超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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Extra:色は匂えど・8 【彩葉視点】

 私たちは付き合ってるのだろうか。

 

 そんな問いが自分の中に存在している。もう一度前を向き始めたあの夜から随分と時間が経った。ヤチヨの正体を特定し、私たちの夢が決まり、一歩一歩前に進んでいる。また始まりだしたこの物語は凄く順調に進んでいた。それでもまだ、上手く解決しない問題も存在しており……。

 

 それが、私と楓の関係のせいだった。求婚されて、私はそれを受けた。だから関係性としては婚約者ってコトになる。でも、それらしいことは何も起きていなかった。おはようからお休みまで同じ家にいるのに、だ。付き合ってるっていう関係性には到底思えないようなプラトニックな関係性がずっと続いている。

 

 そんな私の悩みなんかいざ知らず、彼は今も無邪気に過ごしている。これじゃあ、悶々としている自分がバカみたいだった。

 

「でっかいなぁ」

「そうだね」

 

 相槌を打ちながら、私は修学旅行で来た沖縄の水族館の水槽前で悩んでいた。ちょっと薄暗い空間なんだし、手くらい繋いだって許されるんじゃないかな。

 

 そもそも彼は修学旅行の存在を忘却していた。普通にツクヨミで仕事をしようとして、ヤチヨに結構ガチトーンの説教をくらい、娘に怒られたとしょげながらやって来たっていう経緯がある。私と同じ班なのに、これはどういう了見なのか。もちろん、私たちの未来のためにやってくれているのは分かっている。

 

 でも、それはそれとして私のことも見て欲しかった。矛盾した感情だ。恋愛って難しい。人間の感情がいかに矛盾していて、脆くて、不安定なのかを思い知らされる。それでも、それを上回るくらいの幸福感が存在している。真実もこれを味わっているのかな。

 

 それはともかく、手を繋ぐ素振りすら見せない楓に、私はぐぬぅと思っていたのだ。まぁ分かっていた。元々恋愛とかにあんまり興味は無さそうだったし。むしろ好きになってくれて、勢いとは言え求婚してくれたのが奇跡だった。だからこんな感じがデフォルトなのかもしれない。

 

「あんまり長居してると、集合時間に遅れちゃう」

「だね。じゃあ、のんびり行こうか」

「魚、好き?」

「青い世界は癒されるよ。電子の海っていうくらいだし、海とは相性悪くないのかも」

 

 照明で影の出来たその顔は、普段とは違う雰囲気に見えた。心臓がドキッとする。そのせいで、足元の段差を見逃した。顔ばっかり見ているせいで足元を見ていなかった。

 

「っと、大丈夫?」

「……!」 

「彩葉さん?」

「だ、大丈夫。ありがと」

 

 よろめいた時、彼がスッと手をキャッチして私を抱き留めた。至近距離に顔があって、一瞬声が出せなかった。抱きしめられているような気分になる。そういえば、前に風邪を引いた時もお姫様抱っこで搬送されたっけ。あの時のことを思い出すと、今でも顔から火が出そうだった。

 

 抱き留められた時に、フワッと安心する匂いがする。私を掴まえてくれた手は、しっかり男の子の手だった。他の男子の手なんて、お父さんとお兄ちゃんのしか知らないけど。彼の表情は私を心配していた。私はドキドキしているばっかりで、振り回されっぱなしだ。この人は私にドキドキしてるのだろうか。

 

 人混みで私を引き寄せたり、買い物に行ったときにするりと重たい荷物を持っていたりとか、そんなのを毎日食らっている。優しさって攻撃力があるんだっていうのを、彼のせいで知ることになった。そしてたまーに見せる仄かな独占欲が、たまらなく嬉しかった。

 

 私の中にあるメーターが少しずつ溜まっていく。かぐやを取り戻したら、このメーターを全開放するんだ。その時までは、私も我慢して生きていく。耐えるのには慣れているから、今回も同じことだ。

 

 

 

 

 

 

「よく来はったわぁ」

 

 私と楓は母のところを訪ねていた。進路を変更する相談をしたとき、楓と母は会っている。楓は疲れていたけど、全然普通に対応できていたと思う。それから、鳴り響く電話の回数は激減したけど、たまに鳴る事がある。出ると大体色々言ってくるけど、最近は聞き流せるようになった。受験期は楓が代わりに出てくれていたので、受験が終わった後、久しぶりに声を聞いたら実家に一度楓と来い、という話だった。

 

 まぁ、仕方ないかと思って、あんまり行きたそうじゃない楓に頭を下げてきてもらった。新幹線の中でずっと憂鬱な顔をしている。楓がこんな顔を長い間しているのは初めて見た。私といる時に不機嫌になる事なんてないのに。そんなこんなで、数年ぶりの京都に戻って来たのだ。

 

「お邪魔します」

「婿殿も、遠いところご苦労さまで」

「お義母さんもご無沙汰してます。ご挨拶が中々できず申し訳ありません」

 

 楓が凄く丁寧な口調で話している。結構レアな光景だった。けじめを付けに来た、なんて言っていたっけ。今から戦争に行くみたいな悲壮感のある空気をずっと纏っている。一応買ってきた手土産を渡して、私たちはダイニングの椅子に座っていた。どう話を切り出したらいいか私が迷っていると、楓は意を決して話し出す。

 

「単刀直入に申し上げます。本日は、結婚のご挨拶に参りました」 

「随分と、せっかちやね」

「長々と世間話をするような関係性ではありませんから。最初にですが、俺たちはもう十八を超えています。成人です。婚姻に際し、保護者の許可は必要ありません。ですので、仮にお義母さんが反対されても、俺たちは入籍するつもりでいます」

「……そう。せやったら、なんで挨拶に?」

「ケジメです」

 

 空気は剣呑だ。母は研ぎ澄まされた日本刀みたいな威圧感で圧迫してくる。それを涼しい顔で受け流しながら、楓も牙を隠した猛獣みたいな怖さがあった。長い事電子の海を仕事にしているせいで、楓の攻撃力自体は高い。語彙力もあるし、ヤチヨ仕込みのレスバ力もある。普段は温厚な性格のおかげで表に出てこないだけで。こういう普段怒らないタイプを怒らせると怖いっていうのは、一般常識だろう。ただでさえ、思想面で楓と母は相性が悪い。

 

「何の挨拶も無しは不義理ですから。結果がどうであれ、ご挨拶はしたというのは大事だと思いましたので。それに、お義父さんにはしっかりとご挨拶したかったですし」

 

 楓の視線は仏壇に向けられる。母は何かを言おうとして呑み込んだ。お父さんにも筋を通したいっていう言葉に

反論する要素は無かったんだろう。

 

「結婚がどういうもんか、あんたたちは分かってるん? しかも片方は学生、片方はよう分からん職で……」

「結婚に正解は無いと思っています。大事なのは、互いに愛し合って尊敬しあうことではないでしょうか。金銭面をご心配なようでしたら、問題ありません。しっかりと日本の平均年収以上の収入は得ています」

「……そう。あんたはそれなりに修羅場を見た顔やね」

「ご想像にお任せします」

「あんたはええかもしれんけど、この甘ちゃんと一生添い遂げられるん?」

「お義母さん」

 

 楓は母の言葉を止めるように声を出した。

 

「彩葉さんは甘ちゃんではありませんよ。しっかりと自立し、努力し、前を向き続けられる素晴らしい人です。俺には勿体ないくらいには」

「あばたもえくぼ。その目が覚めるころには、欠点ばっかり見えるようになる。知っとる? 恋心は数年で消えるんやって」

「大丈夫です。俺が彩葉さんに最初に抱いた感情は尊敬ですから。そこに恋情や愛情が足されただけです。仮にお義母さんの言う通りに恋情が消えたとしても、尊敬は消えません。尊敬が残り続ける限り、俺は彩葉さんを愛し続けます。申し訳ありませんが、お義母さんの彩葉さんへの評価を撤回してくださえると助かります」

「よう言うわ」

「お嫌いですか?」

「まさか」

 

 私を置き去りにして、母と楓が睨み合っていた。なんか凄い褒められているけど、私はどういう顔をすればいいのか。

 

「俺は正直に言えばお義母さんを尊敬できてはいません。あなたの子育て方針には全く正しさを見出せない。あなたの反対で育てた俺たちの娘(かぐや)は自信満々の良い子に育ってくれました。それでも、あなたが彩葉さんにとって唯一無二の()()であることには変わりありません。俺はその立場にはなれない。だからこそ、こうしてご挨拶に来たんです。お義母さんがやり方は本当にどうしようもないにしろ、彩葉さんに対して愛情を持っておられたことだけは理解しています。ですから、どうかもう、彼女を守る役は俺に任せて頂けませんか」

「……あんたの覚悟は分かった。それで彩葉、あんたはどうなん」

「私?」

「あんたは覚悟、あるんか。いつまでも続くものなんてあらへんよ。全部なくなって、愛した人もいなくなるかも分からん。感情も永遠には続かん。愛し合った二人が別れるさまなんて、仕事柄ごまんと見てきたわ。それでもあんたは生きて行けるんか」

「失いたくないなら、失わないようにするだけ。私は、そう思ってる。仮に失っても、もう一度取り戻せばいい。どんな手段を、使っても」

「答えになってへんね」

 

 母はため息を吐く。それを見ていた楓は無言で立ちあがり、ツカツカと台所に行く。そして、包丁を持って来てガンッと机に突き立てた。私も母も、唖然するしか出来ない。

 

「俺は彩葉さんを絶対に見捨てませんし、離れません。逆はともかく、俺からは絶対にありえないんで。もし万が一にでもそんなことがあった日には、これでも持って刺しに来てください! まぁあなたが来る前に、彩葉さんを裏切るくらいならこの喉掻っ捌いてやりますけど! なので、今彩葉さんに聞いた質問は全部無意味です。彩葉さんはあなたにとって娘かもしれないけど、俺にとっては世界で一番愛した人なんだ。俺の大事な奥さんを馬鹿にしないでください」

 

 母はぽかんと楓を見ていた。そして、小さく笑った。その笑みにどういう感情が込められているのか、はっきりとは分からない。私もいつかお腹を痛めて産んだ子供がいれば、分かるようになるのだろうか。そもそも子供を産むために必要な過程を現状何一つできていないんだけど。

 

「えぇよ、好きにしぃ」

「どうも、ありがとうございます」

「彩葉をよろしく」

 

 テーブルに包丁ぶっ刺したのを謝ることも咎めることもせず、母と楓は互いに頭を下げている。私だけ置いてけぼりだった。

 

 そこから楓と二人でお父さんのお墓に報告をして、速攻で東京に戻ることにした。楓はもう二度とやりたくないとぼやきながら、疲れ果てている。生来が凄く優しい人なので、あんなふうに母と口論する時点で相当疲れたんだと思う。我が母ながら、申し訳ない。新幹線の見送りに来た母に頭を下げると、さっさと乗り込んでしまった。私もじゃあ、と言って乗り込んだとき、後ろから声をかけられる。デッキに立ちながら、振り返る。ホームにいる母は、少し小さく見えた。そういえば、ちょっと年を取ったようにも思える。

 

「彩葉」

「……うん」

「あんたにしたことを謝ったりはせぇへんよ」

「別に、いい。苦しいことも多かったけど、それでも私は大事な人に遭えたから」

「それでええよ。……幸せにな」

「え?」

 

 母の言葉を聞き返そうとしたとき、新幹線のドアが閉まった。ゆっくりと車体が動き出す。ホームにいる母の姿はあっという間に見えなくなった。母に憧れるのも、追いかけるのもやめた。ずっと追いかけてきた。走って、手を伸ばして、踵をすり減らした。その背中は、今見るとそんなに大きくないように見える。私は、少しくらい大人になれたのだろうか。大人だと、思ってくれたのだろうか。

 

 嫌いだと思えたら、どれだけ幸せだっただろう。それでも、私にとって母は母だった。思えば初めて母は私の幸せだけを、余計な事を言わずに願ってくれたのかもしれない。今まで感じた痛みは消えやしない。それでも、誤魔化して笑って生きていく。だれかと比べてどうとか、母と比べてどうとかじゃないんだ。人生で大事なのは、自分の道を行く事だって教えてくれた人たちがいたから。

 

「お疲れ様」

「まったくだよ……。ちょっと寝るね」

「はい、おやすみ」

 

 楓は疲弊した声で言って、静かに寝息を立て始めた。その寝顔を見ると、穏やかな気持ちになって来る。どうせ起きないだろうと思って、彼の手に私の手を重ねた。ゴーという規則的な音、静かな車内、彼の寝息。私も段々と眠くなってくる。張り詰めた糸が切れたからだろう。さっき母に言っておけばよかった言葉を心の中に抱きながら。

 

 ――大丈夫だよ、お母さん。私はちゃんと今、幸せだから。この人と、かぐやと、私の大事な家族と、幸せを続けていくから。目指すべき、ハッピーエンドに向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 受験勉強を乗り越えて、私は晴れて東京大学に入学した。これをゴールにしている人も多い中、私にとってはここがスタートライン。ここからすべてが始まっていく。大学に合格したその日、私は彼に指輪を渡された。それと、名前入りの婚姻届も。大学の入学金を払うよりも早く記入して出しに行ったのをよく覚えている。一応その前特急で母に挨拶に行ったけど。

 

 本当は彼が誕生日を迎えた時点で済ませたかったのに、受験が終わるまではなんて、受験をしないくせに言うので待つ羽目になった。でも、あそこで止めてくれないと受験勉強のストレスとか反動で合法的な関係性を盾におかしくなっていた可能性が高いので、そういう意味では受験成功の立役者は楓かもしれない。当日のお弁当も頑張って用意してくれたし。あの瞬間だけは、どんな大学にも受かる気がした。

 

 それから数年が経過して、四年生になった。研究所創設のために頑張って根回しをしているけど、中々難しい。私を慕ってくれる人も多いけど、慕う以上の感情を持って近付いてくる男性が多いのも悩みどころだった。

 

 ちょっと最近お疲れ気味で、これはまずいなぁと思っている時に連絡が入った。「今、大学に来てるけど、時間ある?」と書いてある。何かあったのかな、と思いながらお昼休みに広場で待っていてと伝えた。

 

「酒寄さん、今度の学会だけど」

「あぁ、自分で出来るので大丈夫ですよ」

「酒寄さん、研究室の飲み会来てくれないかなって」

「行けたら行きたいです」

「酒寄さん」

「酒寄さん」

 

 疲れたなぁ。普段は気にならないけど、疲れている時に囲まれると私だってダメージを受ける。私が立ちあがって広場に向かって歩き出していても、取り囲まれているのは変わらない。申し訳ないけど、私は既婚者なのでアプローチは受けられないし、受けるつもりもない。というより、楓に浮気を疑われたくないから離れて欲しかった。

 

 木陰のベンチで、彼は座っている。その姿はすぐに分かった。心なしか、歩く速度が速くなる。

 

「彩葉さん」

「ごめん、待たせちゃった」

「気にしないで」

「酒寄さん、この人誰?」

「弟さん?」

「あの、いつも彩葉さんがお世話になってます。()()酒寄楓です」

 

 夫の、を凄く強調して言った。普段は全然見せない癖に、こういうところで出してくる独占欲が劇薬みたいに効いてくる。愛されてるっていう実感で満たされた気分になるんだ。楓はスキンシップをするタイプじゃないし、積極的でもないけど、ちゃんと愛してくれている。逃がすつもりはさらさらないけど、出来れば円満なまま過ごしたい。

 

 空気がちょっと凍っている。冗談、って言いたかったんだろうけど私と楓に同じデザインの指輪がしてあるのを見て何も言えなくなっていた。

 

「彩葉さん、なんにも説明してなかったの?」

「聞かれなかったから、別にいいかと思って」

「あ、そう……」

 

 楓は少し困ったような顔をしていた。どうせ、自分よりスペックの高い男子が多いからって思ってるんだろう。謙虚なのは良いけど、全然わかってない。私はスペックで好きになったわけじゃないし、それに電子の海でなら誰も楓には勝てないし。

 

 私の旦那様は愛娘と私を護るために異星人と命懸けで戦って勝ちかけたけどあなたは?

 

「ごめん、楓は私に用事があるみたいだから、また今度。それじゃ」 

 

 楓のスペックがバレると、顔も悪くないし絶対に寄って来る女の子がいるはずだ。この劇薬みたいな性格や優しさは、ちょっと疲れた子とか病んでる子には毒になってしまう。高校時代も私が囲っていたからいいものの……。泥棒猫を追い払うのは疲れるんだ。

 

「あの、あれでよかったの?」

 「良いの、別に。(あなたのことより)大した話をしてたわけじゃないし。それで、どうしたのわざわざ?」

 

 大学に来てくれたのは嬉しいけど、何かトラブルがあったのなら大変だ。表情から見てそんな感じではないと思うけど。ちょっと用事があって、それのついでなのかな。

 

「いや……その……彩葉さんの顔が見たいなって思って」

 

 これはゴーサインですか? なんだこの男、私の理性を殺す方法を習得しているらしい。耐えろ、彩葉。まだ道半ば、まだ道半ば。全部終わるまで、ハッピーエンドまでは我慢するんだ。おかしくなりそうなのを決死の覚悟で耐える。

 

「……へ? それが理由?」

「ごめん、そんな理由で」

「べ、別にいいけど、全然さ。ふーん、そうなんだ。せっかく来てくれたんだし、お昼一緒に食べない? この辺、美味しいお店もあるから」

 

 頷いたのを確認して、腕を絡ませた。悩みとか面倒くささとか、色々あった全部が綺麗さっぱりどこかに消えてしまっている。

 

「研究所なんだけどさ」

「ごめん、あんまり上手く進んでなくて」

「ううん、彩葉さんはちゃんと頑張ってるよ。だから、俺も何か出来ることは無いかなって思って。ちょっと知り合いにお願いしてみたんだ」

 

 お昼を食べながら、彼は研究所について切り出してきた。研究所を作るには資金がいる。人手もいる。大学とかのお墨付きもいる。そういうのを引き出すのに難航していた。私の指導教授も頑張ってくれているけど、日本のアカデミアは動きが遅い。日々焦りを募らせていて、それがストレスにもなっていた。

 

「お願い?」

「そうそう。研究内容について説明して、出資と応援をしてくれないかなって。それでなんだけど――」

 

 楓は鞄からメモを取り出す。

 

「取り敢えずね、防衛省にお願いしてみた。そこ経由で厚労省と経産省と理研が連名で大学側に話を通してくれるって。あと、資金も出してくれるみたい」

「……へ?」

「スマコンのメーカーとかも協力企業に名乗り出てくれたよ」

 

 そう言えば、この前ツクヨミを防衛しているシステムを改良し、改良前のものを防衛省に売り払ったって言ってた。そこ関連で関係性が出来たのを使ってくれたんだろう。

 

「俺は彩葉さんの道を整えるくらいしか出来ないけど、進む道にある茨を切り払うくらいは出来るから」

「くらいって、それで十分だよ」

「そうかな……」

「そう!」

 

 私は彼の手を取る。こんなにも私を愛してくれて、こんなにも私のために頑張ってくれて。最近帰るのが遅い日とかあったのはこれのせいだろう。私の夢は、彼の夢。彼の夢は私の夢。同じ夢に向かって一緒に走ってくれる存在なんて、何回神様に願ったらいてくれるんだろう。前世の私はきっと世界を救ったに違いない。

 

 だから、あなたの全部が欲しくなる。私は凄く欲深い人間だ。欲深怪獣なんてかぐやのことを言ったこともあったけど、娘が娘なら私も私で欲深い。かぐやも、楓も、全部私のモノにしたい。そして、幸せになりたい。そんな願いのために今までずっとやってきた。

 

「本当に、ありがとう」

「気にしないで。俺たちの夢なんだから。そのために、出来る事をしただけだよ」

「もし、なにか願いがあったら、言って。私に出来ることなら、なんだってするよ」

 

 その言葉は、いつしか行った記憶のある言葉。何か出来る事があればって、アレは確か彼が引っ越しの挨拶に来て、そうして私たちが出会った時に言ったんだ。あの時彼は「普通に」と言いながら黙っていてくれた。あれが全部のきっかけだったような気がする。

 

 かぐやを育てている時も、似たようなことがあったっけ。お金を払おうとした私に、彼は確か――

 

「そうだなぁ……じゃあ、笑って?」

「え」

「最近、疲れているみたいだったから。俺は、彩葉さんが笑ってくれているのなら、それで十分だよ」

 

 あの時と変わらない優しい眼差しで、彼はそう言った。お昼の喧騒に包まれたお店の中で、私は何本目かも分からない恋の矢に撃ち抜かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、私たちはかぐやを取り戻し、結婚式をして、かぐやのサプライズに突き動かされるまま新婚旅行を迎え――

 

 それから私は毎夜、嬌声を漏らしていた。私の中に、新しい命が宿るまで。




<新婚旅行時の10段階好感度表>

・彩葉→楓
30(もう我慢しなくていいんだね♡♡♡
  夜に寝られると思わないでね♡♡♡)

・楓→彩葉
20(あなたの全部を自分のものにしてしまいたい)
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