作者はfateガチにわかです。ガバガバ設定になると思われます。
ご注意ください。
バスの中は賑やかだった。
窓の外を流れる景色を見ながら、リアは隣の麗日とともに揺れていた。
「ねえねえリアちゃん、今日の授業どんなんやろ。救助訓練って聞いたけど」
「相澤先生から聞いた通りだろう。災害を想定した実地訓練だ」
「うわあ……楽しみやけど怖いな」
前の座席から芦戸が振り返った。
「私は楽しみ! 個性めっちゃ使えるやつでしょ!?」
「それが目的ではないと思うが」
「分かってるって! でも使えるならテンション上がるじゃん!」
芦戸がにっこり笑って前を向いた。麗日がくすくす笑う。リアは窓の外へ視線を戻した。
バスの前方で、緑谷が隣の席の蛙吹梅雨と何か話していた。メモ帳を膝に置いて、熱心に言葉を交わしている。その少し後ろでは飯田が背筋を伸ばして前を向き、轟は窓際で腕を組んで黙っていた。
轟がこちらに気づいた。目が一瞬合って、すぐに逸れた。
リアも前に向き直った。
USJは巨大なドーム型の施設だった。
天井まで届く吹き抜けの空間。中央に広場があり、そこから放射状に様々なゾーンが広がっている。水難ゾーン、山岳ゾーン、火災ゾーン、土砂ゾーン——それぞれが実際の災害を模した地形になっている。
「すごい……!」
麗日が口を開けた。芦戸も「マジか……」と呟く。
スペースヒーローの宇宙服を纏った人物が入口に立っていた。全身白、ぽってりとした丸いフォルム。13号だ。
「やあ皆さん! ようこそUSJへ!」
13号の声は穏やかで明るかった。一人称は「僕」だ、とリアは記憶した。
「水難事故、土砂災害、火事……あらゆる事故や災害を想定して、僕がつくった演習場です。その名も——ウソの災害や事故ルーム!! 略してUSJ!!」
笑いが起きた。麗日が「そのままやん!」と言って笑った。
「超人社会は、個性の使用を資格制にして厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし……一歩間違えれば容易に人を殺せる”いきすぎた個性”を持っていることを、忘れないで下さい」
笑いが静まった。
「相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り。オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では——心機一転。人命のために個性をどう活用するかを、学んでいきましょう」
リアは静かに聞いていた。
人命のために個性を使う。それはヒーローの根本だ。だが自分はまだ、個性の制御が完全でない。エクスカリバーは制御できない切り札で、風王結界は掴めていない。
——今日の訓練で何かが変わるだろうか。
13号が一歩下がり、相澤が前に出た。
「では始め——」
その瞬間、中央広場の噴水付近に、黒い靄が現れた。
渦を巻く黒い靄から、人が出てきた。
一人、二人、十人——数が増えていく。異形のヴィラン、武装した男、明らかに素人でない体つきの者たち。
リアの直感が鋭く警告した。
これは訓練ではない。
「……先生」
轟が静かに言った。相澤はすでにゴーグルを下げていた。
「13号、避難開始、学校に連絡試せ」
相澤の声は平坦だったが、目が鋭い。
「センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、おまえも個性で連絡試せ」
「は、はい!」
上鳴が慌てて個性を発動しようとした。
「先生は!?」緑谷が声を上げた。「一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すっていっても……!」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
相澤が低く言った。捕縛布が動く。
「13号、任せたぞ」
そのまま相澤は一人で飛び出した。ヴィランの群れの中へ。
リアは息を呑んだ。
数は優に一〇〇を超えている。一人で、あの数を相手にする。無謀に見える。だが——相澤の動きは無駄がない。ヴィランの個性を消しながら、捕縛布で一体ずつ仕留めていく。圧倒的な技術だ。
「すごい……」麗日が呟いた。「あの数を一人で……」
「強い」轟が短く言った。「個性が使えなくなったヴィランを、体術で潰してる。合理的だ」
「でも……」
緑谷がノートに何か書こうとして、手を止めた。
黒い靄の中から、一人の人物が歩いてきた。
ざわ、と空気が変わった。
全身に「手」をつけた青年。顔にも手が張りついている。ぼりぼりと首元を掻きながら、こちらを見ていた。
「——なあ」
その声は低く、ぞっとするような静けさを持っていた。
「教師はどこ? オールマイトは? 来てないのか?」
死柄木弔。
リアの直感が、これまでで最も強く警告した。あの人間は——違う。単なるヴィランではない。何かが、根本から歪んでいる。
死柄木の隣で、黒い靄が凝縮した。
「初めまして」
丁寧な声だった。慇懃で、冷たい。
「我々はヴィラン連合。せんえつながら、この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは——平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
黒霧が、生徒たちを見渡した。
「せっかくですから、この方々にも退場して頂きましょうか」
黒い靄が膨らんだ。
「全員散れ!」
13号の声が響いた。同時に、リアは麗日の腕を掴んで飛び退いた。
黒い靄が爆発するように広がり——
視界が、暗転した。
落ちた。
どこかのゾーンに飛ばされた。着地の衝撃を甲冑が受け止めた。
周囲を確認する。廃墟ゾーンだ。崩れたビル、瓦礫、錆びた鉄骨。
傍らに麗日が転がっていた。
「いた!?」
「無事か」
「う、うん……! リアちゃん? なんで一緒に……」
「飛ばされる前に掴んでいた」
麗日がぱっと顔を上げた。安堵と、驚きが混ざった表情。
「……ありがとう」
「礼は後だ」
リアは立ち上がり、周囲を見渡した。他のクラスメイトの姿はない。ここには自分たちだけだ。どこかに複数のヴィランがいるはずだ——直感が、左の方向を示していた。
「麗日、後ろについてこい。離れるな」
「う、うん!」
麗日が頷いた。リアは木刀の柄に手をかけ、廃墟の中へ踏み込んだ。