「じゃあ、作戦を決行するけど、準備は大丈夫?」
「いつでもどうぞ」
「了解。事前の打ち合わせ通り、ヤチヨには地球で回路の形成をキープしてもらう。問題無さそう?」
『うけたまかしこまつかまつり!』
「よーし、嫦娥システム、起動!」
月の世界への回路を形成する方法は、前に月人がやって来た時の逆バージョンということらしい。万が一の時のため、ツクヨミは大規模アップデートという名目で今日は閉鎖されている。全リソースをぶち込んで、嫦娥計画が開始された。別名、かぐや奪還作戦。21世紀の竹取物語は、かぐや姫を奪われたおじいさんとおばあさんが月に奪還しに行く。そんな荒唐無稽で、バッドエンドをぶち壊す、ドタバタなSFなんだ。
参加メンバーは私と楓とヤチヨ。ヤチヨは地球に残って、万が一の際に帰還できるよう回廊の維持に協力してくれる。それでもどれくらいの間戦闘できるかは分からない。地球と月では時間の流れが大きく違うし、地上から月が観測できないといけないそうだ。なので、短期決戦になる。
作戦は単純。主戦力の楓は陽動を行い、月の意識を引き付ける。この前の戦いの結果は当然彼らも把握しているだろうから、楓は最優先排除対象のはずだ。その隙に、私がかぐやを奪還する。そして月人に交渉を吹っ掛け、揃って帰還。そういう流れだった。無鉄砲かもしれないけど、何もしないで終わりたくない。未来を取り戻すんだ。私たちの、幸福な将来を。
『二人とも……絶対、帰って来てね』
「任せといて」
「そっちはよろしく!」
少し震えているヤチヨの手を握る。いつかその手に温かさを取り戻してあげる。それもまた、私たち夫婦の目標だ。かぐやを取り戻し、ヤチヨにも肉体を。どっちもやらないといけないのが親の大変なところだ。でも、希望に向かって進んでいる時っていうのは不思議と楽しさもある。
「行くよ、彩葉さん」
「行こう、あの月へ!」
地上では夕焼けが世界を包む。東の空から細い月が浮かんできただろう。私たちは手をつないだまま、目を瞑る。そして、システムが起動した。
何とも言えない不思議な感覚が身を包む。温かいような、冷たいような、そんな空間。光の奔流みたいなものが見える。その周囲をピカピカと何かが点滅している。どこかの映画で見たワープ空間みたいな場所を私たちは上昇し続けていた。
私たちの精神は今、肉体を離れている。いわば、疑似的な仮死状態、幽体離脱みたいなものなのだろう。精神が返ってこれないと肉体も死んでしまう。危険性はあったけれど、やらないという選択肢はなかった。ここ数週間、楓とヤチヨが必死に作り上げた方舟で、私たちは宙へ昇る。
明滅する視界、音は不定形だ。匂いもしないし、風もない。ただ、握った楓の手の温かさだけが存在していた。それがあるだけで、他の全部が上手く機能していなくても安心できた。心が落ち着く場所。ここにいて良いんだと思える場所。それをくれたのが誰だったのか、私はよく知っている。そういえば、付き合い始めて最初にしたのもこうして手を繋ぐことだっけ。夜の、あの狭い部屋の中で、私たちは手を繋いだまま何時間も座っていたんだ。あの頃は、あれが全部だった。あれで精一杯で、それでいてとても幸せだった。
いつしか時は経って、私は色んな幸せを知ったけれど、それは決してかつての幸せが色あせたり価値が無くなったりしたことを示さない。私の中では、変わらずに大事な思い出だ。こんな時に思い出して、不安が薄れるくらいには。
「彩葉さん」
「……ん、んん」
気付いたら意識が飛んでいたらしい。目を開けると、心配そうにのぞき込む楓の顔があった。私は彼の膝に頭を預けている。
「良かった。大丈夫?」
「なんとか……。ここは、着いたの?」
「ほら、見てごらん」
抱き起されて、彼の指がさす方を見る。そこには、黒い宙の闇の中で青く輝く星があった。地球は青かった。かつてガガーリンはそう言った。彼の気持ちが、今本当の意味で理解できる。こんなにも綺麗なのか、地球という星は。あの青い海の上で、白い雲の下で、緑の大地と共に多くの人間が生きている。日々の人生に追われながら、それでも何かを追い求めて。
かぐやは毎日これを見ていたんだ。かぐや姫の罪は、地球に憧れたことなのかもしれない。青い宝石のような星、私たちの故郷。そこに手を伸ばし、そして愛娘は私たちのところへ訪れた。広い宇宙の中で、広い地球の中で、私たちの家へと。それを運命を呼ばずに何と呼べようか。
反対に、月の中はモノクロだった。電子の世界らしく、まるで解像度の高いドット絵みたい。古いブラウン管のテレビはこんな感じだったような気がする。昔、どこかの資料館で見た。確かに、ここはつまらなそうだ。目の前にあの宝石みたいな地球があると余計にそう思えてしまう。やっぱり、あの子にはここは合ってない。もっとわちゃわちゃしてて、混沌としていて、それでも面白い物が溢れているあの地球こそ、私たちの娘には相応しい。
「戦えそう?」
「問題ないよ」
「よし、ここにかぐやの位置情報がある。ヤチヨと同一存在だから、辿るのは容易で助かった。これを追って、彩葉さんは奪還を。俺は、アレを相手する」
前にツクヨミで見たような月人が大挙して押し寄せている。それはまぁ当然だ。なにせ向こうからすれば、私たちはどう考えても侵入者なのだから。
「なんか凄い数だけど、勝てそう?」
「全然余裕」
「さっすが、私の楓。頑張ってね」
そう言って、私は彼の唇を奪った。一瞬目を丸くしていたけど、彼はそれを受け入れて、私を抱きしめる。感触はないけれど、確かに彼の心臓の鼓動を感じた気がした。これで元気も勇気もチャージされた。フルパワーで行動できる。
「さて、行きますか!」
まるで魔法使いのように、楓は空中に浮きあがる。電子の世界だからこそ、ツクヨミのようにプログラムで大抵のことはできるらしい。彼の目が青く光る。脳内転写システムが起動した証拠だ。ちゃんと地球と回路は繋がっている。そして彼は一人でここに来たわけじゃない。先の月人撃退戦で大活躍したAI軍団は今日も健在だ。
魔法使いの杖のように銀の刀を振ると、世界が色づいていく。端から一気に、モノクロだった世界に色がつく。赤、橙、黄、緑、水、青、紫……静かだった月の世界が、一気に七色に華やいだ。そうして世界を色に染めながら、彼は進んでいく。光るように煌いて、誰よりも燦然と。
作戦通り、月人は焦りと動揺を隠しきれない様子を見せながらも楓の排除に必死だった。その姿を見送り、私も駆け出す。位置情報に従い、真っ直ぐ進む。時折現れる敵を排除しながら、私は突き進む。何も怖くなかった。何も私を止められなかった。一回目は守れなかった。あの時の絶望も後悔も苦しみも、何一つ消えてはいない。消えていないからこそ、私は強くなれる。もう絶対に失わないと、このチャンスを逃しはしないと決めているから。
あんなバイバイで終わる結末なんてちっとも望んでいない。運命だからなんだっていうんだ。それで頷けるほど素直な人間なら、母のところを飛び出していない。
「この一瞬を最高のパーティーにしよう」
私の口から歌が零れる。この声を届けたい。この歌を聞いて欲しい。あの子に、かぐやに、私の大好きな娘に。並みいる敵を蹴散らして、私は位置情報の示す場所に来る。そしてバーンと勢いよくその扉らしき何かを破壊した。
そこにはかぐやがいた。モノクロの世界ではあるけど、それでもかぐやだとハッキリわかる。十二単みたいな着物を着て、座って何か必死に仕事をしていた。外の喧騒は聞こえていないらしい。
「かぐや」
「…………え」
私がかけた声に、こっちを向いたかぐやの目が大きく見開かれる。そして、部屋の中が一気にカラーに染まっていく。まるで幽霊を見ているみたいだ。何回も目を擦っている。月の世界でも目を擦って意味があるのかは分からないけど。たった数週間の別れなのに、まるで数十年離れていたみたいな感情が私の胸の中にこみあげてくる。
「迎えに来たよ」
「マ、ママ……? 幻覚、幽霊?」
「全然ちがーう。ちゃんと生きてるし、ちゃんと実在してる。外で楓が戦ってるから、その隙に脱出するよ。ほら、つかまって」
「え、で、でも、帰ってもまた……。だからかぐや、仕事必死に終わらせようと思って」
「そこもまるっとどうにかする、楓が! 大丈夫、そこがゼロとイチで構成された世界なら、あの人に出来ない事なんてないから! ほら、行くよ! 帰ろうよ、私たちの家に。あの世界に、青い星に!」
「うんっ……! ママ、ありがとう!」
「どう、いたしまして!」
着物をばさりと脱ぎ捨てたかぐやをお姫様抱っこで抱きかかえる。なんだか随分と軽かった。最初に七色に光るあの場所から抱き上げた時と同じだ。あの時もこうして、落とさないように心配になりながら、早く何とかしたくて駆け出した。
かぐやの目からは涙が零れている。なんなら鼻水も。それは汚いから拭おうね。薄くなった着物の袖で顔を覆いながら、それでも漏れ聞こえる嗚咽がかぐやの想いを示している。
あの時私は星に願った。幸せな家庭とお金をくださいと。後者はともかく、前者はあなたがいないと叶わない。だから、取り戻しに来たんだよ。かぐやと
和風の屋敷の欄干で囲まれた廊下のような場所を疾走する。そして最初に楓と別れた場所まで戻ってこれた。戦いがどうなったのかは分からない。押し負けていないだろうとは思っているけど、ここは敵の本拠地だ。何があるかは分からない。息を切らしながらも向かったそこは、モノクロだったのがウソみたいに月の世界は色づいていて、その中央に堂々と楓が立っている。
「あ、お帰り」
コンビニから帰ってきた私を出迎えるみたいなテンションで楓が言う。
「月の基幹システム奪取したよ~」
アイス買って来たよ、と言わんばかりの口調でとんでもない事を言っている。私の腕の中で泣いていたかぐやは楓の姿を視認して、そしてまた泣いている。それを見た楓は静かに駆け寄ってきた。かぐやが私の腕の中から立ち上がり、楓に抱き着く。
「パパ~~!!」
「良かった、また会えて……よかったッ!」
我慢していたものを全部外に出すように、楓も涙を流している。親子の再開、とっても感動的な場面かもしれない。死屍累々転がる月の面子がいなければ、であるけれど。私たちが一通り再開の涙を流した後、楓は必死に白い旗を振っている月人の代表らしき存在に話しかけた。
「と、いうことで娘を返してもらいに来ました。元々そっちの姫なのは百も承知だけど、たった一人いなくなっただけでダメになるシステムを組んでいる時点で失敗だと思います。そこら辺の調整の協力はするけど、その代わりにこの子は貰います。俺たちの大事な、娘なので。というか、こんなのかぐやがいなくてもちょちょいのちょいでどうにか出来るでしょ」
『イヤ、ソレハ、アナタガ、オカシイダケ……』
「なんか言った?」
必死に首を横に振っている。電子生命体が基幹システムを抑えられているというのはつまり、生殺与奪の権を相手に握られているってコトなんだろう。さながら、心臓を握られてる感覚なのかな。よく分からないけど、ともかく現状は地球側が圧倒的に有利だった。
『シカシ、姫ガカエルト、地球ノ……』
「そこはほら、どうにかしてよ」
『ソンナコト、イワレテモ』
「タイムマシンに宇宙船にと作れるんだ、かぐやがこのまま地球に帰ってきても
『リ、リソースガ』
「あぁ、それならこの前の舟で使ったやつでしょう? そこの補填は地球側で担当します。あと先延ばしもやめてくださいね。こっちの時間で早急に対応を。イエスかハイ以外の返事を聞きたくないんですけど……どうでしょうか?」
『…………ハイ』
がっくりと、という言葉がこれほど似合う様相はないくらいにがっくりと肩を落として、月人は事実上の降伏宣言を行った。かくして、かぐや奪還戦争は地球側に有利な交渉で終了する。月の世界を七色に染めるという成果を付随させながら。
碧月条約とも言うべき約条が結ばれて、この戦いは終わる。かぐやは流石に今すぐとはいかないにしても、次の満月までには帰還するという約束になった。その間、ヤチヨと楓は受け入れの準備をするらしい。かぐやが抜けた分の月側の補填作業がメインになるそうだ。
「パパ、ママ……ありがとう! 絶対、そっちに戻るから!」
手を振るかぐやと一時の別れをして、私たちは地球に帰還した。時刻は既に朝が近付いていて、結構タイムリミットが近かったらしい。あと少し遅れていたら帰れなかったそうだ。危ない危ない。でも、結果としては最上だと思う。待っていた
後やることは一つだけ。この子に温かさや美味しさを取り戻すこと。私たちのハッピーエンドを目指す、最後の戦いが始まった。
2035年、日本。アメリカ留学から帰って、遂にこの時が来た。月の全面協力のもと、私たちの一大プロジェクトが実を結ぼうとしている。
「ツクヨミ側からは俺が送り出す。魂の受け手の準備はよろしい?」
「OK、こっちのシステムと受け入れる筐体は全部問題なし。電力正常、いつでもどうぞ」
「了解した」
電子生命体を受肉させるには、内側と外側からのアプローチが必要になる。楓が導き出した結論はこうだった。私が完成させた肉体。そして楓が月と共同で解明した魂の仕組み。これらを組み合わせて、今日の実験が行われる。
「システム・アスクレピオス起動。メインフレームとの接続よし、サブフレーム異常なし。ボディとの回線固定。記憶領域システム異常なし。人工脳髄異常なし。神経システム異常なし。筐体へのデータ転送、開始!」
ヤチヨをどう扱うのか。それは難しい問題だった。ヤチヨは当然かぐやの八千年を経た姿だ。名前も変わっているけれど、それはかぐやで無いということを意味しない。でも、かぐやはかぐやで別にいる。八千年を経過しなかった、月より戻ってきたかぐやが、生身の存在として。
「データ移送率、50パーセント経過中」
私は碧月条約に際して一つだけ条件を付けた。それは戻って来るかぐやの身体を人間と同じにすること。老いも病も死もある。でも、それを得るということはかぐやが真の意味で人間になるということだと思うから。それこそが、この子にとって大事な事だと思ったから。
そうして、かぐやは今普通の人間とほぼ変わらないまま地球に存在している。世界線が分岐しているのか、詳しい理屈は不明だけど月人の超テクノロジーはヤチヨとかぐやの両存を可能にした。楓は詳しい理論を理解しているのかもしれないけど、聞いても多分分からないから聞かないことにした。まぁ、元々七色の電柱という摩訶不思議テクノロジーなんだ。これくらいご都合でも万歳って感じだろう。
「データ移送率、79パーセントを経過した」
ともあれ、ヤチヨ本人の希望で彼女は月見ヤチヨとして生きることになった。もちろんかぐやだということは本人も私たちも理解している。でも、同じ名前のお姉ちゃんが二人いると混乱しちゃうって部分もあるようだ。月見ヤチヨ、本名酒寄ヤチヨとして今は生きている。ことになっている。
そこら辺も楓がどうにかしてくれた。流石防衛省と繋がりがある旦那様だ。今はヤチヨの意識を筐体に移動させようとしている。これが上手くいけば、ヤチヨは八千年ぶりに味や温かさを感じられるようになる。ここまで長かった。手に汗がにじむ。上手く行ってくれ、頼む。そんな祈りにも似た願いを抱く。
「データ移送率、85パーセント」
この数年、色んなことがあった。私は高校卒業後、楓と一緒にアメリカに留学した。マサチューセッツ工科大学は門戸を開いてくれた。そこで著名な研究者や有名な企業と頑張って技術協力を結んできた。大半は楓のおかげで門前払いされずに済んでいる。私一人だったら追い払われていただろう。シリコンバレーの億万長者がすぐ後の予定をキャンセルして迎え入れたのには目を剥いた。
中でも月へのロケット開発をしている企業の経営者は「面白い!」と凄い額の援助をくれた。お兄ちゃんもかなりの額を援助してくれている。母も法律面で色々と協力してくれた。アメリカへの見返りは決して小さくなかったけど、それでも娘のためなら何でもできる。
「データ移送率、98パーセント、99パーセント……100パーセント! こっちからの転送は完了した。そっちは!?」
「受け取り完了。全システム異常なし」
私は少し震える手で、ヤチヨの目を開いた。楓もスマコンを外して駆け寄っている。
「見える? 大丈夫?」
「ヤ、ヤオヨロ~」
「第一声、それなの? まぁ、らしいと言えばらしいかな」
にへら、という笑顔でヤチヨが笑う。
「疑似心拍正常。疑似血管に異常なし。視覚、聴覚、嗅覚、触覚に異常なし。関節の動き正常。こちらのデバイスでは異常は確認できない」
「適合率、100パーセント。実験は成、功……!」
楓がへなへなと座り込んでいる。実験を遠くで見守っていた影が幾つも近付いてきた。
「おねーちゃん?」
「そうだよ~、ヤチヨお姉ちゃんだよ」
「やぁやぁ、
かぐやに手を引かれているのが留学中に生まれた私と楓の娘が酒寄彩月。今年で三歳になる、小さくて可愛い娘だ。かぐやとヤチヨの妹にあたる。ちなみに、かぐやとヤチヨはどっちが長女になるのかで大揉めしたらしい。最終的にヤチヨの方がお姉ちゃんということになっている。じゃんけんの末に。
「あい、あい……」
そして、かぐやに背負われているのが酒寄
「あったかい、あったかいなぁ……」
呟くように言うヤチヨを、私たち二人で抱きしめる。温かいぬくもりがした。魂の温かさって、きっとこんな感じなんだろう。これからは何度だって出来る。何百回だって出来る。
「お帰り――ヤチヨ」
「お帰り、俺たちの大事な娘」
「――うん!」
「ねーね、痛い痛いなの?」
「ううん、嬉しくって泣いてるんだよ」
「?」
「ヤチヨはねぇ、凄い長いお話の最後にハッピーエンドを掴み取ったの」
かぐやは彩月に語り聞かせている。楓月も今日はご機嫌。もしかしたら、このハッピーな空気感を感じ取っているのかもしれない。
「わ、わわ、動いてる」
「あぁ、この子も喜んでるのかな。お姉ちゃんに触ってもらえて」
抱きしめたから私のお腹にヤチヨが触れた。動いている赤ちゃんを感じたのだ。まだ性別は分からないけど、我が家の五人目の子供ということになる。楓は一体私に何人産ませるつもりなのだろう。まぁ、何人だろうとちゃんと愛情を注いで育てていくだけだ。どんな子でも、私たちの自慢の娘なのだから。それになにより、ウチには素敵なお姉ちゃんが二人もいるのだし。
「やっと、ここまで来れたんだね――!」
赤ちゃんの胎動に、ヤチヨは大粒の涙を流す。八千年の月日の末に、新しい命の息吹に触れさせてあげられた。親として、出来る限りの最大限を叶えられただろうか。だとしたら、これ以上のことはない。
かぐやがヤチヨの手を取る。目を合わせて、そして私と楓を見据えながら口を開いた。
「パパ」
「ママ」
「「ありがとう、大好き!」」
これは、どこにでもある家族の物語。苦学生だった女子高生は、ある時隣に越してきた優しい青年に恋した。そして想いを伝えて、イチャイチャして、時には壁を乗り越えて、イチャイチャして、喧嘩したりもして、でもイチャイチャして……娘を授かった。その娘はちょっと普通じゃなかったけど、でも愛して育てて、沢山の幸せを得て、悲しいこともあったけど、妨げるものは全部ぶっ飛ばした。
そして、増えた家族とともに、これからも続いていく物語を過ごす。その中には楽しいこともそうじゃないことも沢山あるけど、それでもそれが人間なんだから。暗い輪廻はもう終わった。不死鳥の翼はもがれたけれど、それでいい。不死の薬などなくとも、人は幸せに生きていくのだから。
限りある生を、精一杯。愛と希望に彩られたそんな生を、一生懸命に。これは、そんな人間たちが
めでたし、めでたし――――
23歳最初の投稿となるこの話でこの√は終わりです。なんか本編と大差ない長さになってしまいましたが、楽しんでいただけたでしょうか? 気が向いたらこの家族の様子を書く……かもしれません。
あと、楓のイメージ画像を作成したのが発見されたのですが、需要はあるのだろうか。