連邦生徒会長代行の座から叩き落とされたあの日から1週間が経った。
私はと言うと、ここずっと矯正局に拘束されている。
囚人服の色は茶色、どうやらまだ実刑は確定していない。
それと、先生や同僚が何度か面会に来た。
看守以外に話す相手がいない矯正局で、10分程度外の人間と会話が出来るのは相当ありがたい。
だが先生が面会の際も「リンちゃん」と呼んでくるのはやめてほしい。
面会室の看守に変な目で見られるのは少し小っ恥ずかしい。
そして今日も相変わらず、面会の予定がある。
「囚人番号1127番、入れ」
看守の呼びかけで面会室に入ると、そこに居たのは先生でもモモカでもアユムでも後輩でも無く……
「……カヤ、まさか貴方が面会に来るなんて」
髪も燻み、顔もやつれ、いつもの笑顔も無い。そんな、初めて目にする不知火カヤが椅子に座っていた。
「一度は話しておくべきかと思いましてね」
それに様子がおかしいのはそこだけでは無い。
アッシュピンクに染まった厚手のセーターに、オーバーサイズ気味な黒色のデニム。耳には真珠のイヤリング。
そう、連邦生徒会の制服では無く私服なのだ。
彼女はプライベートの時も常に制服を着用している。連邦生徒会内で睡眠を取るため、殆ど24時間365日、制服を着ていると言えるだろう。
「今日は私服ですか」
「ええ。何せ今日は連邦生徒会としてでは無く不知火カヤとして、ここに来ていますから」
真っ先に思ったのは、連邦生徒会長代行と言う肩書きだ。
もしや彼女は、その肩書きを背負って私と向き合う事が嫌だったのでは無いか?
彼女は今何を考えているのか分からない。
と言うよりもどこか、いつものカヤとは違うような……
「個人的に話したいことと、渡したいものもありますので。どうぞ、座ってください」
そう言われて、彼女と机を一つ挟み、向かい合わせになるよう座る。
その間には、しばしの沈黙が流れていた。
「最近はどうです?」
「何ですかその曖昧な質問は……」
「良いじゃないですか、矯正局に入った元エリートの近況、早々聞ける機会はありません」
「相変わらず悪趣味な……そうですね」
少し首を傾げて考えてみる。
「……全体的に代行時代よりも楽、でしょうか」
これは本当だ。
何せ毎日横になって寝ることが出来て、食事も固形物が出てくるのだから。
「ふ、ふふっ……それはそれは、随分と満喫している様で」
「貴方も今は代行でしょう、相当大変な生活を送っているのでは?」
「そこまで大変ではありませんよ。どこかの誰かとは違い、権限を思う存分使って無駄な会議を無くしていますので」
「……カヤ、以前も言いましたが権威を振りかざすのは」
「そうですね。覚えていますよ、『権威とは毒の入った聖杯、使えば使うだけ身を滅ぼす』でしたか」
私の過去の発言を持ち出し、馬鹿にした様な声色で話す彼女。
「私は使いますよ。私の身一つで少しでも世界が良くなると言うのなら、安い犠牲と言うものです」
どこか覚悟した様な目で私を見つめる。
だがそうか、カヤの根底にはまだキヴォトスがあるのか。そう少し安心する。
彼女はずっと変わらない、多数を救う為少数を切り捨てる。
その少数が自分であろうとも。
だからこそ引っかかるのだ、彼女の行いが。
「……何故あのような事を?」
私は思わず聞いていた。
あの事とは勿論、彼女が起こしたクーデターの事を指す。
「言ったでしょう。貴方は代行に相応しく無い、それが答えですよ」
「それならもっと早くにやっておけば良かったはずです。私のやり方は前から知っていたでしょう。それに筆跡鑑定の終わっていない連邦生徒会長のメモがある時点で、私の立場の不確実性はいつでも突けたはず」
「……心理戦ですか、私に対して」
私はてっきり、カヤが野心やその時の状況のみでクーデターを起こしたのだと考えていた。
だが冷静に考えれば考えるほど論理が破綻する、私は何かを見落としている。
それは恐らく、矯正局の中では知ることの出来ない何か……
ならそれを知っているのは……面会に来た先生達か。
思考を巡らせる。下らない雑談の中に何かヒントが無かったかと、過去を遡る様に。
そこで見つけた、モモカの言っていた一つの発言。
『最近じゃカイザーが街を巡回してるせいで、歩きながらポテチも食べられないよ』
企業の兵力が街を巡回する、そんな事を決められるのは連邦生徒会長代行くらいのもの。
何故?カイザーの利益になる法案に対してあれだけ嫌悪感を示していたカヤが、どうしてそんな事を?
「……先生から聞きましたよ、カイザーと関わっている様ですね」
カヤの表情は嬉しいことに変わらなかった。
彼女の癖だ、痛い所を突かれると表情が固まる。
と言うよりも余裕の時は表情が変わるのだ。
その癖故にポーカーフェイスだの考えが読めないなんてよく言われるが、2年も見ていればある程度分かる。
「貴方は最も合理的な手段を取るはずです。だから失業者の増加を恐れてカイザーを潰す事はしない、しかし軽い処罰で済ませる事もしない。貴方が求める結果はカイザーの兵力のみを潰す事……ですがカイザーとの癒着はその真逆です、彼らの兵力を上げることになる」
静かな面会室の中、私の口撃だけが響く。
そもそもこの舌戦は私の圧倒的有利だ。
何も隠し事がなければ変に誤魔化す必要もない、沈黙やすり替えは「何か思惑がありますよ」と言っている様な物。
その上私に突かれて痛い事などない。
全てを失ったと言う事は、それ即ち無敵とも言える。
「何を企んでいるのですか?」
「……ええ、認めましょう」
私の問いに対し、彼女は穏やかな笑顔で応える。
貼り付けられた物ではない、諦念から来る笑顔。
「貴方の考え通り、私にはとある計画があります」
「……ウツツは知っているんですか」
「知りません。誰にも教える事はできませんからね」
「ですが」と彼女は続ける。
「その詮索の手助けになるかもしれない物を、私は持っている。それを渡すのが今日ここにきた目的です」
「その"物"とは?」
「連邦生徒会長からの手紙、ですよ」
驚愕、困惑、それらが同時に襲ってきた。
連邦生徒会長からの手紙とは、恐らくカヤが私の罪を追及する際に出した手紙の事だろう。
だが、何故そんなものを……まさか本当に、防衛室長を代行にすると書かれていた……?
「ですが、貴方の想像しているものとは違います。連邦生徒会長の手紙は合計で3通、そのうち一つを貴方に渡す、と言う意味ですよ」
「3通……?それを何故私に」
「貴方に宛てられたものだから、でしょうか」
連邦生徒会長が私に手紙を?
次々と寄せられる新しい情報に頭を抱えざるを得ない。
「勿論、私はその中身を見ていません。ですが堅苦しい内容でない事は確かかと。少なくとも私に宛てられたものはあの人らしい、ぬるま湯の様な言葉でしたから」
黄昏時の様な表情をしながら、カヤはポケットから手紙を取り出す。
その表には連邦生徒会の印がシーリングされている、確かに彼女からのものらしい。
「それにしても、代行の権限とは便利なものですね。この手紙の中身も一切検査されず、こうして貴方に面会する事ができているのですから。その気になれば、貴方をここから出すこともできそうです」
その言葉に、面会室にいた看守がビクリと体を震わせた。
当然だ、目の前で急に脱獄の話をし始めるのだから。
「冗談、ただの戯言ですよ」
未だ驚いた様子の看守をなだめるカヤ。
張り詰めた空気が一瞬で緩む。
「では私はそろそろ……仕事もありますのでね」
椅子を引いてカヤが立ち上がった。
どうも本当に話と手紙を渡すために来たらしい。
それと同時に、私は机の上に置かれた手紙を手に取る。
そしてゆっくりと封を開け、中を見た。
その文字は確かに連邦生徒会長のもので、どこか懐かしい匂いも鼻に入り込んできて。
2度と戻らない青春に思いを馳せながら、しばらく見ていない筆跡で書かれた文字を目で追う。
『リンちゃんへ。
お誕生日おめでとう!って、まだ早いかな。それとも遅かった?どちらにしろこの手紙を読んでるって事は、私はもうキヴォトスにいないのかな。心配かけちゃったよね、ごめん。でも、別に何かに巻き込まれたとかそう言うのじゃないから安心して。ただちょっと、やらなきゃいけない事が出来たの。
さて、リンちゃんには伝えたい事があります。その内容とはーーー!!どぅるどぅるどぅるどぅる!!どゅん!!ズバリ、私が遺したオーパーツについてです!!
と言うのも、私は色々と超技術を持っててね。その中の一つが『シッテムの箱』、これは先生に渡すことになってるんだけど……もう一つ、シッテムの箱と同じ様なものがあるの。それが『シャーケードの杖』。見た目はスマートウォッチみたいで、色々な事ができるんだけど……ここには書ききれないんだよね。とにかく、それはこの手紙と同じ場所に置く様にしておくから、是非探してみてね!
さて、私からはこれで終わり。もっと話したいこともあるけど、これ以上は怒られちゃうかもだからさ。
それじゃあリンちゃん、さようなら。
"元"連邦生徒会長より。』
シャーケードの杖、オーパーツ、先生の持つものと同様の……この手紙と同じ場所なら、もしかしてカヤが……!
急いで前を向くが、そこにはもう誰もいない。
これ以上、私が出来ることは何もなかった。
強いて言うなら、今は亡き彼女を想って目を擦ることくらいしか。
(あーーーカヤの私服なーーーー可愛い系で攻めても良いんだけどなーーーーーリンに会うために可愛い系は着ないよなーーーーーでもストリート系もイメージに合わないなーーーーーーどーしよっかなーーーーーー!!!!!!!!)