作者はfateガチにわかです。ガバガバ設定になると思われます。
ご注意ください。
全試合が終わった。
オールマイトが両手を広げた。
「お疲れさん! 緑谷少年以外は大きな怪我もなし! しかし真摯に取り組んだ! 初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」
どこかから「相澤先生の後でこんな真っ当な授業、拍子抜けというか」という声がした。蛙吹梅雨だ。
「真っ当な授業もまた私たちの自由さ! それじゃあ着替えて教室にお戻り! 私は緑谷少年に講評を聞かせねば!」
生徒たちがぞろぞろと更衣室へ向かい始めた。
リアは廊下を歩きながら、今日の訓練を頭の中で反芻していた。
轟の冷静な作戦立案。自分の欠点を正確に把握した上での役割分担。葉隠を音で捕捉した自分の直感。うまくいったことと、そうでなかったこと——
いくつか引っかかることがある。
葉隠に対して確保テープを巻く速度が遅かった。甲冑の籠手が邪魔をした。そして何より、エクスカリバーを使う機会は最後までなかった。必要がなかった、というのは事実だ。だが、もし使わなければ勝てない局面が来た時、自分は制御できるだろうか。
答えは今は出せない。
「リアちゃん!」
麗日が小走りで追いついてきた。
「終わったね〜! お疲れ! どやった、試合?」
「勝った」
「やっぱり! 私も勝ったよ! 大変やったけど……」
麗日が少し顔を曇らせた。横に緑谷出久がいないことに気づいたのだろう。
「デクくん、保健室行ったって……また怪我して」
「見ていた。訓練中に骨折した」
「うん……」麗日がため息をついた。「強くなろうとして体壊してたら本末転倒やのに、って思うんやけど……でも、あの動きは本当にすごかったし……」
麗日は複雑そうな顔をしていた。心配と、尊敬が混ざった顔だ。
「行ってやれ」
麗日がリアを見た。
「え?」
「保健室に。気になっているなら、行けばいい。言葉は後から考えればいい」
麗日がしばらくリアの顔を見てから、ふわっと笑った。
「……うん、そうするわ! リアちゃんも来る?」
「少しだけ」
保健室の扉を開けると、リカバリーガールが点滴のスタンドを調整しているところだった。ベッドの上で緑谷出久が天井を見上げていた。包帯が両腕に巻かれている。
「あ……お茶子さん、有斗さん」
緑谷が少し驚いた顔をした。
「お見舞いに来たよ! 大丈夫!?」
「は、はい……リカバリーガール先生に治療してもらって……」
「またやりよったね」とリカバリーガールが呟いた。小柄な老婆だが、目が鋭い。「入学間もないってのにもう三度目だよ? 次やったら点滴二本ね」
「す、すみません……」
麗日がベッドの横に座った。リアは少し離れた壁に背を預けて、二人を見ていた。
「デクくん……あの動き、どうやったの? 爆豪くんの爆発で飛ばされながら、上の階まで跳んで……」
「あ、えと……ぶつかった方向と力を、逆に利用しようと思って……」
「めちゃくちゃかっこよかったよ」
緑谷がぽかんとした。
「え」
「ほんとにかっこよかった。骨折はあかんけど」麗日がふふっと笑った。「でも、あの場面で諦めなかったのが……すごいと思う」
緑谷の顔が、じわじわと赤くなった。
「そ、そんな……僕はまだ全然制御できてなくて……有斗さんとか轟くんみたいに、ちゃんと使えてないし……」
リアは黙っていた。
緑谷がちらりとリアを見た。
「有斗さんって……個性を使わなかったですよね。体だけで」
「そうだ」
「なんで……? あの光の個性を使えば、もっと早く終わったんじゃないですか」
リアは少し考えた。
「使えば確かに早く終わった。だが制御できない。もし出力が狂えば、建物ごと吹き飛ぶ可能性がある」
「……」
「ヒーローは民を守るために戦う。守るべきものを傷つける技は、使える場面が限られる。お前も同じだろう」
緑谷が目を見開いた。
「個性の制御ができないうちは、使える場面が限られる。だから体を鍛える、別の手段を探す。それはお前も私も同じだ」
緑谷がしばらく黙っていた。それから、静かに言った。
「……僕、ちゃんと自分のものにしたいんです。今は借り物みたいな感じがして」
リアは答えなかった。
借り物、という言葉が、少しだけ引っかかった。自分もそうだ。アルトリアの力は、自分が鍛えて得たものではない。転生してきた時から、この体に刻まれていた。剣技も、直感も、全部最初からそこにあった。
それを「自分のもの」と言えるのはいつだろう。
「……時間がかかることだ」
リアは短く言った。
「急いで壊れるよりも、ゆっくり確かめる方がいい。お前は焦りすぎている」
「……はい」
緑谷が頷いた。麗日がリアを見て、小さく「ありがとう」と口を動かした。
保健室を出たところで、廊下に轟焦凍が立っていた。
壁に背を預けて、腕を組んでいる。
「……見舞いか」
「そうだ」
「俺もそうだ」
リアは少し意外に思ったが、顔には出さなかった。轟は無口だが、気を配らないわけではないらしい。
麗日が「あ、轟くんも来たんや!」と声を上げた。轟は短く「あぁ」とだけ答えた。
「入るか?」リアが聞いた。
「……あぁ」
三人で、またドアをノックした。
放課後、リアは一人でグラウンドの端に立っていた。
木刀を構える。素振り。一回、二回、三回。
剣の周りに、あの感覚がある。風のような、圧力のような。今日の訓練でも、葉隠を捕まえる瞬間に微かに走った。
掴もうとすると、消える。
剣技は体に刻まれている。エクスカリバーは撃てる。なのに、この「風」だけが掴めない。まるで靄の中に手を伸ばすようだ。
触れそうで、触れない。
「……まだか」
独り言が夕暮れの風に溶けた。
焦ることはない、と緑谷に言った。自分にも言い聞かせなければいけない言葉だった。
もう一度、素振りをする。
遠くのグラウンドで、クラスメイトたちの声がする。麗日の笑い声、飯田の熱弁、切島の「っしゃー!」という掛け声。
騎士は一人で戦うが、民の声が聞こえる場所で戦う。
リアは木刀を下ろし、その声の方を少しだけ見た。それからまた構え直した。
夕日が長い影を作った。