海蛇   作:ムンムン

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話中の解釈云々に関しては、ふわっとした理解でお願いします。作者は別に、戦史が好きという訳でもありませんので
















 インド、ナバ・シェバ港。

 開港して日の浅い港ではあるが、そのコンテナ取扱量はインド国内でも最大級。

 特に、北部の工業地帯の玄関口にもなっているこの港にHCLIの貨物船もまた今回入港していた。

 

「飯は当たり外れがあるが、まあ旨い方だ。ただ、衛生面の保証はねぇな。下手な物食って腹下さねぇように気を付ける位か。まあ、ソマリア出身なら問題ねぇだろ」

「ご飯……何が、美味しい?」

「ん?そうさな。お国柄、クソ甘い揚げドーナツの缶詰とかがあるぞ。シロップ漬けにしてあってな。後、紅茶なんかにもガンガン砂糖をぶち込む」

「甘い?」

「滅茶苦茶な。何であんな甘いんだっけ?」

「え?そうっすね。そもそも、甘味料もとい砂糖漬けは保存食の為の技術なんですよ。ジャムなんか顕著じゃないですか。暑い気候で食べ物が傷みやすいからこそ、保存の技術に砂糖を使ってるんです。後は、エネルギー補給とかもっすね」

「紅茶もか?」

「そっちは、イギリスとの貿易関連の結果って話がありますよ。何でも上等な茶葉は持ってかれちまうから、屑の葉でも美味しく飲むための努力の形って話です」

「ほーん」

 

 煙草の灰を落としながら、気の無い返事。

 自分で聞いたくせに興味のない態度に、やれやれとPMCの一人は首を振った。

 そして徐に自分を見上げてきていたスーの頭に手を置いた。

 

「まあ、生活の知恵だな。因みに、インドは武器輸入量がかなり多かったりする。相手は、ソ連含めた東側諸国が主だ」

「なんで?」

「幾つか理由がある。一つは、技術力不足。戦車や戦闘機なんかを組み立てるのは相応の金属加工技術が必要になる。その他にも、戦闘機に乗せるレーダーや、そもそものジェットエンジンなんかは技術の塊だ。それらを作る術がまだまだ未発達。だから、他所から持ってくる」

「ん」

「二つ目は、対外的な脅威に対する防備。仮想敵、もといバッチバチにぶつかってるのはお隣のパキスタンだな。ただ、その他の周辺国とも仲が悪い」

「?どうして?」

「大きいのは、宗教関連の弾圧かな。後は歴史的関係。急激成長による他国への内政干渉なんかもあるか。とにかく、自衛するために兵器を求めたんだな」

 

 二度の大戦を経て、大きく発展した軍需産業。

 世界は銃火器に溢れており、身を守る為に武装する事はある種当然の帰結でもあった。

 教師役のPMCの言葉に頷きながら、スーは周囲へと視線を向けた。

 貨物船の周囲には、他社の貨物船やタグボートが浮かんでおり、ガントリークレーンがコンテナの積み下ろしを行っている。

 

「じゃあ、他のコンテナも、武器?」

「んー、どうだろうか。今回の社長の仕事は武器の売買だろうけど、それだけじゃないからね」

「?」

「良いか、スー。俺達のボスは武器を運ぶ。でもな、運ぶ荷物と運ぶ先が無ければこの仕事は成立しない。だろ?」

「うん」

「その品物と、売る相手を探すのもこういう港に着いた時にするのさ」

「へぇー……」

 

 砂が水を吸い込むように、スー・アイマールは僅かな期間で大きな成長をみせていた。

 聞き取りは、ほぼ完ぺき。発音に関しても少し詰まる事はあれども、コミュニケーションには何ら支障はない。

 加えて、高い身体能力を活かした白兵戦技能と隠密潜入の能力に関しても大きく伸びていた。

 

「――――レーム」

 

 いつの間にか、影より現れていたフロイドがそこに居た。

 呼ばれたレームは、咥えていた煙草を指に挟んで振り返る。

 

「何です、ボス」

「ソレが使い物になったのかを見るとしよう」

 

 そう言って、温度の無い無機質な目がスーへと向けられた。

 明らかに人扱いしていない物言いだが、現状フロイドにとってスー・アイマールという少年は元海賊の拾い物でしかない。

 

「ソレを含めた四名の部隊を組んでおいてくれ。目標は、文書の確保とターゲットの暗殺だ」

「了解。チェキータを隊長に回しても?」

「君に任せよう。追って、詳しい指示を出す」

 

 一方的にそれだけ言って、フロイドは艦橋へと引っ込んでしまった。

 ボスの姿が消え、この場に居合わせる事になったPMCは大きく息を吐き出した。

 

「ッ、はぁ~~~…………社長は相変わらず神出鬼没というか、何というか……」

「へっへ、まあそういう人ってこったな」

「そういえば、部隊はどうするんです?隊長。チェキータさんを隊長に据えるって話でしたけど」

「スーの実地試験みてぇなもんだし、こっちとしちゃなるべく万全を期して臨みたい」

 

 撫で心地の良い小さな頭の上に手を置いて、レームは煙草を咥える。

 フロイド・ヘクマティアルは生粋の商人だ。その指針は、常に己の損得勘定を主軸に据えてある。

 そんな彼から齎される任務は、護衛だけに留まらない。無論、本業は護衛だ。レームを隊長兼社長としたPMCの役割はフロイドの盾であり、そして矛でもあるというだけで。

 レームの懸念は、場所の悪さにあった。

 

(インドだからな)

 

 急速発展と共に、多くの軍需物資を輸入している国。

 元々宗教対立を経て独立分離したパキスタンとは緊張状態。そこに、劇薬同然の知識が放り込まれているというのはある程度国際情勢に知見があれば大抵の人間は知っている事だった。

 兎にも角にも準備は必須。

 

「よーし、行動開始。死なねぇ程度に頑張ろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒れた道を一台のランドクルーザーが駆け抜けていく。

 

「暇ねぇ」

 

 助手席に座り、窓枠に頬をづえをついたチェキータ。

 車内に居るのは、五人。ドライバーの交代要員を含めての人数だった。

 

 目指すのは、ポーカラーン。ラージャスターン州に存在する街の一つであり、同州のウダイプルへと国内線で移動。そこから車で一般道を通り侵入するルートを取っていた。

 数時間のドライブだ。途中の休憩を挟みつつ、目的地を目指す。

 

 今回の彼らの任務は、ポーカラーンに存在する核兵器実験場への潜入。

 隣国パキスタンと並んで、インドの核開発は有名な話だ。

 時は、1974年。最初の核実験が、先のラージャスターン州で行われた。同時期の1970年代にはパキスタンでも同じく核実験を始めており、広大な砂漠と国境線を接するラージャスターン州での核実験は相応に勘繰りたくなる行動だ。

 因みに、インドが核兵器開発に着手した要因の一つには、中国が関わっていたりする。

 中印国境紛争による敗北と、その後の中国が核兵器を開発成功となった結果、インドも負けじと始めてしまったのだ。

 

 三列目のシートに座って窓を眺めていたスーは、ふと何かが気になったのか前の席に座るPMCたちの間に顔を出した。

 

「何で皆、核兵器が欲しい?」

「んお?急にどうしたよおチビちゃん」

「核兵器か。欲しい、というよりも自衛という建前が強いだろうな」

「たてまえ?」

「ようは理由さ。あの国が核を持ってるから、うちも抑止力の為に持っておく。みたいな?」

「その最たる例は、冷戦だな」

「れーせん」

「第二次世界大戦が起きてから、それでも世界から戦火がなくなった訳じゃない。その一つが、アメリカとソ連の直接ぶつかり合わない冷たい戦争だ」

「つっても、悪影響ばかりじゃないんだぜおチビちゃん。戦争は技術が大きく発展するから、その後の時代では色んな発明品が生まれてる。ロケットなんかその最たるものだろ」

「元はミサイルの技術だ。それで行くと、飛行機や船も該当するな」

「後は、バイクとか?通信技術やレーダーとかも?」

「皮肉な事だ。殺し殺され、如何にして敵を叩きのめすかを追求した技術が、今度は人を全く別の領域へと連れていくんだからな」

「???」

 

 目を点にして首を傾げるスー。そんな少年に、PMCの片割れは笑みを浮かべてその頭を撫でた。

 

「なっはっはっは!で、核兵器な。先ずはアメリカ。そのアメリカをライバル視するソ連。ソ連と近くて警戒し、第二次大戦ではアメリカからの援助を受けていたイギリス、ついでフランス。その後は、中国だっけか」

「皮肉な事に、国連の常任理事国が揃って核を手にした事になる」

「…………なんで?」

「状況的に可能だったから、としか言えんな。第二次大戦で戦勝国となった国々を止められるような国は、最早残っていなかった。そんな状況で、世界一の軍事力と工業力を持っているアメリカが核を実戦運用可能な状態で保持しているとなれば……な?」

「頭を下げるなんて誰も出来ないからね。だったら、自分達も同じ力をもって対抗するって事さ」

 

 人間の欲というのは底知れない。権力者ともなれば、その規模は一般人の比ではない。

 まだまだ少年の知らない深い世界は広がっているのだった。

 

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