サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第七章 反撃

 翌日、祐真は普段どおりの時間に起床し、学校へ向かった。

 

 アパートがある西大和田から、大貫地区に入る。そして、他生徒に混ざって、喜屋高校の校門を通過した。

 

 下駄箱で上履きに履き替えた祐真は、そのまま教室へは行かず、実習棟を目指して歩く。

 

 直接、実習棟の一階トイレへと向かうつもりだった。

 

 他生徒とすれ違いながら、C棟を通り、実習棟へと繋がる渡り廊下に差し掛かる。

 

 実習棟が近付くにつれ、祐真の心臓は、不安の鼓動を強く刻み始めた。息が荒くなる。

 

 おそらく、すでにあのヤンキー二人はトイレ内にいるはずだ。遅刻の常習犯らしいが、こんな状況に限って、律儀に時間を守るのだ。あいつらは。

 

 祐真は、実習棟の入り口へ辿り着いた。そして立ち止まり、右手を押さえる。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 濁りのような不安が、心の奥底に生まれている。リコは必ずいけると太鼓判を押したが、祐真にとっては未知の領域のものだ。そう単純に信じられるものではなかった。

 

 しかし、ここまできて尻込みしても無意味だ。もうリコを信じて、進むしかない。

 

 祐真は、決心し、実習棟へと足を踏み入れた。静まり返った廊下を通り、昨日と同じ一階の男子トイレに入る。

 

 中には、二つの人影があった。例の二人だ。

 

 「おーマジできたじゃん。俺の予想あったりぃ~」

 

 「ちっ」

 

 二人はよくわからないことを話す。どうやら、祐真がくるかどうかの予想でもしていたらしい。随分と余裕ぶっている様子だ。

 

 「おい、ちゃんと持ってきたか?」

 

 古里が、肩を揺らしながら、こちらに歩み寄ってくる。顔には、獲物をいたぶるような嗜虐心が露骨に表れていた。

 

 古里は祐真の眼前で立ち止まった。手にはあのアダルトゲームを持っている。それを見せ付けるようにして掲げた。

 

 「これを返して欲しいんだろ。三万渡せよ」

 

 祐真は、可能な限り平常心を保つことを心がけながら、相手に気づかれないよう、静かに深呼吸を行う。

 

 「おい、三万。さっさと渡せよ。オタク」

 

 祐真は腹を決めた。心臓が高鳴る。きっと大丈夫のはずだと心の中で念じた。

 

 古里の顔を見上げ、言う。

 

 「お前らクズ共に払う金なんてねーよ。調子に乗るな馬鹿」

 

 祐真の声が、トイレの中に響き渡った。

 

 スローモーションを見ているかのように、古里の表情が、『楽』の表情から、一気に『怒』へと変化したのを祐真は見た。

 

 鬼のような顔になった古里は、祐真の胸倉を鷲掴みにし、キスができるくらいにまで顔を近付ける。

 

 「なんだお前? 舐めてんのか? もういっぺん言ってみろ」

 

 恐怖が湧き上がってくるが、もう止める訳にはいかない。祐真は再度繰り返す。

 

 「だから払わないって言ってんだろ。この馬鹿」

 

 祐真が言い終わるなり、古里は祐真の腹に拳を突き入れた。腰のほうから長いストロークを持たせた強い一撃だ。相手の苦痛など一切眼中にない思考が明白に現れていた。本来なら悶絶必至のはずだ。

 

 だが――。

 

 祐真はこの瞬間、己の『勝ち』を確信した。リコの言葉は嘘ではなかった。

 

 拳を突き入れた古里は、大きく呻き、右手を押さえてしゃがみ込んだ。

 

 祐真のほうは何ともなかった。痛みも、衝撃もない。

 

 「おい、清治(きよはる)!?」

 

 鴨志田が驚いた顔で、古里を見下ろす。

 

 古里は、搾り出すような声で言った。

 

 「こいつ、腹に鉄板を仕込んでやがる。すげえかてえ」

 

 祐真は笑って聞き返す。

 

 「鉄板?」

 

 祐真は、制服をはだけさせ、自身の腹を見せた。もちろんそこには鉄板など仕込まれていない。古里が唖然とした表情をみせた。

 

 唐突に鴨志田が殴りかかってきた。祐真は不動を貫いた。もろに顔面へと拳は叩き込まれる。

 

 鴨志田が、喉を潰さんばかりの絶叫を上げた。古里と全く同じく、右手を押さえ、悶絶する。

 

 「何をしやがった」

 

 古里は、次は左手で祐真の胸倉を掴む。右手は晴れ上がっているようだ。

 

 祐真は無言で、古里の左手首を掴み、握り締めた。物凄く柔い。枯木を掴んでいるかのように、簡単にへし折れることがはっきりと体感でわかった。

 

 強力な握力により、古里は激痛に喘ぎ、大きく体を仰け反らせた。祐真は折らないように注意しつつ、しばらく掴み続ける。

 

 古里は、大人に捕まった子供のように、暴れながら祐真の体を夢中で蹴り続けるが、こちらは全く意に返さない。そよ風ほどのダメージもなかった。

 

 やがて、古里は悲痛な顔で懇願を始めた。

 

 「やめてくれ」

 

 祐真は古里の手を離す。古里はお漏らしをしたかのように、尻餅をついて、左手を抱え込んだ。

 

 この時点で雌雄は決した。二人は完膚なきまでに祐真に圧倒されたのだ。

 

 祐真は堂々とした口調で、戦意がなくなった二人に言う。

 

 「ゲーム、返せよ。あと、俺と星斗へのカツアゲはもう止めろ」

 

 

 

 

 古里からゲームを取り返した祐真は、教室に向かいつつ、心の中が台風のあとの空のように、晴れ晴れとしていることを実感した。

 

 リコが与えてくれた()()は本物だった。それ自体も驚愕すべき事柄だが、今は勝利の余韻により、あまり不思議に思わない。

 

 昨日の気分が嘘のように、気分がよかった。当然だ。頭を占めていた理不尽な悩みが解決し、しかもムカつく相手に逆襲したのだ。気分がハイにならないほうがおかしかった、

 

 鼻歌を歌わんばかりの気分で自身の教室へと入った。そして、星斗の元へいく。直也もそこにいた。

 

 星斗にアダルトゲームを渡すと、二人は驚きの顔をした。

 

 「返して貰ったのか? 金は払ったの?」

 

 祐真は首を振った。

 

 「払ってねーよ」

 

 「じゃあどうやって?」

 

 「内緒。あと、お前の金の件も話しつけたから、心配しなくていいぞ」

 

 星斗の顔が一瞬、喜びに包まれた。そしてすぐに、眼鏡の奥の細い目がさらに細くなり、疑わしそうな声を出す。

 

 「本当か? 話し合いで蹴りがつく奴らじゃないだろ」

 

 「そこは大丈夫。ちゃんと()()してくれたよ」

 

 祐真はそうとだけ答え、まだ話を聞きたそうにしている二人を残し、自分の席へと向かった。

 

 機嫌よくオーバーアクションで席に着くと、彩香が話しかけてくる。

 

 「祐真君、昨日と比べて元気がいいね。調子戻ったんだ?」

 

 「まあね。ちょっとした悩みが解決したお陰かな」

 

 「そうなんだ。よかったね」

 

 彩香がニッコリと笑う。祐真も笑顔で答えた。

 

 チャイムが鳴り、教師が教室の中へ入ってきた。そして、朝のSHR(ショートホームルーム)が始まる。

 

 普段は鬱陶しく感じる担任の声を気持ちよく聞き流しながら、祐真は、昨日のリコとのやり取りを思い出していた。

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