サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第十四章 戦いを告げるキス

 古里清春は、木更津駅近くにあるパチンコ店の裏で、詰まった排水溝のような声と共に、唾を地面に吐き出した。そして、チクショウ、と悪態をつく。

 

 今の時刻は夜の十時。わざわざ木更津までやってきて勝負をしたのに、閉店すら持たず、もう素寒貧になってしまった。とことんついていないと思う。

 

 表の通りからは、闇を明るく照らすネオンと、パチンコ店から流れてくる喧騒が、ここまで届いてくる。

 

 明日は学校だが、このままふけちまおうかと考える。単位はやばいが、退学になったらなったで、構わない。あんな高校、未練はなかった。

 

 古里は、路地裏の汚れた地面に尻を付き、金髪の頭をガリガリと掻き毟る。

 

 問題は今日、金がないので家へと辿り着けないことだ。いっそそこらにいるガキをカツアゲして、金をせしめて帰ろうかと考えた。しかし、最近は警察の取締りが多く、危険であった。今日も何人か、私服警官らしき人物を見かけた。カツアゲをやるタイミングとしては、最悪だろう。

 

 古里は、再度チクショウと呟いた。近頃、そんなことばかりだ。ついていないことが続く。まるで神に――元々自分を見守っているとは思わないが――見放されたかのようだ。

 

 脳裏に、一人の男子生徒の姿が蘇る。トイレで自分をねじ伏せ、屋上で菅野をいとも容易く沈めた下級生。

 

 あのガキだ。得体の知れないあのガキと関わってから、ツキは下り坂なのだ。あいつが全ての元凶だ。

 

 年下の地味なオタクにやられた屈辱が再度噴出し、古里のイライラはピークに達した。今、表の通りを歩いているサラリーマンをひたすらボコボコにしたら、さぞかし爽快だろうと思う。

 

 学校は退学になって構わないが、その前に、あのガキを一度は半殺しにしたい。いや、いっそ、殺しても構わないではないか。とすら考える。自分は少年院など怖くない。

 

 古里は立ち上がり、ポケットに手を伸ばす。

 

 とはいえ、今解決しなければならない問題は、電車賃の件である。とりあえずスマホの充電が生きている内に、鴨志田に連絡を入れようと思う。

 

 スマホを取り出し、鴨志田と連絡をとる。そして、何とか電車賃を持ってきて貰う算段を取り付けた。

 

 鴨志田との電話が終わると、再び怒りが再燃した。こんな面倒なことをわざわざ俺がするなんて。金だって返さないといけないのだ。

 

 再度あの下級生の顔が思い浮かび、強い殺意を覚える。サボろうと思っていた学校へ明日赴き、あいつを殺そうかと考えた。ナイフには少し自信があるため、いくら格闘技に心得がある人間が相手でも、勝てるはずだ。

 

 古里は、あの下級生の腹部にナイフを深々と突き刺す姿をイメージしながら、路地裏を出ようとした。その時、路地裏の入り口に人影が差した。表から差し込んでくるネオンを背にしているため、はっきりと姿は見えない。

 

 「鴨志田か?」

 

 そう口にしてから、古里はすぐに違うことがわかった。到着があまりにも早過ぎる。ついさっき、電話を切ったばかりなのだ。そして、何より、身長が低い。中学生くらいだ。

 

 人影は、こちらに歩み寄ってくる。やがて、容姿がはっきりと浮かびあがった。

 

 その人物は、白人の美少女のように、整った容姿をしていた。非常に中性的だが、男だとわかる。銀髪であることが、目を引く。

 

 「何だ? お前」

 

 なおも、歩み寄ってくる少年を古里は睨みつけた。日本人離れしているので、少し怯んでしまう。

 

 少年は、こちらの目の前までやってきた。少年は優しく微笑んでいる。どこかのジュニアアイドルなどよりも、遥かに魅惑的な容貌だ。一瞬だが、見とれる。

 

 そして、少年は顔を近付けた。キスができるほどまで近い。

 

 何のつもりだ。

 

 古里は、さすがに文句言おうとした。その時だ。不意のことである。

 

 少年は古里と唇を重ねた。

 

 マシュマロのような柔らかい唇の感触がし、そして、頭が真っ白になる。それと同時に、全身が燃えるように熱くなった。

 

 

 

 古里ははっとする。気がつくと、地面に座り込み、うな垂れていた。どうやら眠っていたようだ。古里は立ち上がった。

 

 途端に、立ちくらみのような眩暈に襲われる。

 

 頭がぼんやりとし、直前の記憶がないことに気がつく。鴨志田を呼び出した記憶までは残っているのだが、それ以降がすっぽりと消失していた。

 

 路地裏の入り口に、人の気配がした。

 

 「おい清春。いるのか?」

 

 声が聞こえる。鴨志田だ。ちゃんときてくれたようだ。記憶が飛んでいるので、随分早い到着のような錯覚を受けた。

 

 鴨志田は、こちらに歩み寄ってくる。それに合わせ、胸の鼓動が高鳴り始めたことを古里は自覚した。

 

 なんだこれは。

 

 鴨志田は、古里の目の前までやってくると、立ち止まった。

 

 鴨志田は、古里の顔を覗き込み、眉根を寄せた。

 

 「どした?」

 

 体が熱かった。強い度数のアルコールを飲んだ時のように、頭もボーっとしている。

 

 鴨志田から目を離せなかった。こいつ、こんな素敵な顔をしていたっけ? 何だか格好いいぞ。

 

 徐々に、頭が真っ白になっていく。夢遊病のように、制御が利かない。

 

 怪訝そうな面持ちの鴨志田に向かって、古里は、ゆっくりと歩み寄った。

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