ツクヨミから戻ったら、かぐやの髪色が金髪になっていた。PCで何かを検索して、頭を捻っている。
「あれ、どうしてまだ金髪なの?」
「えっ、だめ? じゃあ、えいっ、えいっ、えいっ!」
えいっ、という度に髪色が変わっていく。緑、赤、白、ストライプ、マーブル。肌の色まで変化させられるみたいだ。いろんなかぐやがいるのはちょっと面白い。気分とか服に合わせて髪色とかを変化させられるのなら、モデルさんにでもすぐになれそうだ。ウチの娘なら、どこの事務所でデビューしたってたちまち大人気間違いなし。ルックスもそうだし、こんな素晴らしい子が愛されないわけがない。
「やっぱこれっしょ☆ ママは何か他の色の方が良かった?」
「ううん。かぐやが好きな色にしなさい」
「じゃあこれ~」
元の金髪にして、どや顔で手櫛をしている。元々の髪色も綺麗だったけど、こっちはこっちで金色に揺れる稲穂のように、太陽の光を浴びて咲くヒマワリのように、燦々と輝いている。どっちでもこの子の魅力は消えないけど、より引き出せているのはこっちの金色かもしれない。
「かぐや、ホントにライバーになるの?」
「うん、めっちゃおもろそうだから! ダメ……?」
「ダメ……とはあんまり言いたくないんだけど……」
「じゃあ、OK?」
「うーん」
本当なら許可してあげたい。ただ、ちょっと悩みどころだった。子供のやりたいことを尊重するのは大事な事だってわかっている。折角かぐやが積極的にしたいことを見つけたのだから、それを応援すべきってのも理解している。でも、ライバーっていうのは中々難しい職業だ。
人気者になれる、と言えば聞こえはいいけどアンチコメントとか心の無い事を言う人もいる。同人誌のネタにされることだってあるし、ある事ない事書かれることもある。私生活を切り売りしたり、ストーカー被害に遭ったりすることもある。ウチの娘は可愛いのでより一層気を付けないといけない。
それはどんな配信者でもそうだ。一番トップを突っ走る黒鬼ですらそう言う事はある。当然、運営にだって文句を言う人がいて、楓やヤチヨはそれと戦っている。そういうのは精神的に疲れる。ショックを受けたりしてしまうかもしれないし、物理的に危険かもしれない。その辺の危険から守りたいと思うのは、親として自然な事じゃないだろうか。
「お父さんがOKって言ったら、いいよ」
「良いって言ってた!」
「え、マジか。早いよ……」
言ってしまった手前、取り消せない。子供にやっぱり無しなんていう不義理な事をする大人にはなりたくない。ネットの酸いも甘いも知り尽くしている運営組なら考え直すように勧めてくれるかと思ったんだけど、これは夫婦会議をしないといけないかもしれない。
「まずはしっかり下調べをしてからね」
「はーい」
「あと、夜はちゃんと寝る事。私はちょっと楓とお話ししてくるから、かぐやはお風呂入ってね。先に寝ちゃってもいいから」
「わかった!」
自分の部屋でまだ仕事をしているであろう楓を訪ねる。鍵を開けて入ったら、着替え中だった。速攻でシャワーだけしたらしい。あぁ、これは多分夜もお仕事が終わらない感じだ。今日はこのまま自分の部屋で寝るのかな。最近ずーっと私の部屋で寝ていたから、なんだか不思議な気分。少し寂しさもある。
「あの、彩葉さん」
「どうしたの? 私のことは気にしないで、ごゆっくり着替えを続けてね」
「そんなガン見されるとやりづらいんだけど……」
「な、何のことかな~」
「いや、そう言うのって普通男がするもんじゃ……まぁいいか」
楓は諦めたように苦笑すると、シャツを着た。いけない、今は真面目な話をしに来たんだ。それに隣にまだ起きている娘もいる。お風呂に入っている音が聞こえた。
「ちょっと話し合いたい」
「うん」
「あの子、ライバーやるって言ってるんだけど……」
「あぁ、知ってるよ。さっきうちに来て、どうしたら良いかとか聞いてきたから。あんまりああしろこうしろってのは言えないけど、誰でも使えるアドバイスみたいなのはちょっとしたかな」
「楓は、それで良いと思ったの?」
「思った」
楓は結構あっさりと言った。
「私は……心配。今からでも止めた方が良いと思う」
「どうして?」
「どうしてって、楓も知ってるでしょ。ライバーっていうのは人気者になれるけど、それだけじゃない。アンチに心無い事を書かれたり、ある事ない事言われたり、安全だって危ないかもしれない。一生ネットに残っちゃうかもしれない。別に何も悪い事してないのに炎上してる人だっているんだよ?」
「そうだね。それはよく知ってるよ」
「だったら……」
「だからこそ、俺はやらせてもいいと思う」
楓も真剣な声だった。何も考えずに軽い気持ちで許可したわけじゃないのは分かっていた。楓は思慮の浅い人じゃない。私に手を出した後に責任を取ることを常時考えていてくれたくらいには、ちゃんと先々のことも考えてくれる。自分の体調の事以外では。
だから、かぐやのライバーになりたいって言うことについても何かしら考えがあったのは理解していた。それでも私は不安の方が大きくて、こうして反対している。傷ついて欲しくない。泣いて欲しくない。あの子には、笑っていて欲しい。そう思うのはおかしいのかな。
「傷つくかもしれないし、嫌なことがあるかもしれない。でもそれは、人生を過ごしていたらどこかしらのタイミングで必ず遭遇する事だと俺は思ってる。最初から最後まで全部順風満帆に行きましたって言う人生は理想的なのかもしれないけど、俺からすればどうしても何かのシナリオみたいで、偽物めいて見える。悪いとは言わないけどね。痛みも悲しみも、もちろん沢山与えられるべきではないけど、必要なものではある。それを知ることも、人間である証左だし、人生を送る子供自身の権利じゃないかな」
傷も痛みも苦しみも孤独も、この人はよく知っていた。私以上に、よく知っていた。それでもその痛みを恨んだり、毒を吐くことは無かった。その根底にあるモノに、私は触れているのかもしれない。
壁越しにはかぐやの鼻唄が聞こえる。凄く幸せそうだ。その壁一枚を隔てた反対側では、暗い室内で私と楓が向かい合いながら苦しさについて論じていた。
「まずはやってみないと。やってみて、上手く行かないかもしれない。それで、そこで辞めてもいいと思う。それも一つの、あの子がした大事な人生の選択なんだから。俺たち親に出来るのは、子供の道を舗装する事じゃなくて、歩き出せるようにしてあげる事じゃないかな。もちろん、本当に守らないといけない時には手を差し伸べて、守って、一緒に歩いてあげないといけないけど。でも、最初から全部お膳立てしてあげる必要は無い」
「でも、苦しんで成長するより、楽しみながら成長する方がずっといいはず」
「それはそうだね」
「だったら――」
「だけど、どうして彩葉さんは苦しむって決めてるの?」
「……」
「悲しい事も嬉しい事も、やっていれば色々あるよ。俺たちだって喧嘩したことあるでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、彩葉さんは俺と過ごして不幸だった?」
「そんなわけない!」
「それと同じ。苦しい事とか悩んだことが沢山あっても、泣いた日があっても、最後に残る物が楽しい思い出なら、俺はそれでいいと思ってる。理想像から外れた人生を歩んでいる姿を見るのは、親からすれば歯がゆい。俺もそれは分かるよ。だって俺も、かぐやの親だし。でも、俺は両親に背中を押してもらった。これは特に父さんに。やりたいなら、突っ走れって」
楓の背中を、楓の両親は押した。きっと、苦しむことも分かっていたのだろう。楓のお父さんはお医者さんだった。沢山の命を救って、それでもその中で取りこぼした命もあって。そんなことは分かっていたのだろう。その道を目指した日から、きっと。そういう過去があったはずだ。でも楓を応援する道を選んだ。その末に、世界一の
「走って、転んで、泣いて、そこから立ち上がれ。それは全部お前のやることだ。俺たちは見守るし、ヤバそうなら助けるし、帰る場所は用意してやる。だから、思いっきり腕振って走れ。自分の目指すゴールまで。俺の父さんはそう言った。だから、俺も同じことをしてあげたいんだ」
それはある意味ではすごくシビアな言葉。でも、どうしてだろう、私の心には響いていた。やりたいことをやってみろ。私はもしかしたら、ずっとそう言って欲しかったのかもしれない。きっと、私の母だって同じような事を言っていた。でも、母と楓のお父さんは違う。母は全部自己責任だと言った。でも、楓のお父さんは変える場所は用意してあげると言っている。
あぁ、そうか。だから楓は走り続けられたんだ。自分が行きたい場所に向かって、真っ直ぐに努力し続けた。だって振り返れば背後にはいつも、迎えてくれる家族がいたから。後ろなんて気にしなくてよかった。疲れて泣いた夜でも、一緒にいてくれる存在がいた。それは途中からヤチヨに代わったのかもしれないけど、どっちにしても帰る場所がある。それが、彼の支えだったんだ。
「私は――私は、楓の帰る場所になれたかな?」
「俺にとってはもう、彩葉さんとかぐやのいる場所が俺の帰る場所だよ。かぐやが来る前からずっと、あの日彩葉さんが好きだと言ってくれた日から、変わらずに」
「そっか。じゃあ、かぐやの帰る場所にもなれる、よね?」
「なれる。俺が保証するよ。それとも、俺の言葉じゃ不安?」
私は静かに首を横に振った。かぐやへの不安はある。傷ついて欲しくないって言う思いもある。きっとあの子が泣いていたら、私は自分のことのように泣いてしまうのだろう。でも、さっきお母さんにも言った通りだ。子供は子供であって、親じゃない。かぐやはかぐやであって、私じゃないんだ。
消えない痛みはあるのかもしれない。でもそれを抱くのも、子供の権利だ。私の痛みは私のモノだし、楓の痛みは楓のモノ。それは忘れられないけど、残り続けるけど、意味が無いわけじゃない。
「痛みを知っているほど、苦しい事を知っているほど、人は人に優しく出来るはず。理想論かもしれないけど、俺の母さんはそう信じていた」
「――分かった。かぐやの道はかぐやだけのものなんだよね……。不安はあるけど、応援することにするよ」
「そうしてあげて。きっと、あの子もそれを望んでいるはず。彩葉さんがついていてくれるなら、百人力だろうから」
楓はそう言って優しい笑みを浮かべる。夜の暗い室内には、外の月明かりだけが差し込んでいた。その中でも決して消えないその穏やかな微笑みに、私は何度でも救われている。思いつめていた気持ちは少し晴れたような気がした。
「優勝、出来るかな」
「難しいかもね。でも、何も残らなくても、楽しかったなって思いが残れば、それで大成功じゃないかな。あの子の中にそういうモノがあるのは、大事な事だと俺は思う」
「そう、だね。意味は、その後で見出だせばいいか。かぐやが、自分自身で」
ちゃんと応援しよう。この世に生まれてくれて、私たちのところに来てくれた娘がしたいと言っていることなんだ。親が味方になってあげなくて、一体だれがあの子の味方になってあげられるのか。私たちはどんなことがあっても、かぐやの味方だと言ってあげないと。
決意は固まった。まだまだ私たちも親としては初心者だ。戸惑うことも意見がぶつかることもあるだろう。それでもこうして話し合うことができれば、きっと解決に導いていけるはず。
そこで一つ、言わないといけないことを思いだした。
「あ、そうだ。優勝候補の黒鬼だけどさ……」
「あぁ、さっきもド派手な演出してたよね。あれでいて帝さんはちゃんと許可申請を事前にしてくれるから凄くやりやすいよ。マナーもいいし、違反もしないし」
あの人、そういうところは変わらないんだ。
「その帝アキラなんだけど……あれ、私の兄なのです」
「…………へ?」
「実兄なのです。真名を酒寄朝日というのです……」
「え、あ、マジかぁ。えぇ、あの人かなり長い付き合いなんだけど、今度からどうやって接すればいいの……。それよりご挨拶もしないといけないのか。え、俺は帝さんを義兄さんって呼ぶの?」
「まぁ、将来的には」
さっきまで毅然としていた楓が卒倒しそうだった。私だって嫌だよ、あんな俺様系のキャラを作ってるのが実の兄なんて。前々から知っているし、確認はしているけど、それだって結構キッツいのだ。楓からすれば、ツクヨミのトップライバーと運営の二代巨頭の一角という関係。なので、知り合いというか仕事仲間に近いのだろう。もっと早く言うべきだった。
「なんでずっと黙ってたの……。俺、今までで一番彩葉さんに文句を言いたい気分だよ?」
「ごめんなさい。普通に、恥ずかしかったというか……」
「まぁ気持ちは分かるけど」
分かるのか。良かったような良く無いような。不思議な気分だ。
「……そういうことなら、どっかのタイミングで挨拶しておく」
「うん。ごめんね、こんな事急に言って。でも、楓ならお兄ちゃんも受け入れてくれる、と思う。多分、きっと、恐らくは……」
素の楓のことは知らないかもしれないけど、これまでツクヨミのアメツキカエデとして活動してきた姿は知っているはずだ。それが信頼になることを切に願った。
「出来た! そいで、アップしてみた」
もう出来たんだ、早いな。翌日のバイトから戻ってくると、既にかぐやは動画をアップしていた。随分と行動が早い。それも良いところなんだけど。まぁ最初は中々再生数も行かないと思う。それこそ奇抜なネタ動画とかではない限り、伸びる速度はゆっくりのはずだ。それでもこのビジュアルだしきっとそのうち人気になる。
そう思って見せられた画面には、再生回数が既に万を超えていた。やっぱり才能、バレちゃったかぁ。ウチの子の才能がありすぎて、或いは可愛すぎて、世間には隠しておけなかったみたいだ。意外とこの世も見る目がある。そう思って動画を再生すると、奇妙な不協和音が流れて来た。おっと~?
『かぐやっほー! 月からやって来たかぐやだよー。今日はやること思いつかないから、これで終わり! じゃあねー…………ん? これで切れてるのかな?』
「ちょちょちょ、インカメ……」
ばっちりリスナーに見つかっているようで、『インカメw』『ヤチヨのライブにいた子?』『可愛くね?』とコメントも残されている。無名よりはいいか、スタートダッシュとしては。
「良い感じにアップ出来たね~」
「お仕事終わったの?」
「ちょっと抜けて来た」
楓はそう言うと、疲れた~と言いながら私の椅子に座っている。この調子だとあんまり寝ていないに違いない。まぁヤチヨカップなんて大きなイベントにもなると、色々問題も出てくるだろう。そこをうまく解決するのも楓の仕事なのだ。かぐややお兄ちゃんをはじめとするライブーの生活は、運営にかかっていたりする。
「さぁかぐや、作戦会議です」
「うん!」
「今かぐやはメッチャ良い状態にいます」
「なんでー? まだ八千位とかだよ?」
「この第一回、どう考えても事故なんだけど、バズってるよね? これがチャンスだよ。ちょっとの間でも注目されたら、それを逃しちゃいけない。チャンスが来たらどうするんだっけ?」
「連投!」
「大正解! ということで、ここから畳みかけてみよう。勢いが大事だよ、勢いが」
「でもアバターがなんか他と違う……」
「これはこれで味があるけど、ツクヨミのアバターをそのまま使いたいよね。だとすればちょっと借りるよ……」
楓がかぐやのスマコンとパソコンを連結させて、何か操作した。すると、一瞬でアバターがパソコンの中に映し出される。……今何をどうしたんだろう?
「じゃあ、企画案を考えないとね。今日中にあと二三本出そう」
「はーい」
「企画も良いんだけど、その背景の不協和音は何?」
「ジングルだよ」
ジングル? 軽やかなメロディでリスナーの印象に残る事を目的とするあのジングル? 頑張って作ったのは伝わるけど、あれじゃ人はつかめない。あぁでも何回か聞いていると癖になるかもしれない。なにかこう、かぐやのエッセンスが漏れ出している気がして。
「オリジナルで作ったの」
「あぁ、私のキーボード使ったのね? うーん、そっかぁ」
「あれってママのだよね? てことは弾ける?」
「一応、ね」
「実は~全然上手く行かないの~。ママ、お願いします!」
「しょうがないなぁ」
これ、どう思う? と楓に視線を送ったら、やってあげたら? という視線で返された。私も大概娘に甘いのかもしれない。でも、応援してあげるって決めたし、何か力になれることがあるのなら助けてあげるのも親としての務めか。
「ねぇ、かぐや、覚えてる? あなたがまだ赤ちゃんの時、楓と一緒に弾いて歌ったりしたんだけど」
「なんとなくだけど。優しいメロディーがずっと流れてた気がする~」
「そっか」
ちゃんと、この子の中に残ってくれている。かぐやが楓の膝の上に座っていた。私や楓の歌に楽しそうに身体を揺らして。夏真っ盛りの太陽を窓の外に見ながら、私たちは音楽に包まれていた。あの時、私は本当に楽しかったんだ。楓のおかげでもう一度取り戻せた音楽を、もっと次のステップに進められた気がして。
その思い出を胸に、私は鍵盤に触れる。指先が草原に放たれた鹿のように鍵盤を駆け回る。音楽が溢れ出した。指が止まることは無い。キーボードからではなく私自身の中から湧き上がる衝動。音を楽しむと書いて音楽。その言葉の通り、私の心は幸福の中でダンスを踊っている。
「ラ……ララ……」
目を丸くしていたかぐやが一緒に歌ってくれた。記憶の中にあるメロディーが奏でられていく。この一年間、私を頑なさを溶かしてくれた愛を表すように。それにしても、なんて綺麗な声だろう。美しい歌声だ。歌姫の名は、もしかしたらこの子にも相応しいのかもしれない。全身の細胞が歓喜の声を挙げる。心に春風が吹いた。
その感覚は、楓の声を聞いた時と同じように思えた。
「イエイ!」
気が付くと、丸々一曲弾き切っていた。こんな無我夢中で演奏したのは久しぶりかもしれない。
「凄すぎ~~! ママ、めちゃカッコいい!」
「そ、そう?」
「まぁ、俺はずっと前から知ってたけどね。彩葉さんは人の心を動かす音を作れるって」
「こら、娘にマウントとらないの、大人げない」
褒められると、どうしても喜んでしまう。世間がどうとか、そんなの関係なかった。私の愛している人に、私を愛してくれる人に認めてもらえればそれでいい。二人の無邪気な拍手が、何よりも心に響く。
「ママぁ~お願いがあるんだけど~」
かぐやが両手を合わせながら上目遣いでこちらを見てくる。
「お願いがあるなら、ちゃんと言いなさい」
「かぐやと一緒に、ヤチヨカップ優勝目指してください! ママがプロデューサーになってくれれば、絶対負けないから!!」
かぐやはうるうるとした目でお願いをしてくる。反射的に了承しそうになったのを何とか抑えて、私は考える。かぐやの手助けをすること自体は嫌じゃないし、むしろ全然構わない。ただ、親を使い倒すことがこの子の成長に繋がるのだろうか。娘と一緒にてっぺんを目指して、ていうのには大分心惹かれるけど。
「楓、どう思う?」
「彩葉さんがどうしたいのかに忠実になればいいんじゃないかな。親と一緒に何かをしたって言うのも、大事な経験だよ。特に一番上の子はこの後お姉ちゃんとして我慢しないといけない事も多くなるわけだし」
つまり二番目の子以降を育てる用意があると。確かに、かぐやは長女ということになるのか。親を独り占めできる期間がある数少ない存在でもある。その時間にとことん向き合ってあげることも、大事な事かもしれない。
「分かった。ただし、私も毎日暇ってわけじゃないから。そこだけはお願いね?」
「うん!」
「よろしい。じゃあ、一緒に頑張ろう。でもあくまでも主体はかぐやだからね。かぐやが頑張るの。私はそれのお手伝い。まぁ取り敢えず突っ走ってみなさい。ちゃんと帰る場所にはなってあげるから」
「ありがとう! ママ大好き~」
かぐやはそう言いながら私に抱き着く。その体温が私を優しく包み込んだ。こうして同じ時間を刻めるのは、奇跡みたいな出来事かもしれない。
あなたは一番になりたいだろうし、私もその目標は大いに応援するよ。でもね、忘れないで欲しい。私はあなたや楓が元気でいてくれればそれでいいの。二人がいればどんな未来でもずっと輝いている。優勝できなくても、それは変わらない。
どんな順位でも、親からすれば生きているだけで百点満点だし一等賞なのだから。
<裏設定>
高野楓の手取り年収:■■■■万円