「はぁ~明日はもうライブなんだけど~」
「そんなにため息吐かないで」
「そうは言うけど……いつも一緒にいる楓とは違うの!」
「俺は別にヤチヨを推してるわけじゃないからなぁ。まぁパートナーというか相棒というか仲間ではあるけど、それはファンとアーティストって関係性じゃないし」
「私にとっては神様と同じなの。神様とヤチヨが並んでたら、迷わずにヤチヨを信仰するの」
神の奇蹟が起こったとしても、私はヤチヨを信じるだろう。ある意味で、ヤチヨは現人神なのかもしれない。人じゃないけど。電子の女神、ということは人類が生み出した最新の神話って言えるはずだ。神だって元々は人が創造したものなんだし。そんな事を言うと色んなところに怒られそうだけども。
「その信仰心で乗り切ってくれると助かるなぁ。まぁさ、全力でやれば案外他人のことは気にならないかもしれないよ」
「そうかもしれないけどさぁ、不安ではあるの。私としてはそこら辺は理解して欲しいのです」
「うんうん」
この~私の頭を撫でればいいと思ってるな。不満ですよ、と私は湯船に深く沈みこんだ。少しだけお湯が溢れる。かぐやも今日はライブ前なので配信をお休みにして寝ている。それだけ明日のライブが楽しみなんだろう。これまで沢山練習してきたし、元々目標にしていたものだ。それだけ想いも強いはず。
私も出演する身としては色々と不安が多い。でも、娘と同じ晴れ舞台で過ごせるっていう喜びもあった。本当は楓もいたら良いんだけど、彼はライブの演出などで手を離せない。その代わりツクヨミの特等席から私たちを観戦してくれるそうだ。ある程度距離のある客席と違い、ツクヨミの管理人室はドアップの映像を見れるそうで。ともすれば、生身で最前列にいるよりロケーションはいいのかも。
そんなこんなで、前日の夜に私
「かぐやの成長って止まってるよね?」
「うん、そう思うけど」
「だったら、さ。学校とか行ってもいいかも」
「学校?」
「うん」
前からちょっと考えていた。配信者として食べていくつもりならそれでいいけど、でも学校で学べることっていうのもあると思う。勉学的な知識とかもそうだけど、それ以上に友達と出会ったり色んな同世代(に一応分類できるであろう人)と触れ合えるのは大事な経験だと思っていた。私にとっての芦花や真実のような子と出会えたら、あの子の世界がもっと広がってくれると思う。
「私たちの高校にちょっと興味があるみたいだったし。今すぐじゃなくてもいいけど」
「じゃあ彩葉先輩になるのかな? それともママ先輩?」
「属性過多かな?」
「今更だよ」
楓は苦笑している。私はそんなに属性過多な女子高生ではないと思っているつもりだったけど……。でも一人暮らし苦学生系彼氏持ち娘持ち女子高生っていうのは属性過多かもしれない。いや、確かに過多だ。なんなら彼氏と同棲してるし、こんな風に一緒にお風呂の中にいるし。
「ママ先輩はギリギリあだ名として成立するけど、パパ先輩はヤバいんじゃない? なんか犯罪臭あるよ」
「それはまずいなぁ……」
「まぁそれは冗談としても、いい友達とか経験が出来ると思うし。どう?」
「うーん、本人が行きたいなら良いと思うよ」
「あ、でも戸籍とかが無いのか」
「そこはまぁ、何とかする」
どうやって何とかするつもりなんだろう。あぁでも、この前ツクヨミの防衛システムの前バージョンを防衛省に売り払ったとか言っていた。そういう繋がりなのかな。ヤチヨとタッグを組んだらどうにでもなってしまいそう。
「人気になること間違いなしだね」
「彩葉さんみたいに?」
「私みたい……なのかは分からないけど。案外すぐに彼氏が出来たりして」
「…………やっぱり認めません」
「そんな子供みたいな。私にとっての楓みたいな素敵な相手かもしれないんだし。」
「むぅ……」
お父さんの説得は大変そうだ。未来の彼氏君はこの電脳最強お父さんをどうにか攻略してください。大丈夫、私のお母さんに認めてもらうよりは簡単だし、それくらい出来ない相手じゃ私も認めるつもりはないから。
そんな捕らぬ狸の皮算用的な未来のことを考えていたら、明日のライブへの不安は少し薄れていた。少しずつ染まっていく頬を撫でる。水滴が二、三、顔に残った。鏡に映った私の顔は、穏やかだ。こんな顔が出来るようになったのが誰のおかげか、私はよく知っている。
私はそのまま彼の身体にしなだれかかった。
『さーてと。カエデ、準備はどう?』
「現在最終確認中です」
モニターにはライブ関連のシステムが映し出されている。
「音響システム、異常なし。映像システム、異常なし。会場動作、異常なし。移動システム、異常なし。空間システム、異常なし。光源含む演出システム、異常なし。その他各部異常なし。全関係システム、オールグリーン。時間合わせ、誤差修正0コンマ1秒。修正完了。ツクヨミ全体で異常を確認できず。通信良好、電波状態問題なし。いつでもどうぞ」
楓の確認を聞いたヤチヨが静かに頷く。そしてその顔は歌姫のそれになっている。
『いざ、ゆこうか』
ヤチヨに促されるままに、控室の一角に備えられた板間に上がった。楓が私たちに手を振っている。それに振り返していると、ふわりと音もなく床が上がった。スルスルと上昇を続けていく。これが私たちをステージまで運ぶ昇降機なのだ。ここから楓の演出はもう始まっている。地上ではナレーションが響いている頃だろう。あのミラーボールの月で、楓は忙しそうにしつつも私とかぐやのペンライトと法被と鉢巻をしていると思う。
『毎度ヒリヒリなんだよね、この雰囲気』
「ヤチヨでもそうなの?」
『当っ然。みんなが楽しんでくれるかな~、なりたい自分になれてるかな~、返したいモノを返せてるかな~って。ヤチヨはいつもガクブルだよ』
そうなんだ、ヤチヨでもそういう感情になることはあるんだ。そう思うと、少し呼吸が楽になり、緊張で早くなっていた鼓動が落ち着いてくる。
「ねぇ、ヤチヨ」
『なんだいなんだい?』
「ヤチヨの最初の二曲って、もう歌わないの?」
デビュー曲の『Remember』は海の底で溺れかけていた私に一塊の空気を届けてくれたような歌だ。あのデビューソングを、ヤチヨはもう長らく歌っていない。それこそ、京のセットリストにも入っていなかった。
そして二曲目の『午前零時の魔法使い』も長らく歌われていない最初期の名曲だった。
『最初の曲はもう届いたからお役目かんりょ~~☆ 二曲目は……ヤッチョの零れ落ちた想いみたいなものだからね。余計に、辛くなるだけだし』
「え、それってどういう……」
『ほら、時間だよ』
意味を尋ねるより先に、昇降機は昇り切っていた。その瞬間、圧倒的な圧力が私たちに襲い掛かる。それは詰めかけたファンの熱狂と歓声。まるで形を持ったように、四方八方から皮膚を叩いてくる。それは電撃みたいで、そしてとても心地よかった。
銀河の中にいるみたい。綺羅星が幾つも瞬いている。そのペンライトが暗い会場に光っている。本当に星空の中にいるようだ。この幾千万の星空の中で、いつもヤチヨは歌っていたのだろう。あの星の一つだった私が、今はここにいる。その時空を見上げた。そこには、ミラーボールの月が輝いている。あそこに楓がいる。私たちを見守ってくれている。
もしかしたら、ヤチヨもあの月が空の上にあると分かっているからこそ、歌い続けられたのかもしれない。暗い銀河の中でも、一人ではないと思えたから。
夏祭りの喧騒がどこか遠くに感じられる。あのライブの後、謎の襲撃があった。それは楓が一瞬で撃退したけど、その時に襲撃者に触れられてからかぐやの様子がおかしかった。そして表示された日付。それは次の満月だった。否応なしに、私は察してしまったのだ。タイムリミットがその日付けなのだと。
けれど、私はそれをかぐやに問えないでいる。楓は必死にシステム面の見直しを迫られていた。かぐやは努めていつも通りな気がする。でも、どこか変だった。娘の違和感を見逃せるほど、私は鈍感な母親じゃない。
何かきっかけを、と思ってここに来てみたけど、やっぱり口は上手く動いてくれない。
「ねぇ、かぐや……」
「ん?」
「……いつも着けてるよね、それ」
「あーなんか落ち着くんだー。故郷って感じ?」
「そっか、故郷……か」
「うん」
聞こうか聞くまいか、限界まで迷ってしまった。それでも、私は口に出さずにはいられない。結局のところ、私は怖かったのだと思う。聞いてしまえば、答えが出てしまえば、結末が確定してしまう気がしたから。
河川敷は薄暗くなる。太陽は地平の先に消えて、紫の空になった。遠くから、花火大会決行の号砲とアナウンスが響く。楓は静かに私たちの言葉を聞いていた。きっと彼は彼で何か言いたいことがあるんだと思う。でも、迷いの中にいる私の方を優先しているような気がした。言葉にはしていないけど、それでも分かる。こんなんでも一年間ほぼ毎日同じ時を過ごしていれば、伝わって来る。
「月ってさぁ、味も温度もなくてマジつまんないの。決められた役割をずーっとプログラムみたいに繰り返すだけなんだよね」
「そう、なんだ」
「ゲームのNPCっていうか、パパの使ってる自動システムのAIみたいな感じ? 真似っこすらしてくれないんだよね。感情みたいなのも薄くって。終わればまた始まり、始まればまた終わる。そのループを繰り返して、新しいお話なんて、いつになっても始まらない」
「全然、想像つかないよ」
「そもそもそんな事考えるのが異常っていうかさ……かぐやだけ、浮いてたんだよね」
自分の過去を、そんな風に語らないで欲しい。自分だけが孤独だったことを、どうしてそんなにも綺麗な笑顔で言えるのだろうか。
「綺麗……」
素直な感想だった。かぐやの口からこぼれたそれは、これまで抱けなかった思いの全部をまとめた言葉みたい。それに応えるように、連続でスターマインの花が咲く。白い肌を花火色に染め上げながら、かぐやは言葉を続けた。
「寂しいし、退屈。毎日繰り返し、退屈、死にそう。もうやだ。どっか行きたーいって思ってたら、ある日一本の飛行機雲みたいなのが見えたの。それは地球から、月を目指して飛んでくるロケットだった。それで地球を見始めたら、みんな好き勝手に動いてて、複雑で、一回きりで、だからこそ自由に見えた」
「私たちが?」
「うん。でも、こっちに来て分かったんだ。みんな抑えてもいるんだよね、自分の気持ち。多分、もっと大事な物のために」
「なに、大人じゃん」
いつの間にか、かぐやは大人になっていた。私たちですら、まだ子供と大人の中間を揺蕩っているだけなのに、この子はもうすっかり大人の顔をしている。まるで、私たちが置いてかれてしまったみたいだ。子供の成長は、こんなにも嬉しさと少しの怖さと悲しさに満ちているモノなのだろうか。
仮にそうだったとしても、本当はもっとゆっくりと味わっていくものなのだろう。でも、こんな短期間で訪れてしまった私には、この感情をどう処理したら良いのか分からなかった。
「二人は……かぐやがいてよかった?」
「なに、言ってるの?」
唐突なかぐやの言葉に、私は戸惑いながら答えるしかない。
「良かった、以外の答えがあるわけないでしょ」
「そうだよ」
私の言葉を肯定しながら、楓は静かに頷いた。
「私は……自分がいい親になれるとはあんまり思ってなかった。ていうか、想像もあんまり出来てなかったかもしれない。ぼんやりフワフワした夢みたいなものがあって、でもかぐやが来てくれてから、その夢みたいなものに形が出来た。子供を育てるっていうのが楽しい事ばっかりじゃないけど、上手く行かない事の方が多いけど、それでも私はこの子の幸せを願えているっていうのだけで、自分を肯定できる気がした。自分と、自分の愛した人と、育てていけるっていうのが幸せだった。一緒に悩んで、一緒に考えて、一緒の時間を過ごすっていう事は、何でもない事でも新鮮で、楽しくて、心が弾んだの」
ぼんやりと、楓との間に子供を作れたらいいな、とは思っていた。でもそれはきっと気持ちだけが先走っていて、実際にどういうことをしないといけないのか、なんて大事な部分は全く分からないままだった。恋人同士ならそれでいいかもしれないけど、それでも子供がいる以上はそういうわけにも行かない。
真剣に考えて、自分の甘さとかを痛感させられて、それでもそれを何十倍も上回る楽しさがあった。嬉しさがあった。私の知らなかった沢山の感情があった。かぐやのことについて話すうちに、もっと楓と深く心で繋がれたような感覚にもなれた。目指す理想の家庭に近いのかは分からないけど、娘を愛しているという気持ちだけは負けるつもりはない。
「そっか……なら、嬉しいな」
泣きそうな笑顔で、かぐやは言う。そんな顔をしないで。あなたの涙を拭ってあげたい。あなたの心を曇らせる全部を、私たちで晴らしてあげたい。私は小さく息を吸って、そして吐いた。思っているだけでは未来は変えられない。行動しないと、何も変わらない。私はかつてヤチヨに背中を押されて楓に告白した。想いを抱えているままだったら、きっと今でも彼とキスすらできないままだっただろう。下手したら付き合えてもいない。
だから、言うべきなんだ。その答えがどんなに苦しかろうと、子供の心の中にある苦しみに向き合えない親になっていいはずがない。
「ね、かぐや」
「うん?」
「かぐや……」
「……うん」
「帰っちゃうの?」
「うん」
かぐやはあっさりとそう言った。
「いやー月の仕事と放り出してきちゃってさ。強制送還的な? あはは」
花火の光がキラキラと輝く。かぐやの瞳の中で、夜空に花が咲いていた。
「……かぐやは、かぐや姫だったみたい。次の満月にお迎えが来る」
「お迎えって、うちに来るの?」
「ううん、多分ツクヨミに来る。仮想の世界って月ととても近いから。あそこなら舟を飛ばさなくても簡単に干渉できるはず。あーでもどうだろ、舟出すのかなぁ。この前の時、全然干渉できなくて戸惑ってたし。でも舟出すのも大変らしいんだよね」
かぐやはとっくの気付いていたんだ。
「また、逃げればいいじゃん」
「え?」
「かぐやはかぐや姫じゃないよ。もっとハチャメチャで! めちゃくちゃで! だから、おとぎ話とは違うじゃん!」
一緒に逃げてって、そう言って欲しかった。助けてって言ってくれればよかった。そうしたら、私の全部を引き換えにしてでも、あなたを守るんだから。いつもみたいに言ってよ。ワガママに、好き放題に。いやだ、帰りたくないって。その一言だけで、良いのに。
「そんなハチャメチャかぐや姫にもお迎えが来ましたが、最後の日までめちゃくちゃ楽しく過ごしましたとさ。って、そーゆーのがいいじゃん☆」
いつの間にか、かぐやの声は随分と大人びていた。あっという間に育っていく子供の心に、親の心がついてこれていない。親も、もしかしたら子供と一緒に本来成長していくモノなのかもしれない。だから、多少の動揺はあっても耐えられる。でも、かぐやの成長スピードは私たちの心の成長スピードよりも何倍も速かった。
「これが私のエンディング! チョー楽しく運命に向かって走ってく」
しだれ柳。まるで光の涙を流しているかのような花火が打ちあがる。かぐやの代わりに、私と一緒に泣いてくれていた。
「そりゃあ本当はさ。もっともっとママと歌いたかったし、パパと遊びたかったよ。新しい曲だってたくさん歌って、みんなで色んな景色を見て。あ、そうだ。ライブしたいなー。お迎えが来る日! 派手に!」
子供が巣立とうとしている時に、引き留めてはいけないのか。私の心の中がぐちゃぐちゃになる。どうしたら良いんだろう。子供が、ある種の諦めと一緒に覚悟を決めた時、親はどうしたら良いのか。そんな正解のないであろう問いが浮かんでしまう。楓のお母さんなら、どうしただろう。ウチの母なら、どうしただろうか。
「かぐや」
「うん」
「覚悟とか、そういうのを全部抜きにして、本当の心を聞かせて欲しい」
煩悶する私の手を強く握りながら、楓はかぐやに問いかけた。花火に照らされるその横顔には、瞳には、確かな決意の色が込められている。彼が何を考えているのか私にはさっぱり分からない。ただ一つ分かることがあるとすれば、それは楓も同じように悩んで苦しんで、その上でこうして問いかけているということだけ。
「帰りたくないんだね?」
「…………うん」
「分かった」
少しの沈黙の後に帰って来たか細い声に、楓は頷いた。静かに、それでいて力強く。同時に私に心も決まった。帰りたくないっていうのが本当の言葉なら、それは守らないといけない。私の可愛い娘のワガママなんだ。叶えてあげるのが親の務めってものだろう。
「それがかぐやの願いなら、俺が叶えるよ」
「俺が、じゃないでしょ」
カッコいい事を言っている楓のセリフに突っ込みつつ、私は彼の手を静かに握り返した。私の決意を示すように。
「俺たち、でしょ」
「彩葉さん、いいんだね?」
「いい。覚悟は決まった。どんな手段を使ってでも、私は私の愛した娘を守るよ」
「その答えを、待ってた」
「促してもくれなかったね。いじわる」
「だって、そこは彩葉さんを尊重したいから」
ぽかんとしているかぐやを私は抱きしめた。温かい体温が浴衣越しに伝わって来る。初めて出会った時に抱き上げてからずっと、変わらない温かさ。それはこの子の持っている優しさとか、心の温かさとか、そういうものなのかもしれない。
随分と、大きくなっちゃって。強がりも、一丁前に言えるようになっちゃったんだね。でも、お父さんにはお見通しだったみたい。そういうところはまだまだ子供かな。でも、それでいい。それでいいんだよ。ゆっくりと、大人になっていけばいいんだから。その時間の中には、悩みとか苦しみとか、色々あるかもしれない。でも、それもきっと大事な事で、その歩いていくための時間は私たちがしっかり作ってあげるから。
だから、一緒にいたい、で良いんだよ。あなたが覚悟を決めた顔を見せて良いのは、あなたが心の底から好きになった誰かと結婚の報告をする時までお預けにしておいて。
「大丈夫」
そう言った私を見るかぐやの顔は、涙に濡れていた。大粒の涙が、花火の光を反射しながら落ちていく。それを楓がハンカチで拭っていた。かぐやの頭を優しく撫でながら。
「大丈夫だよ、かぐや。あなたのことは私たちが絶対に守るから。かぐやは月のお姫様かもしれないけど、私たちだって育てたんだから主張する権利くらいあると思うしね。知ってた? かぐやのお父さんは電子の世界なら人類最強なんだよ。月だかなんだか知らないけど、あんな灯篭なんてぶっ飛ばしてくれるから。私は楓ほど強くはない。でも――」
楓みたいにツクヨミを使って何かをすることは出来ないかもしれない。それでも戦うことは出来る。この身が擦り切れるまで。神経が焼き切れようと、全部を失ってしまうことになろうとも、それでも子供が笑っていてくれれば全部問題なくなってしまう。それが多分、我が子を守る親ってものなんだ。
私たちの物語は、誰かの書いたお話じゃない。未来はまだ決まっていないし、運命なんてつまらないものは変えられる。愛は勝つなんて陳腐な言葉かもしれないけど、でも最後に愛は勝つはずなんだ。そうあって欲しいと、私は願っている。
「あなたを守るっていう気持ちだけは負けない。絶対に、誰にも。あなたを抱き上げたあの日から、あなたは大事な私の娘なんだから」