死神の息子   作:ころころさん

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快楽の時間

糸を切られた人形のように崩れ倒れる烏間とイリーナが意識を失う寸前の最後の力を振り絞って見たのは、慈愛の籠った眼差しで見下ろす美雨の姿だった。

 

 

 

「…こういう風に声や表情以外にも、身に纏う空気を操り近づいてくる殺し屋も中にはいるので、油断は禁物ですよ?お二人とも」

 

「「…っ!!?」」

 

背後から聞こえる声と、暖かい指の温度で我に返った烏間とイリーナは、声を発することも忘れてただ本能に従って今いる場所から飛び引いた。

 

「っはぁはぁ(…なんだ今のは!?今、確かに俺はこの子に喉を掻っ切られて殺された!!血が噴き出す感覚もあったはずだ!!何がどうなっている!!!?)」

 

烏間は一気に美雨から一番遠い位置まで移動すると、片膝をつき自身の首を触っていた。全身から大量の汗を流し、床にぽたぽたと垂らしながらも、その目は美雨の全身から離さないよう全神経を巡らせていた。

 

「やはりあなたは強いですね、烏間先生。身体能力はさることながら、反射神経、危機察知能力、空間把握能力も素晴らしい。多分俺が出会った中でも5本に入るぐらいにはあなたは強い。自信もって良いと思います」

 

まるで街中にいる大道芸の芸を見て拍手するかのように、手を叩き烏間に賞賛を送る美雨。

それを真似してか、投影されているアッシュもまた拍手していた。

 

「それに安心してください。今後、俺はあなた達二人を殺すことはないですよ。例えどんなに地位の高い人があなたたちの暗殺依頼を俺に寄こしてもね」

 

「なっ!?」

 

背後からポンと肩を叩かれる烏間。振り返るとそこには烏間の目線に合わせて屈む美雨がいた。

烏間はその事実に絶句した。

なぜなら先ほど、今の場所に移動してから一度も烏間は美雨から視線を外していない。それどころか一切警戒も解いていないのだ。

 

「確かに俺はあそこにいましたよ。あなたは俺から一切目を離していない、確実に俺を見ていました。

俺の残り香(・・・)を」

 

「…残り香(・・・)、だと?」

 

「影送りって遊びありますよね?晴れた日に自分の影を見続けてその後すぐ空を向くと影が空に浮かぶあれ。今のはそれに近い技術です」

 

「……」

 

「人の眼って実は自分たちが思っている以上に情報を集めているんですよ。映像だけでなく、その人の感情や纏う空気も。ほら、時々こいつ機嫌悪いなってなんとなくわかる時ありません?親しい相手であればあるほど気付きやすくなる直感に近いやつ」

 

「……身に覚えは、ある」

 

「そうでしょう?あれは相手の情報を時間をかけてゆっくりと観て覚えたからです。その人の表情、呼吸、肉体の癖、そして目に見えないはずの感情や空気なんかも…ほら、また前の俺を観てますよ烏間先生。今はここです」

 

視覚外からトントンっと机を指で鳴らす音が聞こえた烏間は音の方へ視線を移した。するとそこには机に座り投影アッシュとなにやら遊んでいる美雨の姿。

烏間の顔色が真っ青に染まる。今もまた、先ほど同様に一切美雨から視線を外さなかった烏間。触れられている肩越しに美雨の体温を感じ取っていた為、彼が異動する素振りをすれば一瞬で気付く…はずだった。

結果は同じ。美雨はいつの間にか移動しており、烏間はそれに気づくことが出来なかった。

この時点で烏間は美雨に3回は容易く殺されていることになる。

 

「俺は移動する前に自身の存在をより強く相手に無意識のうちに意識させただけです。感情と身に纏う空気を少し強めて。その結果、纏っていた空気は俺という存在の枠組みを作り、勘定がその中身を強く満たさせ実態に近い残像を作った。あとは俺自身が脱皮するみたいにその残像を脱いで移動すればいい。大体の原理はこんなものです」

 

ありえない。それが、美雨の説明を聞いた烏間が第一に浮かび上がった感想だった。

仕組みとしては理解は出来ていた。

だが、だからと言って美雨のような完成度で出来るとは到底思えなかった。

 

「まあ原理を知ったからどうだって話なんですけどね。そんなことより、イリーナ先生には少し刺激が強すぎましたかね」

 

苦笑しながら美雨は先ほどから静かなイリーナに視線を移す。続いて烏間も、自分と同じ様に跳び退いていた彼女を見る。そんな二人の視線の先には、自身の肩を抱いてその場に蹲り、ただひたすらに迫りくる恐怖から身を守るだけで精一杯の彼女がいた。ただ、もしこの場が本当に暗殺としての戦場なら、彼女は明確に死を悟っていたのだろう。その証拠に彼女の状態はひどいものだった。

漏れる呼吸は浅く小刻みで歯をカタカタと鳴らし身体も震えている。そしてなにより、彼女の周りを温かいものが侵食していき広がっていた。

限りなく現実に近い明確な死の感覚。

世界最高峰の暗殺者は錯覚ですら対象を殺せる。様々な暗殺のスキルを巧みに使いこなしそれを組み合わせれば、直接手を汚さずとも、脳だけを殺し、植物状態にだって出来る。

烏間とイリーナが今受けたそれはそんな究極ともいえる技のほんの一欠片でしかなかった。

二人の目の前にいるあの天使のような美貌を持つ青年は、戯れ程度で人を壊せる、天使の皮を被った死神そのものなのだと、烏間は確信した。

それと同時にイリーナの反応も無理がないと思っていた。

誰だって死を目の当たりにすれば、体の制御など効かないことぐらい軍人の烏間ですら知っているのだ。

俯いていて表情の見えないイリーナの顔から、涙がぽつぽつと流れては、恐怖で溢れてしまった自身の体液に波紋を作って融けていった。

果たしてその涙は、思わず失禁してしまったことによる羞恥か、明確な死を目の当たりにしたことによる恐怖か。

どちらにしろ、彼女の心に酷く傷が刻まれたのは確かだった。

 

そんな彼女を、美雨は以外にも評価していた。

いくら戯れ程度と言っても、殺気は殺気。そこらの殺し屋に同じようなことをすれば、あまりの恐怖に泡を吹き出しながら意識を刈り取られるだけで、あのように精一杯の回避行動をとるころは出来ないだろう。

それを、イリーナは今でこそ戦意を喪失しているが、確かに一度は美雨から距離を取ったのだ。

その胆力に美雨は賞賛していた。

 

だからだろう。

 

超が付くほどの女好きであっても、綺麗好きな美雨は本来ならそういった行為中でもない限り他人の体液に触れたいとは思わない。それこそ自身が心の底から気を許した相手でもない限りは絶対に。

そんな美雨が、自身のズボンが汚れることなど気にも留めず、今だ震えるイリーナの前に膝をつきそっと優しく頬を両手で包んだ。

 

「すみません、イリーナ。少々おふざけが過ぎました」

 

顔を上げさせ、彼女の瞳を覗く。そこには恐怖で生気を失っている虚ろな目をしていたイリーナが、ただ震えるだけの人形と化していた。

 

「心が死にかけていますね。抱いた恐怖や絶望、明確な死のイメージが大きすぎて生への渇望が無くなりかけている。こういう状態は長くても数日で心が死に、自殺を図るケースが多いんです。ちょうど前に女子高生が学校でいじめにあっており、飛び降り自殺を図った子がいました。調べたところ、日本は若者の自殺が多いようですね。現に俺が日本を拠点にしてから1年ぐらいですが、既に数十回は自殺志願者を目の当たりにしました。彼女の眼はそう言った方々と同じなんです」

 

美雨は烏間にも見えるように自身の立ち位置を横にずれた。

そこで初めて烏間はイリーナの表情を見る事が出来たのだが、見た瞬間彼の身体に衝撃が走った。

 

「(あれが本当に彼女なのか?!戦意を失っているどころか、あの目は死体と同じだ。瞳に光がない。鈍く曇った、機能を失ったものだ。…確かにあの状態では長くはもたないだろう)…彼女をもとに戻せるのか?」

 

烏間は彼らしくもなく僅かに震えた声で尋ねた。

 

「それはもちろん。そもそも彼女はまだ死んでいません。心が死にかけ(・・・・・・)ているだけです。世界中の精神科が彼女のこの状態を見れば、何もできず無力に手を挙げるだけでしょうが、俺は違います。

少なくともこれまでこの日本で出会ってきた自殺志願者を見殺しにしたことはありません。そうだ、一度日本政府に聞いてみて下さい、近頃の若者の自殺数を。きっと今までより幾分かは数値が減っているんじゃないですかね」

 

クスクス笑いながら、美雨は一度イリーナの頭を撫でる。それはまるで病で伏せる我が子を案じる母親のように、優しくゆっくりと。

 

「わかりやすく言えば、今の彼女は生を諦めかけているんです。俺から与えられた幻想の死を目の当たりにして。

なので彼女を助ける方法はいたって単純、生きる喜びを感じてもらえばいいんです。生存本能を刺激するでもいい、ただ自分は今生きていて、死ぬなんて勿体ないと気付かせればいいんです。それにならって一番早いのは、自己肯定感を上げてあげるのが効果的です。例えば…このように」

 

美雨は再度イリーナの頬を包み視線を上げさせると、彼女の形のいい子ぶりな唇に自身のを重ねた。

最初はゆっくり、唇を優しく包み込んでは刺激させるだけに抑える。絶妙な力加減で行うそれはキスというよりもマッサージに近いだろう。

相手の呼吸に合わせて角度を変え全神経を口先に集めさせる。

それに合わせて、頬を触れていた手を移動さえ、彼女の頭や髪はもちろん、首、背中、鎖骨、胸、腕、指先、腰、腹、太もも、足先、全身くまなく触れていく。相手の身体全てを認めるように、求める様に優しく丁寧に熱を込めて。

全神経を口先に集めているはずなのに、全身のいたるところから温かい熱が送られて、だんだんと脳がパニックになっていくイリーナ。死にかけていると心が決めつけていても、全身から伝達される情報に脳が「なんなら今めちゃくちゃ気持ちいい状態やんけ!!」と否定している。

次第に無駄な力が抜け口が開くイリーナ。すると美雨はそんな彼女の口内に自身の舌を這わせた。自己紹介でやった時と同じ口内のツボを舌で刺激しながら、じっくりと熱を伝染させていく。

イリーナは徐々に絡む唾液の味が味覚によって感じ取れるようになっていた。

それはただひたすらに甘かった。

ドロドロに溶けたチョコレートの様に、口内を満たしそして溺れていく。

イリーナの全身の震えが次第に治まっていく。

その好機を美雨は逃さない。

今までイリーナのペースに合わせていたものを、わざと崩し、少し荒く攻めに転じる美雨。

まるで相手を求めているのは美雨だったかのように、荒く情熱的に、お前は俺の女だと深く刻みこませるように。

 

欲しい欲しい欲しい。

 

ただ貴女が欲しい。

 

決して言葉に出さず、けれどどうしようもなく私は貴女を求めていると伝わるように。

貴女の瞳越しでしか世界を観る事は出来ず、貴女の肌越しでなければ熱を感じ取ることが出来ず、貴女の身体越しでしか匂いを感じる事が出来ず、貴女が隣に居なければ私は生を実感することが出来ない。

 

だからどうか生きてほしい。

 

私の為に。

 

 

言葉を交わさずとも想いは届くものである。

それは行動という形になって、相手の意識の深いところまで浸透する。

美雨が今行っているのはそういうものだった。

 

自分は誰かのためになっている。

誰かが自分を必要としている。求めている。

独りじゃない、一番の理解者はここにいる。

 

人が一番自己肯定感が上がる瞬間は、他者に認められた時である。

そしてその【認められる】というのはとても範囲が広い。

ただ存在を認知されるというだけでも当てはまり、他にも存在を褒められることや求められること。そして認められた先にあるのは依存である。この人は自分なしじゃいられない、自分なしじゃ生きられない。

明確な上下関係を確立して初めて、自分は自分を認める。

 

一流の暗殺者は他者をそう誤認させることが出来る。

 

だが、今回のイリーナに関しては少し違う。

彼女がこうなってしまたのは単純に明確な死を体感したからだ。

自分が生きているという感覚を失いかけている状態。

ようは心の仮死状態だ。

では心の仮死状態をどう戻すかだが、答えは簡単だ。

 

生存本能を刺激し、生の喜びを教えればいい。

人間が最も生を実感できる瞬間の多くは欲求を満たした時である。

では、人間が持つ欲求の中で最も脳への刺激が強いのはなんだろうか。

 

睡眠欲は今の彼女には刺激が弱い。

 

食欲は確かに脳への刺激は強いが、それでもまだ弱い。

 

最も人間の脳を刺激する欲求、それは性欲である。

人は性欲を見たそうと行為を行っている最中、脳に様々な変化を与える。

代表的なドーパミン(気持ちいいと感じる正体)やセロトニン(幸せホルモン)などだ。

性欲からなる性行為が起こす快楽というのは、簡単に人の脳を支配する。

正常な思考がままならなくなるそれは正しく人間の脳を侵す猛毒といっても良い。

 

世界最高峰の暗殺者はあらゆるスキルを有している。それはこういった性行為に該当するものも当然当てはまる。いくら中学生の子どもだろうと、世界の頂きに立つ暗殺者である美雨のテクニックは、恐らくこの世界にいる人間の中で彼に並べるものはいないだろう。

もっとも、それを比べる事は不可能なので答えは誰にもわからないが。

 

美雨と口づけをするイリーナの身体が、一度大きく跳ねた。

まるで電気ショックを受けたかのように、全身が浮き出すほどの反応。

びちゃっと床に広がる体液が跳ねる。

 

(…来た)

 

先ほどまで力の抜けていたイリーナが、一度身体を跳ねさせた直後、ガバッと勢いよく美雨の首に腕を回し、まるでもうどこにも離さないと言っているかのように、抱きしめながら無我夢中で美雨の口内に舌をねじ込ませた。

 

『イリーナの心が息を吹き返した反応ですね。美雨によって引き起こされたたった一度の絶頂が彼女の脳に大きな刺激を与え、意識を浮き上がらせました。今の彼女は、ただ目の前の快楽を一心不乱に求めている状態ですね。

もう2,3回ほど絶頂を迎えれば、先ほどの死のイメージも一時的に忘れ正気に戻るでしょう。

もっとも、その快楽に依存してしまえば彼女はもう美雨から離れる事は出来ないでしょうが』

 

いつの間に着替えたのか、投影されているアッシュの姿が先ほどまでのメイド姿ではなく、黒装束にサングラスをかけて席に座り、目の前の机に肘をついて口元を隠すようなポーズを取っていた。

烏間はそんなアッシュに頬を引きつる。

 

その間にイリーナの身体がもう一度跳ねた。

次第に甘く熱っぽい声が彼女の口から漏れ始めた。

そしてすぐにもう一度彼女の身体が、今までにないほど大きく跳ね、くたぁっとイリーナが美雨にもたれかかった。完全に気を失ったのだろう。

 

「さすがハニートラップを武器にする殺し屋ですね。思ったよりも時間が掛かりました」

 

『口づけを初めて27秒で気絶。過去最長記録ですね』

 

「気絶も浅めだからすぐに目を覚ますね。烏間先生、彼女を医務室で寝かせますね。今日は俺が教室で出来ることは少ないので、目を覚ますまでは俺もそっちにいます。アッシュ、悪いけどここ掃除しといて。あと俺と彼女の着替えを送っといて」

 

『了解。到着はおよそ10分後になります』

 

「助かる。それじゃ烏間先生、行きましょうか」

 

「…ん?俺もか?」

 

「この前ここの医務室を拝見したらなかなか良い物が揃っていました。まだ世間に出回ってない即効性の薬品を調合できますので、それを烏間先生にお教えしますよ。きっと今後の仕事で役に立ちますよ」

 

美雨は気を失ったイリーナの体勢を一度変えると、烏間からは見えないよう角度に気を付けながら一瞬にして汚れたスカートや下着を脱がせると、自身の制服のジャケットを彼女の腰に巻き付けそのまま抱きかかえた。

その姿はとても様になっており、一つの絵画のように見える。

イリーナの衣服はお世辞にも綺麗とは言えない状態なのにも関わらず、それを嫌な顔せず丁寧に畳んだ状態で軽く指に引っ掛けながら、今の部屋を後にした。二人が移動を開始した事を見計らってアッシュは自ら汚れた床の方へ向かった。

すると、アッシュの一部がにゅっと伸びるとその先からシャワー状に何かの液体が撒かれる。

 

「…それは何か尋ねてもいいか?」

 

『もちろん。こちらは完全除菌消臭分解の薬剤です。原理などは省略させていただきますが、これを撒いた場所は血痕や指紋、僅かな匂いといったあらゆる情報が綺麗さっぱり気化され完全に消える便利なものです。便利液体とでも思っていて下さい』

 

アッシュの若干適当な説明を終える頃には、先ほどまで池が出来ていた床はまるで何もなかったかのように、綺麗さっぱり消えていた。

その光景に、烏間は苦笑しながら、美雨に対して常識は求めない方が自分の心のためだと判断した。

そしてそのまま美雨たちのいる医務室へ向かって行ったのだった。

 

 

 

 

「…これは凄いな。一瞬で出血が止まった」

 

「塗った場所の細胞を活性化させて回復力を上げてるんですよ。明日には傷口がぴっちり閉じてるはずです。ただ、周りの肌が急激な栄養不足で凄い乾燥しますので、過剰に保湿をしておいた方がいいですよ」

 

イリーナが医務室で寝ている間、美雨と烏間は美雨が調合した塗り薬の効果を体験していた。

烏間は自分の腕に数センチ切り傷をつけて薬を塗ったのだが、そのあまりの即効性に驚いている。

 

「よくこんな調合ができたな。混ぜ合わせたこれらの成分は本来一緒にするのは危険なはずだ」

 

「確かにその二つだけを混ぜ合わせると毒性の強いガスを発生させますけど、この薬品も一緒にさせると、別の化学反応をするんですよ。今の医学は昔ほど人体実験が出来ないのでこういった軟膏系の発展が遅れているんですよ。報酬次第では日本政府に教えてあげても良いですよ?報酬次第(・・)ですが」

 

どこか悪い笑みを浮かべる美雨に烏間は真剣に悩んでいた。目の前で実際に視たこの薬の効果は、烏間にとってかなりの衝撃だったからだ。即効性もさることながらそのコスパの良さが医学に疎い烏間ですら理解できるほどだったのだ。そういったオリジナルの薬が他にいくつもあると言うのだから、目の前の少年が改めて世界最高の殺し屋だということを思い知った烏間。

むむむっと難しい顔を烏間がしてはそれを楽しそうに眺める美雨。

そんな面白い雰囲気に満ちた医務室に、コンコンッと扉が鳴った。

 

「…えっと、美雨君と烏間先生とイリーナ先生いますか?」

 

恐る恐る医務室の扉を開けたのは、E組生徒の潮田渚だった。

 

「渚君、どうしたの?もうそろそろお昼休みかな?」

 

「あ、ううん。殺せんせーが僕たちを校庭へ出るように言ったんだけど、三人も出来れば来てくれって」

 

どこか戸惑いながら説明する渚。烏間も疑問に思いながらも一足先に校庭へ向かおうと立ち上がった。

 

「俺は先に向かってる。美雨君はイリーナを起こしてから来てくれ」

 

「わかりました。それじゃ、あー渚君少し離れててね…おーいイリーナ先生起きてください。殺さんが皆をお呼びらしいですよー」

 

烏間が先に出ていく中、美雨は医務室の部屋にあるベッドで眠っているイリーナの肩を軽く揺すった。

 

「んぅ…なぁに」

 

「おはようございます。イリーナ先生、よく眠れましたか?」

 

美雨は寝起きで目を擦るイリーナを上から覗くように見下ろす。彼の顔を見た瞬間、眠気眼だったイリーナの目が徐々に開くと、奥から沸々と湧き上がる感情に支配された。

 

「いやぁぁぁぁあああ!!!」

 

「意識は戻ってるね。なら後はさっきの快楽を思い出してもらえば大丈夫そうだね」

 

医務室に響き渡るイリーナの悲鳴。突然の出来事に渚はただ驚愕していた。

対して美雨は特に驚くことなく、イリーナの状態を冷静に分析しながら彼女のベッドに乗ると、そのままイリーナの唇にキスをした。

その時間わずか3秒。その間に二度身体を跳ねさせたイリーナは、美雨の口が離れると軽く痙攣を起こした。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「うん、大丈夫そうだ」

 

(本当に大丈夫なのかなっ!?)

 

ベッドの上で淫らな姿のイリーナを見た渚は頬を赤らめ心の中で強くツッコむを入れた。明らかに大丈夫ではないし、なんならこの光景を見たら人によっては出血多量で死ぬのではないだろうか。主に岡島という名の生徒が。

渚の脳内で起こる可能性の高い映像が鮮明に流れた。しっかりと岡島は鼻と口から血を噴き出しながら死んでいた。

 

「…美雨君、ビッチ先生大丈夫なの?」

 

「あぁ大丈夫だよ。軽く気持ちよくなっただけだから。すぐに冷静になるよ」

 

「はあっはぁ…ここは」

 

「ね?じゃあ俺はイリーナ先生と一緒に向かうから渚君は先行ってていいよ」

 

「あ、うん。それじゃお言葉に甘えて先に行ってるね」

 

渚はチラチラと心配そうな視線をイリーナに送りながらも医務室から出ていった。

 

「ふふ、初心だね彼。見た目が可愛いだけに惜しいね、女の子だったらよかったのに。そしたら良い後継になれたのに、ね?イリーナ先生」

 

美雨は渚が部屋を出るまで手を振り、彼の姿が見えなくなったタイミングで隣で布団で顔を隠すイリーナに視線を移した。

 

「…あんた、私に何をしたの?確かに私はさっきあんたに殺されたはず」

 

「それは脳の錯覚だってわかってますよね?現に今こうして生きてますし」

 

美雨は布団の中に手を入れ、イリーナの首筋をそっと撫でる。その手にビクッとするも素直にその手の感覚を辿るイリーナ。美雨の手がどこにも引っかからないことから、自身の首に何の異常もないことを理解した。

 

「…というか、なんで私は下半身丸出しなのかしら。あんた寝ている間に変なことしてないわよね?」

 

「変な疑いはやめて下さい。それは貴女が恐怖でお漏らししたので、そのままでは風邪を引くと思い脱がしたんですよ。もっとも身体は吹きましたよ。赤ちゃんみたいだったので綺麗に拭き取れました」

 

「余計なこと言わんでいい!!!てかお前のせいだろうがっ!!!!」

 

「お漏らししたのはそっちでしょう。それに今のお漏らしは完全にあなたの落ち度ですよ。気持ちよかったですか?」

 

クスっと悪戯っ子っぽく笑う美雨。そんな彼の表情を見て顔を真っ赤にしながら、イリーナはバッと布団を上げて中の状態を見た。その光景にぷるぷると身体が震えている。

 

「あんた本当に私の身体に何をしたの」

 

「端的に言うと、心が死にそうだったので快楽で気持ちよくさせて生きてるって最高だね!って思わせたんですよ。思い出せるでしょ?」

 

イリーナは美雨の説明を聞いてこれまでの記憶を遡る。そこには確かに恐怖で心を殺されかけ、そこから美雨とキスをして今まで感じたこともないほどの快楽を感じ、そこで意識が一度切れたことを思い出した。そしてたった今もただの数秒のディープキスだけで自分の身体の全てが支配され、気持ちいいという感覚しか感じられなくなり、我慢が出来ずに…というのも思い出すことができた。

思い出すことが出来たことはよかったが、自分の身体に起きている変化に気づいたイリーナはただ戸惑っていた。

 

「(身体が熱い…まるで訓練生時代に誤って媚薬を飲んだ時みたい。明らかに発情してる…こんな無意識なんて今までなかったのに…)あり得ないわ、こんなの」

 

「ああ、発情してるのがですか?確かに貴女ほどの殺し屋が無意識に発情するのは困惑しますよね。他の方もそうでした」

 

腕を組みうんうん頷く美雨。

 

「今のあなたの脳には俺の匂い、熱、唾液の味など様々な情報が深く記憶されています。明確な死のイメージを体験してから急に最高の快楽を感じたんです。快楽を感じた時の情報が脳に深く刻まれるのは当然。

要はですね、イリーナ…」

 

美雨は説明している途中で今着ているシャツのボタンを上から3個まで開けると、再度イリーナに近づく。今度はキスをするとかではなく、軽く抱きしめる程度。ただ、美雨の首筋にイリーナの顔が埋まる形になっている。

突然の美雨の行動に困惑するイリーナだったが、すぐに自身の変化に気づいた。

 

「っ!?な、なによこれ!!?身体の熱がっ急に!?」

 

「俺の匂いが嗅覚を通して脳に直接刺激を与えたんでしょう。良かったですねイリーナ、これで貴方はいつでも身体が発情状態になれますよ。…なんだかウサギみたいですね」

 

イリーナの耳元で囁く美雨の声音は心底愉快そうに弾んでいた。するとそのまま美雨はイリーナの耳をパクっと甘噛みした。

 

「ひぁあんっ!!」

 

「すでに発情状態の身体はいわば全身性感帯です。それに加え耳のあるツボを押すと、その状態をさらに上げてくれるので、覚えておくと今後の仕事で役立ちますよ」

 

肩で息をするイリーナを眺めながらも、空けたボタンを占めて立ち上がる美雨。そのまま医務室の机に向かうと、綺麗に畳まれた衣類をイリーナのベッドの隣にある椅子に置いた。

 

それじゃもうそろそろ校庭に行きましょうか。そこのベッドはあとで綺麗にしておくので、イリーナ先生は自分で身体を拭いて綺麗にしてからそれに着替えてくださいね」

 

それとも俺がまた拭いてあげましょうか?っと笑顔で尋ねる美雨に、イリーナは顔を真っ赤にさせた。

 

「い、いいわよ!こんぐらい自分で拭けるわよ!この歳になってまでそんな赤ん坊みたいなことされたら恥ずかしくて死ねるわ」

 

「それをさっきされてたんですけどね。大変でしたよ、拭いても拭いてもその刺激でまた噴き出すんですもん。下半身の筋肉が衰えているのでは?」

 

「やかましいわ!!!」

 

枕を思い切り美雨に投げるも、それをすんなりキャッチしては机に置いてそのまま机に突っ伏す形でくつろぐ美雨。ジトッと彼女を見るその眼は、とりあえず早く準備して、と訴えていた。

 

「…ちょっと、そんなまじまじと見られたら流石の私も恥ずかしいんだけど」

 

「別にさっきも見ましたしなんなら触れてましたしね。減るもんでもないでしょうし、さっさと早く着替えて下さいね。それとイリーナ先生、少し香水強すぎますよ。香水は強すぎると匂いが残りやすいので暗殺には不向きですよ。それに貴女ほど整った容姿ならそこまでメイクを濃くしない方が今の数倍は綺麗になりますよ。

今度教えてあげますね」

 

「良いから一旦目を逸らせっ!!!」

 

イリーナの怒声が校舎に響く。それからすぐに彼女は着替えを済ませて二人は校庭へ向かった。

どうやらE組の生徒たちが自分たちには暗殺があるから勉強はほどほどで良いとか言ったのだろう。

暗殺の他に自信を持てる力を持とうとしないE組生徒たちに殺せんせーは厳しい言葉を送った。

 

第二の刃を持たざる者は、暗殺者を名乗る資格なし

 

目の前の大きな報酬に目を眩ませ、自己成長を疎かにしている今のE組には痛い言葉だろう。

学校内で劣悪な仕打ちを受ける彼等からしたら、今ある暗殺教室というのは人生を大逆転させるチャンス。

だが殺せんせーが放った言葉はそのチャンスを根底から否定するようなもの。

暗殺を失った彼らに残るのは、今まで通り【エンドのE組】という劣等感だけだ。

それを気づかせるために殺せんせーは皆を校庭に集め特別授業を行ったのだ。

 

そして殺せんせーはある条件を持ち出した。

 

 

明日の中間テストでクラス全員が50位以内を取ること。

 

 

暗殺以外の第二の刃を殺せんせーによって鍛えられたE組(彼ら)なら達成できるだろうと。

出来なければ、殺せんせーは自分を殺せるに値する暗殺者はこの校舎にいないと判断し、校舎を平らにしてここから去るという。

 

そんな無理難題の話にE組一同は息をのんだ。

そんな彼らの心情を察してか、殺せんせーは不敵な笑みを浮かべてエールを送った。

 

 

「自信を持ってその刃を振るって来なさい。仕事(ミッション)を成功させ、恥じる事なく笑顔で胸を張るのです。自分達が暗殺者であり…E組である事に!!」

 

 

E組に課せられた重要任務。彼らのこれまで暗殺教室(ここ)で培ってきた経験が今試される

 




まずい…このままだとビッチ先生がヒロイン化してしまう…
というか美雨君のエロ展開を駆けるのがビッチしかいない…
恐るべしビッチ…

ということでもしかしたらヒロインに加わるかもしれません…
すまない烏間先生
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