超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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私に作詞の才能は無いです。
この√もあと数話です。


Extra・IF√:楓がもっと早く越してきたら・20 【彩葉視点】

 何も出来なかった。その無力な敗北感が私を包み込んでいる。一睡もできないまま、私はただ月が地平に沈み、太陽が昇って来るのを眺めていた。伸ばした手が空を切る感触が、まるで数瞬前かのように残っている。

 

 私たちの愛した破天荒な娘は、最後に幸せを感じることが出来たのだろうか。たった数ヶ月もないこの時間の中に、喜びを見出すことが出来たのだろうか。私たちが両親でよかったと、そう言ってくれた。その声が何度も何度も何度も頭の中で鳴り響く。伝えられた感謝が、余計に何も出来なかったことを際立たたせて来るような気がして、心臓が締め付けられるような感覚がする。

 

 いつの日か、あの子の声も思い出せなくなってしまうのだろうか。その笑顔が、少しずつ記憶から失われていくのだろうか。それが無性に怖くて、震える。忘れたくない物ほど、人はいつしか過ぎゆく時間の中で失っていくのだから。

 

 いや、いっそ忘れることが出来れば、楽だったのかもしれない。でも、忘れたくなんかない。背反する感情が私を板挟みにしながら、グルグルと取り留めのない思考を加速させていく。

 

 よろよろと、立ちあがった。何かに、寄りかかりたかったから。一階に降りると、楓はベランダに立っていた。朝の風が、彼の髪を撫でている。その目には光が無くて、その唇は乾いていて、そのまま落ちてしまいそうな危うさがあった。

 

「何してるの!」

 

 私は思わず駆け出して、ベランダにいた楓を無理やり室内に引き戻した。そうしないと、彼もいなくなってしまいそうだったから。荒い息をしながら、ソファに倒した彼にしがみつく。その心臓の音が聞こえた。それで少しだけ、安堵できた。この人はちゃんと生きている。幽霊でも何でもなくて、掴めばまだここにいてくれる。

 

「お願いだから……あなたまで逝かないで。あの子がいなくなって、あなたまでいなくなったら私はどうやって生きて行けばいいの。もう、呼吸の仕方も分からなくなりそうなのに……!」

「別に、死のうとしていたわけじゃないんだけどな」

 

 嘘だ。直感でそう思った。もしかしたら途中で止めたのかもしれないけど、一瞬でも考えなかったわけじゃない。辛うじて危ういバランスの上で踏みとどまってくれただけで、もし何かが掛け違えていたら、きっと彼はそこから落ちていただろう。

 

「嘘」 

「嘘じゃないよ」

「嘘、うそつき。一瞬でも考えなかったの?」

「……」

「ほら、嘘つきじゃない」

「……もし、俺だけだったら、多分そうしていたかもしれない。親も、娘もいなくなって、俺一人になってしまったらきっと……耐えられないから。このままここから落ちれば、あの子に会えるのかもしれないとか、そんな事を考えなかったと言えば嘘になる、かな。でも、そうしようとした時、彩葉さんの顔が浮かんで、怖くなった」

「もう二度と、そんな事考えないで」

「考えないし、しないよ。彩葉さんがいる限り、俺はとりあえず一人じゃないし、なにより惚れた人を泣かせたくはないから」

 

 私は、少なくとも彼の生きている理由にはなれたのだと思う。一人じゃないと思ってくれたのだ。無力感に包まれていたのが、少しだけ軽くなる。娘を守れなかった親であろうとも、誰かの生きている理由にはなれたのだから。

 

「遺されるのは辛いね。三回目になっても……涙が枯れないんだ」

 

 彼の目は赤かった。彼の瞳に映る私の目もきっと真っ赤なのだろう。頬には幾筋も涙の流れた跡がある。その赤さを見ると、私もまた泣いてしまいそうになる。身体中の水分を全て消費しようとも、この悲しみは癒えそうになかったし、この苦しみを表すのには足りない気がする。

 

「これから、私たちはどうすればいいのかな」

「どう……だろうね。元に戻っただけなのかもしれない。かぐやに出会う前の、あの時間に」

「でも、もう前みたいには過ごせないと思う」

「それは俺もそう思うよ。きっと、これから人生を続けても、どこかでかぐやの顔が思い浮かぶだろうから」

 

 どんなに幸せな人生を送ろうとも、どこかで喪ったものの数を数えてしまう。それがきっと、人間という生き物なのだろう。私たちもかぐやのことを思い出してしまうはずだ。何かの節目に、何かの折目に。この後私たちの子供が生まれてきても、そこにかぐやの面影を見出してしまうかもしれない。それは誰にとっても幸せな事ではないはずだ。かぐやだって、そんなのを望んではいないだろう。

 

 でも、じゃあ私たちはこのどうしようもないまでに大きな喪失感をどうやって処理して生きて行けばいいのだろうか。何に聞いたとて、解決に至る答えが返って来るとは思えなかった。

 

「奪われたなら……奪い返すしかない、か」

「か、楓?」

「向こうがこっちに回路を繋げられたなら、こっちからだって出来るはずだからね。向こうの戦力の総数は不明だけど、少なくとも地球侵攻部隊は全部、文字通り全滅させた。なら、勝機はあると思う。今度は迎えの舟を寄越せないくらいに完膚なきまでに、断固として、徹底的に……」

 

 ほの暗い目をしながら、楓は脳内で計算を行っている。もう一回奪還しに行く、というのは悪くない選択肢にも思えた。向こうの本土まで乗り込めば、流石に月人も何かしらこちらに交渉をしたいと思うはず。かぐや一人のために月が壊滅するのは絶対に損益が釣り合っていないだろうし、楓を止められるならと渋々講和に応じる可能性は考えられた。

 

 月人。そういえば、彼らはなんて言っていたっけ。

 

「月人と言えば、ちょっと気になることがあって」

「戦力を増強させて、より強固にすれば撃破の可能性も上がる。人の娘を攫いやがって、衛星が惑星に敵わないって教えて……何か言った?」

「月人が最後に、言ってたことが気になって」

 

 彼らは私の聞き間違いでなければこう言っていたはずだ。『同一の存在は既にいるのに』と。彼らは無感動ではないし、無感情でもないんじゃないかと思っていた。楓の攻勢には困惑や焦りを感じていたようだし、驚きも隠していなかった。とは言えプログラムチックではある。そんな存在が無駄な事を言うだろうか。私たちを混乱させるための嘘かもしれないけれど、それにしたってもっとマシな言葉があるはずだ。

 

「同一存在って、なんだろう」

「言葉通りに解釈するなら、かぐやと同じ存在が既にこの世界にいるってことになるね。俺たちの娘としてこれまで過ごしてきたかぐやAと、正体不明のかぐやBがいるってことかな」

「だから、悲しむ必要は無いってこと?」

「まぁそうじゃない? AとBが仮に同一存在でも思い出が違うならそれは別人なんだけど、そこら辺を理解してない辺り人の心が無いっていうか、まぁ人じゃないんだろうけど……」

「そもそもかぐやBって何って話だし」

 

 私と楓は静かにため息を吐く。月人の考えていることはイマイチ分からない。同一存在って何よ。私たちの知らない存在の話をされても困る。そこまで考えて気付いた。もしかして、私たちの知っている存在なのかな。私たちが知っていると、月人は気付いていた。だから、あんな言葉を残した。

 

「俺たちの身近にいて、月から来た、お姫様……月を見て、八千年、いやまさか、でももしそうなら……!」

 

 楓は顔を青くしながら走り出す。そしてスマコンを装着して戻って来た。

 

「解析AI、統括管理AIの構成プログラムと月人の構成プログラムの一致率を出せ!」

 

 数秒経って、結果が彼の口から零れ落ちた。

 

「85パーセント……?」

 

 その数字は、何よりの答えだった。

 

「ヤチヨがかぐや、ってこと?」

「詳細はもっと探る必要があるかもしれないけど、恐らくはそういうことになるかな。もしヤチヨの言っていることが全部正しいのだとすれば、ヤチヨは八千年前にタイムスリップしてしまったかぐやの姿ってことになる」

「そっか、だからか……」

 

 私は作曲している時に気付いた違和感にもつじつまが合う。

 

「ヤチヨのデビュー曲、知ってるでしょ?」

「当然。『Remember』だよね?」

「そう。で、そのメロディーと私がお父さんと作った曲のメロディーが同じだった。最初は盗作しちゃったのかとも思ったけど……」

「それだとおかしいよね。彩葉さんとお父さんの曲はパソコン内に保存されてて、外部に公開してない。そして、ヤチヨより先に作られていた」

「そう。だから偶然だと思ってたんだけど……今、全部が繋がった気がする。なんであんなにもあの歌に心が惹かれたのか。なんでやめた音楽をもう一回好きになったのか。なんであんなにも、未来を知っているみたいだったのか」

 

 あの歌詞も全部、全部、意味が繋がって来る。これまでのヤチヨの曲の歌詞も全部、意味が変わって聞こえる。

 

 憧れた物語を歩こうとしたんだ。躓きながら、上手く行かないと思いながら。大人になっていく自分の姿に色んな感情を抱えながら。最初に聞いたあの曲にたどり着くために。Remember、思い出して。思い出してほしかったのは、私たちがかぐやのことについてをなのか、それとも自分自身へのメッセージなのか。八千年の月日の中で摩耗していく記憶を何とか思い出したかったから。そして歩んできたんだ。私と見たあの景色を何億回も思い出しながら。

 

 『午前零時の魔法使い』について、ヤチヨは零れた想い、辛くなるだけと言っていた。つまり、あれに込められているのがヤチヨの本心。ガラスの仮面を被っていたんだ。笑顔以外を見せないように。遠い日の思い出を、私しか知らない。彼女はそう言っていた。呑み込んだ言葉が何なのか。それも今になれば分かる。

 

 ヤチヨの頼れる魔法使いは、叶えてくれない夢があった。それは本当の名前を呼ぶ声。ヤチヨはずっと思っていたんだ。楓と毎日のように顔を合わせている中で、何度も何度も何度も、きっと言いたかったのだろう。私はあなたの娘だよと。

 

「俺は、ずっと気付かなかったのか。ヤチヨが……あの子なことに。ずっと、ずっとそばにいたのに。毎日のように顔を合わせていたのに。俺はとんだ大馬鹿野郎だよ。命を賭けて守りたかった娘がずっとすぐそばにいたのに、気付かなかったなんて」

「ヤチヨに、あの子に会わないと」

「そうだね。ただ、どうも現在ツクヨミにいないみたいなんだ。定期的なバックアップはまだのはずだし……どこかにいるんだと思う」

「何処にいるのか、分かる?」

「何とかするよ」

 

 楓の目にはもう一度光が戻っている。その目は、何年もツクヨミを守り続けていた守護神そのものだった。どこにいるのかは分からないけど、もう少しだけ待っていてね。ちゃんと迎えに行くから。これまで気付かなくてごめんなさい。でも、それでも、あなたのコトをちゃんと愛している。その想いは変わらない。例え、それが八千年の時を経たとしても、大事な私の娘なのだから。

 

 

 

 

 

 楓がFUSHIを見つけ出し、彼(?)から聞き出した情報を基に、とあるマンションを訪れた。導かれるままにツクヨミに入る。入った後の部屋は、初めて見る場所。無数の灯篭が風に揺れた。楓曰く、ここはツクヨミでミラーボールの月に次いで高い場所。サーバールームということになっている場所だそうだ。楓の管轄じゃないので、初めて来たらしい。

 

「二人とも、ようこそ――」

 

 何かを言おうとしたヤチヨをさえぎって、私は抱き着いた。もし、あの二番目の曲が彼女の想いを込めたメッセージなのだとしたら、きっとこれが彼女の、ヤチヨ(かぐや)の望みなのだろうから。

 

「かぐや!」

 

 楓が大きな声で涙交じりに言って、私の後に続いた。私と楓にもみくちゃにされて、ヤチヨ(かぐや)は挟まれたまま目を丸くしていた。

 

「私、は……私は二人の愛してくれた、かぐやじゃないよ。八千年経って、時間が過ぎ去って……キラキラのかぐや姫は、もうおばあちゃんなんだから」

「バカだなぁ」

「楓……?」

「どんなに年を取ったって、どんな姿になったって、俺たちの大事な娘だってことに変わりはない! 名前なんて関係ない。何年経ったって、俺と彩葉さんの娘だ。彩葉さんが電柱から拾い上げて、俺が一緒に育てるって決めてからずっと、今日までずっと! そうでしょ!?」

「そうだよ」

 

 私は、楓の言葉に頷きながら言葉を続けた。

 

「どんな道のりを歩いたとしても、どんなに年上になっていたとしても、あなたは私の娘。私たちの娘。我が家の一番のお姫様。素敵な子に、育ったね。色んな人に優しさと笑顔を与えられる子に、なってくれたんだね」

 

 私がそれを一番よく知っている。私の心を何度も助けてくれた。きっとヤチヨがいなければ、私は生きていなかっただろう。そして、楓と出会うことも、私たちの物語を始めることも無かっただろう。お父さんがいなくなってからの私の幸せな部分は、ヤチヨが作ってくれた。私たちはかぐやという名前に、いろんな思いを込めた。その願った通りの素敵な子に育ってくれたのだ。

 

 全然気付けなかった鈍感な親かもしれないけれど、今するべきなのはその頑張りと成長を褒める事。そして、それを目いっぱい伝えながら抱きしめることだ。

 

「名前、呼んでくれるの?」

「そんなの、何度だって呼んであげるよ。私の、可愛いかぐや」

 

 私たちに抱きしめられているヤチヨ(かぐや)の目からは大きな涙が零れ落ちている。その頭を撫でた。もしかしたら、この子はずっと泣きたかったのかもしれない。でも抑えていたんだ。みんなの歌姫だから、月見ヤチヨだから。そうやって自分に言い聞かせて、堪えて。

 

 それでも、今だけはそんな我慢をする必要は無いんだ。だって、私たちはこの子の両親なのだから。血は繋がっていなくても、過ごした時間は数ヶ月でも、それでも私たちは世界の誰よりもこの愛しいかぐや姫を愛している。電柱から生まれた幼い姿でも、八千年を経た歌姫の姿でも。見た目が変わって、性格が変わって、それでも魂だけは変わらない。

 

「お帰り、かぐや」 

「俺たちの世界一の娘」

「――ただいま、パパ、ママ」

 

 その震える声が、ヤチヨ(かぐや)の感情を何よりも端的に示していた。服の袖で、彼女は落ちる涙を拭う。そこから、彼女の物語を聞いた。月に帰還したけど何とかしてもう一回戻って来たくて、何度も交渉したそうだ。過去は変えられないけど、未来は変えられる。それがハッピーエンドであると信じて。かぐやが月に居続ける限り、楓が殴り込みに来るかもしれないぞ。そういう脅しを受けた月人はかぐや曰く「メッチャビビりながら」引継ぎを許可したらしい。

 

 そうして地球に向かおうとした。ただ、その時にはもう私も楓も年老いた老人になっていたそうだ。子供も孫もいて、そんな中に行くわけにはいかないと思ったかぐやは過去に戻ろうとした。具体的には、彼女は月に帰った翌日に。でも隕石にあたってしまい、故障した機械は八千年前の時間に彼女を連れていった。

 

 かぐやはウミウシを通してだけ、世界と関われた。時間が経ち、見えないものが形となり、電子の世界が生まれた。月の世界とよく似たそこで、かぐやは初めて電子の世界でなら自分の魂が人と関われる可能性を掴む。

 

 インターネットの中で生き続け、世界に衝撃を与えた歌を聞き、電子の歌姫を目指す。その過程で、楓の存在にたどり着いた。楓がツクヨミに関わっているのは知っていたかぐやは、なんとかして探し出す。その過程で、自分がヤチヨになるんだと気付いたらしい。そして楓をリクルートし、基幹部分だけ出来ていたツクヨミを作成していった。その先に、私に出会えると信じて。

 

 これまでしてきた恋愛相談は全部実の娘にしていたのだということになる。それは何とも言えない気分だった。私たちが結ばれて、それを温かくも苦しく見守って、そしてその日が来て、運命は巡りだす。

 

「触れたらあったかいかなって、いつも思うんだ」

 

 私の手に触れながら、ヤチヨ(かぐや)は言う。

 

「一番最初に抱きしめてくれたのと同じように、あったかいかなって」

 

 その顔を見て、私は決意する。娘が悲しそうな顔をしているのなら、そしてその悲しみが、私たちの全力で消すことのできるものに起因するのだとしたら。やるべきことはたった一つだけだ。私一人だったら膨大な時間がかかるかもしれない。けれど、私には頼れる愛すべき彼がいる。月すら脅威に感じる、地球で一番の魔法使いが。

 

「分かった。それがかぐやの願いなら、俺が叶えるよ」

「俺が、じゃないでしょ」

 

 いつかやったようなやり取り。前回は失敗した。でも、かぐやに言ったみたいに、未来はまだ分からない。お話は変えられないけど、未来は変えられる。お話は未来から過去を覗くけど、私たちの人生は現在から常に未来に向かって視線を向けているのだから。まだ確定していないことなら、やりようはある。足掻ける余地がある。

 

 そうやって足掻いた末にたどり着くのが、私たちなりのハッピーエンド。歩き続け、迷いながらでも進み続ける。そうやって未来を変えていくのが、ハッピーエンドなんだ。だから、失敗した前回の痛みを噛み締めつつ、未来に歩んでいく。

 

 まだこのお話は終わっていない。私たちが、愛する娘と過ごすためのこのお話は、まだ全くもって終わってなどいないのだから。この子に、温かさをもう一度。美味しさを、もう一度。娘が心の底から願うことなら、親にはなんだって出来る。

 

「また、お花見に行こうよ。今度は三人で、絶対に。楓は中身をお願い。私は、外側を作る。出来るよね?」

「当然。AI軍団も健在だし、この辺をまとめて利用すればいいからね」

「技術自体は既存のものを使いたいけど……でも最先端が日本にあるのかな」

「留学する?」

「そっか、アメリカに行けば年齢も関係ない。今すぐにでも、始められる……!」

 

 私たちの決意は固まった。未来を諦めない。どんなに長い道のりになろうとも、絶対に。後はそう、やろうと思えばかぐやの奪還も出来るかも。なにせ、タイムトラベルが出来るくらいの超技術を持っているのが月だ。世界線の分岐とか、その辺の辻褄合わせとか、出来るんじゃないだろうか。というかやれ。

 

「大丈夫だよ、かぐや。あなたの夢は、私たちが叶えるから。ママとパパに任せて。あなたに貰った分の幸せ、きっと返してみせるから。だけどその前に……八千年の間にあったこと、全部聞かせて」

「ええ?」

「私も楓も寝ないから。いいよね!?」

「もちろん」

「ということで、両親への報告会です。これまであったことを発表してください。夏休みの絵日記拡大版みたいな感じで」

「……うん」

 

 頷いたヤチヨ(かぐや)のその顔は、随分と子供っぽかった。




午前零時の魔法使い Full.ver
作詩・作曲・編曲:月見ヤチヨ
演出・MV作成:アメツキカエデ

十二時の鐘は鳴ったのに 私の服は消えない
宙には丸い月 煌く星空
銀色の杖を振って 私の手を引いた
ガラスの仮面を脱ぎ捨てて 私は走り出したい

あなたの真似をして 私も杖を振ったけど
飛び出してきたのは 小さなウミウシだけ
遠い日の思い出は 私だけしか知らないから
呑み込んだ言葉が いつだって心を締め付ける

あぁ あなたはきっと魔法使い 人の夢ばかり叶えてる
あなたの夢を聞いたのに 私が輝くことだって
けれどあなたも一つだけ 叶えてくれない夢がある
いつか いつか 聞かせて

私の本当の名前 呼ぶ声を



十二時の月が昇って 私はただ見上げる
宙にはポラリス 孤独な道標
カボチャの馬車をくれて 私の道を作った
ガラスの仮面に隠していたけど もうすぐ壊れそう

あなたのようになりたくて 私は今日も走るけど
どこまで行っても 背中は遠いまま
あの日の笑顔だけ 抱えたままに生きている
伸ばした手は いつだって空を切る

あぁ あなたはきっと魔法使い みんなの願いを叶えてる
なのにどうして 私の夢には気付かないの
叶わないって知っているけど どうかこの夢を叶えて
いつか いつか 抱きしめて

私の本当の名前 囁きながら


星が巡って 月が昇って 隣りに立って
それだけでも幸せ それだけでも喜び
あの日伸ばしてくれた手を 掴みたかった


――以下、後日追加部分――

あぁ あなたはやっぱり魔法使い 私の夢を叶えてくれた
八千年の月日 この日だけを夢見てた
星に願ったこの想い 叶うこともあるんだね
やっと やっと 聞かせてくれた

私の本当の名前 叫ぶように

あなたは私の――
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