サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました 作:佐久間 譲司
リコとの『デート』を経た休み明け。祐真は月曜日特有の億劫な気分で起床し、体を引きずるようにして洗面台に行くと、顔を洗った。
『デート』をしたせいで、ますます親密になったと思い込んでいるリコの誘惑を避けながら、食事を済ませ、登校の準備を行った。
休み明けでダレているとはいえ、家を出る時間はいつもと大差がない。人間の習慣化の能力に従い、普段通りの時刻に祐真は部屋を出た。
相も変わらず、リコは新婚ホヤホヤの夫婦のように、にこやかに手を振って祐真を見送った。
大貫地区に到着し、他生徒と共に学校の校門を通る。
下駄箱へと向かっている最中だった。前方に、見覚えのある二人の姿があった。古里と鴨志田だ。二人共に下品な金髪であるため、すぐに分別が付いた。
二人は並んで歩いている。それを祐真が背後から着いていく形だ。こちらの存在には気がついていない。
あれ? と思う。おかしな点があった。
古里と鴨志田は、手を繋いでいるのだ。そう見えた。まさか。そんな馬鹿な。
勘違いかと思い、凝視してみる。間違いない。二人は手を繋いでいた。恋人のように、衆目の中、恥ずかしげもなく。
祐真は呆気に取られたまま、前を歩く二人の姿を見つめていた。周りの生徒も、二人が手を繋いでいる事実に気がつくと、怪訝な表情を向けていた。
ただでさえ、人目を引く古里たちの容貌に加え、男同士が仲良く手を繋いでいるのだ。注目の的となっていた。
下駄箱に入り、祐真は、そっと二人の姿を追った。祐真だけではなく、周囲にいる皆も唖然とした様子で、二人の行動を注視している。
そんな周囲の様子など意に介さず、古里と鴨志田は仲睦まじく、手を繋いだまま、楽しそうに会話をしながら靴を履き替えていた。
やがて、三年生の校舎へと消えていく。
何なんだ。あれは。
二人を見送り、祐真は今見た光景が現実のものであるという認識ができていなかった。幽霊でも目撃した気分だ。
周囲の人間たちも、同様だった。慄然とした表情をしている。
あの札付きのヤンキー共が、手を繋いで登校など、何か悪い夢でも見ているようだった。
祐真は軽い眩暈を覚えつつ、靴を履き替え、自身の教室へ向かう。
すでに登校していた星斗へ、先ほど目撃した古里たちの姿を報告した。
「はあ? 何言ってんの?」
星斗は、祐真が異常者であるかのような眼差しを向ける。
「なんであいつらが手を繋ぐんだよ」
「それはわからないけど」
祐真は頬を掻く。妙な光景を目撃したせいで、全身がむず痒くなっていた。
「でも、本当だよ。他にも大勢が目撃しているぜ」
「もうちょっとマシな嘘をつけよ」
星斗は、全く信じていないようだ。呆れた顔でため息をつく。
その時、数名のクラスメイトと共に、直也が教室へと入ってきた。直也は、まるでエロ本を拾ったかのように、物言いたげな表情をしている。
直也はこちらに近寄ると、唾を飛ばしながら喋り出す。
「ねえ、さっき聞いたんだけど、古里と鴨志田が、手を繋いで登校してきたんだって」
直也の言葉に、祐真と星斗が顔を見合わせた。
「ほら見ろ。本当だろ」
嘘つき呼ばわりしやがって。祐真は星斗に指を突きつけた。
「マジか」
星斗は、銀縁眼鏡をずり上げる。
近くの女子のグループからも、この件に関して話す声が聞こえてくる。その誰もが、怪奇現象を噂する時のような、半信半疑の面持ちであった。
そして、そのグループに、別の女子が新たに加わる。その女子は、新ネタを持ってきたようだ。
「古里君と鴨志田君、トイレでキスしていたらしいよ」
それを聞いた女子たちは、小さな驚きの声を上げた。
祐真たち三人も、同時に顔を見合わせた。