サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第二十四章 チェックメイト

 休み時間、彩香は祐真に話しかけた。

 

 「祐真君、朝から何か考え込んでいるみたいだけど、どうしたの?」

 

 相も変わらず空虚な祐真は、彩香の質問に、何度か瞬きをして答える。

 

 「別に何でもないよ」

 

 「本当? ぼんやりしてたから気になって」

 

 「ちょっと眠いだけだよ。昨日遅くに寝たからさ」

 

 祐真も自分と同じように、寝不足らしい。それなら上の空であることも頷ける。しかし、それだけが理由ではないだろう。やはり独りぼっちになったことが、精神面に影響を与えているはずだ。

 

 「そうなんだ」

 

 彩香はそう答え、祐真の元を離れる。祐真が何かしらの魔術を使え、それによって感染を免れているとしたら、今の現状にある程度の危惧を覚えているはずだ。しかし、そのような様子は見て取れない。ユーリーが言うように、ただ偶然、祐真は感染から逃れただけの話かもしれない。

 

 いずれにせよ、すでに標的は祐真に絞ってある。祐真が魔術師だろうと、いくらでも篭絡できるとユーリーは自信満々に語っていた。確実に祐真は今日ゲイに変貌するはずだ。

 

 祐真の元を離れた彩香は、楓たちがいるグループの中へと入っていった。

 

 

 

 

 昼休み。彩香は楓を含む仲良しグループを一緒に、弁当箱を広げていた。

 

 お喋りしつつ、箸を動かす。そして、他の子に気取られないように、祐真の様子を観察した。

 

 祐真は、教室後方の自分の席で、ぽつねんと座り、一人で弁当を食べている。まるでいじめられっ子のように、悲壮感が漂っていた。

 

 無理もない。周りは熱々の同性カップルばかり。クリスマスの日の街中で、恋人の群れに混ざって、とぼとぼと一人で歩く状況と似ていた。

 

 少し彼がかわいそうになってくる。そろそろ同性愛にさせて、楽にしてあげよう。

 

 彩香は、スマートフォンを取り出し、ラインでユーリーにメッセージを送る。

 

 今日は、午後一で全校集会がある。そう。大勢の感染者が集う数少ない機会。大規模なクラスターが発生し得る状況。

 

 それだけではない。彼にとって、敵だらけの環境なのだ。まさに袋のネズミ状態である。

 

 彩香は、何も知らないであろう祐真を、最後に一瞥し、食事に戻った。それから楓たちと会話を続ける。

 

 心の中は、お祭りを前にした時のように、ずっと浮ついていた。今日このあと展開される夢のような光景を想像し、彩香は誰にも気づかれないよう、密かにほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。祐真はゆっくりと席を立った。それから教室の戸口へと向かう。

 

 今日、これから全校集会がある。そのため、体育館まで移動しなければならない。

 他のクラスメイトたちも同様に、三々五々教室を出ていく。

 

 教室をあとにした祐真は、目の前で手を繋いで歩いている星斗と直也の横をすり抜け、体育館を目指した。

 

 今日の全校集会の内容は、どうやら校内で大量に発生している男性同士のカップルに関してのようだ。無理もないと思う。ここ数日、ほとんどの男子生徒がカップリングを成立させているのだ。人目も憚らず、教師の前だろうといちゃいちゃと乳繰り合う様を見れば、職員会議の議題に上がるのは必然の流れだろう。

 

 もっとも、原因は不可思議な力が元なので、いくら全校集会で注意を促そうと、無意味ではあるが。

 

 祐真は、体育館へ行く途中、極力、他生徒と接触しないように注意を払った。リコの話によれば、服が掠めるだけでも感染型の淫魔術が蓄積されていくらしい。帰宅すればリコが除去してくれるのだが、それでも接触しないに越したことはなかった。

 

 おまけに、今日は事前に全校集会があると聞いていたので、人目に留意して、リコの使い魔は連れていなかった。つまりは無防備状態である。

 

 やがて祐真は体育館へと到着し、クラスごとに並んでいる列の中に加わった。右も左もいちゃつく男子生徒が取り囲んでいる。

 

 そして、壇上に夏目漱石を思わせる髭面の校長が現れる。校長は咳払いを一つすると、話を始めた。

 

 内容やはり、男子生徒同士のカップルについてだ。

 

 『……あるからにして、昨今、度々LGBTが話題になっておりますが、私も男性、女性同士の交際や結婚は何らおかしなものではないと思っています。ですが、だからといって……』

 

 マイクを通じて、校長のやや喉の奥に物が詰まったようなスピーチが続く。同性愛というセンシティブな内容なため、言葉を選んでいる節が見受けられた。

 

 しかし、肝心の男子生徒たちは、どこ吹く風だ。相方が近くにいる者は、互いに目配せし合って、微笑み合っている。むしろ校長の話が誇りであるかのように。

 

 『……本来ならば、カップルの仲が良いことは好ましいのですが、ここは学校であり……』

 

 校長の話を聞きながら、祐真はぼんやりとここ数ヶ月の出来事を振り返っていた。

 図書館で魔道書を手に入れたばかりに、インキュバスを召喚する羽目になった。そのインキュバスの正体が、他者に発覚すれば、重大な『ペナルティ』が課せられ、『向こう』の世界へと連行されてしまう。

 

 『向こう』の世界で待っているのは、インキュバスによる無限の快楽地獄だ。延々と続く性交にも耐えられるよう、魔術で体を改造され、性処理の人形となる。いくら精神が崩壊しようとも、逃げることすらできない。

 

 それを避けるには、魔道書を新たに手に入れ、召喚した対象を送り返すか、召喚主、つまり祐真か、召喚されたモノ、リコが死ぬかしないと解消できないのだ。自分が死ぬのはありえないし、リコを殺すことも不可能だろう。

 

 すなわち、現在のやっかい同居人を排除し、性奴隷のリスクをなくすには『召喚返し』しかないのだ。

 

 色々と手を尽くしたが、前途多難を極めた。

 

 おまけにそのような中、高校でゲイセクシャルが増加する現象が発生した。背後には、淫魔と召喚した人間の影。その者たちはいまだ発見できていない。

 

 わずか数ヶ月で、一生分の不思議な経験をしたような気がする。一体、なんの因果だろうか。考えれば考えるほど、混乱をきたしてしまう。

 

 それに――。

 

 祐真はそこではっとする。マイク越しに響いていた校長の口調が、大きく変わったことに祐真は気がついた。

 

 『だからこそ、これから私が言うことを、皆さんは実行してください』

 

 祐真は顔を上げ、壇上にいる校長を見る。校長は、髭面をこちらへ向けていた。

 

 彼と目が合う。

 

 『ほとんどの男子生徒が、ゲイに変わったというのに、()()()()()()()()()()()()()。これは由々しき事態であります。だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 息を飲んで、祐真は周囲を見回した。生徒全員が、こちらを――祐真を――見つめている。獲物を狙う肉食獣のように、皆の目が、ギラギラと嫌な輝きを帯びていた。

 

 祐真は怯んだ。足が震え、硬直する。ライオンの群れに囲まれた気分だ。

 

 やがて、生徒全員が、ゾンビのようにゆっくりと近づいてくる。教師たちは一切止めようとはせず、遠巻きに眺めていた。目がうつろだった。

 

 一番近くにいた男子生徒が、こちらへ飛びかかった。

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