前世でヤンデレ妹に全てを奪われた男はトラウマを糧に最強へ。しかし、あいつはまだ諦めない 作:エアハンター
俺達が案内されたのは、20畳程の広さがある和室だった。
畳と障子の落ち着いた空間は前世の記憶を彷彿とさせる。
「ふぅ〜……なんだか疲れたよ〜」
カナデが大きな伸びをして畳に寝転がる。
慣れない環境と立て続けのイベントで流石に疲れが出ているようだ。
「ったく。おいミナト、さっきのはどういうことだよ」
「爺さんも言ってただろ?先代達が散々吸血鬼狩りをしてたみたいだからな。恨み買ってても不思議じゃない」
「……オレは納得いかねぇけどな。お前は関係ないだろ」
珍しく義理堅いことを言うニア。
だが、セラの統率力のお陰で事なきを得たのは紛れもない事実だ。俺とて向こうから喧嘩を売られなければ無意味に暴れるつもりはない。
「明日また迎えに来る。今日はゆっくり休んで」
「おいちょっと待て、まだ──」
ニアが質問を投げかける間もなくセラは姿を消してしまう。
去り際の一瞬、僅かに口角を上げたように見えたのは気のせいだろうか。
「結局何の説明もなしかよ!」
「儀式がどうのとか言ってたよな。カナデは何か知ってるのか?」
「うん、わたしが吸血鬼として覚醒するための儀式だって。成功すれば魔力量が何倍にも上がるって聞いたよ」
さらっと重大なことを言う。
しかも、内容が俺の思っていた以上にダイナミックだ。
「お前よぉ……つかマジ、未だに実感ねえわ。こんなんが“繁栄の巫女”ねぇ……」
「ね?すごいよね。わたしもびっくりしちゃった」
「……お前、楽しんでるだろ?」
ニアの呆れたような一言にカナデが得意げに笑う。
こういう肝の据わり具合は昔の彼女を知る身として安心するところではあるが、それ以上に……。
「油断は禁物よ、カナデちゃん。この里も一枚岩じゃないようだしね」
突如として室内に響く声。
同時に襖が開かれ、見覚えのある人物が姿を現した。
「久しぶり……でもないけど、まさかこんな場所で会うなんてね。驚いたわ」
「え?──えぇっ!?」
カナデが驚きの声を上げる。ニアも目を見開いている。
そこには浴衣に身を包んだフレイアが立っていた。手にはどこで買ったのか綿飴を持っている。
「フレイア先輩、奇遇!何でここにいるんですか!?」
「観光……って言ったら信じてくれるかしら?」
「ああ、信じないな」
「あら、酷いわね」
フレイアは艶然と微笑む。その表情に一切の動揺はない。
「まあ冗談は置いといて、調査よ。最近、クロフォード王国の監視網に吸血鬼の生き残りが引っかかったからってアドルフ様に命じられてね」
「……親父が?」
「そう。もしかしたら帝国の手掛かりになるかもと思ってあたしが自分から志願したんだけど……」
フレイアが言葉を詰まらせる。
彼女も俺達の存在が意外だったようだ。特にカナデに対して視線が注がれる。
「まさかあなた達が来てるなんて。そればかりか、カナデちゃんが吸血鬼の血を引いてるなんて何の冗談よ……」
「わたしが一番驚いてますって。でも、ワクワクもしてるんです。この力がどうなるか興味深くて!」
「あのねぇ……」
フレイアが頭を抱える。正直俺も同じ気持ちだった。
いくらなんでもポジティブ過ぎやしないか。
「状況わかってる?クロフォード王国と吸血鬼は争い続けて来た歴史があるのよ?ハーフとはいえ、あなたの正体が国に知られれば極刑……というか、間違いなく軟禁はされるでしょうね」
「……それは、嫌かな〜」
カナデが困ったように笑う。
これは確実に事の重大さを理解していない顔だ。
「ま、まあミナトが居ますし!いざとなれば……ね?」
ね?ではない。カナデ一人の為にクロフォード全体を敵に回せとでも?
まあ、最悪の場合そうなるだろうが。なるべくその様な事態は避けたいというのが本音だ。
吸血鬼の血を体内に入れようとしてる俺も無関係ではいられないだろうし……。
「しかしまあ、よりによって最悪のタイミングでフレイアが来るとはな」
「人を疫病神みたいに言わないでくれる?ミナトくんにも責任はあるんだからね」
「わかってるよ。取引……というか頼みなんだが、カナデのことは親父には黙っておいてくれるか」
「最初からそのつもりよ。あっちだってまさかカナデちゃんが吸血鬼のハーフなんて思ってもいないでしょうし、あたしもカナデちゃんとミナトくんが国から追われるようなことになったら嫌だしね」
フレイア呆れた表情でそう答える。予想外ではあったが、ここに来たのが彼女だったのは不幸中の幸いかもしれない。
もしミリウスやアルフェン辺りだった場合は完全にアウトだった。
「ところで、そっちの人は……カナデちゃんのお兄さんだったかしら?」
「……はい。フレイア様ですね。ニアと申します」
今までの態度から一変し真面目な顔で敬礼するニア。フレイアは微笑みながら答えた。
「そう畏まらなくていいわ。あたしには王族の血は流れてないし、もう王女って訳じゃないもの。気軽に話しましょう」
「しかし……」
「本当にいいから。今のあたしはエアハート王国とクロフォード王国を繋ぐパイプ役でしかないしね」
「わかり……わかったよ、フレイアさん」
ニアは渋々承諾する。
フレイアの複雑な立ち立場と過去からすれば王族扱いされる方が辛いのだろう。エアハートでの惨劇を考えれば尚更である。
「で、フレイアは吸血鬼の里ついて何か知ってるのか?」
「ここの人達は基本的に穏やかな方ばかりよ。数百年もの間、ひっそりと暮らしてきたみたい。ただ、ここ数十年で急激に人口が減少してるの。その原因は……」
「もしかして、わたしっ?」
カナデが真顔で尋ねる。フレイアは少し困ったように笑いながら答えた。
「いや、違うわ。むしろカナデちゃんの存在は里にとっては希望の光みたいよ。吸血鬼の血が薄れつつある中でその血を色濃く受け継いだ稀有な存在が現れたんだもの」
「だから、"繁栄の巫女"ってことか」
「そういうことね。ただ、それ以外に面倒な事情があるのよ。セラ様を中心とした改革派と、保守的な一部の者との対立」
それは恐らく、昨日の森での襲撃とも関連しているのだろう。
セラは詳しい説明を省いていたが、要するに里内部でも思想の違いから分裂が始まっているということか。
「セラは信用していいのか?まさかとは思うが、カナデを餌にして何か企んでいるとか」
「もぅ、ミナト、失礼だよ。セラはそんなことしないから」
「わかってる。ただ。用心に越したことはないだろ」
カナデが頬を膨らませるが、こればかりは譲れない。
今まで無表情淫乱吸血だと思っていた少女が、この里では最高権力者ときた。
何より、クロフォード王国と吸血鬼には長い因縁がある。
「ごめんなさい、そこまではわからないわ。ただ……」
「ただ?」
「……いえ、何でもないわ。それを探る為に来たのよ」
フレイアは言葉を濁す。どうやら彼女もまだ全容を掴めていないようだ。
……明らかに何か隠している様子だが深入りはしないことにしておく。
「まあカナデちゃんじゃないけど、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うわ。今のところ里の主要メンバーはセラ様を中心にまとまってるみたいだし」
「ならいいんだけどな」
「お前、散々自己責任とか言ってたくせになんだかんだでカナデのこと心配してんじゃねぇか」
ニアに茶々を入れられるが無視する。まあ図星なんだが。
「ふふ……ありがと、ミナト」
「別にいい。それより飯だ。腹減った」
気恥ずかしさから誤魔化すように立ち上がるとカナデがくすりと笑う。
おそらく、今後騒動に巻き込まれていくのは確定事項なのだろう。
果たしてこの先はどうなっていくのだろうか。一抹の不安を抱きつつもその日はカナデやニア達と共に過ごすことにした。
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ミナト
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フレイア
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アリス
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ニア
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ミリウス