超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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投票に基づき、三人の旅と彩葉の大学時代の話を二本続けてお送りします。


Extra:北の国から/君の顔を

<北の国から>

 

 旅に出よう。そんな唐突なセリフがかぐやの口から出たのは、復活ライブの数日後だった。大盛り上がりになった復活ライブ。数年ぶりのハンデをものともせず、SNSは一色で染め上げられた。

 

 ツクヨミで伝説になったあのヤチヨカップでの一連の動き、そして卒業ライブ。その後にあった悲劇……という事になっているエピソードと彩葉さんの功績。そういうのを総合すれば、当然の展開ではあったのかも。

 

 流石にドームでのライブなんて大仕事をこなして疲れたのか、彩葉さんはグデーっと家のソファで寝ていた。俺の膝を枕代わりにしながら。普通逆な気もするけど、彼女が休めるようになって何よりだとは思う。

 

「お疲れ」

「うぅーん。なんで楓は疲れてないの」

「まぁ、慣れてるからね、ああいうイベントごとは」

 

 統括管理として、あちらこちらのイベントに顔を出しているせいで、自然と慣れてしまった。演者として舞台に上がるよりは、裏方の方が多少は疲れない気がする。演者になったことないから分からないけど。

 

 そんなこんなでのんびりと休日を過ごしていた時、かぐやはドーンと扉を開けてやって来たのだ。

 

「旅に出よう!」

「「……?」」

「なんで二人ともそんな無反応なのー! 行こうよ~!」

「なんでまた急に」

「前に言ったじゃん。行きたいこと、考えておいてって」

 

 かぐやの目を見て、思い出す。あれは卒業ライブの、ほんの少し前だった。一世一代の大勝負に挑む前に、俺は確かに言った。合宿免許予約したから、行きたいところを考えておいてと。

 

 ここのところ色々あって、忙しくなったせいで少し忘れていたけど、その約束はまだ果たしていない。車の免許は取って既に数年が経過している。三人で出かけたことは何回もあるけど、確かに旅はしていなかった。義実家への帰還を俺は旅と呼びたくない。あれは実質修行だったし。

 

「彩葉さんは休みとれる?」

「私が所長ですから」

「確かに、それもそっか」

「楓はどう?」

「俺はいつでも行けるよ。そういう仕事だし」

 

 システム系はAIが肩代わりしてくれるし、最悪出先からでもスマコンがあれば対応は出来る。だから、前よりも移動の自由は増えた。

 

「どこか行きたいところある? 別に俺たちはどこでもいいからさ」

「うーん、そうだなぁ」

 

 かぐやは腕を組んで悩んでいた。八千年の旅路の中で、いろんな場所を巡ったのは彼女の記憶を見れば知っている。西は九州から、東は東北まで。その足跡は縦横無尽だった。俺でも知っているような有名人から、名前も知らないような市井の人まで、その交友関係は凄く広い。元々のコミュニケーション能力は、ウミウシ姿でも衰えなかったってことだろう。

 

「海外でもいいよ」

「金属探知センサー通れる?」

「そこはほら、何とかしてもらおう。俺の知り合いに」

 

 ごめんなさい、防衛省。またなんかいい感じのシステム作るから許してください。なんかいつも変なお願いばっかりしてるので申し訳なくなってくる。かぐやに関する諸々の過去を捏造してもらうようにお願いしたり、戸籍関連をどうにかしてもらうとか、法律を通してもらうための働きかけとか、そういうのを丸っと投げてしまった。

 

「日本は大体一回は行ったからな~。でも、美味しい物沢山あるし、もう一回行って食べてみたいかも……あぁでも海外も捨てがたいっ。イタリアとか!」

「イタリアね、美食のイメージはあるよ」

「でもでも~温泉も行きたい」

「いいんだよ、好きなだけ詰め込んで。これまで行けなかった分、何日だって行けばいい。世界旅行したって構わないし、やりたいことを全部やればいいから。俺たちはなんだって付き合うんだし」

「そうそう。かぐやに遠慮は似合わないって」

 

 彩葉さんはそう言って笑いかける。じーんとした表情になったかぐやは、みんなにおすすめの場所を聞いてくる! と言って駆け出して行った。

 

 その背中を、俺たちは微笑みながら見送る。やっと色んなものが食べられるようになって、匂いを感じて、息を吸って、大きな声で歌いながら走り回れるようになった。どこへでも行けばいいし、どこまででも行けばいいんだ。

 

「どこになるんだろうね」 

「絶対ご飯が美味しいところ。北海道とか」

「夏の北海道なら、東京よりは涼しいかな。俺としてはなるべく涼しいところだと嬉しいけど」

「どうする? 沖縄って言われたら」

「それでもいいけどね。リアルの水着は見たことなかったし」

「誰の?」

「彩葉さんの」

 

 俺の膝の上で寝転ぶ彼女の顔を見下ろす。ちょっと赤くなっているのが可愛かった。綺麗な人っていうのが最初の印象だったけど、それだけじゃない可愛さを知れたことがこの数年の時間がくれた贈り物なのかもしれない。

 

 彼女の左手の薬指が光った。まだ大学生だった時、彩葉さんに近寄る男を排除するべく俺が贈った。結婚したのに何もないのは悲しかったし。それとかぐやしか、俺たちを繋ぎとめるものは無かったっていうのもある。

 

「何言ってんの、もう」

「恥ずかしいなら、どけばいいのに」

「……いい。こうしてる」

「そっか」

 

 彼女の頭の重みを感じながら、俺はその白い手を握った。腕にはかぐやから貰ったリングが輝いている。その銀色を希望に、俺たちは走り続けた。その結果手に入ったのがこの景色なら、十分に報酬を貰えたと思う。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 

「おぉぉぉ!」

 

 小高い丘の上で、かぐやが叫んでいる。緑に満ちる草原。振り返れば、牧場や畑が広がっている。山はずっと遠くの方で俺たちを見下ろしていた。ここは日本最果ての大地、北海道。かぐやのファンの多くがおすすめしたらしい。なんでかは不明だけど、北海道住が多かったのかな。

 

「あんまり走りすぎてコケないでよー!」

「大丈夫だいじょーぶ! 彩葉と楓も来てー!」

「はいはい、今行きますよ」

 

 そう言いながら、彩葉さんは軽快な足取りで丘を昇って行った。元気だなぁ、と思いながら俺はゆっくりと足を進めていく。新千歳空港からずっと運転していてちょっと疲れた。我が家の運転担当は基本俺がやっている。彩葉さんも免許は持ってるけど、俺の方が上手いからだった。こればっかりは彩葉さんに勝っていると自信を持って言えるかもしれない。

 

「よっこらしょ、と」

「楓、もっと運動しよっか。かぐやも一緒にやるから」

「面目次第もございません……。昔から体育は苦手なもので」

 

 かぐやは大地を踏みしめながら、草原の上を走り回っている。その足音を、踏みしめる感触を、緑の色を楽しむように。くるくると回ってみたり、立ち止まってみたり。こんな風に自由になれるよう、俺たちは研究を進めて来た。彩葉さんはかぐやの表情を見て凄く嬉しそうにしている。

 

「あんなにはしゃいじゃって」

「まぁまぁ。あの子も、あんなふうに走れるようになって嬉しいんだよ」

「あとで疲れて寝落ちしても知らないって言ったんだけどね。車の中でもずーっと歌ってたし」

 

 かぐやの声が響いている車内はラジオもオーディオも必要なかった。なにせ、ほぼカラオケ状態だったから。景色がいいところ座りたい、と言われて助手席にいたけど、左隣から綺麗な歌声が響き続けているのは新しい体験だった。

 

「彩葉~~」

「うわっ」

 

 歌いながらかぐやは彩葉さんの手を取って踊り出す。もう、と言いながらも彩葉さんの顔は凄く楽しそうで、満足そうで。二人は大自然の中で妖精みたいに踊っている。俺は携帯を取り出して、その姿を撮影した。

 

 ドサッと二人が倒れこんだけど、下が柔らかかったおかげか二人とも平気そうに笑っていた。空を見上げて寝転がりながら、手を繋いで本当に楽しそうに笑っている。俺はそれも撮った。思い出はいつか薄くなってしまう。でも、こうして写真とか映像に残っていれば、それだけで何回でも思い出を蘇らせることが出来る。

 

「写真もいいけど、楓も寝転がろ~。気持ちいいよ~」

「そうだね、ちょっと隣に失礼して」

 

 かぐやの隣に腰を下ろす。彩葉さんと二人で挟み込むような形になったまま、俺たちは空を見上げた。どこまでも透き通るように青い夏の空。大きな雲が流れていく。あの空と同じ色をした過去に、俺たちは出会った。

 

「かぐやは幸せ」

 

 かぐやは俺たちと手を繋ぎながら、そう言った。

 

「こんなに楽しい事沢山あって~、美味しいもの食べられて~、二人が諦めないでくれたから。ありがと、二人とも」

「まだ終わりじゃないでしょ」

 

 かぐやの出している湿っぽい空気すら全部吹き飛ばすような勢いで、彩葉さんは言い切った。

 

「私はまだ全然満足してない。このままじゃ、まだハッピーエンドとは言えない。やりたい事も沢山あるし、行きたい場所も沢山ある」

「彩葉は……ワガママになったねぇ」

「誰かさんたちのせいでね」

「あ、俺もなんだ」

「当たり前でしょ、何言ってんの」

 

 彩葉さんはそう言うと、勢いよく起き上がった。

 

「ほら、行こう! まだまだ始まったばっかりなんだから。アイス食べたりしたいんでしょ?」

「そだね! 行く!」

 

 かぐやも勢いよく起き上がる。

 

「ほら、楓も来て」

「かぐやは牧場のうまうまソフトが食べたいのです」

 

 二人が俺に手を差し伸べる。それは、いつかの夏に見た景色に似ていた。あの時の俺も、二人に背中を押され、手を差し伸べられて今の部屋に引っ越した。それと同じように、今でも俺を引っ張ってくれる。

 

「よーし、行きますか。お姫様のお望み通り、どこへでも」

「やった~」

「チェックインの時間忘れないでよ」

「あ、そうだった! 温泉温泉~」

 

 三人でゆっくりと丘を降りていく。緑の大地を吹き抜けて、風が頬を撫でた。いつかまた、こういう場所に来れたらいいな。今度はもっと多くなった家族で。そう思いながら、俺は大地を踏みしめた。かぐやと彩葉さんの背中を追いながら。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

<君の顔を>

 

 

 

「大学生って何してるだろうね」 

 

 ツクヨミの管理人室で、俺は仕事をしながら言った。

 

『勉強じゃないの~?』

「そりゃ、勉強なんだろうけどさ」

 

 彩葉さんは夢に邁進するべく大学へと進学した。俺はツクヨミ内で自分のするべき研究をしている。月に送ったメッセージはすぐに返信が返って来たので、その分析だ。もっとも、ここ数年分析AIはずっと稼働を続けている。それほどまでに膨大なデータだった。

 

 人間、というよりは人格をデータ化しようというのならば、これくらいの容量になってしまうのは当たり前のことなのかもしれない。かくして、俺はヤチヨ(かぐや)と引き続きツクヨミを守り続ける業務をしつつ、精神や記憶の電脳化という難題の研究という二足の草鞋を履き続けていた。

 

『カエデは~、彩葉が取られないか心配なのかな~?』

「……悪い?」 

『いえいえ』

 

 ヤチヨ(かぐや)はケラケラと楽しそうに笑っている。彩葉さんは美人だ。しかも、東大の理系の男女比はどう考えても男側に偏っている。そんなところにいる紅一点……って言ったら他の女子学生に申し訳ないかもしれないけど。でも、ミス東大とかに負けてないと思っている。

 

 ミスコン優勝者に「好きです」って言われてもときめかないけど、彩葉さんに言われたら一週間くらい絶食しても生きていける気がする。

 

「はぁ……」

『そんなに気になるなら、行ってみれば?』

「用事もないのに?」

『大学って自由に入れるはずだよ。それに、奥さんに用事があって来ました~なんて正当な用事以外無いと思うな~』

「その用事がない……作ればいいのか。君の顔が見たかった、とかでいいかな、もう」

『おっと、いきなりそれが出てくるのはポイント高いよ~☆』

 

 そんなこんなで娘に背中を押されて、俺は彩葉さんのいる大学に足を運ぶことにした。流石に教室棟とかの中には入れないけど、キャンパスに行くくらいなら問題ない……はずだし。

 

 中央線に揺られてしばらく行き、四ツ谷で乗り換えた。そのまま東大前駅まで行く。こんなところで自分が降りることになるなんて思いもしなかった。漫画とか映画の中ではよく見る安田講堂がデカデカとそびえたっている。高卒人間にはちょっと威圧感があった。

 

「連絡はしてみたんだけど……」

 

 一応既読はついているし、広場で待っていてと言われたので腰掛けて待ってみる。すれ違う学生はみんなキラキラしているように見えた。自分で高卒の道を選んだけど、こうやって見ると大学生活も悪くないのかもしれない。でも、俺の研究は多分大学でやるよりツクヨミをフル活用した方が早い。だから、夢のためにはこれで良いんだ。かぐやにもう一回会う、そのために。

 

 遠くの方に人影が見える。お昼休みに入ったからか、学生の数が多くなった。その中に、彩葉さんの姿を見つける。周りには何人かの学生がいた。見事に、男ばっかり。はぁ、とため息を吐く。まぁそうなるよねとは思っていたけど、見せつけられるとちょっとがっくり来る。

 

 でも黙って座っていてもしょうがないので、声をかけることにした。なんか抜け出せないみたいだし。

 

「彩葉さん」

「あ、楓。ごめん、待たせちゃった」

「気にしないで」

「酒寄さん、この人誰?」

「弟さん?」

 

 弟……まぁそんなに身長高くないけど、一応同級生なんだけどな。ちょっと悲しかった。童顔、ってわけじゃないはず。ヤチヨ(かぐや)はそう言ってたけど、娘の証言なので多少バイアスはあるのかも。

 

「あの、いつも彩葉さんがお世話になってます。()()酒寄楓です」

 

 自己紹介をした瞬間、空気が凍った。何人もいる男子も、ちょっとだけいる女子もびっくりした顔で立っている。

 

「彩葉さん、なんにも説明してなかったの?」

「聞かれなかったから、別にいいかと思って」

「あ、そう……」

 

 彩葉さんモテるって自覚はあるはずなんだけどな。だって、バイト先のカフェでもお客さんから何か贈られたりすることがあったって言ってたし。お店の規定でダメなんです、という断り方にプロを感じた。諌山さんとかが言うには前からたまに告白されてたらしいし。

 

 牽制球なんて何回投げてもいいはずだ。なにせ、俺よりスペック高そうな男子がここには多いんだろうから。学力では絶対勝てない。

 

「むしろ酒寄さんには私の方が助けてもらってます。旦那さんは、ここの大学の方なんですか?」

 

 彩葉さん、女子にも人気ありそうだ。普段からお人好しというか、結構人を助けているので、すぐに好かれてしまうと思う。この女子学生もそんな感じがする。

 

「いえ、今は仕事中です」

「ツクヨミでね」

 

 彩葉さんが俺の言葉に足すように言った。

 

「ツクヨミで働いてる、同級生くらいの、男子……? あの、それって」

「ごめん、楓は私に用事があるみたいだから、また今度。それじゃ」

 

 そうやって強引に話を打ち切ると、彩葉さんは俺の手を引いて歩き出した。ぽかんとした顔の同級生が取り残されている。

 

「あの、あれでよかったの?」

「良いの、別に。大した話をしてたわけじゃないし。それで、どうしたのわざわざ?」

「いや……その……彩葉さんの顔が見たいなって思って」

「……へ? それが理由?」

「ごめん、そんな理由で」

「べ、別にいいけど、全然さ。ふーん、そうなんだ。せっかく来てくれたんだし、お昼一緒に食べない? この辺、美味しいお店もあるから」

 

 俺が頷くと、彩葉さんは俺の腕に自分の腕を絡ませながら先導してくれる。同じ家でいつも朝晩に顔を合わせて、一緒にご飯も食べている。でも昼間は時間を共有していない。そんな日々が三年ばかり続いたので、こうして平日の昼間に一緒に歩けているのが新鮮だった。

 

 彼女に会いたくて「君の顔が見たかった」っていう理由を作ったけど、それって同じ意味じゃないかと気付く。彩葉さんは今日あったことを楽しそうに話してくれている。その表情が好きだ。依然、変わることなく。




そういえばかぐや(ヤチヨ)の回想シーンで出て来た人たちはオリジナルで付け足した人もいましたが、元ネタは分かりましたでしょうか? CIAのワインニキと花売りの子以外は全員史実から引っ張ってきました。
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