サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第十三章 一つの計画

 ユーリーと共にアパートへ到着した彩香は、購入したペンタブ用の専用ペンを袋のまま、机の上に放り投げた。これは渋谷にあるビックカメラで購入したものだ。今まで使っていたものは、酷使し過ぎたせいで反応が悪くなり、役に立たなくなっていた。そのため、息抜きがてら、渋谷へと買い物に赴いていたのだ。

 

 そこでまさか、クラスメイトに出会うとは思わなかった。

 

 彩香は途中から様子が変わったユーリーに、問いかける。

 

 「ねえ、もしかしてユーリー、祐真君に惚れちゃった?」

 

 ユーリーは明るく答えた。

 

 「うん。わかる?」

 

 「もちろんだよ」

 

 二ヶ月は一緒にいたので、それくらいは読めるようになっている。

 

 「一目惚れしちゃった」

 

 ユーリーの目は、恋する乙女のように、キラキラと輝いていた。

 

 「それじゃあ、早速食べに行く? その時は私も同行したいな」

 

 「そうしたいのは山々なんだけど、祐真君って例の子でしょ? その場合は慎重にいかないと」

 

 「祐真君が魔術師かもってこと?」

 

 「そう」

 

 ユーリーは頷くが、どこか釈然としない顔だ。

 

 ユーリーは続ける。

 

 「でも、今日見た限りだと、そんな様子はなかったよ。魔術師や退魔師なら、それとわかる。相当クラスが上位なら、それも隠せるけど、祐真君は違う気がする」

 

 「だったら、私たちみたいに、何かを召喚したとか?」

 

 「その場合、例えばサキュバスやインキュバスを召喚したとするなら、毎日精を吸われているはずだから、インキュバスである僕にはすぐにわかるよ。それは魔術師かどうか見極めるより簡単だ」

 

 「なら夢魔以外ってこと?」

 

 ユーリーは腕を組み、少し悩む。美ショタの悩ましげな顔も、腐女子の琴線に大きく触れる。今度この顔をモデルに話を進めようかな。今のスランプを脱出したら。

 

 ユーリーは答えた。

 

 「それも何となく違う気がするんだよね。精霊や悪魔の場合でも、必ず対価は支払わないといけないから、その影響は感じ取れる。でも、祐真君からは一切そんな気配はなかったよ。魔術を身に纏っている形跡もない」

 

 「なら私たちの勘違い?」

 

 それだったら、ユーリーは簡単に祐真を食えるし、『例の計画』も障害なく進めることが可能だ。朗報である。

 

 「それもあるかもしれない。けど、屋上の件を考えると、完全にシロとも言えない。だから……」

 

 ユーリーはそこまで言い、押し黙った。どこか思いつめたような様子だ。

 

 「だから?」

 

 彩香は先を促す。

 

 「彩香」

 

 ユーリーは、続きを言わず、彩香の名を口にした。

 

 「何?」

 

 彩香は、怪訝そうに返事をする。どうしたのだろうと思う。様子がおかしい、

 

 ユーリーは、決心した表情をしていた。

 

 ユーリーは口を開く。

 

 「彩香、例の計画を実行に移そう」

 

 『計画』という言葉が出て、彩香の胸は微かに高鳴った。だが、あまりにも急過ぎて、戸惑いも生まれた。

 

 彩香は、手を前に突き出し、ユーリーを押し留める動作をする。

 

 「ちょっと待って。それは私としても本望だけど、どうして突然?」

 

 「タイミングさ」

 

 「どういうこと?」

 

 ユーリーは、彩香を真っ直ぐ見つめた。

 

 「彩香、今またスランプでしょ?」

 

 「う、うん」

 

 この間のサラリーマンの件で、少しは持ち直したものの、再び暗礁に乗り上げたのだ。よくあることではあるが。

 

 「そして、僕は祐真君に一目惚れをした。正直言って、今すぐ彼が欲しい」

 

 ユーリーは、目をぎらつかせた。

 

 「だから、このタイミングで決行しようと思う。彩香はスランプから脱出できる上に、新しいアイディアも生まれる。そして何より、彩香が以前から望んでいる世界を見ることができるよ」

 

 ユーリーの説明により、次第に自身の中で、期待が膨らんでいくことを彩香は実感する。

 

 彩香は自身の頭の中に、ある世界を思い描いた。それは、計画が実行されたあとに訪れる、素晴らしい世界。何度も何度も夢想を続けた世界。

 

 そこには、男女の汚らしい『性』が存在しないのだ。ヘンリー・スコット・デュークが描く絵のように、甘美で清らかな光景が地平線の大地まで広がっている。それは何物とも比肩し得ない、高潔な世界だ。

 

 その世界の中央に、自分は立っている。そこにいれば、今陥っているスランプなど簡単に脱却できる上に、無尽蔵の油田のように、アイディアが溢れ出てくることだろう。

 

 「素敵」

 

 彩香は、自身の顔が、だらしなくうっとりとした表情に包まれたことを自覚する。いけないけない。妄想に浸り過ぎだ。

 

 ユーリーは、そんな彩香の姿を見ながら、ニヒルに口角を上げた。白い歯がのぞく。

 

 「彩香も納得したようだね」

 

 「うん」

 

 彩香はニッコリと笑って頷いた。

 

 そして、彩香は訊く。

 

 「方法は? 前から計画した通り?」

 

 「そうだね。ただし、出力は随分と抑えようと思う。祐真君がまだシロかクロかわからないからね。小規模に進めて、その中で祐真君がどうなるか確かめよう。シロなら、話は簡単。影響を受けるだろうから、すぐに食べてやる」

 

 ユーリーは、舌なめずりを行った。

 

 「もしもクロなら?」

 

 「その時は慎重にいこう。影響を受けない可能性があるから、警戒は必要だ」

 

 「大丈夫なの?」

 

 ユーリーは、自信たっぷりに頷く。

 

 「大丈夫だよ。相手が魔術師だろうと、サキュバスを召喚していようと、僕なら勝てる。そして、必ず彼をモノにするよ。それに、クロなら、色々と体に聞きたいことができるからね。楽しみが増える」

 

 「いつ動き出すの?」

 

 「明日の晩。休み明けから効果を出したいから」

 

 「わかった」

 

 そして、いくつか計画の打ち合わせをユーリーと行う。これはある程度前から決まっていた部分もあった。

 

 それが終わり、一段落した時だ。

 

 彩香はユーリーに伝える。どうしても頼みたいことだ。もしかしたら忘れているかもしれない。

 

 「その前に一ついい?」

 

 「何?」

 

 ユーリーは、首を傾けた。

 

 「祐真君を食べる時は、必ず私を呼んで。そして、この間のサラリーマンの時みたいに、目の前で、死ぬほどイカせてあげて」

 

 彩香は、最後にウィンクを行った。

 

 ユーリーは肩をすくめて、軽やかに笑う。

 

 「もちろんだよ」

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