前世でヤンデレ妹に人生をめちゃくちゃにされた俺。トラウマを糧に最強になったがあいつはまだ諦めない   作:エアハンター

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第30話 それぞれの戦い

 ゲートに到着するまでは10分とかからなかった。

 空中から見下ろす光景に思わず舌打ちする。ゲート周辺には多数の魔力反応。明らかに異常な魔力濃度で空間が歪んでいた。

 

「やっぱりココが原因か」

 

 中を覗いてみると、空間の中にいるのは軽く数百匹以上の魔獣群。

 普通のゲートとは異なり亀裂が入り、そこから魔獣達が次々と流れ出てきていた。

 

「これは、完全にバグってるな……」

 

 魔獣が一匹ずつゲートの外に出ようと出口付近で渋滞している。

 ゲート内の魔力濃度が外部に漏れているのもそのせいだろう。どう考えても自然現象じゃない。

 

「っても、封印のやり方なんて知らないしな。力ずくでいくしかないか」

 

 亀裂から魔獣が溢れ出るなら、その全てを叩き潰すしか方法はない。

 街でやるには被害が出るが、ゲート内ならば範囲攻撃も気にしなくて済む。幸い、ほとんどがC級やD級の雑魚だ。一撃で殲滅できるだろう。

 

「お前らに恨みはないんだが……」

 

 ゲートの裂け目から右上を睨みつけ、右手をかざす。

 魔力を限界まで圧縮し、俺は魔力波動を放出。

 

 それはゲート中の空気を震わせ、魔獣達を瞬時に消滅させていく。

 抵抗する間もなく塵となっていく様は、こっちが申し訳なくなるほど一方的だった……。

 

「問題解決とまでは行かないが、応急処置程度にはなるだろ」

 念の為、ゲートの前に数分程佇み増援が来ないか確かめる。

 

 魔獣の咆哮が途絶え、静寂が訪れた。

 

「よし、とりあえずこれで一息つけるか……」

 

 俺は再び空中に舞い上がると眼下を見渡す。

 街の各地では魔獣と戦う騎士や冒険者たちの姿。その中には、セレニテスの面々も含まれていた。

 

 まず目に入ったのはデイモンとレックス。中央広場で倒壊した瓦礫を撤去し、怪我人の救護に当たっている。手際の良さと的確な判断力は流石だ。

 

 次に見つけたのはカナデだった。城壁の傍で自慢の剣術を披露している。

 巨大な狼型魔獣の首を一刀両断するさまは見事の一言に尽きる。どうやら俺の気配に気づいたらしく、魔力剣を一時的に消して両手を振ってきた。

 

「……あいつ状況わかってんのか」

 

 思わず苦笑いしながら一応手を挙げておく。

 すると満面の笑みを浮かべるカナデの横を魔獣が襲うが、何とか回避して再び戦闘に戻っていった。元気なのは良いが流石に無茶し過ぎだ……。

 

「さて次は……」

 

 ミリウスは離れた場所でAランクと思われる魔獣を魔力糸で拘束している。

 決定打にはなっていないが、住民の避難時間を稼ぐには十分だろう。

 Aランクとなればカナデ達では荷が重い。やはり実力派として頼りになる存在だ。

 

 他にもこの国の騎士団や冒険者が必死に戦っていた。

 ギルド調査の件は思う所もあるが、命がけで国を守ろうとする姿勢には素直に敬意を表すべきだろう。

 

「まあ、手伝ってやるか」

 

 俺は両手を広げつつ、体内に魔力を集中させる。

 空中から魔獣たちに向かって高出力の魔力弾を次々と射出。命中すると爆発と共に敵が消し炭となる。

 かなり手加減しているが、街には影響が出ない程度の威力には調整している。

 

 このまま続ければ30分もせず魔獣共は壊滅だろう。だがその時になって気になる事が一つ浮かんだ。

 

「……あの教官様は何処に行った?」

 

 フレイアの姿が見当たらない。

 カナデ達の手際の良さからも彼女が命令を出したと推測出来るが、肝心の本人の姿がない。

 指揮官として学校に残ってる可能性もあるが、彼女の性格から考えると怪しい。

 

「思い違いならいいが……」

 

 俺は真下の魔獣の処理を続ける。

 気にはなるが、フレイアなら自分の身くらい守れるだろう。それに、今俺が动くわけにもいかない。

 一抹の不安を抱えながら、俺はフレイアを探しつつ無事であることを祈るのだった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 人気の無い裏路地をフレイアは一人駆けていた。

 脇目も振らず、ただひたすらに走り続ける。

 

「おかしい……何処にもいない」

 

 国王である父を探し続けているが一向に見つからない。

 通常の警備体制ならば本拠地に戻っているはずなのに。騎士団に問い合わせても所在不明の一点張りだ。

 

「全く何処にいるのよ!この非常時に指揮を執るべき立場でしょうが!」

 

 悪態を付き、苛立ちが募る。こんな時こそ国王が率先して動かなければ国はまとまらない。

 しかし、いくら探しても手がかりすら掴めない。その焦燥感が冷静さを奪い思考を鈍らせていた。 

 

 そして──その微かな隙を見逃さなかった者がいた。

 

「ッ!?」

 

 鋭い殺気を感じ咄嗟に横に飛ぶ。

 次の瞬間、自分が居た場所に魔力が込められ黒い刃が地面を穿つ。間一髪回避したものの足がもつれて派手に転倒してしまう。

 

「いった……」

 

 尻餅をついたまま前方を見上げると、薄暗い路地裏に佇む黒衣の男が佇んでいた。

 全身を覆う外套と白銀の仮面が、怪しさを醸し出している。

 

「誰!?」

 

 思わず叫ぶも、返答はない。

 代わりに仮面越しに冷徹な視線を感じる。

 

『こんな所で不用心だな。王女が一人で彷徨うなど命を狙ってくれと言っているようなものだろう?』

 

 モザイクでもかかったかのような声色。性別すら判別不能な異様な声だった。

 フレイアは魔力剣を構え、立ち上がる。

 

「あなたが何者かは知らないけど、そこをどきなさい。こう見えてあたしは忙しいの」

『忙しい?随分と悠長だな。お前の手違いで国が滅ぶかもしれないというのに』

 

 男の言葉にフレイアの眉が寄る。その指摘は紛れもない事実だった。

 父を探し出し、早急に魔獣襲撃に伴う対応を始めたいという焦りが彼女を支配する。

 余計な問答に時間を費やしている場合ではない。だが男は更に踏み込んでくる。

 

『お父様が見つからなくて困っているんだろう?あの男は既に消した。もう探しても無駄だ』

 

 あまりに唐突な告白にフレイアの思考が停止する。何を言っているのか理解が追いつかない。しかし、それも追いついてしまう。

 

 つまり──この男が国王を殺害したということになる。

 

「な、何を馬鹿なことを……」

 

 否定しようとするが声が震える。

 そんなことはありえない。あって欲しくない。

 だが、男の口調には確信があった。

 

『信じるも信じないも自由だが、事実だ。あの男は私に敗れた』

「ふざけないで!」

 

 怒りと共に魔力剣を振り翳し、斬りかかる。相手の実力は未知数だがここで逃すわけにはいかなかった。

 しかし、男は軽々と避けると反撃として黒い魔力弾を放ってきた。

 咄嵯に身を翻すことで直撃は免れるものの肩口を掠めてしまう。

 痛みが走り、動きが鈍る。

 

『お前がギルドの調査許可を与えたことで今回の事件が起きた。お前があの時、クロフォード王国のガキを連れて来なければこうはならなかったものを』

 

 一瞬の沈黙。そしてフレイアの顔から血の気が引いていく。

 この男が本来ならば知り得ない情報を何故知っているのか?いや、そもそも言っている意味がわからない。

 頭の中で幾つもの疑問が渦巻く。だが一つだけ確かなことがある。この男は本気で自分を殺そうとしていることだ。

 

『まあいい。いずれにせよ結果は変わらないさ』

 

 男が右手を掲げる。

 掌から禍々しい紫色の魔力が湧き上がり、空中に凝縮されていく。

 圧倒的な魔力量と禍々しさに、思わず息を呑む。

 

『お前を排除し王を操れば計画は完成する。エアハート王国は我が手中に堕ちるのだ!』

 

 仮面の奥の瞳が妖しく輝く。

 その異様な迫力に思わず後ずさりそうになるが必死に堪える。

 

「計画?何を企んで……」

『口先の問答に付き合っている暇はない。覚悟しろ!』

 

 紫の魔力が解き放たれ無数の魔力弾となって襲いかかる。

 フレイアは咄嗟回避するも、一発が左肩を掠めて鮮血が舞った。

 

「ぐっ……!」

『どうした?偉そうに演説していた割には大したことないな』

 

 冷酷な嘲笑が響く。フレイアは傷口を押さえながら魔力剣を振りかざす。

 男の正体も目的も定かではない。ただ一つわかることは──この場で負ける訳にはいかないということだけだ。

 

「ふざけないで……信じない。お父様が死んだなんて……!」

 

 魔力の衝突で生じた閃光が路地裏を一瞬白く染めた。

 フレイアはその場に吹き飛ばされ、壁に激しく背中を打ち付ける。

 

「がはっ……!」

 

 肺から空気が絞り出され呼吸が止まりかける。口から苦い鉄の味が滲む。

 

『無駄な抵抗だな』

 

 低く冷たい声が耳に届く。仮面の男がゆっくりと近づいてくる足音が聞こえる。

 立ち上がろうとするが、脚に力が入らない。

 視界が揺らぎ、吐き気がこみ上げる。

 

「くっ……!」

 

 必死に意識を保ち魔力剣を構えるが、その切先は微かに震えていた。

 

『まだ戦う意思があるか。だが──』

 

 男の掌が迫る。首を掴まれた瞬間、鈍い痛みと共に喉が締め上げられる。

 

「うぐっ……!?」

 

 息が詰まる。視界が徐々に暗くなっていく。

 指一本で持ち上げられ足が宙を浮く。絞まる喉から声が出ない。

 

(ここで終わり……かぁ……)

 

 死が目前に迫る感覚。父を守れず国を守れずここで朽ちていくのか。そう諦めかけたが……。

 

『!?』

 

 男の驚きの声が耳に入る。

 フレイアは微かに残っていた魔力の最後の一滴を使い、男の仮面に魔力剣を突き立てたのだ。

 

「うっ……ごほっ、かはっ!」

 

 解放された瞬間咳き込み酸素を必死に吸い込む。膝をつき荒い息を整える。

 だが、こんなことをしたところで状況に変化はない。

 もう体内に魔力はほぼ残されておらず、立ち上がる力すら残っていない。それでも何かをしなければというイタチの最後っ屁だった。

 

 しかし──仮面の破片が地面に落ちたその時。

 

 フレイアの目に映った光景は現実とは思えなかった。

 

「……え?」

 

 その顔が、最も救いたかった人物そのものだったから。

 

 

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