ワイ「バッドED確定なヒロインルート?勿論俺らは抵抗するで?」 作:二十一と書いてツルイチと読む。
「やっぱり検索しても出ねぇ……」
一先ず自宅に帰った俺は、ネットで抵抗のプロヴィデンスについて検索しまくった。
一件語感が似たゲームはあったが、『血行のエビデンス』とか言うよくわからん陰謀論サイトだった。名前が似てるどころかコンセプトが違いすぎる。正直画面をたたき壊したくなったが……なんとか抑えた。
ちなみに、今まで何時間ほど検索をかけていたか。俺が部屋に帰ってきたのは夕方の五時ごろ、今は夜の十一時を回っている。つまり実に六時間以上。
側から見たら完全にネットジャンキーかオタクのやばい挙動だ。うん、後者はあながち間違いじゃないんですけどね、目がめっちゃショボショボする……
兎に角、結論は出た。
どうやら、俺は抵抗のプロヴィデンスが存在しない世界……いや、正確には逆だ。俺が、抵抗のプロヴィデンスの世界に『転移』してしまったようだ。
転移。聞いたことがある、ラノベとかで……肉体や記憶はそのまま、異世界に移動してしまうこと!死んで転生じゃなく、生きたまま移動する方。
俺の場合、実家の場所も家族関係もそのまま……本当に俺の『記憶』と『意識』だけが、ゲームのあった元の世界から、この世界の鶴一研という人間の器に乗り移った感じだ。
現にさっきご飯を家族で食べてた時も特に変わりない様子だったしな。母親は相変わらず「ちゃんと寝なさいよ」って言ってくるし、父親は相変わらず晩酌しながらニュース見てるし、妹は相変わらず飯食いながらスマホ見てるし。
……完全に普通の家族だ。俺だけが今日、普通じゃない一日を送っていたとは思えない温度感だった。まぁ……みんながいつも通りなのはありがたかったこっちも特に話せることないからありがたいっちゃありがたいが。
それに飯時に『ねぇ今日路地裏でキャラクターが氷でバリバリ戦ってるの見てさ、あとゲームのヒロインに会ったんだけど』なんて言えるわけがないからな!言ったら確実に病院送りされる!!
「とは言え……ハァ……。」
本当に、どうなっちゃってるんだ俺の人生。
なんだろう、落ち着いて考えれば考えるほど事の重大さがじわじわと実感されてくる。夕方エリスに遭遇した時は混乱のあまり割と荒っぽい心持ちだったが、今はどちらかと言えば……なんというか。変な気持ちだ。
怖い、ではない。
不安……そうだな、不安だ。ゲームの知識は頭に入っている。おおまかな流れも知っている。だが俺はあくまでゲームの外側から見ていた人間だ、その俺が中に放り込まれたとして、本当に上手くやれるのか。
いや、やれるわけがない。必ずイレギュラーが出る。うまく言えないがこれは確信だ……主人公でない俺が立ち回るには、相当上手くやる必要がある。それができるだけの頭は多分俺にはない………
……いや、ちょっと待て。こういう系のラノベとか漫画ってどうだっけ。大体主人公って割と即座に行動し始めてなかったっけ。落ち着け気合を入れろ鶴一研!じうじしてたらモブに飲まれるだけだぞ鶴一研!!
「っしゃぁっ!!大丈夫大丈夫できるできるがんばれ頑張れ気持ちの問題!!!」
「研!うるさい!!明日の支度しときなさいよ!!
下の階から母の声が聞こえる。ごめん母さん!!
明日…………そうだ。明日から高校生活も始まるんだった。いろいろあって気持ちはあるが立ち止まってる暇はない。まずは明日の準備……制服の確認からだ。
現実的なことを考えよう。それが一番だ。どーせ、なるようにしかならないのだから。
ワイシャツは用意してあるから後は制服を引っ張り出すだけだ。部屋のクローゼットを開けて、中の制服を取り出そうとする……服がゴチャついてわかりにくいな……そう、確か俺が元々通う予定だった学校の制服は黒色のシンプルな学ランで……あれない?
「んっ?いや、あったあった!」
そう思いながら取り出したのは、純白のブレザー。
「……」
じっと見る。純白のブレザー。
胸元の校章に刻まれた文字は……【異仙】
「…………うわ、マジか。」
思わず俺はその場に座り込んだ。
間違いない……このブレザーのデザイン、何度もゲーム画面で見た。主人公たちの通っていた【私立異仙学園】のブレザーだ。
確かに俺の通う予定だった学校も【私立伊仙高校】だったけれども!?読み方どっちも【いせん】だけれども!?転移先でも同じ学校行く流れなのはわかった、わかったけれども!?
俺あのキャラクター達と同じ学校行けんの!?マジで!?
……と言うか当然行くことになるよな。この流れで行かない訳がない。まさか学生服取り違えたなんてアホな話な訳がない。
深く息を吸って、吐く。落ち着け。整理しろ。
転移したことはもう事実だ。どうにもならない部分については一旦置いておく。今わかっている事実だけを並べろ。
その一。俺は抵抗のプロヴィデンスの世界に転移した。
その二。原作の開始時点は2026年の入学時、今年も2026年。つまり原作開始と同時期に俺はここにいる。
その三。俺が通う学校は私立異仙学園……原作のキャラクターたちと同じ場所だ。
その四。俺にはすでに異能力がある。エリスが言っていた子供に受けるなら……並外れた打撃力と、ダメージを受ける度に攻撃力が増す火事場系のスキル。えっ、痛いの嫌だ……
……今この世界で俺の状況をまともに理解しているのは、俺一人だけ。俺がどれだけ叫んでも、誰も耳を傾けないだろう。信じてもらえるわけもない。証拠もない。
それに、仮にそうだとしても俺は主人公でも仲間キャラでもないんだ。世界の危機とかそういった面倒くさいところは彼らが処理してくれる!
むしろ……俺はエリス攻略に集中できると言うことなのでは!?(混乱中)よっしゃなんか俄然やる気出てきたぁっ!!……うん、もうこうやって精神保たないとやってけないよまじで。
それに、俺がそう思っているのも本当だ。俺はエリスのルートを万回周回して読み込んだ攻略情報が今の俺の頭の中に全部入っている。……全部バッドエンドしかないとされていたエリスルートの、どこかに眠っているかもしれない抜け道も。
ゲームだから存在しなかった? いや……それは違う、探し方が足りなかっただけかもしれない。それに俺にとってここは現実だ。ゲームのコードに縛られた世界じゃない。
エリスも言っていた。『決められた運命なんてない。そんな運命があるのなら、その運命に抵抗しろ』と。
……そうだよな。運命に抵抗しろ。それがこのゲームのタイトルでもあって、そしてきっと……俺にとってのテーマでもある。
俺はブレザーをハンガーにかけ直しながら、一つ息をついた。
「……明日から、異仙学園か。」
純白のブレザーをクローゼットに戻す。ゲームの画面越しでしか見ていなかったそれが、自分の制服だという事実がまだ半分夢みたいだ。
だが夢じゃない。今日路地裏で見た破壊痕も、氷の結晶が飛び散っていた戦闘も、そしてあの瞬間……エリスが真っ赤になって消えていったあの顔も。
「……可愛かったな。」
ぼそっと一人部屋でつぶやいた瞬間、己の情緒の方向性に若干引いた。
いや、でも本当に可愛かったんだよ!あのキャラがああいう顔するの初めて見たし!ゲームの中でもエリスが動揺してる顔ってほとんど見られないんだよ!あれは俺のせいだけど!あれ方向性がおかしくなってきたな!?ゲームのレアスチルを見たような気分だ!!!
深夜テンションで抑揚する気分ををなんとか抑えながら、俺はベッドに倒れ込む。明日から本格的に物語が始まる。少なくとも俺の中では今日から既に始まっている。
推しを救うための、長い長い抵抗が。
「やれっかなあ……」
天井に向かってつぶやいた言葉は、昼間と同じだった。けれど今度は、少しだけ意味が違う気がした。
ひとまず問題は、明日の入学式だな……ゲームじゃ明日から早速波乱だ。なにせ
それに、原作のキャラクターたちが顔を揃える場でもある。
あの『勝手に人を弟子認定する姉御肌女武闘家』も、『ツヨツヨメスガキ』も、『糸目関西弁胡散臭さマックスのド聖人』も。今まで画面の向こうにいた連中が、明日から俺の隣を歩くかもしれない。
眠れるかな……と思いながらも、瞼は割とすんなり落ちてきた。脳が処理の限界を超えて、勝手に電源を落としにきた感じだ。まあ六時間検索し続ければそうなるか。
最後に頭に浮かんだのは、あの真っ赤になった推しキャラの顔だった……明日も会えるといいな、なんて気持ちの悪いことを思いながら、俺は眠るのだった。