【第一章完結】もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第三話 七度目

「……眠」

 

いつも通り、見慣れたデスクと書類の束の前で伸びをする。

今日で何徹目だろうか。それでも仕事が片付かないと言うのだから最早ホラーものだ。

 

(そろそろ差し入れに行く時間か……)

 

時計を見ると既に12時近くまで針が向かっている。

今日も相変わらずの快晴、昼間に行くのは疲れるが彼女達の胃袋のためだ。

40kgの重い身体を起こし、いつもの場所へ向かおうとすると……

 

"大丈夫!?"

 

先生の慌てた声、そして同時に訪れる痛み。

直後、私は地面に倒れたのだと気づく。

 

"怪我は!?"

「無い……です、はい」

"良かった……"

 

何かに引っかかって転んだのか、とにかく立ちあがろうと膝に力を入れる……だが、突然の目眩で力が抜け、もう一度倒れてしまった。

 

「あ、れ……?立てない?」

 

ある可能性に思い至り、カレンダーを見る。

私はここ数日間寝ていない。だが何日かが分からなかった。

最後に寝たのは11日、そして今は……17日。

ここでようやく理解した。これはただの転倒ではない、明らかに疲労から来る立ちくらみ。

 

「すいません……肩を貸してもらえますか。早く行かないと……」

"……っ!こんな状態でどこに行くって……!"

「先生!!」

 

思わず声を張り上げる。

だが掠れている。張り上げると言うよりも絞り出すに近いだろうか。

 

「私が行かないと……ダメなんです」

 

先生は酷く辛そうな顔をしていた。

これはそうだ、以前ユキノにも向けられた目。

 

"行かせられないよ。ウツツは休まないと"

「……どっちにしろ寝れません。悪夢を、見るんです」

"じゃあ、私と一緒に昼寝しようか"

 

 

 

……へ?

 

 

 

「……へ?」

 

 

 

(……へぇええええええ!?)

 

なりゆきというのはこう言う事を言うのだろう。

気付けば仮眠室のシングルベッドで先生と二人、背中が当たって暖かいのは良いが、そんなメリットを消し飛ばす程に狭苦しい。

 

そもそも全てが意味不明だ。

寝れないのだと言ったのになぜ私はベッドに連れられている?なぜ寝かすための方法が添い寝?そしてなぜ昼寝?夜寝れば良いだろ!

 

……とは言ったものの実際体は癒やされつつある。

いつもなら体がガチガチで横になったところで落ち着けもしないのに、何故か今日はリラックスできていた。

まあいつもと違う所と言えば、やはり先生がいるところか。

背中越しに心臓の鼓動が、肺の収縮が、肌の動きが鮮明に伝わって来る。

人と寝ると言うのはここまで心地いいものなんだな……

 

"ウツツ、私の事……恨んでたりする?"

 

ベッドの端から先生の声。

彼の体と私の体を通り越し、私の耳まで伝わって来た。

 

「……いえ。そもそも、あそこで起爆ボタンを押さなかったのは先生の事を必要だと確信したからです。ここで死んでもらっては困る、と」

"信頼してくれてる、って事でいいのかな?"

「そんなわけがないでしょう。ただ……私は貴方を先生だなんて思ったことはありませんが、多くの生徒にとってはそうなんです」

 

朧げながら考えていた事をまとめ、文として形創りながら発していく。

 

「今のキヴォトスは、先生が居なければ成り立ちませんから」

 

本来憂うべき事だが、連邦生徒会を去った私にはどうしようもない話だ。

リン政権がその方針なのであれば私に口出しする権限はもう無い。

のであれば、先生を最大限保護し、連邦生徒会長の二の舞にならないよう努める。

それが唯一、今の私にできる事。

 

「だから、恨むだなんてあり得ませんよ」

"それなら……嬉しいな"

「それに……」

 

これは照れくさいと言うか、プライドが邪魔してあまり言えなかった事。

だがもう添い寝までしているのだ。今更そんな事考えても意味はない。

 

「少しだけ感謝もしているんですよ?先生が居場所をくれなければ、私は今頃何をしていたか分かりませんから」

 

もし、キヴォトスを乱す様な事をしなければ生きられないと言うならば、私は間違いなく死を選ぶだろう。

そして学籍の無い生徒が生きる道など、ブラックマーケット以外無い。

 

"君が少しでもよく生きられているのなら、先生として嬉しい限りだよ"

 

顔は見えないが声で、先生が喜んでいるのが伝わって来る。

 

"そう言えば……カヤには会いに行かないの?"

 

ふと思い出した様に言っているが、前から考えていた事なのだろう。

カヤには、何となく合わせる顔がない様な気がして会えていない。

そもそも何と伝えるべきなのだろうか。

親友だなんて言っておいて、最後に挨拶の一つもできなかった弱虫が。

 

「……会いに行ったとして、どうすればいいんでしょうか」

"何も気を張る必要はないと思うよ。ただ会って、挨拶して、最近あったことでも話せばいい。友達ってそう言うものだよ"

「そう……なんですかね」

 

苦笑まじりにそう答える。

そうか、私は考えすぎていたのか。

変に壁を作って、会わない理由を作ろうとして、つまり自分を守っていたのかもしれない。

なんて考えていると、だんだんと意識がぼーっとして来て。

 

「せん…せい、今度…会いに行こうと……おもい…ま……」

 

途切れ途切れの言葉を発して、そのまま意識を失った。

 

***

 

「…………ん」

 

だんだんと、意識がはっきりとして来た。

仮眠室のドアを一枚挟み、雨の音。相当ぐっすりと寝ていた……

 

いや、まずいまずい仕事が……!

 

「先生!私何時間くらい……あれ?」

 

急いで起き上がり、側で寝ているはずの先生を起こす……つもりだったのだが。彼の姿は跡形も無く、寝ているのは私一人だけ。

おそらくは私が寝ついたのを確認してから仕事に向かったのだろう。

彼も私と同じくらい仕事を抱えている。付き合って寝ている場合では無いはずだ。

 

ドアを開け、オフィスを見る。

ただそこに先生はいなかった、あるのは書類の山と無人のデスク達。

 

少しだけ胸騒ぎがした。

だがそれはすぐ収まる。

そうだ、先生は他の生徒とどこかに行く事も多い。

ならばオフィスに居ないことだって当然あるだろう。

時計は8時を指している。これだけ意識を失っていればその間に何か用事が入ってもおかしく無い。

 

窓の外は久々の雨だ。

確か朝の予報は一日中晴れだった気がするが……ゲリラ豪雨か何かだろうか?

ただそうなると、先生が外で濡れている可能性も大いにある。

最悪傘を届けに行ったほうがいいだろうか。

今後雨が続く様なら……そう考え、今後の天気を見るためテレビを付ける。

 

『クロノススクールより緊急速報!!緊急速報です!!』

 

しかし映し出されたのは、穏やかな天気予報では無く焦った声のアナウンサーが行う緊急ニュース。

私はその画面の端に書かれた文言を見て目を疑う。

 

 

 

『連邦捜査部シャーレの先生が失踪しました!!犯人は近日活発になっていた新興宗教団体と考えられています!!』

 

 

 

先生が失踪、消えた胸騒ぎが焦りとして帰って来る。

私が寝ている間に一体何が……と言うよりも新興宗教団体?最近どこかで聞いた気が……

そこまで考え思い出す。数日前後回しにした資料に書かれていたゲヘナ自治区の団体調査。

もしあれならば、調査をすぐに許可しなかった私の責任……

 

『事件当時同行していたゲヘナ風紀委員会の空崎ヒナ委員長は、交戦の末に病院へ運ばれ、現在意識不明との事です!!』

 

その言葉を私は到底信じられなかった。

つまりあの風紀委員長が負けた?それも意識不明になるほどまで追い詰められて?

その上先生と同行していたのなら指揮も受けているはず……そんな彼女らが負けたとなれば、もはやこのキヴォトスに単体で勝てる相手というのは存在しない……

 

『尚、その影響で各自地区でも混乱が起きており……』

 

つまりこれは、私やカヤが恐れていた、連邦生徒会長が失踪したあの時の二の舞。

今のキヴォトスでは、先生を頼れない。つまりは大人を頼れない。

子供だけで出来ることなど……そもそも単体で勝てる相手がいない以上、対応するなら部隊となる。

しかしそうなれば指揮官は必須、そして今のキヴォトスは皆が先生の指揮に慣れてしまっている。

つまり結局結論は同じだ。

生徒達は先生を頼るしか無い、しかし頼る先生はいない。そこに行き着く。

 

だが逆に言うのであれば、先生以外の指揮に慣れていてかつ戦闘力の高い部隊がいれば解決の糸口が見えると言うこと。

問題はそんな部隊がいない事…………いや、一つだけある。

 

SRT特殊学園、ここに関しては先生の指揮を必須としない。

だが動かすのには連邦生徒会長の指示が必要だ。

しかしリンは動かさないだろう。ただでさえ混乱に対する対処が必要だ。

その上あの性格、最終手段として使わないまま終わりだろう。

 

「……私に何か……出来ることは……」

 

私は確かにシャーレの部員ではあるが、超法規的権限を持っているのは先生のみ。

だから権力は使えない。

なら頼る相手は?誰か居ないかと頭を回す。

連邦生徒会は論外、そもそも話も聞いてくれないだろう。

各学園に話したところで何になる。風紀委員長が勝てなかった相手だぞ。

カヤは……監獄に居るのにどうやって頼れと?

他、他には誰か……

 

その時私の目に、机の上に置かれた携帯が写った。

連絡先に居るのは先生と……FOX小隊。

 

だがそれはダメだ。

あれだけ巻き込んで、あれだけ辛い思いをさせて、もう一度地獄に連れ戻そうと言うのか?

そしてまた殿を務めるのだろう。犠牲になる事で向き合う事から逃げるんだ。

しかし他に頼れる相手なんて……

 

『防衛次長……私たちの事、せいぜいうまく使うんだな』

『……赤信号の向こうで人が倒れています。今横断歩道を渡れば助かるかもしれません』

『どうせ私のせいだって抱え込んで、もう少しシャキッとしたらどうなの!』

『だから、安心して頼っていいからね』

 

……彼女達は道具だ。

私も、カヤも、所詮は平和の為の道具。

頼る?『使う』だろう。

そうだ、私はいつから忘れていたんだ。

鈍っていたのは身体だけじゃない、脳みそもここまで腐り切ってしまったとは。

 

気づけば電話をかけていた。

七度ユキノと書かれた連絡先を押し、耳に当てる。

 

『ウツツか。どうしたんだ?』

「FOX1、詳しい話は後だ」

 

「私にもう一度だけ、命を預けてくれるか」




先生との穏やかな生活が長く続くわけねえだろ
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