サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第四十九章 束の間の解決

 翌朝、祐真は大きな懸念事項があったことを思い出した。

 

 花蓮の残した悔恨極まるトラブル――。クラス中を敵に回してしまった点について。

 

 祐真は、先に起きていたリコに、それを話す。しかし、彼は飄々とした様子で言った。

 

 「そのことについては、心配しなくていいよ」

 

 呆気に取られた祐真の頭を、リコは秋晴れのような笑顔で撫でる。昨夜、祐真が感じたリコの『疲労』については、現在、感じ取れなかった。もしかすると、祐真の勘違いだったかもしれない。

 

 祐真はリコに言葉の意味を尋ねたが、いくら訊いても「行けばわかる」の一点張りだった。

 

 祐真は不安に包まれながらも、登校を行う。

 

 学校に到着した祐真は、そこで、リコの発言の真意を知った。

 

 とあるニュースが耳に飛び込んできたからだ。

 

 それは、花蓮が転校したという内容だった。理由は、電車で痴漢の冤罪を他者にふっかけ、金銭を脅し取ろうとした罪が発覚したためらしい。

 

 花蓮はセクハラや痴漢冤罪の常習犯で、被害にあった男性が大勢おり、今回、そのことが露呈したという。肝心の花蓮は退学届けが提出されたあと、行方をくらませているようだ。

 

 被害者は、喜屋高校内にもいて、祐真もその一人となっている。そのため、昨日の『暴行未遂事件』は祐真が冤罪を被っており、あくまで被害者に過ぎないという『事実』がすでに広まっていた。

 

 祐真は狐につままれた気持ちになる。おそらく、リコによる、魔術を使った情報操作の見技なのだろう。

 

 教室に入るなり、昨日祐真に絡んできた裏塚が謝罪してくる。

 

 「昨日はすまなかった。羽月が被害者だったんだな。変に絡んでごめん」

 

 裏塚は、手を合わせて頭を下げる。心底申し訳ないと思っているようだ。

 

 祐真は教室を見渡す。昨日とは打って変わって、祐真に対する嫌悪や敵視の雰囲気は嵐のあとのように、微塵も感じない。

 

 完全に祐真の疑惑は晴れているようだ。

 

 祐真は一安心した。これで憂患は一気に解消されたことになる。平穏無事な高校生活が戻ってきそうだ。

 

 祐真が安堵したところで、謝罪を終えた裏塚が、思い出したように言葉を継いだ。

 

 「そういや、羽月って喧嘩強いのな」

 

 「え?」

 

 祐真は、裏塚の顔を見る。彼の瞳は輝いていた。

 

 「俺ってさ、結構ボクシングの成績良いんだ。そんな俺をあっさり打ち倒すなんて、普通はできっこないよ」

 

 あの時、祐真の体にはリコの魔術、『コルプス・フォード』がかけられていた。裏塚に暴力を振られた際、クラスメイトたちの前で、つい発動させてしまったのだ。

 

 「あ、ああそうかな」

 

 説明に苦慮し、祐真はしどろもどろになる。なんだか嫌な展開になりそうな気がした。

 

 裏塚は言う。

 

 「羽月。ボクシング部に入ってくれよ。お前ならインターハイなんて余裕で優勝できると思うよ」

 

 「いや、遠慮しておく」

 

 祐真は即座に断った。なんてことだ。魔術を使ったせいで、注目を浴びる結果になってしまった。もっとも、あんな超人的な強さを見せ付けられれば、否が応でも意識するのは当然だろうが。

 

 「そう言わずに。お前の強さならプロだって難しくないぞ」

 

 裏塚は食い下がる。

 

 それから朝のSHRが始まるまで、裏塚の勧誘は続いた。最終的には渋々諦めた様子をみせたが、またこの先、折に触れては勧誘が行われるかもしれない。

 

 SHRを経て、授業が始まっても、祐真の気分は晴れなかった。せっかく花蓮の一件が解決したと思ったが、また面倒事が発生しそうだった。

 

 祐真の懸念は的中した。

 

 最初の休み時間、祐真は大勢のクラスメイトに囲まれた。

 

 「災難だったね」

 

 「変に疑って悪かったよ」

 

 「風川さんとんでもない人だったんだね」

 

 クラスメイトの皆は、口々に花蓮の一件に対する同情の意見を述べた。

それから、祐真の『強さ』についても触れ始める。

 

 「何か格闘技でもやってたの? めっちゃかっこよかったよ!」

 

 クラスメイトの女子が、目をキラキラさせながらそう訊いてくる。これまで、祐真のことなど歯牙にもかけていなかった女子だ。

 

 祐真は気恥ずかしくなって、目を逸らした。同時に、不安に包まれる。このまま目立ってしまったら『ペナルティ』の懸念が増加してしまう恐れがあった。

 

 「いや、何もやってないよ。それに、裏塚の件はただの偶然だよ。たまたま手が当たっただけのこと」

 

 祐真が否定するが、クラスメイトたちは納得しないようだった。次々に持て囃すような言葉を口にしてくる。

 

 祐真は困り果てた。

 

 

 

 

 二年一組の教室の中で、羽月祐真が複数のクラスメイトに囲まれ、誉めそやされている光景を、古里清春は戸口に立って見つめていた。

 

 古里はぎりりと、歯噛みを行う。祐真の困惑気味の表情が鬱陶しかった。オタクのクソガキが、大勢の人間から称賛されている事実が気に食わなかった。

 

 古里は、ここにくるんじゃなかったと後悔する。祐真がボクシング部の男子生徒と揉めたらしい、ということを聞きつけてここにやってきたが、どうも期待外れのようだ。忌々しい祐真のクソガキが孤立していることを望んでいたのに、まるで正反対の現象が起きている。

 

 古里は二年一組の教室に背を向け、歩き出す。癖になっている肩を揺らしながら歩く歩き方。すれ違う他の生徒も、こちらの姿を確認するなり、野生動物を避けるように道を空けてくれる。

 

 そう。こいつらは自分を怖がっているのだ。やはり、俺は一目置かれる人間である。

 

 にも関わらず、あのガキは易々とそれを打ち破ってきた。喧嘩ではほとんど負け知らずの自分を。おまけに、この高校の頭である菅野さえ一蹴して。

 

 どうやら、教室の状況から察するに、あいつはボクシング部の男も負かしたらしい。となると、紛れもなく、あいつは腕っ節が強い男、という結論に達してしまうのだ。

 

 あんな貧相なクソガキなのに。なぜもって、あれほどの強さを発揮できるのだろう。以前から不思議でならなかった。本当に格闘技に精通しているのか。

 

 古里はB棟を出て、C棟にある図書室へ向かう。

 

 今の時間、図書室は無人だ。昼寝をするに打って付けの場所である。嫌なものを目にしたあとで気分が悪く、だだでさえ低い授業に対するモチベーションが、すでに煙のように霧散していた。

 

 古里は図書室へと到着し、扉を開けた。静まり返った図書室内に、扉の音が響き渡る。

 

 古里は図書室の奥へと進んだ。目指すは、隅に設置された腰掛けのソファ。読書用に用意されており、二人までなら座れるほど長さがあった。

 

 図書室の木製の椅子は硬くて寝づらい。ここはソファが一番だ。

 

 古里は、図書室の中央を突っ切った。それから、棚の間を抜け、奥を目指す。大きく取られた窓からは、煌びやかな朝日が差し込んでいる。とても長閑な雰囲気だ。

 

 そこで、古里はふと立ち止まった。そばにある本棚に目が止まったからだ。

 

 一見すると、何の変哲もない本棚だ。科学のコーナーらしく、分厚い図鑑や専門書が並べられていた。

 

 そこに、赤い本があった。辞典くらいのサイズと厚さ。背表紙には、英字か何かの日本語以外の文字が、金色で書かれてある。

 

 この本棚では異質なデザインだが、特筆するべき本ではない。しかし、妙に古里は気になった。

 

 古里はその本に手を伸ばした。

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