もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第十二話 アンティオキアの手榴弾

カヤが代行の座についてから行ったカイザーとの癒着、その内容は多岐に渡る。

まず軍需品取引の拡大。これは前から行なっていたことだが、最近ではその規模を大幅に拡大し始めている。

次にカイザーへの金銭的支援。かの災害後、多くの処罰を受け破産まっしぐらだったカイザーに対し軍拡を条件に数億単位の支援を行った。

最後に地下サイロの建設。カイザーがひっそりと計画していた地下サイロの建設、それに対してカヤは野ウサギタウンの地下に建設を許可。それから建設も順調に進み、今では当初計画していた1.5倍の規模の超巨大地下サイロが完成した。

そして今、カイザーとの密会がまた開かれている。

 

「何故、統制に穴が?」

 

カヤが冷静な声で問い詰める。

どうやらカイザーの用意した人数が足りず、治安維持業務行えていないエリアが生まれている様だ。

 

「今支払われている金額では、この程度の規制が限界だとも」

「ほう、貴方達はまだ自分たちがお金の話をできる立場にあると思っているのですね」

 

デスクを指先でコツコツと鳴らしながら、カヤは不満を表に出した。

 

「一体誰のおかげで、今貴方達の首が繋がっていると思っているのですか?私が例の事態をもみ消し、資金援助をしたおかげで、カイザーコーポレーションは破産を免れたのですよ?」

「当然、そのことには感謝しているとも。だからこそ今まで格安で兵を与えていたのだからな……しかし、プレジデントの機嫌だって、いつまでも持つわけではない」

 

ジェネラルはとことん余裕そうに、そして強い口調で言い放つ。

 

「最悪、私たちはカイザーを捨て新しい組織を立ち上げることもできる……だが君はどうだ?今までの地位も名誉も捨て、一からやり直すなどできるのか?」

 

それは脅迫であった。

私たちは助けられただけの立場ではないのだと、お前たちの下ではないのだと突きつける形での脅し。

だが、不知火カヤと言う人間は、それで折れるようなものではない。

 

「ええ確かに、それ自体は可能でしょう。ですがその後は?カイザーの名を捨て、ただの新規企業になり下がった貴方達をだれが助けるのでしょう。たまたまカイザーとのつながりがバレ、たまたまもみ消したはずの行為が流出したとしても、誰も、助けを求めるその手を取らない」

 

脅しに対しては脅しで返す。

決して誰かに言いくるめられるようなことにはならない、それが彼女なのだから。

 

「ええですから今後とも……仲良くしていきましょうね?」

 

貼り付けられた笑顔から放たれる圧力に、その重みに、思わずジェネラルがたじろぐ。

 

「……本日は予定が迫っていてね。話の続きはまた今度にしようか」

「そうですか、それなら仕方ありませんね。ではまた」

 

そう言い残してジェネラルは、鉄製の拳を握りしめながら去っていった。

 

ふう、と一息つく。

毎度毎度、カイザーとの会議は精神がすり減る。

以前のようにならないよう、ドアの前にユキノを立たせてはいるが……それでも少しトラウマは残る。

 

「…………さて、潮時ですね」

 

ぽつり、とカヤが言葉を零した。

 

「ユキノ」

 

「FOX小隊を呼んでください、話があります」

 

***

 

「それで、どうしたのさ防衛室長。急に呼び出しなんて」

 

5分ほど後、代行執務室に集まったFOX小隊から一人、オトギが当然の疑問を発した。

なにせ私も理由を知らされていない。

会議の後に招集など、今まで一度もなかったことだ。

 

「……ある、古い叙事詩の話をしましょうか」

 

唐突な話の入りに、そこにいた全員が困惑する。

しかし当人はいたってまじめな様子だ。

 

「とある王様が聖杯を求め、各地を転々としていました。その道中、聖杯の手がかりが眠っているという洞窟へと足を踏み入れます」

 

この話は、私も見たことがあったはずだ。

タイトルは忘れたが確か英語の本で、伝説の再解釈の様な内容だった。

 

「しかしなんと、その洞窟はカルバノグの洞窟という名の、とても危険な洞窟でした」

 

特になんて事ない物語。

それをカヤは、とても真剣な口調で語り続ける。

 

「洞窟の中には人喰い兎が生息していて、王様は命からがらそこから逃げ出しました」

 

どうやら昔話は終わりらしい。

カヤは俯いた頭を私達の方へと向け、翡翠色の目で見つめてくる。

 

「……カイザーコーポレーション、その軍事力だけを狙って削り落とす方法を、私はずっと考えてきました。そこにその手掛かりとなる、嬉しい情報が舞い込んできたのです」

 

またもや話が飛んでいった。

今度はカイザーコーポレーションの話、いつまで経っても本題が見えてこない。

 

「野ウサギ駅地下の軍事サイロ建造計画……私はこれを知り、近づき、そして手助けした。全てはカイザーの兵力を無くすために」

 

頭が疑問で溢れる。

地下サイロの建設はカイザーにとって、武器の運搬が容易になる、つまりは軍拡だ。

兵力を無くすどころか増やしている。それなのにどうして……

 

「ユキノ、以前FOX小隊が回収した弾道ミサイル用サーモバリック弾は、今どこに保管されていますか?」

「非活性化させD.U.郊外の軍事施設に保管しているが……それがどうした」

 

不穏な空気が執務室に充満していくのを感じる。

その中心はカヤであった。

 

「では命令です。その弾頭を地下サイロに持ち込み、爆破させなさい」

「……は?」

 

ユキノは理解できていない様子だ。

だが彼女だけでなくそこにいる皆が、同じことを考えていたと思う。

正気か?何を言っているんだ?そんな疑問が脳内を駆け巡っていた。

 

「……カヤ、どういう事。理由を説明して」

「ええ、確かにそうですね」

 

そんな私の問いも想定していたかの様な反応でカヤは答える。

 

「まず勘違いしないでいただきたいのが、私はテロ行為など微塵も興味がないという事。『やらなければいけないからやる』、それ以上でもそれ以下でもありません」

「……これはやらなくても良いものに入るんじゃ」

 

苦笑をしながらニコが問う。

 

「こうでもしなければカイザーは討てないのですよ。それに、野ウサギタウンは住民もほとんどいませんし」

「殆ど、だろう。いまだ残っている市民もいる」

「その市民と得られるメリットを比べた時、社会的に有意義であるのは後者なのですよ、ユキノ。そしてその天秤を扱うべきは責任を負える立場……つまり私です」

 

カヤの声色は内容とは裏腹に穏やかなもので、何かを悟ったか様であった。

とても駅一つを吹き飛ばそうとしているとは思えない、夢でも見ているかの様な雰囲気。

 

「この作戦が成功すればカイザーの軍事産業は衰退するでしょう。何せ大金をかけたサイロが破壊され、その実行犯は資金援助をしていた張本人というのですから。言うなれば見せしめ、次キヴォトスに踏み込んで来たらタダでは置かないという脅しです」

「……一つ聞かせてくれ。この作戦に正義はあるのか?」

 

正義。

それはSRTが抱え続けているもの。

社会の為、市民の為に行う正しい道理の事。

そしてユキノが一番大切にしているもの。

 

「愚問ですね。あるわけ無いでしょう」

「…………そうか」

「ですが、私達にそれは必要ではありません」

 

そんなSRTの宝を、カヤは真っ向から否定した。

 

「何故なら私達は正義では無いのですから。貴方達が道具なら、私達は歯車です。道具を動かす為の歯車。それを動かす動力として平和がある……ですから今、私たちに出来ることは、すべき事は、せいぜい悪役として平和までの道のりを均すこと」

 

「ですが私だけでは足りません。私1人の力では、平和に指先すら掛からない。だから、貴方達の力が必要なのです」

 

「今更図々しいですが……どうかお願いします。正義も大義も利益も無い、いつかの未来の為にする戦い……ですがどうかこの一度だけ、私に命を預けてはくれませんか」

 

そうしてカヤは深々と、地面と平行になる様に頭を下げる。

執務室に沈黙が流れた。

誰も、こんな姿の不知火カヤを見た事がない。

誰も、こんな作戦を想定などしていない。

 

部下であるのならば従うべきだ。

だが私は、仕事仲間以前に彼女の親しい人として、友人として、間違っているならば止めなければならない。

……この作戦は間違っているのか?

 

……私は

 

「私はカヤに従う」

 

ひたすらに冷たい静けさの中、私は私の決意を漏らした。

 

「確かにカイザーは対処が必要だ、二度と立ち直れないくらいの。それに解体の目処が立っていなかった弾頭の処理も叶う。それに何より……私も、私の事を正義だなんて思っていないから」

 

私の顔を見るためか、カヤは顔を少しだけ上げた。

 

「……そうだな。確かに私達は、もう戻れない所まで来ているのかも知れない」

 

ユキノが俯きながら呟く。

表情は暗いままだが、どうも落ち込んでいるわけではなさそうだ。

 

「命令なんだろう。なら私は従うまでだ。ここに正義が無くとも、その先が正義へと繋がる事を信じて」

「私も従いますよ。ユキノちゃんだけに背負わせるなんて真似は出来ませんから」

「当然、私もね。ポイントマン無しじゃ心許ないでしょ」

「ま、私もやるかな。ポイントマンは兎も角、狙撃手が居ないと成り立たないからね」

 

淡々と首を縦に振るユキノ。

そんなユキノの肩に手を置きながら笑顔で答えるニコ。

互いに睨み合っているクルミとオトギ。

 

「……これは訂正しなきゃね」

 

先ほど溢した言葉を思い返しながらそう話す。

何故なら私は防衛室長伴篠ウツツであると同時に、FOX小隊隊長FOXαでもあるのだから。

 

「私"達"はカヤに従うよ」

 

それを聞いたカヤの笑顔はいつもと異なっていた。

どうも相当嬉しいらしい。

 

「そういえば、作戦名は決めないの?」

 

睨み合うのをやめたクルミが問いかける。

確かにここまで大規模な作戦なら何か決めておいた方がいいか。

 

「そうだな……ここは『コンコン爆破作戦』は……」

「なんでそこで変に捻るのよ!」

「良いですから、私が決めますから落ち着いて」

 

壊滅的ネーミングセンスを繰り出すユキノと喧嘩する小隊員、その仲介に入るカヤ。

以前も見た気がする光景だ。

 

「……実は、あの叙事詩には続きがあるのです。命からがら逃げた王様は、とある強力な武器を使いカルバノグの洞窟に住まうウサギを一掃しました」

 

「私達はこれから、駅の地下に巣食うウサギを一網打尽にします。ですから作戦名には、カルバノグの兎を殲滅した武器の名前を冠しましょう」

 

「……アンティオキアの手榴弾作戦、開始」




カルバノグ2章と似た様な状況でのタイトル回収、書いていてあまりにも気持ちいい
それとこの章名とかタイトル、まだ未開拓のネーミングやんけとめちゃくちゃテンション上がっていたのですが、サーモバリック弾頭を開発した時のプロジェクト名である<A.N.T.I.O.C.H>って英名であるHoly Hand Grenade of Antiochから取ってたんですね
調子乗ってすいませんでした
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