サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第十七章 全世界BL化計画その③

 祐真は、二年一組のクラスへと足を踏み入れた。今日はいつもより到着時間が早い。目覚ましより、遥か先に起きたためだ。

 

 祐真は自身の席へ向かう。教室にはすでに、何名かのクラスメイトがいた。

 

 その中の数組の男子生徒たちが、デート中の恋人のようにイチャついている。お互い同じ椅子に座りながら、寄り添い合ったり、手を握ったまま、仲良くお喋りしたり。

 

 それらを女子生徒や他の男子生徒が、意識しないようにしながら過ごしていた。最近定着した様式だ。

 

 祐真は自分の机に着き、鞄を横のフックにかけた。そして、教室を出る。あまりクラスメイトの同性愛のシーンなど、見たくはなかったからだ。

 

 そうはいっても、それは廊下に出ても大して変わらないのだが。

 

 祐真が歩く廊下でも、男子生徒同士のカップルが多く目に付いた。仲良く手を繋ぎ、登校している者たちや、窓際で相手の腰に手を回し、外を眺めている者たち。まるでデートスポットだ。

 

 祐真は、そのような生徒たちの中を通り、男子トイレに入った。そして、足が止まる。

 

 トイレの中で、一組の男子生徒たちが、キスを交わしていた。確か隣のクラスの生徒だった気がする。名前は知らないが、見覚えがあった。

 

 一人は小柄な体格の男子で、もう一人はバスケ部に所属している長身の男子だ。背の低いほうが、踵を上げ、少女マンガのワンシーンのように、キスを受け入れている。

 

 硬直したままの祐真を尻目に、二人は濃厚なキスを続けていた。舌すら入れているようだ。

 

 祐真は踵を返し、トイレをあとにする。

 

 教室へ戻りながら、祐真は、悄然とした気分に陥った。まさか男同士のキスを目撃するとは。

 

 これまでイチャつく姿はいくらでも見てきているが、キスまで行くと、生々しくて衝撃を受ける。おそらく、今までも、彼らはそのような行動を取っていたに違いない。だが、それは人目につかない所で行っていたため、認識されなかったのだ。それが、数が増えたせいで、目撃しやすくなっている。おそらく、これから、目にする頻度さらに上昇するかもしれない。

 

 それに今は先ほどのように、人目に付かない場所を選び、自重しているが、後々はわからなかった。学校の中、人前で堂々とイチャつく彼らなのだ。この先、キスだろうと、平然と人前で行うようになる可能性があった。

 

 祐真は教室に舞い戻った。教室内には、登校を終えた彩香がいた。祐真と入れ違いになったようだ。

 

 彩香は、教室で熱く寄り添い合っている男子二人に、どこか魅入られたような表情を向けていた。気を取られているらしく、祐真がそばにきても気がつかない。

 

 祐真は声をかける。

 

 「おはよう。横井さん」

 

 そこでようやく彩香は、我に返ったように、こちらを振り返った。声をかけてきた人間が祐真だと知ると、彩香は、優しい笑みを浮かべる。

 

 「おはよう、祐真君」

 

 「横井さん、今、何を熱心に見てたの?」

 

 祐真は、先ほどの彩香の行動について尋ねた。

 

 「ううん、何でもないよ。ただ、愛が広まっていってるなって思って」

 

 彩香は、頬に手を当て、吐息を漏らす。

 

 この前の言動もそうだが、彩香はこの状況をどこか歓迎している節があった。それがよく理解できない。とはいえ、そのような女子も何人かいた。男同士の恋愛に目を輝かせているのだ。彼女たちにとっては、男女のそれより、魅力的に映るらしい。イマイチ理解できなかった。

 

 祐真が首を捻った時だ。

 

 「おはよう祐真」「おはよう祐真」

 

 死角から、祐真に同じ挨拶が同時にかかった。ステレオボイスだ。二人の人間が、同じタイミングで祐真へ挨拶したのだろう。それでも、星斗と直也だということがわかった。

 

 そちらへ顔を向けながら、祐真は挨拶を返そうとする。

 

 「おはよ……」

 

 そこまで口を開き、祐真は絶句する。

 

 隣の彩香が「まあ」と感極まった様子で、自身の口を手で覆う動作が目に入った。

 

 「ど、どうしたんだ? お前ら」

 

 星斗と直也は、お互いぴったりとくっ付き、腕を組んでいた。星斗よりも背の低い直也は、星斗の肩に頬を付けるようにして、首を傾けている。

 

 二人共、実に晴れやかな様子だ。付き合い始めたばかりのカップルのように。

 

 「いやー、俺たち付き合うことになっちゃって」

 

 星斗はそう答えた。

 

 星斗の言葉を理解するのに、僅かばかり時間がかかる。ツキアウコトニナッタ? 何を言っているんだ? こいつは。

 

 何とか言葉を探し、質問を行う。

 

 「ど、どうしてそうなったんだ?」

 

 星斗は、照れたように頭を掻く。

 

 「なんかこいつのことが急に好きになったみたいで」

 

 星斗は、直也の方を顎でしゃくった。直也は、恥ずかしそうに頷く。童顔の顔が、少し赤らんでいた。

 

 加速度的に頭が混乱してくることを、祐真は自覚する。変な冗談を聞いている気分だ。こいつらまで同性愛者になったのか。

 

 「で、でも変だろ? 昨日まで普通だったじゃん。おかしいだろ」

 

 祐真の言葉に、どういうわけか星斗は憤慨した。

 

 「普通って言うなよ。祐真。男を好きになったから異常か? 違うだろ。人を好きになるのに、普通も異常もない。そうじゃないか?」

 

 星斗は、狐のような目を三角にし、唾を飛ばしながら語る。

 

 隣の彩香が、そうよ! と同調した。

 

 「ちょっと待って。頭が追いつかない……」

 

 軽く眩暈を覚えた。この二人といい、彩香といい、おかしいのは自分のような気がしてくる。何も変じゃないよな? 俺。

 

 頭を抱えていると、星斗が直也の腰に手を回し、誇らしげに口を開く。

 

 「今、周りで同性愛者が増えているけど、気持ちがわかった気がするよ。男だろうと女だろうと、好きになってしまったら、関係がないんだよ」

 

 直也も、うっとりと星斗の顔を見上げる。そこから完全に恋をしているのだと、はっきりと読み取れた。

 

 おそらく、今、自身は口を開けた間抜け面をしているんだろうなと祐真は思う。自覚しても、どうしようもなかった。

 

 「ま、お前も素敵な恋をしろよ」

 

 星斗は、間抜け面のまま立ちすくむ祐真の肩を叩き、直也と共にここから離れていった。

 

 「ああ、素敵だなー」

 

 二人の背中を見送りながら、彩香は小さな歓声を上げる。恋愛ドラマを観た後のように、目を輝かせていた。

 

 「大丈夫? 祐真君」

 

 ハニワのような顔になっている祐真に、彩香は声をかける。

 

 だが、祐真は返事ができない。あまりにも衝撃が強かったからだ。UMAや宇宙人を目撃したかのような気分だ。つい今しがた見たものは現実なのか。

 

 彩香が、まだ他にも祐真に話しているが、耳に入らなかった。

 

 

 

 仲の良いクラスメイトが同性愛者になり、付き合い始めた。この事実は、他の生徒たちがそうなったのとは違い、少なからず、祐真の学校生活に影響を与えた。

 

 祐真は、休み時間は、ほとんど星斗や直也と共に過ごしている。だが、二人が恋仲になってしまった以上、どうしても歪が生じてしまう。

 休み時間、二人の元へ行っても、二人は祐真そっちのけでイチャつく始末。ついには昼休みになると、星斗は、お前が邪魔だと言わんばかりに、直也と二人っきりで食べたいとこちらに伝えてきた。

 

 祐真はそれに対し、首を縦に振らざるを得なかった。祐真は仕方なく、自分の席で、一人で昼食を摂ることになった。

 

 ちょっとした寂しさと、濁りのようなモヤモヤとした複雑な感情を抱えたまま、リコが作った弁当を口に運ぶ。

 

 祐真が弁当を食べ終わるタイミングで、彩香が自分の席に戻ってきた。そこで祐真へと話しかけてくる。その時祐真は、最近、よく声をかけてくるな、とチラリと思う。

 

 「あれ? 星斗君たちと一緒じゃないの?」

 

 彩香はイタズラっぽく笑う。すでに理由を察しているらしかった。それでも祐真は、ありのままを伝える。

 

 「あいつら、二人っきりで食べたいんだってさ」

 

 彩香は嬉しそうに、何度も頷く。

 

 「そうだよね。好きな人と一緒に食べたいもんね」

 

 言いながら彩香は、ピンク色の弁当箱を通学鞄の中へとしまう。これまで仲良しグループと一緒に、昼食を摂っていたのだ。

 

 「まあ好きにさせるさ」

 

 祐真の言葉に、彩香は温和そうに整っている眉根を上げた。

 

 「本当? 寂しいんじゃない?」

 

 「そんなことはない」

 

 内心はまるっきり本音ではないが、わざわざそれを訴える必要はなかった。

 

 「祐真君もパートナー見つけなよ」

 

 「あいにく俺のことを気にかける女子はいないんだ」

 

 「そお? 男の子にはいるんじゃない?」

 

 また変なことを。男に好かれたって嬉しくもなんともない。

 

 「馬鹿言うなよ」

 

 彩香は意味深に肩をすくめると、祐真に言った。

 

 「その内男の子からアプローチがあるかもね」

 

 そう捨て台詞を残し、その場を離れていった。

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