サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第三十五章 誘い

 転校生である風川花蓮は、すぐさまクラス中の人気者となった。SHRが終わるなり、たちまちクラスメイトに囲まれ、質問責めに合う。

 

 花蓮はお淑やかに微笑みながら、クラスメイトたちの質問に一つ一つ丁寧に答えていた。

 

 その光景を祐真は、星斗や直也らと共に、遠巻きに眺めていた。

 

 「いいなー皆。話ができて」

 

 輪に入るきっかけを失した星斗は、頭の後ろで手を組み、口を尖らせる。

 

 「仕方ないよ。俺らみたいな地味な男子は、お近づきにもなれないさ」

 

 直也が諦めたような口調でそう言う。二人共、美少女転校生と関われず、SHR前の興奮はどこかに飛んでいってしまったようだ。今は、告白に失敗した時のように、テンションががた落ちである。

 

 「だけど本当に可愛い人だなー」

 

 星斗は、キラキラと愛想を振り撒く花蓮の横顔を見ながら、ため息をついた。

 

 「そうだね。性格も良さそうだし」

 

 直也が同意する。二人共、すっかり花蓮に惚れてしまっているようだ。

 

 祐真は、その二人の会話に入る余裕がなかった。大きな動揺があったからだ。

 

 なぜ、彼女がこのクラスに転校を? 偶然? そんなわけがない。昨日今日の話だ。確実に狙いは自分である。

 

 祐真は、クラスメイトたちと談笑する花蓮を見つめる。今のところ、こちらに接触しようとする気配はないが、時間の問題だろう。いずれ必ず、何かしらのアクションを取ってくるはずだ。

 

 その時が訪れるのが恐ろしかった。わざわざ転校までしてきて、祐真と接触しようとするのなら、それなりの用があるだろう。祐真にとっては、リスクしかない展開である。

 

 「祐真も惚れちゃった?」

 

 直也が、二重の目を瞬かせながら、こちらの顔をのぞき込んでくる。花蓮を見つめていたことに対し、誤解したようだ。

 

 「そんなんじゃないよ」

 

 祐真は手を振って否定する。

 

 違うんだよ皆。騙されないで。あの女はとても危険な奴なんだ。ナンパしてきた男たちを魔術で加害する退魔士なんだよ。もしかすると、あの二人は死んでしまったかもしれない。

 

 それだけじゃない。リコを殺すために、こうして俺のクラスにまで転校してきたハンターなんだ!

 

 心の声が、喉元まで出そうになる。皆に、警告したかった。花蓮が、普通の人間ではないことについて。

 

 もちろん、そんな真似をするわけにはいかない。やったら最後、即座に『ペナルティ』が課せられることだろう。自殺行為に等しい所業だ。

 

 今現在、祐真ができることといえば、静観し、その時が訪れるのを覚悟すること以外なかった。

 

 

 

 

 昼になると、花蓮の話題は学校中に広まった。アイドルのように可愛い転校生がやってきたのだ。皆が興味を惹かれるのは当然といえた。

 

 昼休みには、他クラスの生徒や、上級生、下級生の生徒たちが、花蓮を一目見ようと押しかけてくる。

 

 教室の廊下には、人だかりができ、トラブルでも発生したかのように、騒々しい様相を呈していた。

 

 渦中の花蓮は、そのような中にいても決して動じることなく、晴れやかに対応を行っている。まるで人のあしらい方を熟知している芸能人のようだ。

 

 祐真たちは、相変わらず遠巻きに様子を眺めているだけだった。星斗や直哉も、花蓮に強く興味を惹かれているものの、自ら関わっていくことには尻込みしているようだ。

 

 やはり所詮、自分たちは『陰キャグループ』の一員に過ぎないと、認識するシチュエーションである。

 

 もっとも、今の祐真にとっては、そのほうがありがたいのだが。このまま一切関わりを持たず、学校生活を送ることができれば、文句の付けようもない。

 

 そして、当然ながらそう問屋が卸さないのは、自明の理であることも祐真は認識していた。

 

 その時がやってくる。

 

 五時限目の休み時間。相も変わらずクラスメイトたちに囲まれていた花蓮は、ふいに席を立つと、こちらに向かって歩いてくる。

 

 「風川さんどうしたの?」

 

 今日一日ですっかり花蓮の取り巻きになった女子の一人が、背後からそう声をかけた。だが、花蓮は耳を貸すことなく、そのままこちらへ向かってくる。同時に、祐真の中にあった不安が、増大していく。

 

 花蓮の思いがけない行動に、教室中の視線が集まっていた。廊下で花蓮を見にきていた他のクラスの生徒たちも、どうしたのだろう、という不思議な顔で、花蓮の姿を目で追っている。

 

 「お……」

 

 花蓮が近づいてくると、隣にいる星斗と直也が緊張し始めたことが、手に取るようにわかった。

 

 やがて、花蓮は祐真の目の前に立つ。

 

 「羽月君、ちょっと話いいかな?」

 

 花蓮はミディアムヘアの髪をかき上げながら、そう言った。

 

 星斗と直也が、驚いた顔で、こちらを見つめる。教室中の視線が、祐真に注がれた。

 

 やはりきたか。祐真は唾を飲み込む。本当に厄介なことになりそうだ。どうしても断りたかった。

 

 祐真は答える。

 

 

 「……もしも、拒否したら?」

 静まり返った教室に、祐真のかすれた声が広がった。周囲の人間のほとんどが、こちらの言葉を聞いているはずだ。

 

 「無理矢理にでも一緒にきてもらうわ」

 

 花蓮は、きっぱりと言い切った。

 

 すぐに、教室のあちらこちらから、ざわめきが聞こえ始めた。皆、困惑と、好奇心が入り混じった表情をしている。

 

 学校中の話題となっている美少女転校生が、一人の地味な男子生徒に話しかけたことが、相当不思議に映るのだろう。しかも、どこかお互いの関係性をうかがわせる内容であるため、なおさら興味が惹かれるようだ。

 

 「なあ、なんで風川さんがお前に話しかけてんだよ。どうなってんだ?」

 

 星斗が祐真の袖を引っ張った。当事者でもないのに、とても混乱している様子だ。

 

 「……」

 

 祐真は答えられない。説明のしようがないのだ。そして、どうやってこの状況を切り抜けようかと頭を抱えたくなる。大人しく従い、ホイホイと話に付き合うのならば、『ペナルティ』のリスクが増えるだけだろう。

 

 祐真が言葉を失っていると、花蓮がこちらを見下ろしながら、冷静な口調で言う。

 

 「色々思うところはあるかもしれないけど、とにかくお話をしようよ」

 

 花蓮は、お姫様をエスコートする王子様のごとく、手を差し出す。周囲のクラスメイトたちから声が漏れた。

 

 祐真は花蓮の華奢な手を見つめながら、悩む。どうするべきか。このままでは埒は明かない。かといって従うのも避けたかった。

 

 すると、隣にいた星斗が肘でこちらの脇腹を小突いた。

 

 「なにぼーっとしてんだ。風川さんが誘ってんだぞ」

 

 祐真は周りを見渡した。クラス中の視線が、自分に突き刺さっている。その中には彩香もいた。

 

 一切女と縁がなさそうな、地味な男子と、それに関わろうとする美少女。あり得ない組み合わせが、どうしても注目の対象となるのだ。

 

 祐真は一気に、居心地の悪さを感じた。全員から銃でも突きつけられているような錯覚を覚える。今、自分はこのクラスの中で、格好の興味の的となっているのだ。

 

 祐真は花蓮の手を取ることなく、勢いよく立ち上がった。隣にいる直也が身を引く。

 

 「わかった。いくよ」

 

 花蓮はにっこりと、向日葵のような笑顔を作った。

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