「お~、ここに来るのは久しぶりだな。」
そう呟いた五河士道は今、来禅高校の校舎の中にいる。
毎日のように通っていた道がやけに懐かしく感じる。
校舎が懐かしく感じるのは士道がもう高校生ではないからだ。
高校は数年前に卒業している。
では、何故士道が校舎にいるかというと、
高校生の制服姿を眺めるために来たわけではない。
士道はこの春からこの来禅高校の社会の教師として赴任することが決まっているからである
春に赴任するのでその準備の為にこうして懐かしい校舎に足を踏み入れている。
そして今、士道は一人の教師と共に歩いている。
「五河先生は、ここの卒業生でしたね?」
「あっ、はい。そうです。」
士道は目の前の教師に話しかけられ、少し詰まりながら返事をした。
「ハハハ。そう固くならなくてもいいですよ。」
「はい・・・。」
しかし、そう言われても簡単にはいかなかった。
教師ーー来禅高校の教頭ーー坂本先生はこの事には触れず、別のことを聞いてきた。
「五河先生はこの学校のことをどう思われますか?」
「?」
士道は坂本のいっている意味があまり理解できなかった。
「おっと、失礼。いやね、この学校には他の学校にはないものがあるでしょう。普通の学校にないシェルターというものが。現在の日本には不必要なものだと思うものなのですが、そんなものがどうしてあるのか五河先生は不思議に思いませんか?」
そう言われて、士道はようやく話の意味が分かった。
そう、この学校には地下シェルターが完備されている。使われたことのないシェルター。学生の頃は来禅高校の七不思議の一つにかぞえられていた。
士道はシェルターがある理由は知っている。
本来、このシェルターは空間震の時の避難場所だった。
しかし、士道は何故、今、この学校にシェルターがあるのか分からなかった。
現在、この世界で空間震は起こったことなど ーー長い歴史でーー 一度ももないのだから。
(この世界には精霊は居ない。精霊は居ないのだから空間震も起こり得ない。じゃあ、どうしてシェルターなんてものがあるんだ?)
士道は何度も疑問に思ったことを考え始めた。
ーーがーーー
「五河先生?どうかされましたか?」
「あっ・・・いえ、何でもありません。」
坂本の言葉で士道は意識を戻した。
「不思議に思いますが、使うことはないんですから気にすることもないんじゃないですか?」
「そうですか。すいません、詰まらないこと聞いて。忘れてください。」
そう言うと、坂本はこの話を打ち切った。
◇ ◇ ◇
二人はそれから移動し、職員室で今後の連絡事項を話していた。
「五河先生は、新学期より1年4組の副担任をお願いします。それにともない、1年4組の担任の方と今後のことを相談しておいてください。担任の方は・・・おっと、今、来たようですね。」
そう言うと、坂本は士道の後ろを見ていた。
坂本の視線を辿ると、そこには見覚えのある姿が確認できた。
生徒と見間違えるほどの童顔と小さな体躯。そして、微妙にサイズの合っていない眼鏡をかけているーーー士道の元担任だったーーー岡峰 珠恵《おかみね たまえ》が驚きに満ちた表情でこちらに歩いてきていた。
「五河君?!どうしてここに?まさか、今日来る新任の先生って五河君のことですか?!」
どうやら、岡峰先生は俺が今日来ることを聞かされていなかったようだ。どういうことか説明してもらうために坂本先生を見ると
ーー口許がにやついていたーー
(わざとかよっ!!)
この教頭、ずいぶんとお茶目な性格のようだ。
(ハァ・・・)
士道は心の中でため息をつき坂本先生に話を聞くことを諦め、岡峰先生に話しかけた。
「先生、お久しぶりです。」
「あっ、五河君・・いえ、五河先生お久しぶりです。あまり変わっていないようで、安心しました。」
「先生も変わらないですね。」
士道は当たり障りのない会話をしたつもりだったが最後の一言で珠恵の目付きが変わったように感じた。
その変化を感じとったのでどうしたのか聞こうとしたが、坂本が珠恵に話しかけ始めた。
「岡峰先生、こちらが今日新しく来られた五河先生です。ある程度のことはこちらで言っておいたので細かいところについては岡峰先生が教えておいてもらえますか?」
「ハァ、分かりました。では、五河先生行きましょうか。」
珠恵は坂本の性格を理解しているようで士道が新任の教師として来ることを黙っていたことについては何も聞かなかった。
珠恵が歩き出したので、士道はついていくことにした。
◇ ◇ ◇
士道が珠恵に連れてこられたのはかつて琴里達が改造した物理準備室だった。当然、物理準備室は琴里達が改造する前のものだ。
「士道先生、入ってください。」
士道は珠恵に促されるままに準備室に入っていった。
ガチャッ
後ろからそんな音が聞こえてきたが士道には聞こえなかった。
「それでは、細かい説明をしていきましょうか。」
珠恵は士道に準備室にある椅子に座るようすすめ、座ったところで説明をはじめた。
説明は20分程で終わり、士道と珠恵は世間話に花を咲かせていた。
「五河先生は、十香さん達と仲が良かったですけど、卒業してからどうなんですか?」
「いえ、どうといわれても普通に会っていますけど・・・」
「誰かと付き合ってるんですか?」
「えっ!?いや、・・誰とも付き合ってないですよ。」
士道は少し詰まりながら返事すると、珠恵が目の色を変えて口調を強めながら聞いてきた。
「本当に?!誰とも付き合ってないんですか?!」
「ええ。」
「じゃあ、五河先生!!年上の彼女ってどうですか?!具体的には30代の女性って大丈夫ですか?!」
「チョッ?!岡峰先生、落ち着いて下さい!!」
珠恵の凄い剣幕に士道は驚いた。
「そう言えば五河君学生の時付き合ってほしいと言ってきたことありましたよねあの時は学生でしたし婚姻届けにサインすることもできませんでしたけど今なら出来ますよね親の商売を引き継いでくれませんか婿入りって大丈夫ですか今ここに偶然婚姻届けがありますしこの際思いきってサインしてしまいましょうああでも五河君判子持ってきてないですよねじゃあ前言ったみたいに血判だけとっておきましょうか大丈夫ですここに彫刻刀ありますし痛くしないようにしてあげますからさぁ早くしましょうさぁさぁさぁ!!」
この長文を一度で息継ぎなしで言い切り、婚姻届けと彫刻刀を持って珠恵がにじりよって来た。
「ヒィ!?」
珠恵のあまりの剣幕に士道は驚き、逃げるためにドアに駆け寄ったが・・・
ガチャガチャッ
「開かないっ?!」
ドアに鍵がかかっており、鍵を外そうとするも焦ってなかなか開けることが出来ない。
その間にも、珠恵は士道に近づいてくる。
「嘘だろ?!くそっ!」ーーガチャッ
珠恵の手が届く寸前、扉を開けることに成功し
士道は外に逃げたした。
その後ろで
「チッ」
という音が聞こえたが聞こえないことにした。
◇ ◇ ◇
珠恵から逃げたして数分後、
士道は息も絶え絶えになって近くにあったベンチで一休みしていた。
「あの人まだ独身だったのか・・・」
何故あんなに必死だったのか珠恵が独身であり、未だに彼氏を探しているのだろうと理解した。
30代の独身女性とはあんなに結婚に必死になるのかと背筋に冷たいものを感じた。
(あの人にその手の話をするのは止めよう・・・)
気を緩めた瞬間、張っていた気が緩まり疲れがドッと押し寄せてきた。
士道は疲れを癒すためにベンチに深く座り、空をみやげた。
空は雲ひとつもない快晴で、同時に心地よい風が吹いていた。
遠くから聞こえてくる部活に精を出す学生の声を聞きながら坂本先生がいつまでもたっても戻ってこない士道を心配して探しに来るまで士道は空を見続けていた。
因みにこの学校では岡峰先生に恋愛系の話をするのは全教員の暗黙の了解で禁止されているとかいないとか・・・
士道君の口調がいまいち掴めませんね~
こんなことで大丈夫かな
ここまでお読みくださってありがとうごさいます
3話目は出来次第投下していきます。
おまけ
坂本「五河先生と岡峰先生はどこにいったのでしょうか?」
何時まで経っても戻ってこない二人を探していると
珠恵「五河君~。どこですか~。あっ、坂本先生。私と結婚してくれませんか~!!」
坂本「結構ですー!!」
▼坂本 は 逃げる を 選んだ
▼しかし 回り込まれた 逃げられない
珠恵「フフフ、さぁ、書いてください」
珠恵は女性とは思えない力で坂本の手をとり婚姻届けにサインさせようとした。
坂本「止めてくれ!私は既婚者だー!」
珠恵が意識を取り戻したのはそれから10分後のことだった。