SSSS.GRIDKNIGHT   作:八二一

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追憶

結局、アカネはあの雑誌を購入した。友達には「やっぱり恋じゃん」などとからかわれた。

 

家に帰ったアカネは、矢も盾もたまらず、すぐに編集部に連絡した。

話は意外なほどあっさりと進んだ。

 

翌日のこと。

アカネの姿は、ある一件の屋敷の前にあった。アカネの実家も大概だが、この家も相当なものだ。敷地面積はどのくらいなんだろう。

 

アカネがインターホンを鳴らそうと指を伸ばす。

ちょうど同じタイミングで、屋敷の玄関扉が音を立てた。

 

「あぁ、君か。たしか、河川敷で会ったね」

「し、新条アカネです。突然すいません。昨日の今日で……」

「いや、構わないよ。研究者とはいえ、半ば自由業みたいなものだから」

 

武史の視線が、ほんの一瞬だけアカネを観察する様に動いた。

 

アカネは促されるまま、屋敷の居間へと通された。

 

「……それで、僕に何が聞きたいんだい。AI技術について? それとも心理学?」

「えっと、何って訳でもないんです。ただ……えーと、何て言ったらいいのかな……」

 

アカネの言葉尻がゴニョゴニョとなる。

 

「……」

 

武史はそんなアカネの言葉を、無理に引き出す事もなく、じっくりと待っている様だった。しかし

 

「……ッ、ククッ、フフ」

 

不意に武史が吹き出す様に笑った。

 

「いや、すまない。実は、君の聞きたいことは大体わかってるんだ」

「河川敷にあったパソコンを解析したら、誰かがアクセスした形跡があってね。あれ、君だろ?」

「それに、君が一番気になってる物……」

 

武史はゆっくりと上着のポケットに手を入れる。

 

指先が何かを掴み、そのまま机の上に置いた。

 

それは青いアクセプターだった。

 

「こっ、これ! そうです!」

 

そう言いながら、アカネはわずかに息を呑んだ。

 

「……やはりそうか。君も"彼ら"に救われたんだね」

 

 

――追憶――

 

 

暗い空間。

どこか現実とは異なる、歪んだ構造の中にそれはあった。

 

「……ッ」

 

意識を取り戻した2代目が、かすかに顔を上げる。

その体は、見えない何かに拘束されていた。生暖かく、僅かに脈動している。

まるで生きている何かに飲み込まれている様な感覚だった。

 

「よぅ、やっと起きたかよ」

「ね、寝覚めは悪そうだな」

 

声の方向を見ると、そこには見知った顔が二つ。ツインテールの髪型の少年と、目つきの悪い病気っぽい男。

 

「ボラーさん! キャリバーさん! じゃあ……」

「僕たちもいるよぉ」

 

逆方向から響いてきた声の方を向くと、そこにも見知った顔が二つ。軽薄そうな優男と、鋼鉄のマスクをつけた大男だ。

全員、揃いの黒スーツを着ている。

 

「ヴィットさん、マックスさん!」

 

2代目の声が僅かに喜色を帯びる。明らかなピンチだが、それでも知った顔があると、心細さが和らぐ様だった。

しかし2代目の表情は優れない。体に力は入らず、胸の奥には理由のない不快感がジワジワと広がっていた。

 

それは不安ではない。それよりも、もっと濁った感情だった。

体の奥から、何かが引き剥がされていく感覚がある。

 

「その様子を見るに、君も捕まってしまった様だな」

「……ということは、皆さんも……?」

「め、面目ない」

 

そう言いながらキャリバーは僅かに顔をしかめる。見ればマックスやヴィット、ボラーも、同じように表情が優れない。

 

彼らは『新世紀中学生』。ハイパーエージェントの中でも、別格に優秀で、卓越した戦闘力を誇る者たちだ。

しかし、その彼らでさえ、こうして捕まっている。2代目の心の中に、黒いシミが広がっていく。

 

何に対してなのか、自分でもわからない。ただ、胸の奥に(おり)のようなものが溜まっていく。

 

その時だった。

胸の奥で、何かが軋む。

 

それは感情だった。だが、本来の形ではない。歪み、濁り、圧縮されていく。

 

どこか近くで、遠くで、音が響く。

それは確かに何者かが発した命令だった。

 

インスタンス・アキュミュレーション

 

 

△▼△▼

 

 

その怪獣はただ立っていた。まるで何かを待っている様に。

 

建物は破壊しない。人の気配にも反応しない。

ただそこに立っている。

 

その視線は、ただ一方向へと向けられていた。

 

「……」

 

風が吹く。季節は未だ夏だが、その風だけはどこか乾いていた。

 

静寂。

 

その時だった。

 

紫の輝きと共に巨人が姿を現す。

グリッドナイトは組んでいた腕を解き、怪獣へと向けて構え直す。

 

その瞬間、怪獣が僅かに動いた。

ほんのわずか。だがそれは合図にしては十分だった。

 

一瞬の静寂。

 

怪獣から光弾が放たれる。グリッドナイトもまた、同時に光弾を放っていた。二つの光の塊が空中でぶつかり合い、弾ける。

 

二者の間を、再び風が吹き抜ける。

決闘は、既に始まっていた。

 

怪獣――マッドテキサスが咆哮を上げ、グリッドナイトへ突っ込む。グリッドナイトもまた、応じる様に突進。

二つの巨大な質量がぶつかり合う衝撃波が、足元の車を吹き飛ばした。グリッドナイトとマッドテキサスは、手四つの力比べの態勢になる。

 

互いに力を押し合いながら、わずかな崩れを探る。足元のアスファルトが砕け、沈み込んでいく。

グリッドナイトが体勢をわずかに崩し、その腕を引き込むと同時に体を捻った。

 

背負い投げ。

マッドテキサスの巨体が宙を舞い、地面へと叩きつけられる。衝撃が周囲へと広がった。

 

だが怪獣はすぐに起き上がる。

間髪入れず踏み込んだグリッドナイトの拳が叩き込まれるが、その腕をマッドテキサスは掴み、同じ軌道で投げ返した。

巨体が反転する。

グリッドナイトは空中で体勢を立て直し、着地と同時に距離を取った。

 

風が吹く。

 

次の瞬間、両者は同時に光弾を放つ。それらは空中で衝突し、弾ける。

グリッドナイトが続けて三発放つが、マッドテキサスはそれを撃ち落とし、さらに一発を返す。

ナイトはそれを見切り、小型のナイトサーキュラーで一閃。光弾は切り裂かれ、二つに分かれて爆発した。

 

静寂。

 

互いに動かない。一瞬の後、同時に踏み込む。地面を砕きながら加速し、交錯。すれ違いざま、サーキュラーの刃が閃く。

二体は背を向けたまま停止した。

 

やがて、マッドテキサスの輪郭がわずかに歪む。

爆発は起こらない。

その体は風景へと溶け込み、静かに消失した。

 

 

△▼△▼

 

 

「今朝の怪獣、なーんか変だったよな」

「イッペイもそう思う? なんていうか、妙に正々堂々としてたっていうかさぁ」

「街も壊さなかったし」

「……うーん、たしかに。なんか変だよな」

 

夏の陽射しが照りつける公園。ベンチに座り、二人はアイスキャンディーを頬張っていた。

セミの鳴き声だけが、やけに大きく響いている。

 

二度目の修復を終えた後、イッペイは怪獣のことを覚えていた。理由はわからない。

ナイトは「同期、あるいは例外処理か」と呟いたが、二人には何のことだかさっぱりわからなかった。

 

カーン、と金属質の物が当たる音が響く。

音の方向を二人が見ると、そこにはナイトが居た。腰の剣がガードレールにぶつかった音の様だ。

 

「ナイトさん」

「ム」

 

タケオの言葉にナイトが短く答えた。

 

「何の話をしていた」

「え、あー。今朝の怪獣の話を……ちょっと」

 

ナイトの問いにイッペイがおずおずと答える。イッペイは、あの巨人の正体がナイトだと知って以来、少し距離感を測りかねている。

 

「なんか変だったなって話ですよ」

「……たしかに、少し奇妙だったな。怪獣にしては妙に……正々堂々としていた」

「怪獣"らしく"ない?」

 

一瞬、セミの鳴き声が途切れる。

 

タケオの言葉にナイトが眉をひそめ、わずかに視線を逸らした。

 

怪獣"らしさ"とは何だろうか。

その言葉はまるで自分に投げかけられたものの様だった。

 

グリッドマンを倒すために生み出され、力をコピーし、グリッドナイトとして新生した。

今の自分は何者なのか。その答えは、まだ持ち合わせていない。

 

「なんだよ、怪獣らしさって」

「え、やっぱ獣ってつくし、もっと"本能のまま"って感じじゃないの?」

 

「……本能」

 

ナイトがわずかに呟く。

 

怪獣とは、本来、衝動の存在だ。情動を糧に生まれ、そして衝動のまま暴れる。マグマギラスやグラバスもそうだった。

 

だが、あれは違う。

 

「……外から、いや内側から……?」

 

ナイトの脳裏に、新条アカネの存在がよぎる。

怪獣を生み出した創造主。同時に、自らの情動に呑まれた哀れな少女のことを。

 

刹那、街から爆発音が響く。

それは、まるでナイトの思考を遮るかの様だった。

 

「……来たか」

 

一言そう呟いた瞬間、ナイトの姿はガードレールの向こう側にあった。

 

セミの鳴き声が、遅れて戻ってくる。

 

「……やっぱ、人間じゃねぇよなぁ……」

「まぁ変身するしね……あ、"当たり"だ」

 

 

△▼△▼

 

 

街が、爆ぜていた。

轟音と共に建物が崩れ、炎と煙が立ち上る。だがそれは一度きりではない。同じ場所が、何度も、何度も撃ち抜かれる。既に瓦礫と化したはずの地点にすら、執拗な追撃が叩き込まれる。

 

破壊は終わらない。いや、終わらせようとしていない。

 

マッドテキサスが無造作に腕を振るうたびに、周囲が崩れ落ちる。その動きに意図は感じられない。ただ、衝動のままに暴れているようでいて、どこか歪だ。

 

紫の光が閃いた。

グリッドナイトが空中に現れ、そのまま光弾を放つ。直撃。爆発。

 

マッドテキサスは一瞬だけ、そちらに視線を向ける。だが、それだけだった。すぐに興味を失ったかのように街へと向き直り、再び破壊を再開する。

 

「……何ッ……?」

 

ナイトは低く呟き、躊躇なく踏み込んだ。マッドテキサスの頭に、拳が叩き込まれる。確かな衝撃。しかし手応えは薄い。

 

振り払うように放たれた反撃は粗雑だが、重く、強い。ナイトは体勢を崩されながらも距離を詰め、ナイトサーキュラーを展開する。

 

一閃。

 

刃が走り、マッドテキサスの左腕が切断される。だが次の瞬間、咆哮と共に異質な悲鳴が混じった。

 

それは聞き覚えのある女性の声だった。

ナイトの動きが止まる。

 

――今のは!?

 

思考を遮るように、切断された腕がうねりながら再生する。同時に背中が裂け、そこから二本の砲塔がせり出した。脚部も変形し、ミサイルポッドが展開される。巨体そのものが兵装へと変わっていく。

 

直後、全ての発射口が火を噴いた。

 

無数の砲撃とミサイルが、グリッドナイトと街を飲み込んだ。爆発が連続し、衝撃が全身を打ち据える。

ナイトは防御しながら、その軌道を見ていた。

 

この砲撃、見覚えがある。

 

「……まさか……2代目……!」

 

攻撃できない。

それは同時に内部の"彼女"を傷つけてしまう。

 

砲撃は止まらない。絶え間なく降り注ぐ中、ナイトは回避と防御に徹するしかなかった。その間にも街は削られ続けていく。

 

 

△▼△▼

 

 

「なんでだよ……!」

 

遠くでイッペイが歯噛みする。

 

「なんで反撃しないんだよ!」

 

タケオは答えなかった。ただ、グリッドナイトとマッドテキサスを見つめている。

その瞬間、タケオの中の青い光が脈動し、視界が強引に塗り替えられる。

 

マッドテキサスの内部。脈動する黒い泥の中に、半ば沈み込むように囚われた女性の姿が見えた。

 

「……これは……中に人がいる……!?」

 

その瞬間、胸の奥から何かが湧き上がる。助けなければ。

その思いに応えるように、青い光がタケオの体から溢れ出した。粒子となった光は戦場へと集まり、やがて青い巨人の形を取る。

 

しかしその姿は以前よりも不安定で、輪郭が揺らぎ、立っているだけでも崩れそうだった。

 

それでも前へ出る。

 

砲撃の中へ踏み込む青い巨人を見て、グリッドナイトは息を呑む。巨人はそのまま手を伸ばし、攻撃の構えを取った。

 

「待て!」

 

グリッドナイトの制止。

その一瞬、巨人と視線が交わる。

言葉はない。

だが次の瞬間、グリッドナイトの視界が歪んだ。ノイズが走り、マッドテキサスの内部構造が一瞬だけ透けて見える。

その中心。

 

「……そこか……!」

 

理解したグリッドナイトは即座に動いた。砲撃を浴びながら一直線に突進し、右手に光を集束させる。

光の剣。

 

それを胸部へと叩き込み、装甲を“切り裂く”のではなく、“切り出す”ように押し込んでいく。装甲の内側から、押し返すような圧力が走る。

抵抗と圧力を押し切り、ついに塊を引き剥がした。

 

塊は黒い粒子となって霧散し、中から2代目が現れる。

 

その瞬間、マッドテキサスの動きが止まった。

砲塔が崩れ、ミサイルポッドが消失。その巨体が不安定に揺れる。巨人がその体を掴み、力を振り絞って空中へと放り投げた。

 

グリッドナイトが構える。

 

「グリッドナイトォ……ストームッ!」

 

右腕にエネルギーが収束し、光線が放たれる。

マッドテキサスは光に飲み込まれ、やがて爆発した。

 

 

△▼△▼

 

 

ナイトが2代目を抱えたまま、公園へと戻ってくる。

つい先ほどまでの戦いが嘘のように、そこには静けさがあった。遠くでサイレンが鳴っているが、それすらどこか現実味を欠いている。

ナイトはベンチの前で足を止め、そっと2代目の体を横たえた。その顔色はまだ優れず、意識は戻らない。

 

「おい、大丈夫なのか……?」

 

イッペイが慌てて駆け寄り、スマートフォンを取り出す。

 

「救急車――」

 

言いかけたところで、その手が止まる。

タケオが一歩前に出ていた。

無言のまま2代目の傍らに跪き、静かに手をかざす。次の瞬間、掌から青い光が溢れ出し、淡く広がりながら2代目の体を包み込んだ。

やがて、かすかな呼吸の揺れとともに、閉じていた瞼がゆっくりと持ち上がる。

 

「……ここは……」

 

目を覚ました2代目の声に、イッペイは思わず息を呑んだ。

 

「え……? いや、ちょっと待て……今の何……?」

 

理解が追いつかないまま、言葉だけが漏れる。

 

ナイトはその様子を一瞥し、すぐに視線をタケオへと戻した。

 

「タケオ。お前のその力、やはり……」

 

タケオは自分の手を見つめたまま、小さく首を振る。

 

「……俺にもよくわからない」

 

その言葉を受け、ナイトはすぐには続けなかった。わずかな沈黙の中で、脳裏に一つの記憶が浮かび上がる。

 

響裕太。

グリッドマンと共にあった、一人の少年。あの時と同じように、人がハイパーエージェントと繋がっている。

 

ナイトはゆっくりと息を吐き、視線をタケオへと戻す。

 

「お前の中にあるのは、ハイパーエージェントの力だろう。完全な存在ではないにせよ、その欠片に近いものだ。青い光も、そう考えれば辻褄が合う」

 

タケオは顔を上げる。その表情に恐れはない。ただ、言葉をそのまま受け止めているだけだった。

 

「そうなんだ」

 

短く答え、少しだけ視線を落とす。

 

「あの光を使う度に、なにかを思い出しそうになるんだ。でもたぶん、それは俺の記憶じゃない」

「じゃあ誰の記憶だっていうんだよ」

 

イッペイが戸惑いを隠せないまま口を挟む。

タケオはゆっくりと首を振る。

 

「誰なんだろう。でも、この光とすごく通じ合っていたんだと思う。悪い感じとか、嫌な感じじゃないんだ。ただ……思い出せそうで思い出せないのが、すごくモヤモヤする」

 

言葉を終えたあと、しばらく沈黙が続く。

ナイトは何も言わなかった。ただ、わずかに視線を逸らす。まるで、何かを思い出しかけているように。

しかし、それを言葉にすることはなかった。

 

タケオは掌から視線を外し、空を見上げる。

その目は焦点を結ばず、ここではないどこかを探しているようだった。

 

 

△▼△▼

 

 

武史はしばらく黙っていたが、やがて視線を落とし、ぽつりと口を開いた。

 

「……かつて、一人の少年が悪の力に屈して、世界を滅ぼしかけた。知ってるかい?」

 

アカネは小さく首を振る。

 

「いえ。でも……似たようなことなら、私にもあります」

 

その言葉に、武史はわずかに目を細めた。

 

「そうか。君が知らないのも無理はない。もう二十年近く前の話だから」

 

そう言いながら、武史は自分の右手を見つめる。その仕草はどこか無意識のもののようで、同時に、確かめるようでもあった。

 

「でも彼が……いや、彼らが、僕を救ってくれた。今でも、大切な友人だ」

 

アカネは何も言わず、その言葉を受け止める。

武史は視線を外さないまま、続けた。

 

「その後、もう一度世界の危機が訪れた。かつての魔王の”弟”を名乗る者が、現実の世界にまで怪獣を出現させたんだ」

 

アカネの表情が、わずかに強張る。

 

「……現実に?」

 

武史は、ゆっくりと息を吐いた。

 

「僕は力を求めた。世界を思い通りにするためじゃない。守るための力を」

「それは……贖罪、ですか?」

 

アカネの問いに、武史は一度だけ顔を上げる。

 

「まさか」

 

即座に否定する。その声音には迷いがなかった。

だが、そのまま言葉を続けることはなく、わずかな沈黙が落ちる。

 

「……いや、どうだろうな。もしかしたら、そうだったのかもしれない」

 

武史は疲れたように笑う。

 

「結局、贖罪か」

 

その言葉は、自分自身に向けられたもののようでもあった。

 

「でも、そんな僕に、彼は応えてくれた」

「彼……。グリッドマン……!」

 

思わず身を乗り出すアカネに、武史は小さく首を振る。

 

「ああ。でも、少し違う」

 

そう言って視線を遠くへと向けると、武史の意識はすでに別の時間へと引き戻されていた。

 

冬の、よく晴れた日だった。

空気は冷たく、街の輪郭がどこか澄んで見えた。

その中で、蜃気楼のように歪む怪獣が、現実の街を壊していた。

武史はゴミ集積場の中を歩いていた。前日の雨が残した水溜りを踏み、トレンチコートに泥が跳ねる。

視界の端に、山のように積み上げられたブラウン管のモニターがあった。

その一つが、ふいに光る。

走る電光が、まるで意思を持つかのように動き出す。

光は集まり、形を成し、やがて武史の右腕へと収束していく。

それは、青いアクセプターだった。

 

記憶の中の光が、ふと現在と重なる。

目の前の机に置かれたアクセプターが、それを繋ぎ止めていた。

武史は、ゆっくりとその名を口にする。

 

「……シグマ」

 

その瞬間、青いアクセプターの奥で、ほんの微かに青い光が揺れた。

 




怨恨類類怪獣マッドテキサス
インスタンス・アキュミュレーション
Instance Accumulation
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