サキュバスを召喚しようとしたら間違って最強のインキュバスを召喚してしまいました   作:佐久間 譲司

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第八十三章 術者はどこに?

 「確かに祐真、君の言うとおりだ」

 

 祐真の話を聞いたリコは、顎に手を当てて満足したように頷いた。

 

 「さすがは祐真。よく気づいたね。僕のパートナーなだけはある」

 

 「……誰がパートナーだよ」

 

 リコの世迷い言に突っ込みを入れながら、祐真はリコに説明した言葉を、頭の中で反芻していた。

 

 『暴徒』からの逃亡中、一つの確信として頭に生まれたものだ。『暴徒』たちの行動及び、発言。どうして常に祐真は追われていたのか。トイレや山の中での出来事。自身のアパート前で、待ち構えていた『暴徒』の行い。

 

 それらは全て、一つの事実を導き出す。

 

 敵の退魔士は、()()()()()()()()()()()()()()のだ。どういう方法かはわからない。しかし、完全に祐真の行動は察知されていた。

 

 最初に疑問に思ったのは、住宅街の公衆トイレから脱出した時だ。祐真を狙っていた『暴徒』のうちの一人が、まるで感知したかのように祐真の脱出に気付いていた。そもそも、トイレに篭っていた祐真を発見できたのもおかしい。

 

 思い返せば、山の中で祐真を襲った警察官も同じだった。潜伏していたはずの祐真の居場所をピンポイントで探り当てた。

 

 アパートの前の『暴徒』も同様だ。祐真たちが、自宅に帰るのを見越したように、配置されていたし、逃げようと踵を返したところ、即座に発覚してしまった。

 

 いずれにも共通しているのは、祐真たちを察知した者が、スマホや無線で誰かと連絡を取っていた点だ。

 

 おそらく、術者である『退魔士』が指示を下していたのだろう。

 

 一通り説明が終わったあと、リコがみせた反応は少し違和感があるものだった。おそらく、リコも祐真と同じような結論に達していたのかもしれない。

 

 「問題は、退魔士がどうやって俺の場所を探知しているかだけど……」

 

 敵は限定されたエリア内から、こちらの動向を掴んでいる。リコの説明によれば、極端に広大な距離ではないにしろ、結構離れた場所であるらしい。

 

 遠距離にいる人間の行動を逐一、なおかつ確実に把握するのは、どんな方法があるだろうか。望遠鏡で監視? いやいや、無理がある。かと言って、ドローンや、ラジコンといった機械も使っていないはず。

 

 すなわち、答えはいくつかに絞られる。

 

 「リコ。特定の人物の位置を正確に把握できる魔術ってあるの?」

 

 「もちろんあるさ」

 

 リコは、至極当然という顔で肯定する。

 

 「具体的にどんなのがあるんだ?」

 

 リコは腕を組んだ。なぜか固い表情で説明を始める。

 

 「……大抵は、標的に発信機のような役割のあるマーカーを付けて、相手の動向を把握する方法だね。追跡魔術とも言う」

 

 祐真は頷いた。頭の中で光が明滅する。答えが見つかった気がした。きっと敵は、そのマーカーとやらを祐真に付けて、追跡魔術を発動させたのだ。

 

 「じゃあ、そのマーカーを元に、相手の位置を探れないか? 逆探知みたいにして」

 

 「もちろん可能だよ」

 

 リコはさらりと答える。

 

 「リコ。多分、俺にそのマーカーが付けられている。それを利用して、相手の退魔士の居場所を探るんだ」

 

 祐真がそこまで言った時だ。リコは小さくため息をついた。

 

 「それは無理だよ祐真」

 

 「無理?」

 

 「そうさ。なぜなら、君に敵の魔術はかかっていないからね」

 

 リコは確信を持った風情で言う。

 

 「かかってない? どういうこと?」

 

 「そのままの意味さ。僕も君に会った時からずっと疑問に思っていた。電話で君の話を聞いた時、真っ先に追跡魔術のことが頭に思い浮かんだ。けれど、君には一切の魔術がかけられていないんだ」

 

 リコの実力は折り紙つきである。言い分は正しいのだろう。

 

 「だったら、マーカーを付ける以外の方法を使ったとかは?」

 

 リコは力なく首を振った。

 

 「そもそも、敵は魔術を使って僕らの位置を把握しているわけじゃないんだよ。なぜなら、人の操作以外で、魔術を使っている形跡がないからね」

 

 祐真は唇に手を当てた。困惑してしまう。虫が這っているような、ざわざわとした不快な感覚が胸中を覆った。

 

 魔術が使われていない? どういうことだろう。リコの証言が事実だとしたら、では敵の退魔士は一体、どうやってこちらの動向を掌握しているのか。

 

 何か根本的な部分を見落としているのかもしれない。しかし、見当がつかなかった。

 

 予想が外れ、意気消沈した祐真にリコが注釈する。

 

 「けれど、敵の退魔士は何らかの形で君に接触ないしは、接近したはずだよ」

 

 祐真は、はっと顔を上げる。

 

 「どういうこと? さっき、俺には魔術がかかっていないって言っただろ? じゃあ何のために敵は接触してきたんだよ」

 

 祐真は食い気味に訊く。

 

 「祐真。考えてみて。相手の退魔士は、人間を操作して君を狙ってきている。だったら、事前に、君の姿を何らかの形で認識したはずだ」

 

 確かに、言われてみれば、至極当然の話である。祐真に攻撃を仕掛けるのであれば、祐真の容貌をどこかの段階で認知する必要があった。

 

 「でもそれだと、見当をつけるのが難しいな。相当前かもしれない」

 

 「おそらく、祐真の姿を見たのは、つい直近のはずだ。ずっと前から知っていたら、昨日沙希と戦った際に、何かしらのアクションがあって然るべきなんだ」

 

 「じゃあ、昨日、沙希が撃退されたあと、仲間の退魔士が駆けつけてきて、その時に俺の姿を見たってことか」

 

 経緯としては、真っ当である。揃っている条件を踏まえて考えると、もうその時しか祐真の姿を認知するチャンスはなかった。その翌日、つまり今日には祐真への攻撃が始まったのだから。

 

 しかし、リコの答えはノーだった。

 

 「あの時、僕と祐真は一緒にいただろ? 弱っていたとは言え、僕は常に周囲を警戒していた。当然、増援の可能性も考慮してね。その上で、誰かが君の姿を認識できるほど接近したら、僕が気付いたはずなんだ」

 

 「よくわからない。じゃあ敵はいつ俺の姿を知ったんだよ」

 

 雲を掴むような話になってきた。頭の中がむずむずとしてくる。

 

 リコは答えた。

 

 「結論を言うと、もちろん、今日だよ。しかも攻撃を受ける直前か、あるいは本格化する前後になる」

 

 祐真の脳裏に、記憶がフラッシュバックした。

 

 学校が終わり、図書館に赴く際、ヤンキーのような奴に祐真は襲われた。学生服姿の金髪の男だ。それを契機に『襲撃』が始まった。

 

 つまり……。

 

 いや、待て。それは違う。その時襲われていたのは、祐真ではなく、スーツ姿の女性だった。OL風の綺麗な女性。

 

 祐真が金髪の男を撃退したあと、その女性から礼を言われた。その時、彼女がとったアクションは――。

 

 祐真ははっとした。

 

 「心当たりがあるみたいだね」

 

 リコはこちらの顔を覗き込みながら言う。

 

 おそらく、最初の金髪の男は、元々から操られていたに違いない。あの時、襲われていた女性を助けるように仕組まれていたのだ。

 

 敵は祐真の姿を確実には知らなかった。ある程度の情報のみ把握しており、目星を付けた祐真に対し、男を操り、鎌をかけたのだ。まんまとそれに引っ掛かった祐真は、退魔士である女を助け、握手を交わす。

 

 祐真は、リコからかけられていた肉体強化魔術『コルプス・フォート』を身に纏っていた。接触を果たした女は、その時点で祐真が対象の人物、つまり『推進派』の敵である淫魔の関係者だと断定したのだ。

 

 そして、攻撃を本格化させた――。

 

 リコではなく、祐真を狙うのは、仲間からある程度情報を得ていたからに違いない。強力なインキュバスがいるため、召喚主のほうを狙うべしと。

 

 すなわち、あの女こそが、元凶の退魔士である可能性が大である。

 

 相手がどうやって、祐真の居場所を掌握しているのかは不明だが、正体はほぼ判明した。

 

 祐真はリコに説明を行う。該当の人物について。

 

 「その女性の顔は覚えているかい?」

 

 祐真は頷いた。忘れるわけがなかった。結構人目を引く容貌だった。もう一度前にすれば、すぐに判別が付くだろう。

 

 「それじゃあ、話は簡単だ。明日明るくなったら、探し出そう」

 

 「どうやって?」

 

 「敵は一定範囲内に必ずいるはず。空に使い魔を飛ばして、周辺の人物をしらみ潰しに調べよう。きっと発見できるさ。こちらが相手を発見できれば、向こうがどんな手段で祐真の動向を察知していようと、関係なくなる」

 

 リコは解決策を述べた。見通しの効かない霧の中、ようやく見つけた一筋の光明。何とかなりそうだった。

 

 同時に、いまだ燻り続ける残り火のような不安が心の奥底にあった。何か大事な部分が抜け落ちている。気のせいかもしれないが、そんな嫌な感覚があった。

 

 「朝になるまでここで休んでいよう」

 

 リコはそう提案し、ウィスキーを飲み干した。

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