【第一章完結】もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第十四話 カルバノグの洞窟にて

作戦当日、FOX小隊はカヤのセーフハウスで命令を待っていた。

連邦生徒会で集まれば、当然行動の理由を問われ疑われるだろう。

だからと言って一般人の目につくのも好ましくない。その為公共のエリアも論外だ。

そこで上がったのがセーフハウス。

この場所を知っているのはリン元代行と公安局長くらいのものだ。

そしてその当人達は仕事に忙殺され、わざわざここに訪れる暇もない。

つまりは完全な秘密基地と言うわけだ。

 

「集まっていますね」

 

奥の部屋からカヤが姿を現す。

いつもより身だしなみがしっかりとしていた。服はシワ一つなく、化粧も気合が入っている。

 

「今日はいつもに増してキリッとしてるじゃん。何?もしかして私達が命をかけてる間にデートとか?」

「そう言うわけではありませんが……大切な日ですので。だらしない姿ではダメでしょう」

「ま、それもそっか」

 

オトギのからかいもさらりとかわし、一度咳払い。

どうやら本題に入るらしい。

 

「今回の作戦の概要を改めて説明します」

 

そう言ってカヤは手元の端末で備え付けのディスプレイを起動した。

映し出されたのは地下サイロのマップ、そして5つの赤い点。

 

「サイロの爆破を達成する為には、運送通路を使用してサイロ内部に爆薬を運び込み必要があります」

「でもそんな事したらカイザー側に気付かれるんじゃ?作戦目標にはサイロだけじゃなくて兵士も入ってるんでしょ」

「ええ、ウツツの言う通りですね。ですからまずはコントロールルームに向かう必要があります。そこで出入り口やリフトを停止させ、輸送通路のみを一時的に開放。そこで爆薬を運び込む……と言う流れにはなるのですが」

 

カヤはマップを少し変化させる。

そこには侵入経路と警戒すべきエリアが映し出されていたのだが……

 

「見ての通り、カイザーが巡回するであろう経路とコントロールルームまでの最短ルートが複数被っています。そこで提案するのは二つ。一つは巡回しているカイザーの兵士をステルスで無力化し進む作戦。二つ目は侵入経路を変える作戦です。ここは実働部隊である貴方達の方が判断しやすいと思いますので、意見を頂ければと」

「前者ならば完全に実力で正否が決まるな。FOX2のステルスとFOX4の狙撃での攻略が最善だが……」

「けど後者の方が安全ではあるわね。失敗したときのリスクを考えると、前者を選ぶ必要性は薄く感じるけど……」

 

小隊の全員が頭を悩ます。

確かにクルミの言う通り余計なリスクを取るべきではない。

今回の作戦ならば尚更だ。

だが巡回中の兵士がコントロールルームに入ってくる可能性も存在している以上後者も完全に安全とは言えない。

どちらにしろ見張り番は必要だ。

 

「……それなら3:2で動くのは?ステルスに向いてない私とユキノ、クルミがルートを変えてコントロールルームに、ニコとオトギは巡回の兵士を排除。そうすればもし巡回の兵士がコントロールルームに接近する事態があっても未然に防げる」

「確かに……良い作戦ではある。ただ、現場指揮が可能な私とFOXαを1箇所に置くのは好ましくない。どちらかがステルスのチームに加わるべきだ」

「そうなると軍用の機械に強い方をコントロールルームに送りたいですね。残念ながらウツツは機械音痴な所があるので……ここはユキノ、お願いできますか」

「了解した」

 

確かに私は機械が苦手だがわざわざ言わなくても良いんじゃないだろうか。

だがまあ、作戦内容が決まったのだからよしとしよう。

 

「ではその後の行動についてですが……ここからは時間との戦いになります。まずは運送通路を起動し爆薬を運び込む必要がありますね。しかしカイザーの兵士達は脱出経路の確保の為にコントロールルームへと押し寄せてくるでしょう。ですからステルスチームは早急にコントロールルームへと合流する必要があります」

「じゃあ私は狙撃後の移動経路を確保しておかなきゃね」

「そこはそちらでお願いしますね。そして爆薬を起動した後の脱出、これが肝です。幸いあれは時限式ですが制限時間は5分、その間の脱出が必要になります」

「その……5分ってのは厳しいんじゃないですか?確かに長すぎると逃げられるリスクはありますけど」

 

カイザーに囲まれている状態で五分間で脱出は殆ど不可能だ。

何か抜け穴があるわけでもないのならば。

 

「そこは問題ありません。このサイロは地下にある都合上、複数箇所に通気口があります。事前にそこへ脱出用のロープを垂らし、そこから外へと出れば3分もかかりません」

 

確かに抜け穴があった。

これならカイザーが追ってきたとしてもロープそのものを切って仕舞えば良い。

これで奴らは追ってこれないわけだ。

 

「以上でブリーフィングを終わります。何か質問は?」

 

帰って来たのは沈黙である。

 

「では、現時刻をもって作戦を開始します。FOX小隊、準備が出来次第、子ウサギ駅へと向かって下さい。私は怪しまれない様連邦生徒会本部に居ますので、作戦が終わり次第連絡をお願いします」

 

全員で敬礼を行い、セーフハウスの出口へと向かう。

内心、とても緊張している。今にも胃がひっくり返りそうだ。

なんとか深呼吸をし、気持ちを整える。

 

「それとウツツ、貴方には話したいことがあります」

 

その言葉に思わず振り返る。

 

「少しだけ時間をもらえますか?」

「もちろん良いけど……」

 

話したいって何を?と聞こうとしたのも束の間、彼女は壁に立てかけてあったガンケースを開け、その中から一丁の銃を取り出す。

そしてその銃を丁寧に持ち上げ、私の方へと手渡そうとして来た。

 

「これは?」

「プレゼントですよ。貴方への」

 

私は何が何だかわからなかった。

多分酷く困惑した顔をしていたと思う。

なにせプレゼントを贈られる様な事はした覚えは無いのだ。

 

「私達がまだ1年生だった時、私に拳銃を贈ってくれたでしょう。その時、私は貴方に『必ずお礼をする』と言ったはずです。……中々機会も無く、遅れてしまいましたが」

 

そう言えば、と私はあの時を思い出す。

確か初めて事件を解決した時、怪我をした私の見舞いに来た彼女に贈ったのだったか。

 

「特注のショットガンです。訓練の際、火力が足りていない様に見えたので、2丁持ちも良いかと思いまして」

 

私の愛銃と似た型番、ダブルバレルショットガンだ。

色は水色、私の髪と同じ様な色で染めてある。

あれは一々リロードを挟む必要があったから、確かに二丁なら火力の上昇が期待出来る。

 

「確かあの時、お返しは要らないって言った気がするけど」

「そうでしたね。ですがどうしても渡したいんです」

「そう言う事なら……ありがたく使わせてもらうよ」

 

カヤの両手に包まれた銃を、傷つけない様慎重に持ち上げる。

重量も丁度いい、本当に良い銃をくれたものだ。

ありがとう、と一言残して、ユキノ達に合流しようとしたその時。

 

「……この銃、貴方から貰った拳銃の何倍も高価なんです」

 

向けた背中を、彼女にぐっと掴まれた。

 

「ですから、無事に帰って来て下さい。お返しを期待していますよ」

 

涙を押し殺した様な声でそう言うカヤに対して、私は昨日ニコに教えられた慰め方を実践する事にした。

 

「え……あの、ウツツ?これはどう言う……」

 

無言で頭に手を置き、優しく撫でる。

身長が低いからニコみたいに抱きつく事はできないし、あの様な安心感も与えられない。

それでもこれくらいしか、私に出来る事はないんだ。

 

「……嫌なら遠慮せず言って」

 

結局、私から手を離すまで彼女は嫌なんて言わなかった。

 

***

 

『FOX1、潜入を開始する』

「FOXα、突入を開始する」

 

インカムで通信をコントロールルームに向かっているユキノとクルミへ繋げる。

次はオトギだ。狙撃の準備が出来ているかは常に確認しておかなければいけない。

 

「FOX4、ポイントにはついた?」

『こちらFOX4、狙撃ポイントについたよ』

「了解。敵の位置は?」

『FOXαの前方、40m先に見張り役の兵士が2名。』

「確認した。手前のやつはこっちで処理するからFOX4は奥のをお願い」

 

双眼鏡で確認した所、どうやら敵は雑談をしているらしい。

呑気なものである。

 

「FOX2、遮蔽を移りながら至近距離まで近づいて」

「了解」

 

ニコに指示を送り、私は背後を監視しておく。

サイロ内は大きな音が定期的に鳴っている。閉鎖空間だからこそ他階層の音が響いているのだ。

その音が鳴るタイミングで移動をし、全く気づかれず接近していくニコ。

いくら敵が警戒していないとは言え、ここまでのステルス能力は流石と言ったところである。

 

「合図する。1のタイミングでオトギは狙撃、ニコはテイクダウンを」

『了解、こっちは準備おっけーだよ』

「3……2……1!」

 

1発の静かな銃声が鳴る。

確認すると2人の兵士はどちらも火花を散らしながら地面に横たわっていた。 

 

『FOX4、狙撃成功』

『FOX2、無力化に成功しました』

 

2人とも完璧な動きだった。

流石SRTの3年生と言うべきだろう。

 

「FOX1、コントロールルームには後どれくらいで着きそう?」

『こちらFOX1、後3分程度だ、そっちは?』

『こちらFOX4、ぱっと見敵は見当たらないしこのまま進めそう』

「それでも位置的に2分はかかる。その間に脱出経路の閉鎖を進めて」

『了解』

 

遮蔽物から出て、ニコと合流する。

この先もしばらくオトギの狙撃可能範囲だ。

唐突に敵から襲われると言う可能性はないと言って良いだろう。

ニコと体を近づけながら、互いに別々の方向を警戒して前へと進む。

 

それにしても凄い施設だ。

話で聞いたことしかなく実際に目にするのは初めてなのもあるだろうが。

地下にあると言うのにも関わらず閉塞感を感じないほどの広さ。それは横にも、縦にも言えること。

そこらのビルほどはあるであろう階層数、下は底が見えないほど暗い。

 

『こちらFOX1、後1分でコントロールルームに到着する』

「了解FOX1。こちらはもう目の前に居る。先にコントロールルームをクリアしておくから、合流の時はまた報告して」

『了解だ』

 

コントロールルーム入り口の電子ロックを解除し、中へと入る。

人の気配は無い。どうやら無人らしい。

 

「こちらFOXα、コントロールルーム内部に入った。FOX4も一度合流して」

『了解。今狙撃ポイントから離れ……』

「……?どうかしたFOX4」

 

通信先のオトギは明らかに困惑していた。

ザーザーとノイズの音のみがインカムに響く。

 

『あれ……シャーレの先生?』

 

その通信内容に私の心臓は跳ね上がる。

先生がここに?どうして?計画がどこかから漏れた?

いや、それよりも1人で?あり得ない。銃弾1発で致命症を負う人間だぞ?

 

「先生と他には誰か居ない!?例えば公安局とか……」

『居る……RABBIT小隊の小隊員が4人全員』

 

跳ねた心臓は止まらない。

だが合点はいった。

恐らくは止めに来たのだろう、この爆破作戦を。

ほとんど会ったことのない様なものだが、噂などから考察するに先生は相当な理想論者だ。

こんな半ばテロの様な作戦を許すはずがない。

だから止めに来た。SRTの生徒に対抗する為、SRTの生徒を連れて。

 

「FOXα、状況は」

 

その声の方向に振り返ると、そこにはユキノとクルミが居た。

 

「シャーレの先生とRABBIT小隊がここに来てる」

「あいつらが……一体何故」

「分からないけど相手はシャーレ。どこかから情報が漏れるのもあり得なくはない」

「それでどうするのよ!後輩纏めて爆殺でもする気?」

 

ここで起爆すれば確実にシャーレとRABBITも一網打尽に出来る。

どう考えてもそうすべきだ。そもそも作戦目標の達成を前提としたら考える余地も無い。

だけど……

 

「……爆破は出来ない」

 

カヤはここでシャーレやRABBIT小隊を失わせる様な真似はしない、求めない。

この作戦は大前提キヴォトスの為……平和の為には先生の存在が現状不可欠。

カヤも先生に任せきりの現状を憂いては居た、だがそれは逆に先生の必要性を認めていると言うことでもある。

 

「ここで先生を、シャーレを殺すと言うのはキヴォトスにとって大損害……だがら彼がここにいる時点で、この作戦は破綻してる」

 

そうなるとここから撤退……待て。

そもそも彼らはどこまで知っている?

作戦内容だけなんて事があり得るのか?

 

いや、作戦内容が漏れた時点で実行犯まで漏れている可能性は非常に高い。

そうでなくとも後々洗われたら確実にどこかで漏れる。

そもそもカイザーの施設に侵入なんてSRT以外にできる訳が無いんだ。

だがRABBIT小隊は先生といたと言うアリバイがある、そうなれば疑いが向くのはFOX小隊……

 

そして今回の事例で確信した。

シャーレの情報網は洒落にならない。

つまりFOX小隊から防衛室もとい代行に疑いが向くのも……

 

「…………そうか」

「FOX4戻ったよ。状況は?」

 

丁度良いタイミングでオトギが合流した。

私は作戦を伝える。これからの、破綻を戻すための作戦を。

 

「カヤが危ない。今すぐ連邦生徒会に向かってカヤをセーフハウスに避難させないと」

「ちょ、ちょっと待って下さい……どうしてそんな話に」

「長く話してる暇は無い……けど多分、先生はこの後カヤの所に向かうはず」

「……お前はどうするんだ、FOXα」

「ここに残る。誰かがRABBIT小隊を足止めしないと」

 

銃の点検をする。

手榴弾の量をしっかりと確認し、防弾ベストをきつくしめた。

 

「FOX1、サイロ全体を閉鎖。その後ロープをつたって地上へ出て」

「……ウツツちゃん。本当に戦わなきゃいけないんですか?」

「私は作戦を果たす。ただそれだけだよ」

 

ニコの問いには頷かなかった。

ただひたすらに、呼吸を整え続ける。

 

「待ってよ、5人で戦えばきっと勝てるって……だから囮になんてならなくても」

「1%でも負ける可能性があるなら戦うべきじゃない。それに今回は相手が相手だから」

 

オトギの静止も聞かなかった。

ただひたすらに、銃を握り締め続ける。

 

「ほ、ほら!盾役が居た方がいいでしょ!時間稼ぎなら私が……」

「盾役はいざと言う時、カヤを守る為にいないと」

 

クルミの提案も断った。

ただひたすらに、体に力を込め続ける。

 

「……ユキノ。道具は自分で選択しないから価値がある、だよね」

 

ユキノの顔は見なかった。

ただひたすらに、出入り口を見つめ続ける。

 

アラームが鳴った。

サイロが完全に閉鎖されたのだろう。これでより、先生達を足止めできる。

 

「…………健闘を祈る」

 

ユキノのその言葉の後、ロープの擦れる音が聞こえた。

 

インカムの電源を切り、起爆ボタンを踏み壊す。

 

やがてコントロールルームのドアが開き、4人のウサギと、1人の大人が入って来た。

 

「……先生、久しぶりですね」

"……ウツツ"

 

4つの銃口が一斉に私の方へと向けられる。

 

"どうして、こんな事をするの?"

 

そういえば考えたことの無かった、私が戦う理由。

初めはキヴォトスの為が全てだったが、今はそれだけでは無い気がする。

 

「親友が居るんです。その人の為に出来るのは、私にはこれ以外思いつかなくて……」

"なら、その子の側に居てあげるべきじゃないかな"

「……そうすべきだったんでしょうね。まだ別れの挨拶も済ませてないので」

 

私は銃口を向け返した。

 

「負けられないですね。お互いに」

 

この戦闘において勝利条件は時間稼ぎだ。

倒す必要は無いし、先生に関しては撃つことすら許されない。

私は片手の銃を腰のベルトに挟み、スモークグレネードを取り出す。

だがその動きを察知した相手から何発か銃弾をもらってしまった。

 

ただでさえ精神的にも肉体的にも疲弊している。なるべく攻撃は受けたく無い。

溢れ出た煙で視界を遮り、背後へ回る。

だが相手は腐ってもSRTだ。視界がなくとも足音である程度の位置はバレる。

だからこそもう一段、妨害を絡める必要があった。

 

甲高い警報音がコントロールルーム中に響き渡る。

原因は単純、私が押した緊急時用のボタンの影響だ。

これなら常に聴覚を奪える。少なくとも1人の足音を正確に聞き分けることなんてできないだろう。

 

「RABBIT3!」

 

しかし相手には、FOX小隊には居ない役が居た。

コールサインRABBIT3、風倉モエ。電子戦において無類の強さを誇るキャンプRABBIT……彼女によって警報は一瞬で解除されてしまう。

話には聞いていたが、カイザーのセキュリティを一瞬で破るとは、想像以上の実力だ。

 

「これならよく聞こえますね……RABBIT4、8時方向!」

 

突然眼前へと飛んで来た弾丸。

思わず不意をつかれ、そのまま足を滑らせ倒れ込む。

 

「ラ、RABBIT4、命中」

"…皆んなスモークの範囲から出て。畳み掛けるよ"

 

だが足音である程度の位置を読めるのは私も同じ。

二丁持ちの利点を活かし、二方向へと銃弾を放つ。

 

「くっ……そちらもですか…」

"ミヤコ、距離を取って。サキが前に、立て直す時間を稼ぐ"

「了解!」

 

接近戦を仕掛けて来たのはRABBIT2、空井サキ。

クルミによれば頭でっかちで想定外の動きが苦手らしい。

それならやりようはいくらでもある。

 

真正面からの撃ち合い、互いの胸に、顔に、弾丸が炸裂する。

単発の火力は私が上……だが数は彼女の方が圧倒的だ。

だからこそのフェイント、意識が銃に向いている間にフラッシュバンを互いの間に投げる。

 

だがこれは対策するだろう。

SRTではフラッシュバンの訓練もさせられると聞く。

だが、未熟で真面目な彼女だからこそ、フラッシュバン"だけ"にリソースが割かれるんだ。

 

フラッシュバンを囮にした低姿勢からの回し蹴り、彼女はこれに対策できない。

狙い通りにそのまま体制を崩し地面に倒れた隙に、後頭部へと両手4発分全弾を打ち込む。

 

"ミヤコ!距離を取りながら弾幕を張って!ミユも援護射撃を!"

 

先生の声に焦りが混じる。

そうだ焦れ、私に時間制限は存在しない。

だが先生はどうだろうか。SRTの装備を着た私、そして何故か居ないFOX小隊の面々。

優秀だからこそ想像するはずだ、気付かぬうちに返されていた砂時計の存在を。

 

「……さあ先生、まだまだ付き合って下さいよ!」

 

***

 

時間は確実にすり減っていた。

続く戦いの中、秒針の音だけが頭に響く。

私の目に映るのは、何度撃たれても倒れない1人の生徒。

親友の為に足掻き続ける、伴篠ウツツの姿だった。

 

本音を言うのであれば、私は彼女と戦いたく無い。

もしかしたら、まだしっかり話し合っていないだけなのでは無いか。

先生として、他にできることがあるのでは無いか。

そんな疑念だけが頭に浮かぶ。

 

それでも私はこの指揮を止められない。

RABBIT小隊の正義を信じて戦うと、いざと言う時は責任を取ると言ってしまったから。

だがこれは……この銃弾の雨は、正義と言えるのだろうか?

私は先生として、全ての生徒が正しい道に進めるよう、教え、導かなければならない。

だから私は、カヤやFOX小隊、そしてウツツの事を間違った道を進む生徒と考えて、こうして戦いに来たんだ。

けどもしかしたら、そうでは無いのかもしれない。

 

彼女達にも彼女達なりの、彼女達にとっての正義があって、これはただの押し付け合いなのでは無いか?

私が正しいと思い導いた道は、もしかして……

 

気づけば、戦いは終わっていた。

ウツツは地面に倒れ、銃も片方手放している。

 

"皆んな!急いでFOX小隊を追うよ!"

 

とにかく今は目の前の戦いが先決だ。

そうしてコントロールパネルを触り、ロックを解除しようとすると……

足首に、強い圧迫を感じた。

見るとそこには、頭から血を流しながら、這いつくばってでも私の足首を握りしめ、逃すまいとするウツツがいた。

 

「……ま、って……わた…し、はまだ……負けて…!」

 

……これは、本当に正義と言えるのだろうか。

 

「先生!今から徒歩でFOX小隊を追っても間に合いません!モエのヘリコプターに乗って早く!」

"う、うん!分かった!"

 

申し訳ない気持ちを押し殺し、掴んだその手を振り払う。

その手は驚くほど弱々しく、あまりに軽く振り払えてしまった。




あと二話で一章完結です。
あと少しだけお付き合い下さい。
あ、全然二章もあるので少しでは無いです。
それとエピローグ後、掲示板回と言うのをしてみようと思います。
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