超かぐや姫! ~ツクヨミの守り人~   作:tanuu

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9 職場見学……みたいな

「なんなのよ……旨いじゃないのよ……なんなのよ、久しぶりの美味しいご飯で喜びが身体に満ちていくじゃないのよ……」

 

 あぁ、これは重症だなぁと誰がどう見たってそう思うだろう声と言葉が漏れている。ちょっと手伝いはしたけど、ほとんどかぐやちゃんが一人で作っていた料理。酒寄さんが喜んでいるのは間違いない。なんか、色んな感情が混じっている気もするけど。

 

 確かに、かなり美味しい。その辺のスーパーで買ったトウモロコシなのに、こんないい感じに調理できるんだ。これ、もっといい食材を渡したらもっと凄いものが出てくるのかな。高級素材をぶち込んで高級な物を作る。なんか、モノづくりゲームみたいだった。

 

「ハンバーグ、もっと食べる?」

「いいの!?」

「どうぞどうぞ」

 

 ハンバーグを二対一のサイズで切り分ける。二の方を食べようと思っていたら、かぐやちゃんはフォークを二の方にぶっ刺して持って行った。俺の皿には三分の一になったハンバーグがちょこねんと存在している。

 

「うーん! 美味しい!」

 

 自分で作って上手く調理できた喜びと純粋に美味しい喜び。その両方を全身を使って示している姿を見て、何も言う気が無くなった。幸せならOKですってやつだ。ちょっと違うかな? この光景を見て、酒寄さんが頭を抱えていた。

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

 お腹が膨れた酒寄さんが寝転がっている。もうなんか、冷静さとか無くなってるんじゃないかな。溶けちゃったのかもしれない。心なしか、顔と肌の血色がよくなってる。かぐやちゃん中心に生活していたから、睡眠時間も伸びてご飯もある程度食べて、健康体に近付いているんだろう。今までが酷すぎただけかもしれないけど。

 

「あ、そうだ! さっき作ったの出来たよ!」

「あぁ、あれ出来たんだ」

「うん。これ、『犬DOGE』」

 

 柴犬みたいなキャラクターがたまご型のゲーム機の中にいる。筋が良いとは思ってたけど、もう完成させたんだ。しかも、結構デザイン含めてセンスが良い。倫理観だけ身に着けたら、すぐに俺の後任が出来そう。

 

「見てみて彩葉~。楓に教えてもらった~」

「わーすごーい」

 

 酒寄さんはかなり棒読みだ。

 

「これでいつも一緒だって~! ふっふぅ~~♪」

「ご機嫌ですね……。てか、一生住む気満々かよ」

「もし捕まったらかぐやちゃん解剖されちゃうかも~」

「まぁ、ホントに追い出されちゃったら俺の家に住めばいいから。女の子だから、酒寄さんの家の方が良いとは思うけどね」

「それもいいなぁ~。楓の家、色々面白そうなのあるし!」

 

 面白そうなのって言うのは多分、電子機器のことだと思う。

 

「地球にいないで、月に帰ればいいでしょうが。頑張って帰り方思い出しなよ」

「がんばってるけどむずかしい~~ぐぬぬ」

 

 かぐやちゃんが頑張ってるのは、どう見てもミニゲームに対して。俺は苦笑しながら、しばらくはこのままにしておくしかないんじゃない? という意思を込めて酒寄さんに視線を送る。酒寄さんは小さくため息を吐いてから立ち上がる。

 

「じゃあ、迎えが来るまでね」

「いいの!?」

「私が拾ったんだし、高野が良いって言ってもそれに甘え続けるのは私が私を許せない。だから、帰り方分かるまでならいてもいい」

「やったぁ!」

「一、目立たない! 二、私たちの許可なく外に出ない! 三、私の邪魔しない! 四、勝手にお金を使わない! このルールが守れるならここにいていいよ。ほら、高野もなんか追加して」

「うーん。じゃあ、五、どこかに行ったり、何かをしたいのなら、必ず教えて」

 

 一と二はまぁ、ほどほどにしておけばいいかなと思う。ずっとここにいるのはつまらないだろう。酒寄さんは押せば何とかなる事も多いし、小さい交渉を繰り返して許可を引き出し、最後にデカいのを持っていけばいい。ドアインザフェイスってやつ。

 

「……え、じゃあ、お友達作ったりは?」

「第一項により、ない」

「……カフェについて行ったりは?」

「第二項により、ない」

「……一緒に遊んだりは?」

「第三項により、ない」

「じゃあ、じゃあ、かぐやは外にも出れず、ずっとずっとこのまま幽閉されてバットエンドって……こと?」

 

 かぐやちゃんの顔が露骨に青ざめていった。

 

「嫌ならこの話は無かったことに」

「やだやだ、意地悪はなしー! 愛が大事なんでしょ、愛! 勇気と愛!」

「だからアンパンマンじゃないの。無償の奉仕はしません! 自分でハッピーエンドにするんでしょ。この状況もハッピーに楽しみなよ」

 

 不満だ不満だとバタつくかぐやちゃんを部屋の隅に回収して、耳元で囁く。

 

「俺がいるところなら、ある程度はOKだから。それに、酒寄さんには既成事実を作ってなし崩し的に許可してもらおう」

「分かった!」

 

 かぐやちゃんはぱぁと明るい顔になる。

 

「聞こえてるんだけど~」

「ピューヒュー」

 

 かぐやちゃんは口笛を吹いて誤魔化した。俺に向けられた睨みも、視線を逸らしてスルーする。今この時、俺たちは仲間だった。引き攣った顔の酒寄さんが何かを言おうとしたタイミングで、アラーム音がする。時計を見たら、八時半だった。

 

「うげ、もう八時半? ヤバ、遅刻寸前だ。俺ちょっと戻る」

「私も行かなくちゃ」

「あぁ、ヤチヨのライブ?」

「そうそう。握手券付きの限定チケット」

「おー、あれ当たったんだ、レアだね」

「結構引きは良いんだよね、ヤチヨのチケットは。そっちは?」

「お仕事ですよ、お仕事。ヤチヨのライブで問題が起きないかを監視しつつ、全体の監督もしないとね。じゃ、戻る」

「なに? 二人ともどっか行くの?」

 

 タックルしながら酒寄さんにしがみついているかぐやちゃんを横目に、俺は自分の部屋に戻った。急いで椅子に座り、スマコンを入れる。遅刻寸前なので、早くいかないと。今日やらないといけないことはこの辺かなと脳内でリストアップして、ツクヨミにダイブした。

 

 

 

☽   ☾   ☽   ☾    ☽   ☾

 

 

「遅れました!」

『今日は随分とギリギリだったね~珍しい』

「いやちょっと、色々ありまして」

 

 ツクヨミの管理室は、このフィールドの中央上空に浮かぶ巨大なミラーボールの中にある。月を模したこのミラーボールの中枢にシステム管理用の諸々が詰め込まれていた。ある意味、このツクヨミ全体を見渡せる位置かもしれない。どこで何が起きているのかを上空から睥睨している。

 

 ここからはどこへでもワープできるけど、移動用の銀河鉄道的な乗り物も存在していた。普段はあんまり使わないけど、イベントごとの時には使用したりもする。どんなライブや配信も見られるのが、この管理室の良いところだった。まぁ、まさかの人間は俺だけのワンオペとこの前発覚したんだけど。

 

「システムコール」

 

 このコマンドを告げると、ぐわんと一気にコンソールが浮かび上がる。俺の周りを取り囲みながら、球形に多数のウインドウが光っていた。幾つもあるキーボードを使いながら、これを操作するのが俺の仕事。なお、このキーボードは仮想キーボードなので、俺の家にあるものじゃない。

 

 マジでヤバい時は両手両足で作業しないといけないけど、最近はほとんどそんなことになってはいなかった。

 

「最終管理権限者、月見ヤチヨへ全管理者権限の一時移譲を申請」

『申請許可』

「許可確認。以後、管理者業務に移行します」

 

 ヤチヨのライブの時はいつもこうして権限を貰っていた。これで万が一の際のトラブルに対応することになっている。小さいのから大きいのまで、意外と起こるものだ。ヤチヨのライブは人気なので、何かやらかそうとする不届き者の狙いになりやすい。

 

『じゃ、私は行くね~。後はよろしく』

「お任せあれ」

 

 ひょいと姿を消したヤチヨを見送った。今日はヤチヨカップの発表日。大事な日だ。これまでずっと準備していたので、しっかり発表できないと困ってしまう。

 

 そういえば、酒寄さんは入って来たのかな。多分かぐやちゃんも一緒にログインすることになるんだろう。あんまりよくはないかもだけど、と思いつつログイン関連のシステムを確認する。新しいユーザーが一名。現実世界のログイン場所は、隣の部屋の住所だ。これがかぐやちゃんだね。

 

「……あれ、珍しい」

 

 ツクヨミのチュートリアルは、夕暮れの大きな鳥居の前で行われる。そこでヤチヨに出会って「太陽が沈んで、夜がやってきます」というアナウンスと共に夜が訪れ、アバターを決めて鳥居をくぐる。それでログインだ。

 

 そのログイン業務専用の分身がいたはずなんだけど、今のかぐやちゃんのチュートリアルはヤチヨの本体が担当していた。各分身には管理者しか見れない番号があり、本体には本体にしかない番号が割り振られている。滅多にない事なので、何か思うところがあったのかもしれない。或いは、ライブの前の息抜きかな。

 

 かぐやちゃんはしっかりログイン出来ていた。朱色と若草色の和服に金髪の髪。金色の月の髪飾りをつけ、巨大な水引を背負っている。足元にはスニーカー。行動力の化身には似合ってるかも。ウサギのモチーフを使ったらしく、金色の髪の中に耳が見える。ギャルっぽい感じだった。結構似合ってる。かぐやちゃんはセンスもいいみたいだ。

 

 アバター用のスキンのデザインはヤチヨだけど、幾つかは俺が実際に使えるようにシステムを組んでいた。隣にいるのは多分酒寄さんかな。酒寄さんは狐の耳に青い服。大人びているカッコいいめのデザインだ。どっちもツクヨミは結構ヘビーユーザーだろうけど、今まで全然知らなかった。

 

 ライブが始まるまでは少しだけ時間がある。その間にちょっとだけ顔を見せることにした。ウインドウの位置を二人の前に設定して、チャンネルを繋ぐ。そうすると、管理室にいる俺が二人の前に映し出される。当然、俺の方からは二人が見えていた。

 

「ちゃんとログイン出来たみたいだね、可愛い感じ。センスあるよ。さすがだね」

「どやぁ。……誰?」

「ひどっ!」

 

 酒寄さんが凄い面白いものを見た顔で、腹抱えて笑っていた。そんなに笑わなくても良いのに。確かに、普段の感じとは違うかもしれないけども。

 

「俺だよ、俺。高野楓。君の育て手の」

「えー、全然見えない」

「そんなに……? 悲しいな」

 

 親の仕事を見学したりすると、普段の家でのイメージと凄い乖離している時がある。かぐやちゃんもそういう感じになっているんじゃないかと、ポジティブな捉え方をした。そうじゃないと悲しい。

 

「ごほん、改めまして。仮想空間ツクヨミの統括管理人補佐、アメツキカエデです。ここでの利用規約は読んだかな? まぁ大体みんな読み飛ばしちゃうんだけど、ちゃんと後で見ておいてね。ルールを守って楽しくがここでは大事だよ。守らないと……」

「守らないと……?」

「場合によってはヤチヨによる永久追放(オシオキ)です」

 

 ヤチヨとオシオキっていうワードで酒寄さんが人には見せられない顔になっていた。もう、彼女は限界かもしれない。まぁ、前からそんな感じではあるけど。

 

「『ふじゅ~』は受け取ったよね? あれで色んなことが出来るから、色々遊んでみてね。ここは結構無料で出来る事が多いから」

 

 アバターを買ったり、投げ銭に使ったり、はたまた現実の電子マネーとして使用することが出来る。一流ライバーならこの投げ銭だけで富裕層として生活できるだろう。広告報酬なんかもこのふじゅ~で支払われる。俺の給料もこれで支払われていた。

 

 電子マネーではあるけど、このツクヨミを基幹にして動いているシステムだ。だからこそ、ここが崩れるとふじゅ~は一気に使えなくなるし、ハッキングとかをされるとウォレットの数字をいとも簡単に書き換えられてしまう。それを防ぐのも、俺の大事な仕事だ。生活が懸かっている人もいるので、責任は重い。

 

「楓はここを守ってるんだよね?」

「そうそう、よく覚えてたね」

「こんなデカいとこ、守るの大変そう~」

「まぁそうだね。楽ではないけど、そんなに難しくはないから」

「……マジで?」

 

 ほへ~という顔で見ているかぐやちゃんと対照的に、酒寄さんは信じられないものを見る目で俺を見ていた。

 

「流石ツクヨミの守護神……」

「なにそれ?」

「知らないの? ユーザーの間じゃ結構有名なのに」

「あんまり他人からの評価に興味ないから。でも、評価してくれてるなら嬉しいけど」

 

 コンソールコマンドを操作して、ポンポンと物を出す。ここには食べ物もある。ふじゅ~を払って購入したら家に届くものと、無料で食べられるものがある。後者は味のしないものだけど、見た目は豪華だったり綺麗だったりする。食べた気分を味わうだけなら楽しいので、結構な人が利用していた。

 

「はい、これ」

「うわぁ~~! あむっ、むぐっ……味しなーい」

「そういうのはまだ無理なの」

 

 足をじたばたさせているかぐやちゃんを酒寄さんがなだめている。

 

「まぁ、システムだけならもうあるんだけどね」

「えっ」

「じゃあなんで実装してないの~」

「うーん、ヤチヨ曰く医療関係で色々あったんだとか。最初は五感を全部実装しようとしてたんだけどね。脳への負担がどうとか、満腹感に伴う自律神経のがどうとか、色々あったらしい。あと、スマコン側が追い付いてないってのもある。作った側としては実装したかったんだけど」

 

 こっち側がOKでも、スマコン側の技術が追い付いていなきゃどうにもならない。

 

「あ、そうだ。このチケット、同行者登録できる?」

「出来るよ、ちょっと番号見せてね」

 

 酒寄さんが差し出してきたチケットを確認した。一名まで同行者登録が出来るので、そこの追加登録をしておいた。ルール上は始まるまでなら追加OKなので、そこら辺は緩い。この電子の世界でチケットというのは、現実と同じで真ん前で見られる権利を意味している。どんな場所でも、推しを近くで感じたいってのは、人の願いなんだろうね。

 

「はい、出来た」

「ありがとう。よし、これで行ける! じゃ、私は行くから」

「行ってらっしゃい。楽しんできてね」

「え、彩葉どこ行くの? 待って、彩葉!」

「待たない! あんたが追い付いて!」

 

 娘と母親は推し活、親父は仕事。現代社会の縮図みたいになってる。親が子供にここを布教することもあるし、初ログイン時に大学生だった人が親になりました、みたいなメッセージもヤチヨのところに送られている。それだけの時間、こことヤチヨは愛されていた。

 

 酒寄さんはかぐやちゃんを先導しながら走り去っていく。かぐやちゃんは初ログインで初めてのヤチヨのライブ。あのライブは、推しているファンじゃなくても虜にしてしまう魅力がある。かぐやちゃんはラッキーかもしれない。

 

 俺は管理人室から見つつ、自分の仕事をしないといけないけど。今だって、会話しつつ手は動かしていたし、片目は二人の前に出ているのとは違う画面を見ている。スマコンが視界を支配しているので、その機能を使って右と左で全然違う画面を映し出すこともできる。初めてやると目が凄い疲れるけど、もう慣れた。

 

『キタキタキタキターー! これが無いとツクヨミの夜は始まらない。本日もヤチヨミニライブの時間だぁぁぁーー!』

 

 ヤチヨの大ファンであり個人的な友達でもあるMC担当ライバー忠犬オタ公さんがハイテンションにアナウンスを叫んだ。会場を上空から見ていると、熱気が凄まじい。それ以外の場所でもモニターに沢山映し出されていた。ミニライブの間、ツクヨミはヤチヨ一色に染まっている。っと、油断してるとすぐよくないアクセス。これは排除。

 

「5! 4! 3!」 

 

 カウントダウンが始まった。システム管理はしつつ、ライブの前に異常が無いか最終チェックをする。演出システム異常なし、音響系異常なし、通信系異常なし、映像異常なし、全システムオールグリーン。

 

「1! 0!」

『ヤオヨロー! 神々のみんな、今日も最高だった~?』

 

 会場は爆発的な歓声に包まれる。そして、ツクヨミの夜を彩る華麗なる舞台が始まった。

 

『よ~し、今宵も皆を誘っちゃうよ☆ Let's go on a trip!』

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