじゃお金はもらえない。全部の医療的課題を過去に出来るのか。世界に注目されているのは間違いない。まぁそんなこんなで忙しくも順調な日々を送っていた。研究とツクヨミで二足の草鞋を履く彩葉さん。ツクヨミの管理とお役所と研究の補佐でてんやわんやの俺。そして大復活を遂げて前より自由になってるかぐや。この三人の物語は相変わらず立川のマンションで続いてる。

 

 そんなある日。

 

「ねぇねぇ」

「なにー?」

 

 家にいる事の方が多い俺とかぐやは、よく話していた。配信者は結構不規則な生活になる事が多いけど、それでも健康面に被害が出ないのは良いのかも。ただ、寝ないとメンタルとかパフォーマンスに不調は出るので、そこら辺のシステムは人間となんら変わりない。でも肌荒れとかはしないけど。

 

「楓はさ、結婚するときに酒寄に変えたんだよね?」

「あぁ、名字の話? まぁそうだね」

「なんで高野にしなかったの?」

「うーん、別に深い理由はないんだけど。単純に変更しないといけない書類の数とかが、彩葉さんの方が多かったからかな。あと、なんか向こうのお義母さんが面倒そうだし……」

 

 高野にそこまでこだわりはない。そりゃまぁ、十数年付き添ってはきたけど、そこまで愛着はないっていうかなんて言うか。それに、かぐやがどっちかの姓になるのなら高野かぐやより酒寄かぐやの方がいいなって思ったってのもある。最初にかぐやを抱き上げたのは彩葉さんなんだし。

 

「あぁ、あの激ヤバお母さん」

「激ヤバ言わない。いや実際そんな感じではあるけども」

 

 数年前、籍を入れる前にちゃんと京都まで挨拶に行った。酒寄家風に言うのなら、ケジメを付けに行ったわけだけど。いやあ、まぁ、とんでもない目に遭った。最後の方には孫の顔を見せる気はあるのかという攻撃を食らったのを覚えてる。孫は欲しいんだとはちょっと思ったけど。あのお義母さん、そういうのに興味なさそうだったのに。

 

 でも教育によくないからなぁ。ウチの家庭の方針は褒めて伸ばすだし。

 

「炒飯できた~」

「わぁ、美味しそう。海老も入ってる」

「ふふーん、卵スープもあるよ」

「今日は中華なんだね」

「昔作ってくれたじゃん。彩葉が学校行ってるとき」

 

 そんなこともあったけ。まだ月に帰る前、彩葉さんが学校に行っている間のご飯は俺が作っている時もあった。かぐやが配信していて、作る時間が無かったから。とは言え俺のごはんなんて適当な男飯だったんだけど。炒飯とかカレーとかしか作れないし。

 

「あったねぇ、そんなことも」

「そんな思い出の味~。彩葉まだかな」

「今日はあれでしょ、大学で講演会的な。俺はいろPのファンが多いに一票だけど」

 

 真面目に技術的な話を聞きに来てる子と、いろPのファンとどっちが多いのかという賭けだった。なお、かぐやも同じ方に賭けているのでこれは成立しないんだけど。

 

「ただいま」

「お帰り~~!」 

「お帰りなさい」

 

 彩葉さんが帰還してきた。帰って来るなり俺の顔をガン見している。

 

「あの、どうした? 俺の顔になんか付いてる?」

「……」

「あの、彩葉さん?」

「結婚式をします」

「……はい?」

 

 唐突なプロポーズをしたことに対する数年越しの意趣返しなのか、彩葉さんは唐突に言った。かぐやはぽかんとしている。俺も目を白黒させている。言った当人以外に何も状況を呑み込めていない、秋の日の正午だった。

 

 なお、ギリギリ真面目に講演を聞きに来た学生が多かったらしい。日本の未来はまだ明るいね。

 

 

 

「なんでいきなり結婚式?」

「今日、学生の子に言われたのよ」

「何を」

「結婚式はしないんですねって」

「別にいいだろ、そんなの我が家の好きで……」

 

 何を考えてるんだろう。あぁでもいろP過激派の女性ファンって結構いるんだよなぁ。そういうファンの人からすると、俺が悪いことになってるのかもしれない。

 

「関係ない質問はしないように~って誤魔化したんだけど」

「だけど?」

「そういえば何にもしてないって」

「……確かに」

 

 籍を入れた後に指輪だけはしているけど、それ以外になにか夫婦らしいことをしているかというと……してないかも。同じ家に住んでいるけど、特に何もない。かぐやもいるしね。え、もしかして俺たちってそこら辺の高校生のカップルより進展してないの? そういえば恋人期間って無かったし。

 

 俺はずっと好きだけど、好きって言ってもらったっけ……。なんか思い出せない。冷や汗が出て来た。なんなら未だに別々の部屋で寝てるし。生活リズムが違うからそれは良いとしても……。

 

「ということで、しましょう。お祖父ちゃんたちには、私の花嫁姿を見せたいし。今時はそういう時代じゃないかもしれないけど、やっぱりね」

「は、はい」

「今風の結婚式ってあれだよね、ジャジャジャジャーンって流しながら教会でドーンってやるやつ!」

「まぁ、そういう感じなのかな?」

 

 かぐやの中にあるイメージがどこから来たのかは分からないけど、俺のイメージもそんな感じだ。なんとかって雑誌があった気がするけど、よく思い出せない。あれは結婚する前に買うんだっけ。だったら今はもう必要ないなぁ。

 

 イベントの好きなかぐやは楽しそうにしている。俺が了承したことに彩葉さんは満足げにしていた。困惑している俺だけが、ちょっと置いて行かれていた。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 

 そっからはなんかすごい勢いで進んでいった。自分が電子世界以外では弱いということを実感させられる。招待客のリストとか、お義母さんを呼ぶのかどうかとか、かぐやをどういう風にするのかとか、考えることは多い。結婚式ってこんなに色々時間がかかるってことを、やることになって初めて知った。

 

 基本的に時間に融通が利くのは俺の方なので、俺が準備しようか? とは言ったんだけど、彩葉さんにやんわり拒否された。こういうのは自分で言いだしたから自分で準備したいらしい。でも何もしないも良くないので、ちゃんと毎回打ち合わせには参加していた。彼女が楽しそうにしているので、俺は何も言うことは無い。

 

 資金はこれまでのものがちゃんとあるので、彼女が思い出に残せるようなものにしてくれれば良いと思う。ただ、ずっとヤチヨの曲を流すのはやめよう。それはヤチヨの独演ライブ、俺たちの結婚式を添えてになっちゃう。それでもいいんだけど、流石に来てくれる人に悪いし。

 

 そして前日になった。明日は本番。かぐやはワクワクと言いながら爆睡している。俺の親族が誰もいないので、ヤチヨのアバターを置いてもらった。両親がいなくなってから、ホントは娘だったとはいえ親代わりをしてもらったところもあるし。その感謝を込めている。

 

「なんか、あっという間だったー」

「そうだねぇ」

 

 彩葉さんはカウンターでお酒飲んでいた。明日があるのでそんなに量は飲まないけど。彼女、飲み始めると結構飲んでいくので適度に止めないといけない。俺も隣に座って飲み始める。普段はあんまり飲まないけど、今日は特別だった。

 

 月が出ている。プロポーズした時も月が出ていた。あの時は勢いで、結婚するとどうなるとか何も考えてなかったけど、でもこの人と一緒に生きていきたいっていう思いだけはあった。その思いだけで、ここまで突っ走って来た。

 

「彩葉さんは」

「うん」

「俺のこと、好きなの?」

「……は?」

「いや、何というか、俺からプロポーズして、ホントに俺で良かったのかなって」

「いまさら? マリッジブルー?」

 

 そんな感じなのかな。結婚する前に不安を感じているっていう意味なら、そうなのかもしれない。彩葉さんは俺が冗談を言ってないのが分かると真顔になって、俺の首根っこを掴んでソファに投げ倒した。全然抵抗できなかったんだけど、俺が貧弱すぎる。

 

 ふぁさっとカーテンが舞う。月の光が押し倒された俺と、それに覆いかぶさるように押し倒している彩葉さんに降り注ぐ。その銀色の光の中で、彼女の顔はあの日と変わらず綺麗だった。この家でずっと一緒に暮らしていたいと思ったあの時と変わらずに。

 

 そのまま彩葉さんの顔が近づいてくる。そして、唇が重なった。さっきまで飲んでいたお酒の味がした。彼女の手が俺の手を掴んで離さない。絡めた指から彼女の体温を感じる。

 

「彩葉、さん……?」

「私が、好きでもない男とこんなことすると思う?」

「思わないよ、そんなこと」

「じゃあ、これが答え」

 

 彼女は小さく微笑んだ。俺の心の中にあった不安のような何かが、消えていく気がした。でも、もっと縛っていたいという想いがある。俺は多分、重たいんだと思う。もう何も失いたくない。幸せはある日突然消えてしまうこともある。だから、俺は家族がずっと欲しかったんだ。でも、それは誰でもよかったわけじゃない。俺が愛したいと思えて、俺を愛してくれる人と、出会いたかった。

 

 言葉にして欲しい。縛りたいし、縛って欲しい。放したくない。二度と、絶対に。

 

「言葉にして欲しい。俺はずっと、彩葉さんを愛してる」

「私も、あ、愛して、る……」

 

 彼女はちょっと緊張しながら言った。その言葉だけで十分だった。抱き着いてきた彼女の身体が俺の上に乗っかる。

 

「楓は気付いてなかったかもしれないけど、最初から結構好感度高かったんだよ」

「そうなの?」

「そうなの。だから、あのプロポーズだって受けたんだし。そもそも、好きじゃないやつと一緒に暮らそうと思いません」

「それも、そうか」

「大丈夫。私はどこにも行かない」 

 

 俺の耳元で囁かれた言葉が、俺はずっと欲しかったのかもしれない。家族は、俺のところから去っていく存在だった。それは誰が悪いってわけじゃないから、ずっと抱え込んでいるだけだった。いつかかぐやや彩葉さんもいなくなってしまうんじゃないかっていう不安を持ちながら。かぐやは実際その通りになってしまったんだし。

 

「ほら、月が綺麗」 

「それって、そういう意味?」

 

 俺は国語得意じゃないけど、それだけは知っていた。

 

「だったら、何て答えてくれるの?」

 

 俺は上手い返し方なんて知らない。返答の方法もなんかあった気がするけど、でも思い出せなかった。だから、俺の心を伝える事しか出来ない。俺の、一番素直な言葉を。

 

「彩葉さんとみるから、綺麗なんだよ」

 

 月はずっと昇り続ける。人の世が移り変わっても、かぐやと共に歩き続けて来たんだ。その光の下で、俺たちは互いの温かさを感じ続けていた。愛していると謳いながら。 

 

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 

「奥様のご準備は終わりましたよ」 

「どうも、ありがとうございます」

 

 式場の人に言われ、俺は控室をノックした。

 

「どうぞ」

「は、入ります」

 

 どういうわけか敬語になった。部屋の中にはお祝いに駆けつけてくれた彩葉さんの大親友二人。そして、かぐやがいる。特に二人はかぐやのドレスやらお化粧やらを色々と見繕ってくれた。綾紬さんのセンスが最大限発揮されている。そして何より、中央に座っているドレス姿の彩葉さんがこちらに微笑んでいた。

 

「ほら~なんか言うことあるんじゃないの~?」

「こんなに綺麗になってるんだからぁ」

「かぐやのセンス、めっちゃいいでしょ!」

 

 彩葉さんのドレスはいくつもデザインがある中からかぐやが選んでいる。どうしても、とお願いされて断る理由もなく、彼女に一任した。ちゃんとセンスがあるから流石。何をやらせても天才。俺たちの娘、素晴らしすぎない? なんて内心で違う事を考えてないと、彩葉さんの姿を直視できなかった。普段の姿は幾度も見てきたけど、それとはまったく違う。いつもの何倍も綺麗だった。

 

「綺麗、です」

「ありがとう」

 

 彩葉さんがしょうがない人、という顔で笑っている。こんな綺麗な人が俺の隣で人生を歩んでくれるとは思いもしなかった。ヤチヨくらいしか喋る人のいなかったあの頃からすれば考えられない。綺麗で、優しくて、自分に厳しくて、しっかりしてて、真面目で、時々ちょっと抜けてるところも可愛かったり、たまにちょろい、ツンデレ気味なところもある、そんな彼女が好きだった。

 

「もっと何か感想あるよねー、かぐやちゃん」

「まぁねぇ、楓はこんなもんでしょ」

「お父さんには厳しいねぇ」

 

 女性陣三人からの講評は厳しい。

 

「じゃあ、かぐやたちは準備があるから行くね~」

「またあとで」

「若い二人でごゆっくり……」

 

 三人はいそいそと部屋を出て行った。色々と抱え込みがちだった彩葉さんがこうして笑えているのは間違いなく三人のおかげ。かぐやだけじゃなくて、彼女のことを大切に思ってくれる人のおかげで、彼女はこうして俺の隣を歩いてくれる。そのことへの感謝は、言葉を表しても尽きないくらいに多い。

 

 スピーチはかぐやがやってくれることになっている。どんな話をしてくれるのかは「内緒!」だそうだ。ちょっと不安だねぇ、なんて話したのも、もう何日も前の話だ。

 

「お義兄(にい)さんは?」

「さっきお祖父ちゃんたちと来たよ。なんか凄い感動してた」

「それはよかった。これまで色々お世話になったし、ちゃんとしたところ見せないとね」

「そうそう。お母さんも抑えてくれたし」

「あぁ……」

「何もこんな日まで色々言わなくてもいいのにねぇ」

「癖になってるんじゃないの、もうそこまで行くと。というか呼んでるだけ感謝して欲しいんだけどな……。追い出すよ、マジでさぁ」

 

 娘の晴れ舞台に何かしら思うところはあるんだろうけど、素直に出力できないんだろう。それはそれとして、普通に嫌だけどもね。俺の大切な人なんだから、誰かに色々言われてるのを聞いて気分が良いわけない。普通の娘だったら結婚式に呼ぶどころか結婚の報告すらされないと思うので、娘が彩葉さんだったことに感謝した方が良いと思う。

 

 本当なら、俺の親にも見て欲しかった。彩葉さんに会って欲しかった。きっと気に入ってくれるだろう。こんなにいいひとなんだから、絶対大事にしなさいって言われるんだろうな。言われなくてもするつもりだけど。あと、俺の母親は結構天然なので、あのお義母さんにもぬるっと対応してくれそうだったし。

 

「あとなんか祝電来てたよ。市ヶ谷から」

「怖いんだけど、市ヶ谷から祝電って」

「まぁ、俺の知り合い関連かな。送ってくれるんだね、むしろ。それと、ツクヨミ有志からも来てた。代表者はオタ公さん」

「あの人も変わらないよねぇ、全然」

「最初からあんな感じだし、もうずっとあんな感じだと思う。それが良いところなんだけど」

 

 変わるモノもあって、変わらないモノもあって、そうやって俺たちの人生は進んでいく。

 

「お二人とも、そろそろお時間です」

「じゃあ、行こうか」

「そうだね」

 

 彼女に手を差し出す。彩葉さんはゆっくりと俺の手を取って立ちあがった。長いドレスが輝いている。赤い口紅が白い肌に映えている。宝石みたいだなんて、そんな事を思った。

 

 

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 式はつつがなく終わって、披露宴に移行する。綾紬さんがめっちゃ泣いているのがよく見えた。彩葉さんのいろんな思いを込めたご両親へのお手紙のコーナーも終わり、かぐやの番がやってくる。お義母さんとの様々な記憶を上手い感じに収められているところに、彼女の善性を感じる。絶対泣かせてやるって言ってたけど、結果はどうだったのか。親族席で隣に座っている朝日さんに聞いてみるしかないかな。

 

「では次に、新郎新婦のご息女、酒寄かぐや様よりお二人へのメッセージを頂きます」

「はい!」

 

 元気な声でかぐやは立ち上がった。どんな話をしてくれるのか。恥ずかしい話は少ないといいなぁ。どんな話でも、嬉しいけど。

 

「まずは、彩葉と楓の結婚、おめでとうございます!」

 

 名前呼びだけど、ここにはそれを分かっている人が大半だ。だからこそ、そんな親し気な呼び方でも許される。というか、彩葉さんの影響力が大きすぎて来たいっていう人を絞るのが大変だった。でも、関係性を理解してくれている人が多くなったのは結果的に良かったな。

 

「彩葉は、凄く頑張り屋さんです。時々無理して倒れちゃうくらい頑張り屋さんです。だから、寄り添ってくれる楓と出会えてよかったと思います。逆に楓は自分より他の人の方を大事にしています。だから、時々自分への扱いが適当です。なので、彩葉が引っ張ってくれるので、一緒にいられてよかったと思います。私は、そんな二人に育ててもらいました。彩葉が曲を作ってくれたこと、楓が一緒にお料理してくれたこと、ずっと覚えています。ライバーになりたいって言った時、彩葉は反対したけど、でもそれが優しさだったって知ってます。楓が背中を押してくれたのも、優しさだったってわかります。種類は違うかもしれないけど、それでも私は二人の優しさに囲まれて育ちました」

 

 彩葉さんがもう限界そうだった。お化粧が落ちるのも気にしないで泣いている。そんな事を考えている余裕なんかないくらいに、俺も涙腺が限界だった。

 

「温かい声を聴いて、優しい笑顔に包まれて、いっぱい大事な物を貰って、いっぱい幸せを貰いました。私のことを諦めないで何度も足掻いてくれました。こんなに幸せな娘は、世界を探してもいないと思います。これからも、みんなでハッピーエンドを目指して、走っていきたいです。彩葉(お母さん)(お父さん)、今日は、本当におめでとうございます!」

 

 かぐやの目からも涙が零れている。奥の方の席で朝日さんが号泣していた。これまでの事情を知っている人からすれば、こんな言葉はもう泣く以外に選択肢がない。難しい言葉なんてない。だからこそ、ダイレクトに心に刺さる。本当に、優しくていい子に育ってくれた。嗚咽を漏らしている彩葉さんの手を取る。俺に寄り添うようにして、彼女はずっと泣いている。ここまでの長いようで短かった日々。全てはあの日、電柱の中から始まった。

 

 おとぎ話の展開はいつも突然で。大きくなっていく姿に戸惑いながら、二人で試行錯誤したり時には困ったりもしながら、かぐやと向き合ってきた。こんな素敵な物を貰えるなんて、思いもしなかった。何かを返して欲しいなんて、思いもしなかった。ただ笑っていてくれればよかった。それなのに、こんな大きくて素敵な……。

 

「なんか、湿っぽくなっちゃいました。なので、それを吹き飛ばして、みんなには笑って欲しいと思います。じゃあ、準備してください!」

 

 何も知らない展開が始まって俺たちが困惑していると、会場にいるみんながペンライトを持った。それと同時に電気が消えて、式場のスクリーンに俺たちの映像がスライドショーになって流れる。そして、軽快な音楽が流れて来た。これは、かぐやが卒業ライブで歌った曲だ。さっき言っていた準備って、これのことだったんだ。涙にぬれた頬を拭って、俺たちは愛すべき娘の歌を聞く。今度は何かと戦うでもなく、ゆっくりと。

 

「瞳映る 静かな世界 なにを見てたんだろう」

 

 かぐやと写っている写真が流れていく。あれはライバーを始めた時に撮ったやつだ。あれは俺がかぐやのチャンネルに出た時のやつ。彩葉さんと一緒に撮った学生時代の写真、花火大会の時、寝ている姿を撮ったもの。

 

「この一瞬が最高のパーティーなんだ 全部ぎゅっと覚えてようよ まぶしい日を ねぇ もっとフザけて 夢だけシェアして」

 

 ヤチヨと俺が並んでいるツクヨミ内の映像も沢山ある。あれは黒鬼と戦った時の映像ログ。あっちは卒業ライブの写真。身体を取り戻した時の写真、パンケーキを食べた写真、復活ライブの映像。

 

「君といたあの部屋も電子の海も 胸の中に つめ込んで タカラバコにしまおう ねぇ もっとはしゃいで アンコールないのって おねだりして とびきり キラめいて歌おう!」

 

 その歌声はあの時聞いたもの。死にそうになりながら戦っている時に、この声が勇気をくれた。何回でも戦えるぞって言う気持ちにさせてくれた。

 

「君といたあの部屋へ 電子の海へ もう一度飛び込んで タカラバコにしちゃおう ねぇ もっとはしゃいで アンコール重ねて また新しい景色の 物語を描こう」

 

 最高の贈り物だ。俺はきっと、今日のことを一生忘れることは無い。そんな風に思える大事な思い出ばっかりを積み上げて、俺たちの人生は更新されていく。かぐやは大きく頭を下げた。大きな拍手が巻き起こる。俺と彩葉さんが一番大きな音で叩いていた。

 

 まだこれから人生は長く続いていく。その中では楽しい事以外にもたくさんあるはずだ。でもこんな素敵な奥さんと娘がいてくれるなら、きっと最後には楽しくなるはず。彩葉さんの透き通るような瑠璃色の瞳が俺の視界に映る。どんな宝石よりも美しいそれに、俺のことを映してくれている。

 

「愛してる」

 

 彼女が言った。

 

「俺も、愛してるよ」

 

 俺が答えた。彼女の美しさを引き立てる純白のドレスは、俺が彼女にプロポーズした日の月光の色と同じだった。




裏設定:キスしたのは結婚前日が最初



敢えて彩葉視点を一回も書いていないですが、彩葉視点で物語を見てみると面白いかもしれませんね。

赤バーMAXになれました。評価・登録をして頂いた皆さまのおかげです。誠にありがとうございます。アンケートの投票もありがとうございます。前より更新頻度は落ちますが、ボチボチ書いていきます。投票はまだまだ受付中ですので、是非是非どうぞ。

蛇足~で読みたい話。まぁ、ペースは流石に遅いかもしれませんけど、全部書くかもしれません。

  • 酒寄研究所の日常
  • 三人で旅行する話
  • 酒寄夫妻の結婚式
  • 守護神カエデのwiki or 掲示板
  • 2045年頃の話(かぐやの弟妹の話)
  • 義兄二人(帝・乃依)と楓
  • 彩葉の大学時代の話
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