もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第十三話 前夜祭

アンティオキアの手榴弾作戦、決行前夜。

明日のため各々厳しい訓練に取り組む……何てことはなく。

 

「えーっと、ねぎタン塩を2人前と……クルミは?」

「じゃあ私はカルビで……」

「それとハラミを3人前で。ユキノちゃんは何か頼む?」

「……え、ああいや、私は良い」

「どうせ私のおごりなんですから、好きなものを頼んでいいんですよ」

「それなら……ロースをタレで」

 

カヤからの誘いで高級焼肉店で晩餐をしているのだった。

 

「次長はどうしますか?」

「私はいい、お腹空いてないし」

 

なぜこうなったのか、正直私にもわからない。

いつも通り仕事をしていたら唐突に声をかけられ、「士気を高めるためだ」とか言って今に至るわけだ。

普通に訓練でもしたほうがいいだろとは思うが上司命令だ。それを言うのはご法度だろう。

 

「てか室長もほとんど頼んでないじゃん。焼肉屋まで来てかにかまサラダとか正気?」

 

そして当のカヤは皆が楽しそうにしている姿を烏龍茶片手に眺めているだけだった。

ほんとにどうして来たのだろうか。

 

「悲しい話ですが、私とウツツは日々の激務によるストレスで脂っこいものが受け付けないんですよ……」

「私を中年のおじさんみたいな扱いするのやめて……」

 

まあそんなわけはないのだが、お腹が空いていないというのも嘘である。

一度冷静に考えれば分かることだ。今日口にしたものは水とコーヒーとゼリー飲料1つだというのにお腹が空かないわけがないだろう。

 

本当の理由は全て明日の作戦が原因だ。

少し判断を間違えばカイザーに囲まれるかもしれない、少し判断が遅れれば爆発に巻き込まれるかもしれない。

そしてそれを左右するのは小隊長である私の判断だ。

死ぬのが私だけならまだいい。

だがFOX小隊の皆が私のせいで死んでしまうのだけは嫌だ。

もし今何かを食べれば……この吐き気は気分の問題ではなくなってしまう気がするから。

 

「それよりもだ、こんな事をしている暇はあるのか?」

 

その場にいた誰もがうっすらと浮かべていた疑問、それをユキノが口にした。

 

「今回の作戦では最悪の場合カイザーの大隊を相手取ることになる。それを想定した訓練をすべきだと思う……のだが、どうなんだ?防衛室長」

「良いんですよ、適当で。訓練のしすぎで想定外の状況への対処がお粗末になって仕舞えば本末転倒ですし……それに貴方達なら、私の想像通りに動いてくれるでしょうから」

 

話を聞く限りは信頼の表れ、と言うことなのだろう。

まあカヤは指揮だけでなく、部下の管理能力も優れている。

そんな彼女がそう言うのだから今は信じるしかないか。

 

「何より、大舞台の前には腹ごしらえをしないとですからね!」

 

頬いっぱいにサラダを詰め込みながら声を張り上げる。

口が塞がっているせいかもごもごしていて所々聞き取りづらい。

 

「ふふ、それもそうですね。すみません、レバーと上タンを2人前」

「なら私は特上カルビ!どうせ室長の奢りなんだからいっぱい食べないと」

 

流石はSRTの生徒達だ。

成長期であれだけ筋肉があるのだから、肉の数人前なんて易々と平らげてしまう。

そんな中、私とカヤのテーブルだけがスカスカだった。

 

「……私は少しお手洗いに」

 

カヤが突然席から立ち上がり、一言そう告げてからその場を去る。

別になんの変哲もない食事中のお手洗いだ。そのはずなのだが、どうも何かが気になって仕方がない。

 

「……ごめん、私も行ってくる」

 

その正体を確かめるため、一言言い残してカヤの後を追う事にした。

 

***

 

焼肉屋を出た後は二次会としてカラオケに向かった。

嬉しい事に、連邦生徒会の人間だと言う事を示したらVIPルームへと案内された。

これが職権濫用と言うやつである。

ただあいも変わらず、カヤと私は歌わずに座ったままであった。

 

「……先程はありがとうございます」

 

歌声でかき消されてしまう事を想定してか、体を近づけてそう話すカヤ。

 

「全然良いよ……ただ、私がやばい時は手伝って」

 

つい数十分前、お手洗いに行ったカヤを追いかけると、そこには酷い顔をして口から胃液を垂れ流している彼女の姿があった。

殆ど何も口にしていないから嘔吐にすらならない、酷い有様。

流石にまともな状態ではなかったので、彼女の背中を優しくさすりながらしばらく休ませていたわけだ。

あそこで貰いゲロしなかったのは奇跡と言えるだろう。

 

「……ずっと、話していなかった事なのですが」

「……うん」

「私は明日の作戦が、とにかく心配でならないんです」

 

クルミの元気な歌声が響く中、微かに聞こえたカヤの声は対照的に物凄く弱々しかった。

 

「私は全ての責任を負う立場です。それ自体はいい、受け入れているのに……私のせいで貴方達を失う事になったらと……」

 

カヤの足に置いていた私の手の甲に、冷たいものがぽちゃりと落ちる。

汗ではない気がした。

 

「もし、責任を負う事が出来ないくらいの事態になったらと、そう考えるととても怖いんです」

 

私の不安何て霞む位に彼女の不安は大きいのだろう。

連邦生徒会長の後継としての立場、すべての責任を負わなければいけないその席に座るものの苦悩。

 

「……私も、同じようなこと考えてた。勿論カヤのと比べちゃったら些細なものだろうけど」

「些細だなんてそんな、貴方も酷い顔ですよ」

「そう……全部が終わったらしっかり寝ようかな」

「私もそうしましょうかね」

 

カラオケの席で肩を寄せ合いながらくだらないことを話し合うその状況は、装備を脱ぎ銃の代わりにマイクを握るその姿は、まるでただの学生のようだった。

 

「ちょっとほら、室長も歌いなさいよ!」

 

歌い終わり満足そうな顔をしたクルミが、カヤのもとへ駆け寄りマイクを手渡してきた。

てっきり断るものかと思っていたが、彼女はマイクを握りその場で立ち上がる。

 

流れたのはノスタルジックを感じるローテンポなメロディー。

それに包まれながら、カヤはゆっくりと歌い始めた。

 

「Welcome to your life. There's no turning back. Even while we sleep――」

 

普段の彼女からは考えられないような透き通った歌声。

マイクを渡した張本人であるクルミも驚いている。

 

「We will find you. Acting on your best behaviour, turn your back on mother nature. Every body wants to rule the world」

 

その場の誰一人合いの手すらせず、狐耳をぴくつかせながら聞き入っていた。

少しの伴奏を挟んだ後、もう一度息を吸い込んだ。

 

「It's my own design. It's my own remorse. Help me to decide. Help me make the――」

 

カヤは伴奏の盛り上がりに合わせ声を張り上げるどころか、よりか細い、落ち着いた歌声を響かせる。

 

「Most of freedom and of pleasure, nothing ever lasts forever. Every body wants to rule the world」

 

「There's a room where the light won't find you. Holding hands while the walls come tumbling down. When they do I'll be right behind you」

 

「So glad we've almost made it. So sad they have to fade it. Every body wants to rule the world」

 

そこまで歌い、カヤはこっぱずかしそうにマイクを机に置く。

 

「はい、もう十分でしょう……!」

 

後半は何か考える余裕もないくらいに聞き入ってしまっていた。

置かれたマイクはオトギへと、そしてニコ、ユキノに回っていく。

 

***

 

「では、また明日」

 

カラオケの後、カヤはそう一言だけ残してその場を去っていった。

時計を見るともう11時だ。

明日の為にも早めに帰って寝るとしよう。

なんて考えて、私もその場を立ち去ろうとしていたのだが……

 

「……ごめんニコ、これはどう言う……」

 

何故なのかよく分からないが、ニコに頭をよしよしと撫でられる事態に陥った。

身長差が大きいせいで、後ろから抱きつかれる様な形のまま10分ほどこのザマである。

後ろを振り返ると、彼女は母親の様な笑顔を私に向けながら髪をわしゃわしゃといじり始める。

 

「次長、私は勘と……耳が良いんです」

 

子供をあやすときの様な声色でそんな事を言い始めるニコ。

彼女の勘がいいと言うのは、埋められた地雷の寸前で足を止める等相当なものだ。

だがそれがどうしたのだろう。

私の頭にトラップワイヤーでもついていると言うのか。

 

「だから少し……聞こえちゃったんです。クルミちゃんが歌っていた時、2人が話していた事が」

「……あ」

 

つまりこの行動は慰めだったのだろう。

辛い思いをしている相手の頭を撫で、大丈夫だと慰めるあの行為。

そう考えると確かに……少しだけ落ち着く。

 

「室長はこう言う事嫌がると思いますけど……本当はあの人の事も撫でてあげたいんです」

「確かに、カヤは嫌がるだろうけど。でも撫で続けてたらどこかで諦めると思う」

 

もはや頭を撫でられていると言うより、後ろからハグをされている様な体勢になっている。

前からは夜風が、後ろからは暖かさが。

 

「……明日、辛かったらいつでも逃げましょう。室長だって、作戦のせいで貴方が傷付くのは嫌でしょうから」

 

甘い誘い、思わず逃げたくなってしまう。

だがそれだけはダメだった。

私だけ逃げると言うのは、カヤに全てを背負わせると言うことでもある。

 

「……逃げないよ、逃げるもんか」

 

自分に言い聞かせる様にして私は言う。

それを聞いたニコは一層強い力で私を抱きしめ、そこから30分は話してくれなかった。




このタイミングでこの立場のキャラがカラオケはヘイルメアリーすぎるだろと言う指摘は受け付けていません
使用楽曲に関してですがぜひ和訳を調べたりして楽しんでみて下さい
普通にめちゃくちゃ良い曲ですし、物語にもめちゃくちゃ合ってます
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