サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました 作:佐久間 譲司
シシー&古里ペアが仕掛けた全世界GL化計画は、翌日になると綺麗さっぱり解除されていた。
案の定、術にかかった生徒を筆頭に、全校生徒全員の記憶から、全世界GL化計画のことは何事もなかったように消去されていた。
これも、BL化計画時と同じく、感染型の淫魔術のせいで、無症状の者でも解除と共に記憶から消去されるメカニズムが働いたものと思われた。
今回は、彩香も影響を受けていた。同性愛者になり、クラスメイトの女子と愛を育んでいたものの、今日の朝には術発動以前の関係へと、何の余韻も残すことなく戻っていた。
すでに、BL化計画の時に経験済みだった祐真は、特に動揺することなく受け入れることができていた。
トラブルが一通り過ぎ去り、祐真は台風のあとのように、気分爽やかに朝のホームルームを迎えた。平穏な日常が再び訪れたのだ。
ちなみに元凶である古里は、行方不明という扱いだ。元より、素行の悪い不良。行方をくらますなど珍しいことではないし、日頃の行いから登校してこなくても誰も気にはしなかった。むしろ歓迎する者さえいるだろう。
ただ、友人の鴨志田だけは別だった。BL計画時の古里の記憶が蘇り、疎遠になっているとはいえ、鴨志田のほうは記憶は蘇っていない。つまり、友情は存続しており、そのため、消息を絶った古里を、彼は本気で心配しているようだ。
しょうもないヤンキーであろうと、友人は大切らしい。
唯一、事実を知っている祐真だったが、当然ながら、鴨志田はおろか、誰にも伝えていなかった。彩香にもだ。もっとも、ユーリーは巻き込まれたため、そのうち彩香に真実が伝わる可能性はあった。それが彩香にとって、どれくらい影響があるのかは、今のところ予測のしようもなかったが。
日常に戻った中、祐真は友人たちと何気ない会話を楽しむ。『全世界BL化計画』が解決した直後と同様だ。
ここ直近で、トラブルが続出している。さすがにもう起こりえないだろうと、祐真は思った。
そして数日後。祐真の耳に、転校生の話が舞い込んできた。
「転校生?」
直也からその情報を聞いた時、祐真の脳裏に、風川花蓮の姿がよぎった。
退魔士の女。リコの命を狙い、俺を拉致した奴。結局、リコの強大な力に圧倒され、敗北してしまった。そのあと、やってきた拘束部隊に連行されてしまう。
花蓮の行く末については、祐真の耳に入ってきていない。情報源はリコかユーリーくらいだが、リコは知っているのか知らないのか、訊いても教えてくれず、ユーリーとはそもそも接触がないため、祐真が情報を得る術はなかった。
そんな折、転校生の話である。さすがに花蓮の件と何かしら繋がりがあるはずがないが、完全な否定もできない。
なにせ、ここ連日、異常事態ばかりが発生しているからだ。
「どんな人?」
祐真の質問に、星斗が鼻の穴を膨らませて答える。
「女子らしいよ。しかも、可愛いんだって」
デジャブ。確か花蓮の転校時も、似たような会話をした記憶があった。
そろりと、不安が斜陽のごとく、祐真の心に差した。こんな下らない共通点だけで、転校生を怪しむべきではないが、懸念させるには充分な材料といえた。
よほど、不安げな面持ちをしていたのだろう。直也が気をうかがうように、上目使いで訊いてくる。
「祐真。もしかして風川さんの一件のことを思い出しているの?」
「あ、ああ別に……」
星斗が口を挟んだ。
「まさかお前、今度の転校生も同じだと思ってんのか? ないない。変な疑いをかけられて散々だったのはわかるが、そうそうあんなヤバイ人はいないぞ」
星斗は呆れたように手を振った。
風川花蓮の手による、レイプ冤罪事件。花蓮がリコを仕留めるために実行した姦計だが、見事に祐真の学校における地位を底まで転落せしめた。
幸いリコのお陰で事なきを終えたが、脅威そのものであった。また同じようなことが繰り返されれば……。
とはいえ、確かに、星斗の主張通りかもしれない。いくらなんでも、連続して転校生が危険な存在である確率など、ゼロに等しいだろう。しかも今回は、花蓮の時のように事前に遭遇しているだとか、そういった『前フリ』すらないのだ。
この不安は、ただの杞憂。
「そうだよな。考えすぎだよな」
祐真は頷き、無理に己を安心させた。
「それでは転校生を紹介します」
担任教師の声が、教室に響き渡った。
翌日のことである。直也の言う通り、転校生はやってきた。
大勢のクラスメイトたちが注目する中、転校生は教室の扉を開け、中へと入ってくる。
転校生の姿を認めるなり、生徒たちから歓声が漏れた。教室の端から「可愛い!」と呟く声も聞こえてくる。
祐真は転校生を凝視していた。思わず、唾を飲み込む。
転校生は教卓の前に立ち、緊張しているのか、肩肘を張った状態で、黒板に名前を書いた。
「か、影山沙希といいます。ど、どうかよろしく」
景山沙希と名乗った転校生は、ペコリと頭を下げた。大きな二つのお下げが、ふらりと揺れる。
祐真は沙希に目を奪われていた。とても可愛い。色白で、遠くからでもきめ細かい綺麗な肌をしている女の子だ。大きな丸眼鏡をかけており、おっとりとした容貌を持ち、なんだかふわふわとした柔らかい感じと、日向のような暖かな雰囲気がある。
体型は標準的なものの、注目すべきは胸だ。制服のブレザー越しにでもはっきりとわかる、何かを訴えるかのように突き出た巨乳。
沙希は顔を上げると、おどおどとした様子で、右往左往している。祐真は沙希のそんな姿から目を放せなかった。
「えーじゃあ、影山さんの席はそこだね」
担任教師は、教室の一角にある机を指差した。そこはかつて、風川花蓮にあてがわれた席だ。トラブルによる急な転校で、席を片付ける余裕がなかったため、現在も残っていた。
それを丁度よいタイミングで、今、流用されたのだ。
「あ、はいっ」
沙希は挙動不審者のように動揺しながら、頭を下げ、示された席へ向かう。教室中の皆が視線を注いでいた。
歩く度に、沙希の豊満な胸が揺れる。女子は転校生に対する純粋な好奇心のみでの注目だが、男子は違っていた。本能によって、沙希に目を奪われているのだ。
祐真も同様だ。沙希を見ていると、ドキドキした。サキュバスであるシシーと相対した時も魅力を感じたが、それとはまた感覚が違っていた。
やがて沙希が席につくと、朝のホームルームが開始された。