超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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酒寄紅葉の想定外
世間の厳しさを知るいい機会と思って送り出したら、娘の隣室に世間の厳しさとは恐らく真反対にいる奴が引っ越してきて、ズブズブになるまで溶かしてしまった。


Extra:色は匂えど・9 【彩葉視点】

「最近はどうだ?」

「ボチボチやれてるよ」

 

 通話口の向こうで、お兄ちゃんは安堵したような息を漏らした。かぐやを復活させて、無事に復活ライブを挙行できた。それだけで、ここ数年の苦労が全部報われた気がする。しかもその後に結婚式と新婚旅行までセットで行えたのだからいうことは無い。溜まっていた色んなものを発散している最中だった。

 

「かぐやも毎日元気に配信中だし、研究の方も万事順調。家庭円満に順風満帆な仕事。これ以上ないくらいにはいい状態かな」

「そっか。お兄ちゃん的にはそれは大層嬉しいんだが……」

 

 どういうわけか普段より歯切れが悪い。なにか言いたいことをどう話したらいいのか分からなくて困っているような感じがあった。

 

「どうしたの? またお母さんの孫攻撃? あれは巡り合わせなんだから、黙っててって言ってるんだけど」

「それはまぁ、それ関連ではあるんだが……俺の弟、死にかかってないか?」

「は? 楓が? ずっと元気だけど。風邪もひいてないし、健康体だよ」

「この前会ったらなんか心なしか大分疲れてた、ぶっちゃけ眠そうで死にそうだったんだが……」

「あー……」

 

 その言葉に私は口ごもる。原因は理解していた。というか、私が原因だった。毎晩毎晩遅くまで起きているからかな。体力を使わせすぎてしまっているのかもしれない。

 

「すぅ……あの、あんまり妹にこういうことは言いたくないんだが、夫婦仲良しは一番だけどほどほどにな……」

「な、なんてこと言うの!」

「俺は自分の弟の死因がしょうもないものにならないようにと切に願ってるから。じゃ、また!」

「あ、こら! 切るな!」

 

 ツーツーと音が鳴っている。切ったな、言いたい事だけ言って。

 

 いやまぁ、確かにお兄ちゃんの言っていることに心当たりがないかと言えば……嘘になるというか……なんというか。い、いやでも愛し合っている結果なんだし、ね。そのせいで二人とも絆創膏を手放せなくなってしまったという弊害はあるのかもしれないけど、それでも幸せにやれている……はずだよね。

 

「あぁ、朝日さん? なんか言ってた?」 

「ううん、大丈夫大丈夫。かぐやの様子を心配してた」

「そっか」

 

 楓は眠そうな顔でそう言って欠伸をした後、冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出している。時期としてはもうすぐクリスマスだ。かぐやにとっては、身体がある状態で迎える初めてのクリスマスになるわけで。それはもう盛大に祝おうということで話が出来上がっていた。

 

 そのかぐやは今、教習所に行っていた。運転してみたい~だそうだ。本当のところは免許が無いと乗れないゴーカートに乗りたいだけなのかもしれないけど。まぁ、やりたいことはなんでもやらせる方針を取っているので、好きにさせている。あの子がいないと、この家の中は途端に静かだ。そんな状態を数年も続けていたけど、やっぱりあの子がいてうるさいくらいの方がちょうどいい。

 

 曇天の空。雪がちらつくかもしれないなんて、昨日の夜の天気予報で言っていた。

 

「お仕事、どう?」

 

 ソファに腰を下ろしてコーヒーを啜っている旦那様の隣に座る。

 

「良い感じ。クリスマスまでには確実に片付く」

「締め切り、もうちょい後じゃなかったっけ」

「タスクが残ったまま正月を迎えるのは嫌だからね。イベントの前には身綺麗にしておきたいから」

 

 彼が適当に付けた午後の情報番組では間もなく雪が……みたいなことを言っている。

 

「雪、か。スキーとか言ってみてもいいかもしれない」

「喜びそう。雪合戦とか、してみたいって言ってたし」

「新年一発目にそれもアリだなぁ……」

 

 時計の針がゆっくりと動いている。何かに突き動かされるようにして駆け抜けた数年間だった。その時間は楽しかったけど、今みたいにゆっくりする時間は少なかった気がする。だからこそ、この平穏が愛おしい。

 

 二人でこうして並んで何でもない時間を過ごす、みたいなのはお預けだった。私の中に秘めた色んな情欲と共に、戸棚の奥にしまい込んでいた。それを今、少しずつ開放して取り戻しているのかもしれない。

 

 少しだけ彼に近付いた。全然気付いてない。ちょっとムッとして、太ももを触ってみる。チラッとこっちを見たけど、またテレビの方に視線をやった。どこ見てるのかな、あなたの可愛い奥さんはこっちにいるんだけどなぁ。構えー構えー。

 

 出したオーラに気付いているのか、あえてスルーしているのか。多分前者だろう。これまでの経験的に。こうなりゃとことん、と思って無防備な手を握ってみる。鼓動が少し早かった。

 

「なんか、ドキドキしてない?」

「……誰のせいで」

 

 彼はそう言って、少し顔を逸らす。……ふーーーん。なるほどね。時計は午後三時半。かぐやの帰宅予定は午後六時半。つまり、まだあと三時間以上ある。そっか、そっか、なら問題ないね。そう思って、グイッと身体を彼に預ける。普段ならそのままなし崩し的に、なんだけど今日はそうはいかなかった。

 

 彼のもう片方の手で、私の顎がクイっと上に持ち上げられる。普段優しいその瞳が、ちょっとサディスティックな色に染まっていた。

 

「なに、彩葉」

 

 呼び捨ては反則だ。普段は尊敬の意味も込めて、という理由でさん付けなのに。もしかして、ちょっと酔ってる?

 

「構って欲しいの?」

「え」

「え、じゃ分かんないよ」

「構って欲しい、な」

「そっか」

 

 そう言うと、彼は私にキスした。普段よりもずっと深く、私を侵略するみたいに。呼吸が出来なくて逃げようとしたら、手首を掴まれる。なにこれ、私のデータに無い。まぁそれでも、こんな感じなのもたまには悪くないかな、なんて思ってしまった。変な扉が開く音がする。

 

「して欲しい事、ちゃんと自分の口で言おうね」

「は、はい」

 

 彼の甘い声が耳元で囁かれる。なんだっけ、こんな夢を大学生の時によく見ていた気がする。起きたらなんか凄い恥ずかしかった記憶。あぁ、あれって数年後を予知した正夢だったんだ。今になってそんな事を思う。退廃的な大学生みたいな生活を送っているのかもしれない。でも、そんな日々を得るために生きて来たみたいなところもあるし、きっと少しくらいなら許されるはずだ。

 

 後で見たら、彼の部屋に「奥さん相手に主導権を取る方法ベスト20」というよく分からない本が置いてあった。でもその時の私はそんなこと知っているわけもなく。首筋の絆創膏をもう一つ増やす結果になった。

 

 服という邪魔な布切れが無いと、彼の心臓の鼓動が良く聞こえる。この音が好きだった。私を毎夜眠りに誘う、その規則正しい音。一度失いそうになったからか、余計に私はその音に執着していた。身を寄せ合って同じベッドの上にいると、その音に包まれたみたいな気分になる。この人も優しさも愛も慈しみも全部、今だけは私のモノ。

 

 色んな欠落が少しずつ満たされていく。かぐやに弟か妹を、と言って最初に楓を押し倒したけど、あの時はまだその覚悟は出来てなかったかもしれない。私は、私やかぐやへの愛が減ってしまうような気がして、怖さを抱えている。真の意味で()()になれるのか。その不安は付きまとっていた。

 

「もうすぐ、かぐやが帰って来るね」

「うん……」

「何か、不安な事があるの?」

「私、お母さんになれるのかな。私のお母さんはあんなだし、良い母になれる自信が無くなる時がある。それに……」

「それに?」

「……楓からの愛が、減るんじゃないかって」

 

 これを正直に告げるのは、勇気が必要だった。大人げない事を言っていると思う。真実みたいに親になっている子も同級生でいる中で、嫉妬みたいな感情を持っているなんて。でも解決しないと、このままじゃ自分の子供に嫉妬する嫌な母親になってしまう。

 

 きっと彼なら受け入れてくれる。そう信じて、私は私の醜い感情をさらけ出した。彼は優しく笑って、私の髪を撫でる。穏やかな手つきだった。このありのままでいられるような安心感に、最初は惹かれたんだっけ。彼の前なら取り繕わないでいい。そう思える人だった。

 

「大丈夫」

 

 少し震える私を抱きしめながら、彼は言った。

 

「かぐやのお母さんとして立派にやってるじゃん」

「でも、かぐやは半分友達みたいなところもあるし。年だって、あんまり変わらないっていうか、なんなら経験年齢なら向こうの方が上になっちゃったんだし……」

「自分のダメなところばっかり探すのは、彩葉さんの良くない癖だね。それに、愛情は減らないよ。何人生まれたって、何等分かになるんじゃないから。×(かける)人数分になるだけだよ」

「いいの、かな」

「彩葉さんみたいな美人で、かっこよくて、何でもできて、優しくて、尊敬できるお母さん。俺だったら最高だと思うけどな」

 

 私は甘やかされて、蕩けて、そのままドロドロと流れてしまいそう。この人の温もりに包まれて、愛情に浸されて、強い自分はもういなくなってしまった。でも、それでいいような気もする。愛されている実感があるからこそ、誰かを愛せるのかもしれない。

 

「彩葉さんは一人じゃないよ。俺もいるし、かぐやもいる。新しい家族が出来ても、そりゃ全部が全部上手く行くわけじゃないだろうけど、それでも生きていけるって俺は信じてる」

「じゃあ、私をママにしてね」

「……はい、頑張ります」

 

 彼は少しだけ苦笑いをした。

 

 

 

 

 

 

 2038年、かぐやの復活一周年記念イベントを控えてのかなり大々的な配信が行われていた。司会進行は当然この人、かぐやの古参ファンにしてツクヨミの公認実況ライバー忠犬オタ公。楓やヤチヨとも付き合いの長い上にかぐやを初期から推してくれている私たちにとっては欠かせない存在だ。

 

 かぐやに関する設定はしっかり作成されている。というか、怖いくらい整合性の取れたお話だった。楓のお仕事関係で半分職場みたいになっている防衛省の人が作ってくれた。戸籍関係も、法律関係も、飛行機に乗れるのか問題とかも解決してくれている。曰く、隊内や省内にもかぐや・いろPのファンは多いらしい。なんでも、オタク全盛期時代に入隊した人がもう幹部になっている時代だそうで。

 

 結構上の方にいる人でかぐやのファンが多く、復活ライブの時は誰が有給をとるかで争奪戦になったそうだ。それで良いのかな、市ヶ谷。推しを守るために国を守る、みたいなのもあるのかもしれない。それはそれとして、怪我をしてしまった隊員のために義体の完成を、という期待もかけられている。私たちのために多くの協力をしてくれているし、それには応えたい。

 

 芦花や真実の話もした。2人は今でも私の大事な親友だ。真実は結婚しても料理系は続けており、自分が作る側になっての子育てママのお料理とかをやってる。食べるのも相変わらず好きみたい。旦那さんは楓と仲がいいのでたまに2人で飲んでいた。芦花も美容系ブランドを持つみたいな話が出てる。楓が情報セキュリティー面で協力してた。世界一システムが強いコスメメーカーが出来るかも。

 

「では次に、かぐや・いろPチャンネルと言えば欠かせないこの人! 我らがツクヨミの大守護神ことアメツキカエデについて聞いていきましょう! みんな知っての通り、いろPのリアル旦那さん。知りたい事、色々あるんじゃないかな~? 質問もじゃんじゃん受付中!」

「答えられることには答えます」

「守護神からよくお話は聞きますよ~」 

「変な話をしてないといいんですけど……」

 

 私だって家の中だと結構適当な人間だ。前はもうちょい丁寧な暮らしをしていた……気持ちしていたつもりなんだけど。料理はかぐやがしてくれるし、その分だけでも大分楽になっている。

 

「いや、ずっと奥さんは凄いって話をしてますよ。俺なんかって」

 

 は?

 

 オタ公さんの口から語られた言葉に、思わず眉間にしわが寄る。あの男、まだそんな事を言ってるんだ。へー、そうなんだ。散々私の自己肯定感を爆上げさせておいて、自分はそうなんだ。いつも言ってるんだけどなぁ。楓の自己肯定感は妙に低いところがあるので、そこをちゃんと持ち上げられるようにしているつもりなんだけど、全然話を聞いてなかったみたいだ。

 

 これは配信が終わったらゆっくりとお話をしないといけないかもしれない。いろPのASMR自己肯定感爆上げ旦那さん専用とかやるぞ。取り敢えず、このまま私の素晴らしいパートナーが誤解されたままなのは放置できない。

 

 語らねばならないか。本当は私だけが知っていればいいんだけど。教えたくないなぁという独占欲がムクムク出てくるのを抑えて、私は口を開いた。

 

「……はぁ? すぅ……」

 

 大きく息を吸う。

 

「まずですね、その発言は大体自分を相当過小評価していないと出てこないセリフなので無視してください。全くもって真実じゃないです。ですので全部無視して、百倍にして盛るくらいで考えてくれると正しいかなって思います。まぁ正直に言えば私の中での評価的にはそれでも全然足りないっていうかなんですけど、これは私だけが知っていればいいので取り敢えずこれで我慢しておきますね。で、なんですっけ、あぁそうだ。私の夫の話ですね。出会ったのは高校一年生の時で、その時の私は不明だったというか、見る目が無さ過ぎたというか、もっと先に唾を付けておくべきだったと今になっては思うんですけどねぇ。いや、失敗ですよ、ホント。全然話したことのなかった私が、当時文化祭の準備とバイトの時間の狭間で苦しんでいたら代ろうかって声を掛けてくれたんですよ。彼がいないと成り立たない出し物で、彼がやるべき仕事は全部終わった後だったのに。私が遠慮して大丈夫って言っても、じゃあ一緒にやって早めに終わらせちゃおうなんて言って。代ろうかだけならまだしも、その後。そこに楓の魅力があるんですね。まぁこれは私とかぐやが一番よく知ってるんですけど。普段は授業中良く寝てたんですけど、これはツクヨミのお仕事を頑張ってたからですね。立派ですよね。成績は確かに私の方が総合的には良かったですけど、数学では一回も勝てたことないんです。あと情報も。授業中に東大の過去問を先生が難しいけどって言って出した時、それまで寝てたのに指名されて起きて十秒くらいで答えたんですよ。ビックリしました。最初は天才で何の苦労も無いのかな、なんて思ってて。でもご両親がいない中でも頑張って暮らしていて。お隣の部屋に引っ越してきたときは驚いたんです。でも、当時の私はあんまりいい暮らしをしていなくて。その暮らしを他のクラスメイトとかにバレたくなくて。それでなんでもするから黙っててくれってお願いしたんです。そしたら、何て言ったと思います? 見返りなんかなくても普通にするって。はぁ~良き。そこから色々気にかけてくれて、防犯ブザーとか懐中電灯をくれたんです。バイトで遅くなるから、護身用って。この前まで他人だったのに、ですよ。時々食材とかも分けてくれて。意固地だったあの頃の私なら断ってた可能性が高いんですけど、踏み込み方が上手くって。断れない理由をちゃんと作って、負担にならないようにゆっくり自然と。かぐやと出会った時も、色々入用で……ってのを察して買って来てくれたんです。私が巻き込んだのでお金は払うって言ったんですけど、そしたら笑ってくれって。それで対価にするって言ったんです。口説いてるのかなって思いました。口説いてないんですよねぇ、これで。はー! これは今でも全然変わってない直してほしいところですね。クソボケ~旦那様~見てる?? あなたのことです。どんどん取り繕わなくていいような気分になって。私が風邪を引いた時もお姫様抱っこで運んでくれて。全世界一億人のアメツキカエデファン、私が会員番号一番ですからね。私はお姫様抱っこで運ばれたことあるけど、あなたたちは? ……失礼、話を戻しましょうか。そのころにはもう好きになってましたね。ここまで彼は恋愛的な欲望とか一切なかったそうです。純粋に善意だけで動いてくれてたんです。信じられないって顔ですけど真実なんですよねぇ。あの性格で垂れ目のカッコいいビジュアルですから、絶対モテるはずです。なので私としては戦々恐々ですよ。だから夏休みは最高でしたね。彼の優しさとかを全部私とかぐやが占有できるんで。でもこの人、引っ越すときになんて言ったと思います? こんだけ私の心をかき乱しておいて、はいさようならなんて出来るわけないですよね。これは皆さん共感してくれると思います。もしかしたらね、彼でなくても同じことをしてくれたかもしれないです。でも、そこにいたのは彼なので。それが一番大事ですよね。一番いて欲しい時にいなかった白馬の王子様とかどうでもいいです。まぁ私の王子様は彼なので問題ないですね。お姫様がかぐやです。私はなんだろう。……女王様? コメントで書いてくれましたね。確かに、全部手に入れるので確かに合ってるのかもしれません。ナイスです。どこまでだっけ、あぁ引っ越すところまでか。で、引っ越したんです。昔彼がご両親と住んでいた部屋に。正直辛い思い出を思い出させてしまうかなっていう怖さもあったんですけど、でも杞憂で終わってよかったです。二人のいない人生なんて、考えられなかったので。二人は私の大事な宝物で、私を変えてくれた存在でしたね。この二人を守れるのなら、私はなんだって構わない。本気でそう思っていましたし、今でもそう思っています。かぐやのことを助けたいって思った時も、それを肯定してくれました。それから何年も一緒に走ってくれました。もう感謝してもしきれません。いなかったら途中で折れていたかもしれないですし。私、もっと強いって自分で思っていたんですけどね。彼のせいで弱くなってしまったみたいです。責任? 責任は取ってもらいますよ、それは当たり前じゃないですか。責任を取って、一生一緒にいてもらうわけですからね。求婚されたときはまだ17歳だったので、全然結婚できなかったのが恨めしかったですね。日本の法律をあれほど恨んだ日はありません。そこからが長かったです。高校三年生の時は婚約しながら付き合ってるみたいな状況だったのに、キスすらしてくれませんでしたからね。私も我慢してたんです。女性リスナーの皆さん、奥手な彼氏には理由が無い限りアタックし続けましょう。大体、そういう男はクソボケなので押して押して押しまくるくらいがちょうどいいです。コケそうなときに咄嗟に支えてくれて、その時顔が近付いてメロい~ってなって、そこから我慢するって相当大変なので。あの人は私の抱えている感情に気付かないで、大学時代に私の顔が見たいからっていう理由だけで大学まで来たんですよ。私の理性を殺そうとしているのかと思いました。家族のために頑張ってくれているのは分かっていたので頑張って耐えていましたね。私とかぐやのことが大好きすぎるのはよくよく理解していますので。はぁ、愛されてて辛いなぁ。何がって、こっちの愛がところかまわず溢れそうで辛いです。どうしましたか、オタ公さん?」

「……あ、喋っていいっすか?」

「もちろん。だって、楓のことを語る会ですよね?」

「いや、かぐや復活一周年記念のイベント告知用配信で……って、そのかぐやからメッセです。え~、いろPばっかりズルい! 私も話す~だそうです」

「かぐやはかぐやで、娘視点から見たカッコいいお父さんの話をしたいんですね。今度、そういう機会を設けることにします」

「……あ、これもう一回同じような感じになるんだ」

「なにか?」

「何でもないです……」

 

 語りたい話はまだまだ尽きない。今のは概略だけ話した。大学風に言えば概論の第一回目ってことになる。あと全部で十数回語れるくらいにはネタも私の熱量もある。ヤチヨについて、かぐやについても別個で語れる。しかも、真実を語れない部分はカットしているので、これに真実を足したバージョンになるともっと凄い量になる。

 

「じゃあ、続き行きましょうか」

「……はい」

「で、今お話ししたのはあらましですので、個別のエピソードについてももっと掘り下げていきたいと思います。コメントが……何々、私のカエデ様を返して? なんだろう、勘違いしないでください。彼はあなたのモノだった瞬間はありません。私のです。正確には私とかぐやとこれから生まれてくる子供たちのモノです。そうなる前はヤチヨのモノですし、その更に前はご両親のです。あぁでも私と結ばれる運命なので、生まれた時から私のモノですかね。逆算すると。まぁ分かりますよ、惹かれる理由は。優しいですからね。生きていていいんだって気分になりますからね。それに、間違ってることはちゃんと間違ってるって言ってくれますからね。それも、言い方とタイミングを選んで。そういうところ、好きになりますよね。ちょっと話しただけでも。そういう意味ではあなたは凄く理解しています。私の夫を好きになってくれてありがとう。でも、あなたの分まで私が彼を愛します。あなたも、同じくらい愛せる人を探してください。それに、彼も私を愛してくれていますので。私の母に結婚の挨拶をしたとき、私を裏切ることは無いし、裏切るくらいなら死んだ方がマシって言ってくれたんですがあなたは?? では引き続き私の彦星の話を語っていきますね。あれは高校二年生に上がったばっかりの時の話なんですが――」

 

 終わった後、滅茶苦茶疲れた顔のオタ公さんと別れて楓のところに行ったら、気持ちは嬉しいけどと言いながら軽くぺしっとはたかれた。なんならかぐやにもちょっと引かれた。

 

 あと、全文文字起こしした猛者がいて、コピペになった……。




<妊娠するちょい前頃の10段階好感度表>

・彩葉→楓
測定不能(あなたがパパにするのよ、今日も頑張ってね♡)

・楓→彩葉
25(奥さんが可愛いけど、毎晩、なんなら晩じゃなくても死にそう)

この夫婦は仮にかぐやがいなくても結ばれた事でしょう。ただ、その場合学生結婚妊娠中退とかになりそうですが……。原因? 自明ですね。
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