【第一章完結】もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第二話 狐と凡人

「その……久しぶり、ユキノ」

 

不良生徒を撃退し、鞄を取り戻した後、私達は1月ぶりの会話をしていた。

何せまともに話す相手と言うのは先生以外いなかったので、とても新鮮な感覚である。

 

「今まで一体どこで何をしていたんだ?連絡一つよこさないで」

「連邦生徒会を辞めた時、社用携帯返しちゃって。連絡先も覚えてなかったから……」

 

私は今まで私は個人携帯を持っておらず、連邦生徒会から渡されたもののみを使っていた。

理由は単純、連絡とメモくらいしかやることが無いから。

今は先生から渡されたものを使っているが当然以前の連絡先なんて残っておらず、わざわざ探すほどの気力も無く、そのまま疎遠になるのかと思っていたのだが。

 

「それより、そっちこそなんでこんな所に?」

「一時期はバイトなんかも考えたんですけど……学生でもない私達を雇ってくれる所なんてなかったんです」

 

ニコの言う事は確かに正しい。このキヴォトスにおいて学生であると言うことは最も簡単な身分証明手段、それが無ければ子供を雇わないなんてザラだ。

ブラックマーケットであればそんな事もないだろうが、それは彼女達の正義に触れる行為だろう。

 

……まあ、居場所を奪ったのは私なんだけれど。

 

「アンタ、また変な事考えてるでしょ」

「いや全然……何も」

「長い付き合いだし分かるわよ!どうせ私のせいだって抱え込んで、もう少しシャキッとしたらどうなの!」

 

そう言って私の手首を掴むクルミ。

思い切り骨に衝撃が伝わり、私は思わず顔を歪める。

だがそれ以上に酷い顔をしていたのはクルミの方だった。

 

「……アンタさ、ちゃんとご飯食べてる?」

 

先ほどとは一転優しげな口調で彼女は問いかける。

手首をゆっくりとさすりながら。

 

「どうしたのさ急に、人の心配なんかしちゃって。らしくないよ?」

 

いつも通りの軽口を叩きながら、オトギも私の手首を握った。

 

「って……え、流石に細すぎない?」

 

そんなオトギもすぐに血相を変え、入念に私の手をさする。

今の私は両手を横に伸ばしながら両方向から手をさすられているやべえ奴だ。

一体何がどうなっているのだろうか。

 

「さすさすするのやめてよ……」

「いやでも、これは流石にって言うか……」

 

確かにご飯は食べていないが、自分で体重を量ることもなかったしそもそも体重なんて気にする余裕もないため、まさかそこまで痩せているとは思わなかった。

二人は心配そうな表情で私の目を見つめてくる。

 

「そう言うクルミ達はちゃんとご飯食べれてるの?」

 

心配の表情から、痛いところを突かれたのだろうという表情に変わる。

こんなホームレスのたまり場に住んでいるのだから当然困っているのだろう。

 

「ま、まあ……最近はあんまり食べれてないけど」

「おいなりさんを作る材料も買えなくって……」

 

クルミにはああ言われたがこれは私の責任だ。

私がどうにかすべき事案、カヤがそうしたように。

 

「今度来る時はさ、ご飯持ってくるよ」

 

「私が食べられない分も」と言おうとしたのは控えておいた。

 

「それはありがたい……ですけど」

「いいのか?わざわざ無理をしなくても私達は……」

「いいんだ。それくらいしか私に出来る事はないから」

 

気まずい匂いの沈黙が流れる。

逆に聞きたい、私に他に何が出来ると言うのか。

何一つ守れなかった私に。

 

「……分かった。ただ、そっちも困ったことがあればいつでも連絡してくれ」

 

ユキノはそう言ってさすられ尽くした私の手の甲に、マーカーで電話番号を書いてきた。

 

***

 

「すいません先生、遅れました」

"ウツツ!大丈夫だった!何か怪我したりとか!"

「え、ええ……大丈夫ですよ」

 

凄い剣幕でこちらに駆け寄ってくる先生。

大丈夫だと言って宥めると、彼は仕事終わり以上のため息を吐く。

 

「ただ少し不良に絡まれただけで。怪我も何もないですよ」

"それは何かあったって言うんだよ……"

 

半ば呆れたような声で先生は言う。

ここまで心配されると逆に申し訳なくなってくる。

 

私は先生の机にカップ麺を置き、残りは冷蔵庫に袋ごと入れておいた。

自分の机に座り、引き出しに入っている蓋の空いたゼリー飲料を一口だけ飲む。

 

ユキノにはああ言ったものの、今の私に4人分の食品を買う金なんて無い。

シャーレで働いてはいるが、所詮私は部員兼罪滅ぼしだ。

だからこそ今まで先生から一切の金銭を受け取らずタダ働きをしていたのだが、こうなるとそんな定型文を使っている場合では無い。

 

「……あの、先生」

"どうしたの?"

 

重々しい唇を無理に開ける。

だが言葉が出てこない。

 

これは別に、自分のためってわけじゃ無いんだ。

ただ単に困っている人がいて、その人は先生からの助けを受け取らないだろうから私が代わりに渡すだけ。

そう、これは半分仕事だ。何もやましいことをしているわけでは無い。

 

「その……生活が厳しくて、少しでもお金を貰えると……」

 

「少しでも」と付け足し、残った罪悪感を消した。

我ながら狡い言い方だと思う。

 

"いいよ"

「勿論無理にとは言いませんが……え?」

"いいよ"

 

思ったよりすんなりと行きすぎて困惑だ。

少しくらいはしぶられると思ったのだが。

 

"ウツツは下手したら私より仕事をしているしね。今までタダ働きだったのがおかしいまであるよ"

 

先生は胸ポケットから一枚のクレジットカードを取り出し、何かを呟く。

すると突然カードが光を放ち始め、机の上に数十枚のお札が現れた。

彼は困惑する様子もなくそれを手に取り、封筒にしまった後私に手渡してきた。

 

「こんなに……本当に良いんですか。と言うか今のは何なんです」

"あれはまあ、大人の特権みたいなものだよ"

 

その封筒に詰められた枚数について、彼は何も語らない。

まるで当然とでも言うように。

 

「……ありがとうございます」

"うん、これで美味しいものでも食べてね"

 

このお金で食べるのは私では無い、なんて事は当然言えず。

嬉しそうな顔を貼り付けてその場を凌いだ。

 

***

 

昼、先生から休憩の時間をもらってFOX小隊のいた路地に向かう。

最近は快晴続きで日差しが熱い。体力のない私には堪えるというものだ。

 

「ユキノ!差し入れにきたよ!」

 

精一杯の声を出して彼女の名前を呼ぶ。

両手に弁当と飲み物の入ったレジ袋を持ち、路地特有のむわりとした暑気を我慢しながら歩いて行った。

 

「はい、唐揚げ弁当と親子丼、カレーにパスタもあるよ。好きなの取ってって」

「じゃあ私唐揚げもらっちゃお!」

「あ、ちょっと!」

「ユキノちゃんも好きなのもらっちゃいなよ」

「……私は余りもので良いさ」

 

彼女たちはいつから、満足に食べられていなかったのだろうか。

心の底から嬉しそうな、純粋な女子高生のような表情で弁当を食べている。

こうも喜ばれると私としても嬉しい。

ただ過去の罪を清算しているからと言うわけではない。幸せにいてほしい人間が幸せなことが堪らなく嬉しいのだ。

 

「それより、ウツツは食べないのか?」

「4人分しか持ってきてないし、私はお腹いっぱいだから。みんなで食べちゃって」

 

以前の焼肉でも同じような嘘をついた気がする。

別にお腹が空いていないわけではないのだ。

何も食べないと腹は鳴るし、胃酸でキリキリと痛みもする。

それでも私の喉を、食べ物が通る気がしないのだ。

 

「いや、お腹いっぱい食べてたらあんな痩せるわけないでしょ……」

「ほらほら、唐揚げ一個あげるからさ」

 

オトギが安物の割り箸でつまんだ唐揚げを、少し強引に私の口へと持ってくる。

ここまでされたらもう食べるしかない。

私は覚悟を決め、少しでも拒否感を和らげるため目をつむりながら口を開け、一口食べる。

 

久しぶりに口へ入った固形物、物の嚙み方もうろ覚えで必死に口を動かす。

出来るだけ液体状に、ゼリー飲料のような口当たりを目指してとにかく噛み続ける。

そして喉に送るときは飲み込むのでは流すように、弱り切った胃を労わるようにして唐揚げ一個を食べつくした。

 

「あ、ありがとオトギ、でももうお腹いっぱ……」

 

だがダメだった。

胃に何かがある違和感が、のどに触れた衣の破片が、歯の奥に付いた肉汁が。全てが気持ち悪く吐き気を催す。

抑えようとする、何とかして手で口をふさぎ、上を向いて登ってくる胃酸を出すまいと足搔く。

しかしそんな努力もむなしく、頬と手の隙間から吐瀉物が噴き出た。

それがもう一度口の中に戻るのが嫌で、急いで下を向く。

惨め、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 

「ごめん…!私が無理に食べさせたせいで…!」

「わたしの、方こそ……オトギのご飯…無駄にしちゃって……」

 

背中に暖かさがあると思ったら、ニコが背中を撫でてくれていた。

あの時は私がカヤの背中を撫でる側だったのに、私も弱くなったものである。

 

「……どれくらいだ」

 

ユキノがさながら尋問のように問うて来る。

 

「1日でどれくらい食べて、食べられているんだ」

「……ゼリー飲料を…朝昼晩に分けて一つ食べる…かな」

 

そう答えると、ユキノは昨日のクルミやオトギの様に手首を触ってきた。

 

「きたないから……」

 

私の言葉にも耳を貸さず、何かを見定める様にして私の手を見つめ続けているユキノ。

しばらくして手を離し、濡れたタオルを渡してくれた。

 

「……助けが要るのは私達なんかじゃないだろう」

 

そう呟くユキノの目に含まれていた感情は何だったのだろうか。

心配か、哀れみか、それとも他の何かなのか。

ただ一つ、例えその感情が何であろうと、今の私は惨めな姿をしているのだろう。




ちょっと気になるコメントを貰ったので活動報告に書きます。
別に批判したいわけでもなく純粋に分からないと言うだけなのですが、ネガティブな発言あるかもなので見ない方がいいかもです。
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