死神の息子 作:ころころさん
「さて、新メンバーも加わったので皆さん浮足立つのはわかりますが、この勢いのまま始めしょうか」
美雨が加わったE組は朝のHRを終え、そのまま1時間目に入った。
チャイムと同時に教室に颯爽と入ってきた殺せんせーは、なぜか分身をして入ってきていた。
そんな殺せんせーの様子に、E組は一体何を始めるのか分からず、目が点になっていた。
対して、美雨は初めて見る殺せんせーの分身に、周りにバレないぐらいに目を輝かせている。
「学校の中間テストが迫って来ました」
「そうそう」
「そんなわけでこの時間は」
「フフッ高速強化テスト勉強をおこないます」
どうやらもうすぐ中間テストがあるようで、殺せんせーの分身がマンツーマンでそれぞれの苦手科目を徹底して復習するらしい。ご丁寧に各教科が記された鉢巻を巻いて台詞まで分けている。
「下らね…ご丁寧に教科別にハチマキとか…なんで俺だけNARUTOなんだよ!!」
そんななか寺坂がいつものように食いつく。なぜなら、他の生徒達は苦手な教科が記された殺せんせーがいるのに対し、寺坂の目の前にいるのはなんとどの教科のものでもなかった。
そのハチマキに印されていたのは、なんと【NARUTO】だった。
あの忍者漫画で有名なあのマークが記されたハチマキである。
そのため、寺坂が唯一のハチマキマークに困惑するのも無理はない。
「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」
どうやら苦手科目が多くある寺坂の特別ハチマキの様だ。確かに忍者漫画の主人公も勉強が苦手な特徴がある。もしやそれ繋がりか、と日本に来た時にある程度の有名漫画を読破した美雨は考えていた。
それから早速、殺せんせーたちによる高速強化テスト勉強が始まったのだが…
「ねえ殺さーん、俺の担当がいないんだけど?」
「それはいないというよりいらないが正しい表現ですねぇ。美雨君の学力は正直に言うと、中学生どころか大学の内容も完璧。もはや私が教えられることはほぼ皆無に等しい。なので、君にはこれを…」
「オレンジ色の道着に麦わら帽子、そして
「そうです。君にはオールスター枠として、先生と一緒に皆さんの強化に入って下さい。それだけで先生に余裕が生まれ、より分かりやすく皆さんに教えられます。その証拠にほら、先ほどまで休ませていた分身が1体から5体になりました」
「「それむしろ余計疲れない!!?」」
殺せんせーが渚たちにツッコまれている中、美雨は一瞬廊下に出て着替えを済ませる。渡された衣装の全てを着たことで見た目のごちゃごちゃ感が半端ない。こんなわんぱくセット、きっと誰が来てもそうなるだろう。
「じゃあとりあえず適当に…ん?」
着替え終った美雨はまず教室を歩いて殺せんせーの授業に悲鳴を上げる生徒を探そうとした。
だがみんななんとか殺せんせーに食らいついているので、どうしようかと悩んでいると、美雨は自身の袖がクイッと引っ張られる感覚を覚える。
振り向くとそこにはどこかツンとした雰囲気を纏う速水凛香と、どこか普段よりもにやけ面に磨きがかかった殺せんせーの姿だった。
「…えっと、教えて、ほしい」
「速水さんからのご指名なのでここは美雨君に任せましょうかねぇ。…では私はこれで!!」
殺せんせーは勢いよくその場から姿を消した。消える一瞬、懐から何故かメモ帳とボールペンを取り出して。
そんな楽しそうな殺せんせーを美雨は心の中で楽しく笑いながら、速水の隣の通路側へしゃがみ込む。
「それじゃ、やっていこうか」
「…ねえ」
「ん?」
「私の事、覚えてる?」
恥ずかしいのか照れているのか、速水は頬をほんのり赤く染めながら一行に美雨と目を合わせようとしない。
そんな彼女の心情を察してか、美雨も速水の教科書を借りて先ほどまでやっていた内容を確認しながら、クスっと笑った。
「覚えてるよ。先月かな、がらの悪い奴らに絡まれてた子でしょ?あとはあそこにいる倉橋さんと矢田さんも、可愛らしい3人だったからよく覚えてるよ。制服姿だったしね」
美雨と速水、倉橋、矢田は今日が初対面ではなかった。
先月、美雨が久しぶりに依頼も無く日本の街中でふらふらしていたところ、偶然速水たちが地元のヤンチャ青年たちにしつこくナンパされている現場を目撃したのだ。
普段の美雨なら、気付かれないうちにナンパしている男どもを殺してその場を後にするのだが、ここは日本。殺しが非日常であることが当たり前のこの国でそんなことをしてしまっては後が面倒である。
暫く日本に滞在することが決まっているなら尚更だな、と殺しを諦めた美雨は、周りの人が気付いているにも関わらず一行に助けようとしないことに苦笑しながら、そのころはまだ名前も知らない速水たちと男たちの間に割って入った。
「ごめんねお兄さんら、この子達全員俺の大切な子なの。可愛くて声をかけちゃった気持ちはわかるけど、さすがに釣り合ってないから他に行って?」
「んだぁ!このくそが…き…」
速水たちを背に、笑顔で男たちを見下ろす美雨。日本の平均身長を優に超えている中学生とは思えない身長に超モデル級ルックスとスタイル、何一つ勝っているものがないと悟った男たち。それどころか、傍から見たらただ優しく微笑んでいるようにしか見えない美雨の顔を見た瞬間、男たちは自身の口にサソリや毒蜘蛛、毒蛇といった死を具現化したようなものが入り込んでくる感覚を味わった。
一気に顔が青ざめる男たち。そんな彼らの変化を、美雨は後ろにいる彼女らに見えない様にしながら、さらに追い打ちをかけた。
「おや、顔色が悪いですね?体調が悪いのなら今日はゆっくり休まれるといいですよ。休める時に休まないと、いつ壊れるかなんてわかりませんからね」
ぬるりと、男たちの首筋に当てがわれたのは、真っ赤な血に濡れたナイフだった。誰のものかはわからない、少し暖かみと重みを感じる血が首を伝う。
そのままグッと自身の首の肉にナイフが食い込みそのまま…
「「「あ、あぁぁぁぁああ!!」」」
今自分たちを襲っている感覚が果たして幻覚か現実か判断が出来なくなった男たちは、拒絶の言葉すら忘れて逃げるようにその場を走り去っていった。
「あ、あの…」
男たちの姿が見えなくなったタイミングで、後ろから声をかけられた美雨はゆっくりと振り向いた。
「た、助けてくれてありがとうございました!」
「お兄さん凄いかっこよかったです!」
「そうだね。ほんとかっこよかった」
矢田、倉橋、速水は順番に感謝を伝えてる。本当に怖かったのだろう、見えない様に隠している彼女たちの手が震えていることに気付いた美雨。いくら自分よりかは小さかったといえど、小柄な彼女たちからしたら大きく見え威圧的に感じるだろうし服装や見た目がいかつかったのもその恐怖を助長させるには十分だった。
それを理解したからこそ、美雨は他者に安心感を与えるように優しい声音で微笑みかけた。
「君たちも怖かったろうに良く我慢したね。偉いね、よく頑張りました。君たちは強い子たちだ」
美雨は彼女たちの視線に合わせて屈むと一人ひとりの頭を丁寧に撫で始めた。
彼女たちに残る不安と恐怖を振り払うように、人の温もりを体の芯に伝えさせるように、ゆっくり丁寧に。
その美雨の思いが伝わったのか、彼女たちの震えはみるみる収まり、その表情は花のように綺麗に咲いていた。
温もりが伝わりすぎたのか、彼女たちの顔がりんごの様に赤い。
それも当然だろう、彼女たちからしたら怖いところから救い出してくれただけでもときめくのに、その相手がへたしたら今までテレビとかでも見たことないぐらいの美しい容姿を持つ美青年なのだから。
顔を染めるなと言う方が無理がある。
「こんなに可愛らしいんだ。今後もこのようなことがあるかもしれない、その時は勇気を振り絞って助けを呼ぶんだよ。治安が良いと言われている日本でも、危ない場所はあるからね。人通りが少ないところには注意しときなね」
先ほどから流れるように可愛いや偉いや強い子やら、まったく相手に不快感を感じさせない褒め言葉の嵐に、まだ中学生の彼女たちは免疫がない。
照れてぷるぷる震える彼女たちの様子に、日本人のシャイさを思い出した美雨は内心苦笑するも、まあ本当に可愛い子たちだしいっか、と自己完結させた。
「ほら、学校帰りだろ?早く家にお帰り」
美雨は腕時計で時間を確認し、彼女たちに帰宅を促す。
中学生なら門限もまだあるだろう。特に女の子ならなおさらである。
そんな時、倉橋が美雨の腕を両手で掴んだ。
「ま、まだ少し時間あるの!もしお兄さんが良ければ、もう少し一緒にいれませんか?」
「そうですよ!お礼もしたいですし!!」
「もともと、このあと少しカフェ入ろうとしてたから…」
続いて矢田は美雨の腕を、速水は服の裾をそれぞれ掴んだ。
その際、倉橋は身長差もあってか上目遣いで美雨を見つめ、矢田は中学生とは思えないその豊潤な胸が当たり、速水は伏し目で目線が合わないがそのツンとした感じの、それぞれが良い具合にあざとさを魅せていた。
そんな彼女たちに美雨はというと…
(…レベル高いな、この子たち)
関心していた。いくら世界でも有数の天才殺し屋であっても美雨だって男である。いくら今までの人生で依頼の都合で数多の女性と身体を重ねてきた美雨だが、可愛い子は好きだしそういうえっちなものもむしろウェルカムである。
なんなら、このあとも前に知り合った美人女子大生と会う約束をしているし、明日からも今をときめく美人若手女優や勢いに乗っている平道アイドルの子たちとの密会予定がぎっしりである。
ここまでくれば誰でもわかるだろう。彼は表に出さないだけでガッツリ色欲魔なのだ。
『年齢?なにそれ美味しいの?お互い了承なら問題ないでしょ!!』なタイプである。
まあ美雨の見た目が中学生ではないのだから自分から身元を明かさない限り、相手が気付くことはない。
そもそも彼は殺し屋。ちゃんとした身分証等あるわけなく、そのため、美雨は普通に偽りの身分証を使って酒は飲むし、車も運転する。
そんなわけで、美雨は表と裏でまったく違うのだ。
ついでに言うと、彼の親は根っからの巨乳派だが、美雨は大小どちらもこよなく愛する両刀者というのも違いである。パーツで言うなら美雨はお尻派だ。
そんな彼が現在絶賛あざと攻撃を受けているのだが、果たしてその答えは…。
「まさかこんなに可愛い子たちからお誘いをもらえるとは、嬉しいね。じゃあまた会ったその時、君たちの時間をもらおうかな。今日は怖いことが起きたんだ、ちゃんと帰ってくれると僕は安心するな」
今は目の前の美少女よりも美人女子大生を選択。ただ、美雨が言ったように彼女たちには少なからず恐怖が生まれた。今はその精神的疲労を回復してほしいから早めに家に帰したいというのは彼の本音である。
美雨は基本的に女性に優しいが、性格の良い可愛い子には特に優しいのである。
恐怖ゆえに声が出なかったのもあるあろうが、周りに迷惑をかけたくないから声を出さないでいたことと、これ以上迷惑をかけたくないから震える手を隠そうとしたのも、美雨にとっては好印象だった。
速水たちは最初、断られたことに落ち込んでいたが、その後の言葉等で、美雨が本当に自分たちの身を案じていることに気付いていた。
特に彼女らは今現在、学校ではいろいろとひどい扱いを受けている。
その為、他者から向けられる感情には敏感なのだ。
「…じゃあ、本当に次また出会えたらお話ししてくれる?」
「ちゃんと私たちからのお礼受け取ってくれますか?」
「約束してほしい、次会ったらちゃんと受け取るって」
3人の美少女からの純粋なお願いに、美雨は笑顔で応えた。
「もちろん。その時はぜひご一緒させてもらうよ」
最後に一人ずつ頭を撫で、彼女たちを見送った美雨。見えなくなるギリギリまで、律儀に手を振る彼女たちに思わず笑みがこぼれた。
「まさか3人とも同じクラスだとはね。だからか、さっきからあそこの二人がちらちら見てきてたのは」
美雨は速水の席から見て右斜め前方に座る、先ほどから視線を送る倉橋と矢田を見ては軽く手を振る。
その様子に二人も自分たちの事を覚えていたことに気付き、ぱぁっ!っと笑顔で手を振り返していた。その流れで殺せんせーの表情もより一層にやけている。だらしなさすぎて涎が凄いことになっていた。
そんななか、美雨は気づいていた。倉橋と矢田だけでなく、彼女たちの後方に座る人物からも、獲物を狙うスナイパーの様に鋭い視線を。
もちろんその人物の事も覚えているが、それはまた後で話せば良いと判断した美雨は、目の前で微妙に口元が緩んでいる速水へ視線を移した。
「覚えてないと思った?」
「ふぇっ!?あ、だって自己紹介の時、目が合ったのに気づいてる様子なかったから…」
ぶすぅーとした表情で訴える速水。確かに美雨が自己紹介をする時、速水と美雨は目が合っていた。
鳩が豆鉄砲を食らったかのような目で美雨を見ていたのを確かに覚えている。何ならそんな感じで見ていた子がもう数人いたのも気付いている。そのうちの二名が倉橋と矢田だということも。
「あの時に言うのはなんか少女漫画感があったからね。ちょっとジャンル違いかなって思ったんだ」
「ジャンル違い?」
「ううん、何でもないよ。それよりも殺さん、その『今はそっちのジャンル展開も求めてます』ってカンペみたいなのはなにかな。楽しそうなのは良いけどさ」
「ヌルフフ、なにやら今後甘い展開が期待できそうだったので、その後押しをと思いましてね。ジャンルも何も関係ないことを伝えておきたかったのです!!」
くわっ!と眉間(らしき部分)を寄せて鬼気迫る表情をする殺せんせー。そんなおふざけムードに、クールな速水はイラっとしながらも、一番最初に解消したかったことが聞けたので、ひとまずすっきりした状態で目の前の勉強に意識を向けた。
「ね、ねえ。なんて呼べばいい?」
「んー名前が気に入ってるから、名前で呼んでくれると嬉しいな」
「…じゃあ、美雨…君」
「お、いいね。それじゃ俺は凜香ちゃん、でいいかな?」
「っ!う、うん。それでいい」
美雨に名前を呼ばれた瞬間、速水はまるで身体に大きな衝撃を受けたかのように、大きく目を見開いてはぱちくりと3度瞬きをした。
本人はいたって真剣に隠そうとしているのか、緩みそうになった口元を正そうと引くつかせている。
そんな彼女の可愛らしい姿がどこか猫を連想させ和む美雨。
「それで、どこが不安なの?」
「えっと、ここがこうなる原理がよくわからなくて」
若干だが、椅子の位置を美雨の方に近づけ自分自身もさらに椅子の端っこに座り直しながら、わからない部分を指さす速水。その行動は完全に気を許した猫のようだ。
現に席が隣の岡島は、異様に美雨と距離が近い速水を見て、『なんだこの豹変ぶり!いつものツンツンさはどうした!?あのゴミを見るような冷たいまなざし(岡島限定)をしないのか!!?』と目ん玉を飛び出して驚いている。
だが仕方ない。女の子というのはある一定の特別な感情を抱く相手にはとことん甘いのだ。
もっとも、速水自身は自分が美雨に対して抱く感情の正体にまだ名前を付けれていないのだが。
「ここね。じゃあ一つひとつ確認していこうか」
「うん、よろしく。美雨君」
いつもはクールな速水凜香。だが確かに、今の彼女は前までとは違う大きな変化をゆっくりと始めていた。
まずはヒロイン1号。
作者の最推しです。