サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第二十一章 調査

 祐真は午前中の休み時間と、昼休みを使い、淫魔捜索を行った。

 

 リコの説明通り、方法は簡単で、生徒たちのいる教室を一つ一つチェックしていけばいいだけのものだった。

 

 リコのチェックは素早く、教室一つにつき、三十秒もかからない。しかし、移動時間や、次の授業の準備もあるため、思うように事を進めることができなかった。また、祐真がチェックした時は、偶然席を外していた生徒などの『取りこぼし』の可能性も有り得るので、一度回った教室も、再度チェックする必要があった。

 

 予想以上に時間はかかったが、それでも、昼休みが終わる頃には、三年生の一部の教室を残し、ほとんど回り終えることができていた。

 

 その時点での該当者はいない。確率から言えば、すでに発見できていてもおかしくはなかった。廊下を渡る際も、リコが常に目を光らせているため、『取りこぼし』も極々少数に収まっているはずである。その『取りこぼし』の中に、たまたま淫魔が紛れている可能性は極めて低く、やはり、いまだ発見に至らないのは、どこか妙だと言えた。

 

 まだ調べていない教室にいるか、もしくは生徒ではなく教師の中にいるか。そのいずれかの可能性があった。

 

 昼休みが終わりに近づいた頃、捜索を終えた祐真は、教室へと戻った。淫魔を捜索する、という漫画やアニメのキャラクターの真似事は、予想以上に祐真の神経を削った。

 

 捜索対象の淫魔はいわゆる敵である。リコの使い魔が守ってくれているとはいえ、いつ何時こちらの正体がばれてしまい、相手に襲われるかわからないのだ。それに加え、学校に蔓延している異常事態を解決するといった、重要とも言える任務も帯びている。少なからずプレッシャーが心にかかっていた。

 

 そしてそれ以上に、神経を削がれる要因が一つあった。

 

 それは、あまりにも、男子生徒同士のカップルが増加していることだった。

 

 もうすでに、全男子生徒の九割近くが、男同士のカップルとして変貌を遂げていた。そうではない男子生徒のほうが、むしろ極少数である。そしてその彼らが、右を見ても左を見ても存在しているのだ。

 

 少数だった時はまだ耐えられたのだが、ここまで増えると、なかなかきついものがある。異様な環境に身を置いていると、沼地に足を取られるかのごとく、神経が磨り減っていく。

 

 一刻も早く、この問題を解決しなければならないと思えた。

 

 自身の席に着いた祐真は、どっと疲れを感じた。もうすぐ昼休みは終わるが、それまで眠ろうかと思う。絡む相手もいないし。

 

 そう判断し、机に顔を伏せようとしたところで、クラスメイトの女子が話しかけてきた。彩香以外の女子が声をかけてくるのは、珍しい気がする。

 

 「羽月君、あなたは他の男子と付き合わないんだ?」

 

 祐真はその女子の顔を見た。篠原楓という名前の女子だったと思う。彩香と仲が良いグループの内の一人だ。普段は祐真など関わろうともしていなかった女子である。

 

 「うん、まあそうだね。俺はその気がないよ」

 

 篠原は、気の強そうな目を細め、こちらの顔をのぞき込んだ。

 

 「それはどうして?」

 

 そう訊かれ、祐真は困惑する。本来なら、朝、古里に襲われた時点で同性愛者になっているはずである。そこをリコに助けられたお陰で難を逃れたのだが、それを正直に話すわけにはいかない。まだ例の『ペナルティ』の危険は残っているのだ。

 

 祐真は、適当に誤魔化すことにした。

 

 「俺もわからないよ。ただ男に興味が湧かないだけ」

 

 「でも、このクラスで同性愛者になっていいないのは、羽月君くらいだよ。他の女子もおかしいって言ってる」

 

 「どういうこと? 他の女子って?」

 

 篠原は、こちらにぐっと身を寄せた。シャンプーの香りだろうか。良い匂いがする。

 

 「彩香だよ。彩香が羽月君が同性愛にならないことを不思議がってた」

 

 祐真は訝しがる。なぜ、そんなことにわざわざ疑問を持つのだろう。確かに、この学校において、同性愛者ではない男は、極めてマイノリティーになってしまったが、それほど気になるものなのか。

 

 自分の与り知らぬところで、女子たちがおかしな噂でも立てているのかもしれない。祐真は不安になる。普段、女子とは接点がないため、情報が入ってこなかった。女子とほとんどコミュニケーションを取ってこなかったことが、このタイミングで仇になるとは。

 

 「楓ー。祐真君と何の話をしているの?」

 

 横から声がかかる。そちらに目を向けると、つい今しがた名前の上がった彩香が、自分の席へと戻ってきたところだった。彩香の隣には、もう一人女子が連れたっていた。これまた、同じグループの一員だ。

 

 篠原は、彩香に答える。

 

 「ほら、前言ってた羽月君が同性愛者にならない話。それを訊いてたの」

 

 彩香は納得したように頷きながら、祐真の席のそばまでやってきた。連れ立っている女子も同じように並ぶ。

 

 期せずして、女子に囲まれる形になった祐真は、戸惑いを覚えた。

 

 彩香は祐真を見下ろしながら、口を開く。

 

 「そうなんだよねー。どうして祐真君は無事なのかな?」

 

 彩香は、射抜くような目を祐真に向ける。そこに、少しだが、なぜか咎めるような感情が込められているような気がした。

 

 祐真は、制服の中にいる蝙蝠を介して、リコがこの会話を聞いていることを意識しつつ、肩をすくめる。

 

 「さっき篠原さんに言ったけど、俺にもわからないよ」

 

 彩香は、目尻を上げた。

 

 「そう? 誰からも口説かれていない?」

 

 一瞬、古里の姿が脳裏に浮かんだ。だが、あれは口説くのではなく、『襲う』だ。該当はしないだろう。それに、仮に誰かから口説かれても、わざわざここで伝えるつもりはなかった。意味がないからだ。そもそも、口説かれていると言うなら、毎日リコからそれを受けている。うんざりするほどに。

 

 祐真は首を振った。

 

 「そんなこと一度もないよ」

 

 祐真の返答を聞き、彩香は口を尖らせた。どこか不満そうだ。

 

 「そうかー。残念」

 

 「なんでだよ」

 

 「祐真君に彼氏ができたら、この教室、コンプリートだからね」

 

 「コンプリート?」

 

 彩香は、嬉しそうに首肯し、両手を広げた。

 

 他の女子二人も、微笑んでいる。

 

 「うん。皆彼氏持ちになったってこと。つまり、クラスの男子全員、ゲイになった証拠だよ」

 

 実に明るく彩香は言う。まるでクラスで協力し、何かの賞でも狙っているかのような風情だ。祐真はそのような彩香の言動に、少し引いてしまう。

 

 この学校の状況も異様だが、それを快く受け入れる人間も同様な気がした。しかも、彩香のみならず、篠原を含むこの二人の女子も、同じくそれを喜んでいるのだ。……揃ってそういった性癖なのだろうか。

 

 押し黙った祐真に、彩香は再度質問をする。

 

 「本当に誰からも口説かれていないの? 押し倒されそうになったり、強引にキスされそうになったりしていない?」

 

 祐真は小さく頷く。何なんだろう。この違和感は。

 

 「そうなんだね。まあでも祐真君は可愛いから、いずれ必ず誰かからアプローチされるよ。楽しみにしてて」

 

 彩香は祐真の肩を馴れ馴れしく叩く。両隣の女子二人も、おかしそうに笑う。

 

 そして三人は、祐真の席を離れていった。

 

 授業が始まってからも、心の中に生まれた違和感は、消えなかった。

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