SSSS.GRIDKNIGHT   作:八二一

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窮地

武史はしばらく黙っていたが、やがて視線を落とし、静かに口を開いた。

 

「……僕はシグマと共に、魔王ネオカーンデジファーと戦った。けれど現実世界は、コンピューターワールドほど自由な空間じゃない。戦えば戦うほど街は破壊され、僕たちも確実に疲弊していった」

 

そこで一度言葉を切り、武史は自分の右手を見つめる。

 

「全てを終わらせた後、彼はフィクサービームで世界を修復した。でも……それは、彼の全てを引き換えにする最後の力だった。自分の力だけじゃない。その存在も、記録も、全部使って現実世界を修復したんだ」

 

アカネは何も言えなかった。武史の語る内容が真実だと、頭ではなく心で理解できてしまったからだ。

たとえ記録がなくても、何ひとつ残っていなくても。こうして自分たちが現実に存在していること、その事実そのものが、彼らの戦いの証なのだと。

 

「……さて」

 

武史はわざとらしく肩をすくめてみせた。

 

「湿っぽい過去の話はやめよう。僕みたいなおじさんの昔話なんて、面白くないだろう?」

 

少しだけ空気を軽くするように笑ってから、武史はアカネを見る。

 

「君のことも聞かせてくれるかい?」

 

アカネは膝の上で指先を組み、少し俯く。

 

「……私は……」

 

そこで息を整え、ようやく続けた。

 

「私も、グリッドマンに……友達に救われたんです」

 

その声は静かだった。だが、そこには紛れもない実感がこもっていた。

アカネはゆっくりと、自分の過去を語り始めた。

 

 

△▼△▼

 

 

黒い泥の中で、新世紀中学生の四人はもがいていた。

2代目が何者かに何かをされたのを目の当たりにし、ようやく危機が確かな形を持って胸に迫ってきたのだ。おそらくこの空間は、まともな空間ではない。目に見える距離感も、方向感覚も、当てにはならない。

その四人の前に、ふいに影が現れた。

赤黒い陽炎のような姿だった。不安定で、今にも掻き消えてしまいそうな、影そのもののような輪郭。

 

「き、貴様が黒幕か」

 

キャリバーが低く唸る。

 

「おう、よく顔出せたなァ、てめえ! ぶっ殺してやるから、そこで大人しくしとけよッ!」

 

ボラーが吠える。だがマックスは即座にそれを制した。

 

「落ち着け、ボラー」

 

なおもボラーはじたばたともがく。だが、もがけばもがくほど泥の拘束は強さを増し、四肢を深く飲み込んでいった。

その時、不意に影が笑ったような気がした。

次の瞬間、新世紀中学生たちの胸の内に、黒い感情が湧き上がる。

 

喜び。楽しさ。

だがそれは、どこか歪んでいた。形だけが似ている別の何かのように。

 

影が、歪んだ笑みの気配のまま、言葉を放つ。

 

「インスタンス・インフェクション」

 

 

――窮地――

 

 

タケオは公園の山型の遊具の上で寝転んでいた。真夏の陽射しは容赦なく強く、空はどこまでも高かった。

 

最近、空を見上げることが増えた。ここではないどこか、自分ではない誰かを思うことが増えた。

 

青い光は、マッドテキサスがもたらした破壊を修復してからというもの、それきり何の答えも返してこない。

 

そういえば最近、イッペイとは前より仲が深まった気がする。だが、ナオトやユカとはどこか距離がある。怪獣に関する記憶を、二人は覚えていなかった。

 

「本人が怪獣と直接関わっていないからでしょう」

 

マッドテキサスに囚われていた女性――2代目は、そう言っていた。

 

「俺だって直接関わってないのに……」

 

タケオは呟きながら右手を太陽にかざす。

 

「やっぱり、この光のせいかな」

 

そのまま掌を見つめ、問いかける。

 

「なぁ、お前はなんなんだ? 俺にどうしてほしいんだ?」

 

右手は何も答えない。

 

「……やっぱ答えないかァ。そうだよなぁ」

 

その時だった。

 

「タケオー!」

「タケオー!」

 

男と女、二人分の声が重なって聞こえた。ナオトとユカの声だ。

タケオはむくりと起き上がり、公園の入り口にその姿を見つけると、すぐに駆け寄った。

 

「ナオト、ユカ。どうしたんだよ」

「タケオ、やっぱりここに居たのか。最近どうしたんだよ、秘密基地に全然居ないじゃん」

「そうよ。あっちの方が涼しいじゃない。前みたいに倒れちゃったら困るわよ」

 

タケオは少しだけ言葉に詰まった。

あの秘密基地では空が見えない。何か起こった時、たとえば怪獣が現れた時、すぐに様子を見られる場所の方が最近は落ち着く。だがそんなことを言えば、余計に二人を心配させるだけだ。

 

「……うーんと……」

 

迷った末に、出てきたのは曖昧な言い訳だった。

 

「なんていうか、夏だし」

「なんだそりゃ」

「変なこというのね」

 

二人に突っ込まれ、タケオは苦笑する。

 

「そういえば、二人はどうしたんだよ。俺を呼ぶためだけに来たって訳でもないだろ?」

 

話を逸らそうとして、ふと思いつく。

 

「もしかして、デートか?」

「うっ」

「えっ」

 

見事な反応だった。

タケオは目を細める。

 

「ほほ〜ぅ?」

 

そして大げさに額を押さえた。

 

「あぁーっ、俺、また熱中症になっちゃいそうだなーっ。熱いよ〜、お熱いよォ〜」

「タケオ、おい、やめろよっ」

「ちょっと、もう」

 

よよよ、と大げさによろめいてみせるタケオに、ナオトとユカは困ったように顔を見合わせる。だが、事実なだけに強くは否定できない。

不思議と、こんな時間は久しぶりのような気がした。

ついこの間まで、イッペイを加えた四人で、いつもこんなふうに笑っていた気がする。怪獣が現れる前までは。

それとも、ナオトとユカも怪獣と関われば、全部打ち明けてしまえば、前みたいに戻れるのだろうか。

そう考えた瞬間、タケオは自分で自分に少し嫌な気持ちを覚えた。

 

ナオトとユカが付き合い始めたこと自体は、素直に嬉しかった。タケオもユカを憎からず思っていたが、それは付き合いたいとか、そういう気持ちではなかった。好きだけど、それはLoveじゃなくてLikeだったのだと思う。

 

「まだイッペイにも言ってないからな」

「だから秘密基地で話したかったのよ」

「そうだね」

 

タケオは頷き、自転車を取りに行こうとした。

 

その瞬間。

 

インスタンス・インフェクション

 

不意に、あの不気味な音が響いた。相変わらず地の底から響いてくるような、怨嗟のこもった禍々しい声だった。

 

嫌な予感がして、タケオは振り返る。

そこにはもう、ナオトとユカの姿はなかった。

代わりに立っていたのは、赤黒い陽炎のような影だった。以前見た時よりも濃く、存在感も増しているように感じられる。

 

「な、んだ……お前……」

 

影は答えない。ただ無言でタケオを見つめている。顔も目もないはずなのに、なぜかそう感じた。

するとタケオの中から、僅かな光が漏れ出す。

淡い像を結んだそれは、あの光の巨人を成人男性ほどの大きさにしたような姿だった。だが存在感は薄く、輪郭も曖昧で、明らかに力が弱まっている。

 

「……」

 

光もまた、何も語らない。

影と光が睨み合う。セミの声がぴたりと止んだ。

次の瞬間、光と影は音もなく互いに駆け寄り、ぶつかり合って散らばった。

 

「……なんだったんだ、今の」

 

タケオは衝撃で尻餅をついていた。

そして、はっと顔を上げる。

 

「……! 二人は……!?」

 

周囲を見回す。だが、影も形もない。

 

「まさか……!」

 

その時、甲高い金切り音が空を裂いた。

遅れて、突風が公園全体を薙ぎ払う。タケオの体は地面から引き剥がされるように浮き上がり、そのまま風に飛ばされた。

 

「うわぁァッ!?」

 

宙に投げ出され、やがて落下が始まる。

 

「ちょっ、これ、落ちてる……!?」

 

最悪の結末を想像し、思わず目を瞑る。

だが、予想していた衝撃はやってこなかった。

恐る恐る目を開くと、目の前には赤いバイザーの巨大な顔があった。

 

「な、ナイトさん!?」

「危なかったな、藤堂タケオ。待っていろ、すぐに降ろしてやる」

 

タケオはグリッドナイトの手の上にいた。

グリッドナイトは安全な場所を見つけると、すぐにタケオを降ろし、空へと視線を向ける。

ゴウゴウと音が響いている。だが怪獣そのものの姿は見えない。速すぎて、目では捉えられなかった。

 

キュアアッ

 

再びの金切り音。

次の瞬間、グリッドナイトのそばにあったビルへ閃光が走る。一瞬遅れて、そのビルが真っ二つにずれた。あまりにも鋭い切断だった。

 

「……くッ、速い……!」

 

轟音と共に街が削られ、切り刻まれていく。少しずつ、その攻撃はグリッドナイトへ集中し始めた。前後左右、縦横無尽の斬撃。

ついにグリッドナイトが膝をつく。

 

キィアァッ

 

金切り音が再び響く。

 

「……だが……ッ!」

 

その瞬間、今度は衝撃音が街一帯に轟いた。

土煙が晴れた時、グリッドナイトは健在だった。それどころか、小脇に一体の怪獣を抱えている。

翼を持つ鳥型怪獣――ベローナだった。

 

「隙を見せれば、トドメを刺しにくると思っていたぞ……!」

 

そのままグリッドナイトはベローナをバックドロップで地面へ叩きつける。よろめきながら立ち上がったベローナへ、拳と蹴りを叩き込んだ。

 

「トドメだ! グリッドナイトォ……」

 

だが、その背後で起きた異変にタケオが気づく。

 

「ッ! ナイトさん! 後ろだ!」

 

グリッドナイトの背後で地面が盛り上がり、爆発した。

そこから現れたのは、グリッドナイトより一回り大きな怪獣――ゴルーグ。剥き出しの爪を振りかざし、一瞬でグリッドナイトへ飛びかかる。

反応が、わずかに遅れた。

 

「なッ、ぐぅあァッ!?」

 

ゴルーグの巨大な腕による一撃が、無防備になっていたグリッドナイトの背中を深く抉る。

グリッドナイトは大きく吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

「新手、だと……ッ」

 

その隙にベローナは拘束を離れ、再び空へ舞い上がる。

立ち上がったグリッドナイトが、ゴルーグへ向けて構えた。自分より大きいその体躯は、言い知れない威圧感を放っている。

グリッドナイトが駆け出す。

 

「ハァァッ!」

 

高く跳躍し、ゴルーグの頭部へ拳を叩き込む。さらに拳、蹴りと連撃を加えるが、ゴルーグは意に介さない。

鬱陶しそうに咆哮したゴルーグが地面へ拳を叩きつける。

直後、地面が隆起し、グリッドナイトの足元から柱状に突き上がった。

まるでアッパーを食らったかのように、グリッドナイトが空へ弾き飛ばされる。

その無防備な体へ向け、ゴルーグは口から複数の光線を放ち、背中や腹の棘はミサイルとなって襲いかかった。

 

「グアァッ!?」

 

爆煙が晴れる。

そこには、ボロボロになったグリッドナイトの姿があった。だが休む間もなく、今度はベローナが上空から襲いかかる。

鋭い刃がグリッドナイトを翻弄する。なんとか防御しようとするものの、空中を自由に飛び回るベローナの方が圧倒的に有利だった。

紫の巨体が、再び地面へ叩きつけられる。

額のランプが点滅する。危険信号だった。

 

「……くそッ、二対一なんて卑怯だろ……!」

 

タケオの呻き声が漏れる。

倒れたグリッドナイトへ、ゴルーグがのしかかった。仰向けになった体を太い腕で押さえつけ、その口元に光が集まる。今度は至近距離から破壊光線を撃つつもりだ。

 

「ナオト……ユカ……!」

 

二体の怪獣には、たぶん二人が囚われている。マッドテキサスに囚われていた2代目のように、怪獣の核になっているのだ。

 

二人がグリッドナイトを殺す。そんなことはさせたくない。

あるいは、グリッドナイトが二人を傷つける。そんなことも考えたくない。

 

その強い思いに応えるように、タケオの中で青い光が震えた。

 

視界が塗り替わる。マッドテキサスの時と同じだ。

天を裂くベローナの内部には、ユカのほかに二人。地を震わせるゴルーグの内部には、ナオトともう二人。

そしてタケオが見たものは、グリッドナイトにも共有されていた。

 

「二人を……」

 

そこまで言いかけ、タケオはかぶりを振る。

 

「いや……」

 

右手を強く握り締める。

 

「全員助ける……! そうだろ……!」

 

その決意に応えるように、タケオの体から光の粒子が溢れ出した。光は彼の体を離れ、空へと昇っていく。

 

ゴルーグが破壊光線を放とうとした、その時だった。

空高くから、輝く流星が一直線に落下する。

流星の輪郭が露わになる。青い巨人だった。

巨人はゴルーグの背へ馬乗りになり、その頭を掴んで破壊光線の向きを無理やり上へ逸らす。

黄色く太い光線が、空へ向かって撃ち上がった。

雲を貫き、その直上で爆発が起こる。まるで太陽がもう一つ現れたかのような光だった。

 

その威力にグリッドナイトは一瞬戦慄する。だがすぐに戦闘態勢へ戻り、体をバネにして両足でゴルーグを蹴り飛ばすと、その反動で跳ね起きた。

ゴルーグがひっくり返る。

 

グリッドナイトと青い巨人が並び立つ。

 

青い巨人は以前よりもさらに消耗していた。立っているだけでもやっとという様子で、その体を巡る光は弱々しく、不規則に脈打っている。

それでも、光に包まれた瞳には強い意志が宿っていた。

二人は無言で視線を交わし、背中合わせに構える。

グリッドナイトはゴルーグへ。青い巨人はベローナへ。

互いに戦意を露わにした。

 

「ウオォォッ!」

 

雄叫びと共にグリッドナイトがゴルーグへ突進する。巨人はベローナを追って、空高く飛び上がった。

ゴルーグが拳を振りかぶる。だがグリッドナイトはその足元へ滑り込み、拳を躱し、そのまま背後へ回ると背中へ飛び乗って拳を浴びせた。

 

一方、空ではベローナと巨人が超高速の追跡劇を繰り広げている。巨人は消耗しているはずなのに、ベローナの攻撃を先読みするように紙一重で全て躱し、幾度目かの交錯の瞬間、カウンターパンチをベローナの顔面へ叩き込んだ。

 

地上ではゴルーグが背中のグリッドナイトを掴み、そのまま地面へ叩きつける。アスファルトが割れ、破片が飛び散る。

続けてゴルーグの口元に光が集まる。破壊光線の構え。

 

「させるものか!」

 

発射寸前、グリッドナイトがその下顎を蹴り上げた。

破壊光線は口の中で炸裂し、ゴルーグは絶叫する。

自らの光線の威力により、頭部は吹き飛んでいた。そして、その断面からナオトの姿が覗く。

 

「そこか!」

 

グリッドナイトは即座に駆け寄り、ナオトを掴んで引き剥がす。ナオトの体に絡みついていた黒い有機的な筋が、ぶちぶちと音を立てて千切れた。切り離された黒い筋はうねうねとのたうつ。

ナオトを保護し、タケオの近くへ降ろす。

 

「ナオト!」

 

タケオが駆け寄る。

それを確認したグリッドナイトは再びゴルーグへ視線を向けた。

 

情動の核であったナオトは抜き取った。だがゴルーグの中にはまだマックスとボラーがいる。出力は落ちるだろうが、マックス由来の剛力とボラー由来の砲撃能力は残る。もし彼らの戦闘経験まで怪獣へ反映されているのだとしたら、むしろここからが本番かもしれない。

 

キィアァッ

 

ベローナの甲高い鳴き声が響いた。

上空を見ると、巨人がベローナからユカを奪い返していた。巨人は光のバリアでユカを包み込み、そのままゆっくりと浮遊させる。バリアはナオトの隣へ静かに着地した。

 

二人とも意識は失っているが、呼吸はある。無事だ。

タケオはそれを確認し、グリッドナイトと視線を交わした。

 

言葉はなかった。だが、お互いに言いたいことはわかっている。

残りの人たちも助ける。

 

ゴルーグの吹き飛んだ頭部はすでに再生していた。だがナオトを失った今、エンジンであり燃料でもあった情動の核はもうない。ゴルーグの動きは精彩を欠き、ベローナもまた明らかに速度を落としている。

 

グリッドナイトが目にも留まらぬ速さでゴルーグへ駆け寄り、その胸元へ貫手を突き立てた。胸を貫くと同時に、内部からボラーとマックスを引き抜く。巨人がユカにしたのと同じように、二人は光のバリアで包まれた。

空では巨人が、速度を失ったベローナの背へ乗っていた。両腕に光の剣を発生させると、その翼を切断し、断面へ手を突っ込んでキャリバーとヴィットを引きずり出す。二人もまた光のバリアに包まれた。

四つの光球となったバリアがタケオのそばへ着地する。中から現れた新世紀中学生の四人は消耗している様子こそあれ、目立った外傷はない。

タケオはほっと胸を撫で下ろした。

 

そこへイッペイと2代目が駆けつける。どうやらイッペイは2代目に保護されていたらしい。

眠るナオトとユカの姿を見て、イッペイは目を丸くした。

 

2代目はキャリーケースから何かを取り出し、それを持っていたバトンへセットする。するとバトンから光の粒子が降り注ぎ、六人の表情はわずかに安らいだものになった。

 

一方、翼を失ったベローナがよろよろとした軌道で墜落する。その墜落地点は、ゴルーグとグリッドナイトが戦っているすぐ近くだった。

 

グリッドナイトが後方へ跳躍して距離を取り、その横へ巨人がゆっくりと着地する。

二人はまったく同じ構えを取った。

必殺技の構え。

 

「グリッドナイトォ……」

 

光が収束する。構えた右腕へエネルギーが迸る。

 

「ストォーームッ!」

 

グリッドナイトの放つ紫の光線と、巨人の放つ青い光線が一つとなり、巨大なエネルギーの奔流へ変わる。

ゴルーグとベローナ、二体の怪獣はその光に飲み込まれた。

直後、巨大な爆発。

それを見届けた次の瞬間、グリッドナイトの額のランプの点滅が激しくなる。

ついに限界を迎えたグリッドナイトは、人間体のナイトへと戻った。

 

がくりと膝をつく。息が荒い。消耗は激しかった。

二体の怪獣は凄まじく強かった。グリッドマンも、新世紀中学生も、レックスもいない今の状態で勝てたのは、ひとえに青い巨人とタケオの存在があったからだ。

ナイトは膝をついたまま、なお姿を保っている巨人を見上げる。巨人は爆発の中心をじっと見つめていた。

 

「……お前は、いったい何者なんだ……」

 

その時、ナイトは周囲に漂う白い光の粒へ気づく。

見覚えのある光だった。

 

「カオスブリンガー……!? まさか……ッ」

 

嫌な予感が現実になる。

光の粒は周囲から次々と集まり、爆発の中心で何かを形作っていく。

そして、一つの姿を取った。

ゴルーグ以上の巨体。ベローナによく似た翼。中央にはゴルーグの頭部、その両脇には縦に裂けたベローナの頭。

二体の怪獣は、一つの四つ足の怪獣として再生した。

 

衆心成城怪獣――ゴルゴべロス。

 

その雄叫びは、天地そのものを震わせる。

だが、その様子はどこか不安定だった。歩くたびに皮膚が崩れ、黒い泥となってこぼれ落ちていく。

 

「……そうか。情動の核を失ったまま、無理に再生した副作用か」

 

ナイトがゴルゴべロスを睨みつける。

ゴルゴべロスもまた、足元のナイトの気配に気づく。それが自分を一度倒した存在と同じものだとわかったのか、低く唸りながら頭を下げ、視線を合わせてくる。

 

「……」

 

ナイトは何も言わず、ただ睨み返した。

その沈黙を破ったのは、青い巨人だった。

青い蹴りがゴルゴべロスの顔面へ炸裂し、巨体が大きくのけぞって転がる。

あの消耗した体のどこにそんな力が残っていたのか。ナイトは一瞬訝しむ。だが、すぐに理解した。

巨人は最後の力を振り絞って戦っているのだ。

ナイトが限界を迎えたことを知っているかのように、巨人は自分自身を削るような激しさでゴルゴべロスへ攻撃を浴びせ続ける。

だが、決定打がない。

二体分の力を合わせたゴルゴべロスは、ベローナやゴルーグ単体よりもさらに強かった。

 

ゴルゴべロスが咆哮する。

その体がわずかに光っている。まるで、体内に流れる溶岩の光が皮膚の隙間から漏れ出しているかのようだった。

 

「まさか……ッ!」

 

嫌な予感に、ナイトは再び変身しようとする。だが、力が入らない。再び膝が落ちた。

巨人もまた、同じ結論に至っていた。

その体が光の粒子へと分解されていく。

無数の粒子はゴルゴべロスの周囲を巡り、やがてドーム状に包み込んだ。

 

刹那、ゴルゴべロスの体がエネルギーの限界を迎える。

 

光が炸裂した。

爆発。

光のドームはそのエネルギーを押し留めようとする。だが、すぐに押し負け、崩壊した。

その様子は、タケオたちのいる場所からでもはっきりと見えた。

 

「ナイトさんッ!?」

「ナイトくんッ!」

 

タケオと2代目の叫びは、遅れて押し寄せた衝撃波に掻き消される。

 

猛烈な爆風。衝撃。熱。

 

空が、炎の色に染まっていった。

 




空花乱墜怪獣ベローナ/堅城鉄壁怪獣ゴルーグ
インスタンス・インフェクション
Instance Infection
存在侵食

衆心成城怪獣ゴルゴべロス
インスタンス・マニフェステーション
Instance Manifestation
存在顕現
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