「もう、朝か」
昨日の夜に大きくなった娘はよだれを垂らしながら爆睡している。これまた随分気持ちよさそうに寝ていた。朝日がのんびりと空に昇っている。いつも通りの心地よい朝だ。もうすぐ夏休み。この子とも沢山過ごせるようになる。それまではあと少し、学校には通わないと。
時計は七時半。ちょっと遅くまで寝てしまったかもしれない。七時十五分くらいには起きるようにしていたんだけどな。まぁ、そういうこともある。切り替えていこう。まだ全然間に合う時間だし。
「ほらー、起きるよー」
私がパンパンと手を叩くと、かぐやがハッと目を覚ました。楓はまだ寝たままだ。ツクヨミでまた新しいイベントがあるらしく、その準備ということでここ最近は忙しい日々を過ごしている。そのせいか、全然目覚める気配がなかった。
「おはよう、かぐや」
「おはよー」
「顔洗ってね。それと、楓を起こしてあげて」
立ちあがったかぐやはまた大きくなっている。高校生くらいのサイズかな。私とあんまり変わらない身長になっている。これで成長が止まってくれないと、私の家に入らなくなってしまう。服を何回も買い換えないといけないし。とりあえずは私の服を着てもらえればいいかな。サイズも入るだろうし。
「はーい。パパぁ、起きてぇ」
「あと……五分……」
「ダメ! 起きるのぉ~」
馬乗りになったかぐやがペシペシと楓を叩いている。それに根負けして、楓は目を覚ました。休日のお父さんみたい。今日は平日だけど。ずいぶん昔の記憶を思い出した。私も母に頼まれて、お兄ちゃんと寝ているお父さんを起こしたっけ。いつの間にか、自分が頼む側になっていた。
この星は広い宇宙の中の数ある一つだ。そして、ここには80億の人が住んでいる。その中でピンポイントでこの家を選んでくれた。その奇跡みたいな出会いを守りたい。この新しい日常を続けていきたい。たった三日しか過ごしていないのに、私にはもうそんな気持ちが芽生えていた。
いつの日か、ヤチヨが言っていた。大事なのは時間の長さではなく、想いの強さだって。そういう意味では、たった数日でも私はこの子の親になりたいと思っていたし、もっと前から引き続き楓の妻になりたいと思っている。
「おはよう、かぐや」
「お寝坊さんだぁ」
「そうだねぇ……」
楓は大きく欠伸をしている。お疲れなのは分かっているのだけど、それでも起きてもらわないとかぐやのことを頼めない。朝ご飯は食べたいし。
「ごはん食べるからね、準備して。かぐやもお手伝いお願いできる?」
「分かった! なにすればいいの?」
「じゃあ、そこにこれを運んでくれるかな」
「運ぶ運ぶ」
かぐやがご飯とみそ汁を運んでくれる。あとは箸も出してくれた。今日の朝ごはんは昨日の夜の残りとご飯とみそ汁とミニサラダ。あとはヨーグルトもある。これが三人分だ。多分かぐやは普通の量を食べるはず。取り敢えず私と同じ量にしておいた。余っているお皿があってよかった。
顔を洗って制服に着替えた楓が戻って来る。最近じゃ洗面所も私の家のを使っている時が多かった。歯ブラシも二人分置いてあるし。そうだ、かぐやのも買わないと。予備があったのか記憶がない。
三人で腰を下ろした。ちょっとちゃぶ台が狭いけど、詰めれば全然大丈夫だろう。
「「「いただきます」」」
かぐやは昨日の夜に学習してくれたみたいで、しっかり手を合わせている。一応フォークも用意したけど、私と楓の姿を見ながら上手く箸を使いこなしてた。この習得力は宇宙人の特権かもしれない。まだ若干不格好だけど、その辺は楓が矯正してくれるはず。
「アレ取ってくれない?」
「はいはい」
「ありがと、彩葉さん」
言われた通り、私は醬油を渡す。ほえ~という顔でかぐやが私たちを見ていた。
「なんで今ので分かるの~?」
「なんでって言われても、まぁ彩葉さんなら分かってくれると思って」
「一年間くらい毎日一緒にいれば分かるようになるの。そのうちかぐやにも分かるようになるよ」
「そうかなぁ」
私の答えにかぐやは疑問符を浮かべている。なんとなく分かるものだ、これという根拠があるわけじゃないけど。こういうやり取りは個人的に夫婦っぽくて好きだったりする。
「これも美味しい!」
「そう? 良かった。味、濃くない?」
「大丈夫!」
楓と私の好みで作っているけど、かぐやの舌に合うのかどうか不安ではあった。この顔を見ていると大丈夫だろう。この子はきっと嘘とか吐けないし。濃いなら濃いって正直に言うと思う。
「彩葉さんの料理は美味しいからね。よかったね、かぐや。ママのご飯を毎日食べられるのは幸運だよ」
「うん!」
「もう、褒めても何も出ません。今日の帰りにプリン買ってくるくらいで」
「出てはくるんだ」
楓はツッコみながら笑っている。プリンが何かわかっていないかぐやは?マークを浮かべている。そうか、この子はまだまだ知らない美味しいものが沢山あるんだ。沢山食べて、感じて、見て、この世界をもっとたくさん知って欲しい。私と楓が愛を紡いでいるこの広くて狭い、美しい世界を。
春の桜も、秋の紅葉も、冬の雪も、夏の海も、まだまだこの子の知らないことはたくさんある。ゆっくり時を紡いでいこう。そうして好きになって欲しい。この世界を、私と楓が生きる世界を。
「「「ごちそうさまでした」」」
三人で手を合わせる。楓がお皿を洗っている間、私は制服に着替える。
「その服、何?」
「制服。学校に行く時の服」
「学校? かぐやも行きたい~」
「かぐやは入学試験受けてないからいけないなぁ」
「えー」
制服、かぐやに着せても似合いそうだ。
あの小さい赤ちゃんのまま通常の成長速度で育って、この町に住み続けて、いつか大きくなってお父さんとお母さんの学校に通いたいと言ってくれて、頑張って受験して、合格して喜んで、私は立派になったなと思いながら自分と同じ制服に袖を通した娘の入学式で楓と涙ぐむ。……あ、これは存在しない記憶だ。
さっさと制服に着替えて、もう一回ガスコンロを稼働させた。ホットケーキミックスを取り出して、準備を始める。かぐやと楓用の昼ご飯だ。かぐやはそれをジーっと見つめている。
「そういえば、いつも見てるこの人は誰? 好きなの?」
かぐやは楓から貰ったタブレットを操りながら言う。その指先にはヤチヨがいた。娘に推しについて話せる日が来るとは。親子二代で推し活をしよう。娘に布教だ。
「月見ヤチヨっていうAIライバーでね。私の推しなの。分身も出来て歌って踊れて八千歳っていう設定」
「えー、AI? ロボットってコト? ヴェー、おもろー?」
かぐやは目を輝かせている。
「そして、俺の上司兼相棒だよ」
「一緒にお仕事してるの?」
「そうだよ。ツクヨミっていう大きな場所があって、俺とヤチヨの二人でそこを作って、守ってる。あと、正確にはロボットではないかな」
「へぇ~、何が違うの?」
「うーんと、AIは自分で考えて学習する存在なんだ。
専門分野だけあって詳しい。あんまりその辺の違いを考えたことは無かったけど、確かにロボットっていうとドラえもんみたいな身体があるイメージかもしれない。逆にAIには実体がないかも。
そんな事を思いながら、私は最後の一枚を完成させる。取り敢えずこれくらいあればお腹も膨れてくれるかな。余ったら冷凍すればいいし。
「お昼はこれ食べてね」
興味津々という顔のかぐやに、余った生地で作った小さな切れ端を食べさせてあげる。少し咀嚼してまた目を丸くしている。
「これ、何!?」
「パンケーキかな」
「もっと食べたい~」
「お昼ご飯にね。楓とちゃんと半分こすること。いい?」
「は~い」
そうやってくぎを刺しておかないと、この子は全部平らげてしまいそう。逆に楓は譲ってしまいそうだし。まぁこれで大丈夫かな。
「じゃあ楓、あとはお願い」
「了解。彩葉さんも気を付けてね」
「え、どっか行っちゃうの? やだやだやだ、一緒いて!」
「学校は休めないから、ごめん。しっかり通うことが、ここに住める条件だから」
悲しそうな顔を見ていると後ろ髪を引かれてしまう。この子をおいていきたいくない。一緒に学校に行けたらどれだけ良かっただろう。楓とも半日くらい離れてしまうし。それでも、行かないわけにはいかない。そうしないと、二人と強制的に離れ離れにされてしまうかもしれない。
「俺もいるから、ね」
「むぅ……三人一緒が良かった……」
「美味しいモノ、買ってくるから」
「……分かった」
不承不承という顔ではあるけど、かぐやは小さく頷いてくれた。ごめんけど後はよろしく。そうアイコンタクトでお願いした。楓は静かに頷いてくれる。
「かぐや、彩葉さんに行ってらっしゃいってしよう?」
「……行ってらっしゃい」
「行ってきます」
ぶーと膨れているかぐやと苦笑しながら見送ってくれる楓に手を振って、私は真夏のアスファルトへ歩き出した。なるべく早く帰れるように頑張ろう。まだ学校に着いてもいないのに、そんな気持ちになる。家族の待つ家がある人って言うのはみんなこういう気分なのかな。
アパートのおんぼろな階段を下りる。真夏の入道雲に向かって私は駆け出した。胸を焦がすような熱が私を照り付ける。コンクリートが焼けて、陽炎が昇る。注ぐ蝉時雨を聞きながら道を行く私は、夏真っ盛りだった。恋も、愛も、何もかも。
「このままのペースを維持できるなら、まったく夢じゃないよ」
放課後の職員室で、担任の立花先生は進路希望調査票に幾つかの大学のパンフレットを添えて私に手渡した。
「はい、そうしようと思っています」
「無理はしないように。身体もそうだが、心を壊しちゃ意味が無い」
「ありがとうございます」
大学は行くつもりだった。というか、楓が行ってくれと願ってくれている。そこをしっかりしてこそだと思っているので、妥協するつもりはなかった。最近は本当に心身ともに健康そのものなので、特段心配してもらわなくても大丈夫だ。でも、気にかけてくれているのはありがたく受け取っておく。無視されているよりはよっぽどいいし。
「親御さんも、さぞかし自慢の娘なんじゃないの?」
「どう、でしょうねぇ……」
彼氏がいることも、将来を見据えていることも伝えていない。あまつさえ娘が出来たことなんて、伝えているはずがない。どう思われるのかが怖くて連絡はしていなかった。でも冷静に考えると、母だってどこかしらのタイミングでお父さんと出会って恋愛していたはずなんだ。私ばっかりビクビクするのも違うだろう。成績は維持しているんだし。
「……期限までまだ時間はある。ゆっくり考えよう」
先生は私の言葉を多分違う方向性に解釈したみたいだ。
「それと、高野君は今日はどうしてる?」
「あー、ちょっと色々佳境みたいで。元気にはしているので、そこは大丈夫です」
「そうか……」
今日は久々に一人で登校したけど、クラスメイトや知り合いには「旦那は?」と聞かれてしまった。二十四時間三百六十五日一緒にいると思われているらしい。まぁ間違いじゃないけども。先生が当然私たちの交際関係を知らないわけがない。ついでに言えば、部屋が隣同士であることも。
「何か困ったことがあった時に支え合える関係があるのは大事な事だね」
「はい。そう思います」
「酒寄さんと高野君が付き合ったと聞いた時は、職員室がざわついたけど」
「そ、そうなんですか」
「まぁそれは良いとして、そうだ、高野君にはこれを渡しておいて欲しい」
立花先生は私にプリントを何枚か渡す。楓に渡してくれということなのだろう。それはもちろん了解だ。
「分かりました」
「ついでになんだけど、彼は就職で良いのかな?」
「はい、そのつもりみたいですけど。何かあったんですか?」
「数学の先生たちから何としてでも進学させろとせっつかれててね……」
「お、お疲れ様です」
先生はちょっと疲れた顔をしていた。先生が悪いわけでもないし、楓が悪いわけでもない。まぁ確かに絶対百点阻止だ、と思って入れた問題をあっさり解かれたら数学の道に叩き込みたくなるのだろう。
「物理と情報の先生も言ってくるし、申し訳ないんだけど酒寄さんの口からも告げてくれると助かると、伝えてくれるかな」
「はい」
彼は目に見えて理系だ。あの才能が今全力でツクヨミに捧げられている。仮想電脳世界は常に拡大と進化を続けている。私も何年も使っているけど、昔に比べてどんどん便利になっている。ふじゅ~payだって最初からあったわけではないし。楓とヤチヨがあぁでもないこうでもないとわちゃわちゃしながら創りあげたものだ。
職員室を出ると、途端に窓や廊下から賑やかな笑い声が響く。
「今日ツクヨミいくー?」
「ヤチヨのライブあるよね?」
「黒鬼のKASSEN配信見ようよー」
放課後の生徒たちは思い思いの日々を過ごしている。さて、私もあの中に混じって家に帰りましょう。彼らは彼らで楽しいことがあるし、私は私で家に待っている家族がいる。そこで元気をチャージして生きていくんだ。
貰った大学のパンフレットを見る。その一番上には、東京大学の文字があった。楓と一緒のキャンパスライフも楽しそうではある。かぐやは予想外に大きくなったし、お留守番も出来るだろう。楓なら推薦で受かりそうだ。ツクヨミをヤチヨと一緒に作って運営しました、ふじゅ~payなど金融サービスも提供しています、全ユーザーは1億です。これで受からないのはおかしい。
「あ、彩葉来たー」
「やっと終わった?」
芦花と真実が待っていてくれた。一緒に帰ろうとしてくれているのだろう。私にもちゃんと友達がいる。私を大事に思ってくれる友達が。
「連休中どーでした?」
「高野君とどっか行ったりしたの?」
「色々あってね……。楓は楓で忙しいし」
「そっかぁ、今日休んでるんだもんね」
真実の彼氏は露骨にがっかりしていた。彼はちょっと楓が好きすぎる。憧れなのはわかるけども。
この三連休は全然連絡を取れなかった。ツクヨミで待っていてくれたのかもしれない。三人で遊ぶ予定のない日に、二人はツクヨミにいてくれることが多い。楓との時間も大事だけど、二人との時間も大事。私の彼氏は理解がある彼氏なので、そこも理解してくれている。
そのまま連れ立って歩き出す。いつもと変わらない会話だ。夏の街はまだまだ活気がある。みんな元気そうだ。楓とかぐやは元気にしているのかな。お昼ご飯は食べましたって連絡は来ていたけど。
「さて、今日は新しいカフェに行きます」
「え」
「前に約束したじゃん」
「あぁ、そういえばそうか……」
楓にちょっと遅くなりますって連絡した。了解っていうスタンプが返って来る。かぐやのことを任せてしまうけど、私を大事にしてくれている友達の誘いは断りたくない。かぐやにも紹介したいけど、どうやって説明したモノだろうか。
「よし、じゃあ行こう」
「れっちごー!」
真実はグルメの炎を燃やしている。『空と大地が繋がる』がコンセプトの複合施設に連れられていき、私たちはオシャレ度も価格帯もハイクラスなカフェを訪れた。私のような金欠学生には厳しいけど、楓はなんかあんまり気にしてない。そういえば昔はタワマンに住んでたみたいだし、楓って実はお金持ち……?
街頭液晶のニュースではツクヨミにハッキングを仕掛けようとした奴が逮捕されたと流れている。曰く、最強のハッカーになりたかったのだそうで。割と大きく報道されていたけど、家にいるそれを撃退した張本人が「八千年早い」と鼻で笑っていた。
カフェの中は冷房が効いていて涼しい。やっぱり外は暑いので、汗がスーッと引いていく。外に戻りたくなくなるクールさだ。
「彩葉ノートで赤点回避記念~~」
「お礼の品でーす。ご査収くださ~い」
「あ、ありがとう!」
三段重ねパンケーキ。クリームいっぱい夢いっぱい。こんな甘いものを食べてしまって、罪悪感。家に帰る時に何か甘いものをたくさん買って帰ろう。娘に黙ってこんな美味しいものを食べてしまっていいのだろうか。でも二人の気持ちを無碍にはしたくないしね。いいよね、いいはずだ。ということで頂きます。
「いたぁぁぁ~~!」
フォークを掴んでいざ実食と思った瞬間に、今朝聞いたばかりの声が聞こえる。ビックリして振り返ると、私を発見して嬉しそうに指を指しているかぐやがいる。私の貸していた服ではなくて、新しい服を着ている。知らないデザインなので私の私物じゃない。可愛い、よく似合ってるなぁ。……じゃなくて。
その後ろには大量の荷物を抱えた楓が死にそうな顔で荒い息を吐いていた。
「可愛いね、誰この子?」
「高野君も一緒だし、知り合い?」
いつか説明しようと思ってたけど、どう説明すればいいのか。事態が急変したせいで言葉に詰まる。
「あっと、この子は」
「酒寄かぐやだよ~、ママ美味しそうなもの食べてる~。うらやま~~」
空気が凍った。
「ま、ママ……?」
「彩葉、ついに……」
「ち、ちがっ、私が生んだわけじゃないから! どうやって出産するの、この短時間で!」
楓と同じ考えをしている。なんだろう、私は子供を出産していそうだと思われているのかな。流石にそこはセーブしている。じゃないととんでもないことになりそうだという自覚はあった。
「え……かぐやのママじゃないの……?」
「ち、違うの、違うのよこれは」
なんか浮気がバレた人みたいだ。自分を冷静に俯瞰している自分がいる。ゼハゼハしている楓が死にそうな顔で大量の荷物を脇に置いている。
「この子は、俺の遠縁の子で、身寄りが無くてね。だから引き取ったんだ……」
という設定だから理解してくれ、と楓がかぐやに必死に目で伝えている。かぐやは一応理解してくれたみたいだ。色々無理はある気がするけど、現状を誤魔化す場としては問題ないだろう。
「そ、そうなの。こう見えてちょっと年下だから。それで楓と私が親代わりだからってコトなの」
「そうなんだ……」
「大変だったね……」
二人ともかぐやに同情しているみたいだ。なんだか騙しているみたいで罪悪感があるけど、ゲーミング電柱から出て来た月のお姫様を私たちは娘として育てました、何て言えるわけがない。病院送りになってしまう。
「ここ、どうぞ。ほら、メニューもあるよ」
「お会計はお父さんがやってくれるだろうからね~」
「え、あぁ、はい」
やっと座れた……と疲れた声で言っている楓が答える。楓がかぐやに甘そうだということを見抜かれている。まぁこの二人も私と同じで一年間楓と仲良くしていたし、理解度も高いのだ。
「どうして外に?」
「暇だって言うからね。お買い物に行こうかってことで来たんだ」
「で、その結果がその大荷物ってことか」
「そうそう」
ホントに大量だ。電気屋の袋からはスマコンやタブレットが見える。スマコンって安くても十万以上するのに、買ったみたいだ。しかもスマホも持ってるし。これも十万以上する。他には服とかが大量に。ブランドから見て、お値段は……合わせて二十万を超えている。つまり、今日だけで楓は四十万を捻りだしたってこと? 幾ら何でもちょーっと甘やかしすぎだ。頼めばなんでも買ってくれると思われるのは教育上よろしくない。
「楓」
「はい」
「流石に甘やかしすぎ。家に帰ったらお話があります」
「……はい」
参ったなぁという顔をしながら、かぐやが求めたこの店で一番高いデラックスパンケーキセットを平然と注文している。自分は紅茶だけなのに。全然反省してないなぁ、と思いながら私も自分のパンケーキを口に運んだ。
芦花と真実に可愛がられながら、かぐやは楽しそうにしている。娘を可愛がってくれる人が沢山いるのは嬉しいことだ。愛される子になって欲しいと思っていたのだから。楓は二人に雑に弄られている。
「ゆっくり食べなさーい」
幸せな空間だ。愛すべき家族と、愛すべき親友二人に囲まれて、私はこの幸福を享受している。甘い物もあるし。私を取り巻く世界は愛に満ちていた。貰った多くの愛に対し、私は全力の愛で返したい。それがきっと私のするべきことだから。
このIFシリーズのやめ時を見失っています。