【第一章完結】もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第四話 Re.Assemble!

『私にもう一度だけ、命を預けてくれるか』

 

スピーカーから流れたその声に、一瞬困惑する。

まず状況がわからない。思惑もわからない。

ここでまず聞くべきは「何があった?」とか「まず説明をくれ」とかだろう。

 

だが一つ、彼女は私の事をユキノではなくFOX1と呼んだ。

それだけで分かることがある。

これは『命令』だ。決してお願いなどではない。

ならば返す言葉は決まっていた。

 

「了解」

 

通話を切る。

チャットで座標が送られてきていた。

私はそれをほかの隊員たちに共有し、声をかける。

 

「各員、準備しろ」

 

 

「出撃だ」

 

***

 

「……暇、ですね」

 

矯正局と言うのはやることがない。

刑務作業でもさせてくれと思うのだが、身体の問題と危険度から檻の外には出さないと言われてしまった。

食べ物は薄味のものばかり、入った当初はまともな衣食住が備えられていることに泣くほど喜んだが、1月も経てばそれも飽きてくる。

その上コーヒーの一杯すら飲めやしない。

看守も一切口を利かず、人と話す機会がないのも致命的だ。

人と言うのは結局社会性動物、関わりがなければいずれ死んでしまう。

 

それに今日は湿気が多い。

恐らくは雨なのだろう、それも相当な大雨。

当然矯正局に空調なんてものがあるはずもなく、こういう日は服や髪がベタついて不快感が半端じゃない。

こんな雨では先生もリンも面会に来ないだろう。

彼らはうるさいしうざったいしめんどくさいが、こんな場所では数少ない話し相手だ。

わがままを言うのであればウツツと話をしたい……だがそれは叶わない願いという奴だろう。

私は裏切った、友達を巻き込みたくないなんて理由で。

彼女からすれば合わせる顔もないだろう。

 

「いっその事、アクシデントでも起こってくれれば良いのですが……」

 

なんて事を呟いた直後、遠くの方で微かに音が聞こえた。

低音で、余韻があり、地面が震える様な……

 

(……爆発?一体何が)

 

それは私があの時、防衛室で聞いたのと同じ様な音。

考えられるのは組織犯罪か……だが、矯正局をわざわざ襲撃する理由があるか?

例えば銀行なら目的は金だ。ではここは……誰か会いたい人間がいる?

ただの不良生徒達にそこまでの勇気は無い、ならばもっと大物。それこそ七囚人レベルの誰かを脱獄させようとしているのか?

 

段々と大きくなって行く音、これはARにショットガン……対物ライフルも添えられている。

本当に誰だ?このレベルの武器を持って来れそうなのはSOFくらいのものだが、それにしては銃声が少ない。

恐らくは4〜5人程度、かつ看守の発砲音が異様に少ない事を考えると相当な手練れだろう。何せ看守が対応する前に仕留め切っていると言うことなのだから。

 

音の主は逸れることなく私の方へと向かってくる。

……流石に何かがおかしい。

確かに私がいるのは要注意人物の入れられる房だが、七囚人など戦闘力の高い囚人は少し離れた所に収容されている。

私の周りにそこまでの重要人物は…………いや、一人いるか。

 

起こした事件の規模であれば近年稀に見るほどで、対話を拒否されるほどには警戒されていて、何より……

 

「目標発見!直ぐに解錠を行う!」

「FOXα早く、こっち!」

 

馬鹿で無駄に行動力の高い友人を持った奴が。

 

「……久しぶりですね」

「うん、本当に……」

 

私か。その重要人物とやらは。

 

数秒後、鍵がカチリと言う音を鳴らし開く。

クルミとニコが周囲を警戒、オトギは遠方から偵察。ユキノとウツツが私を回収か、流石としか言えない手際の良さである。

 

「それで?何か用があるのでしょう?」

 

私は動かしやすい方の腕で頬杖をつき、ウツツのことを見上げながらそう問いかける。

 

「会いたくなったから、とかは考えないの?」

「貴方はそんな人間ではないでしょうに。何かしら社会利益があるから、もしくは必要性があるから行動した。少なくとも、私情だけで動くわけがありません」

「……相変わらず、私の事分かってるね」

 

少し満足そうな表情で彼女は微笑む。

そして私の車椅子を押して牢の外へと出て、進軍してきたであろう道を戻り始める。

 

「用は単純、先生が何者かに誘拐もしくは殺害された」

 

彼女の口から語られる現状、それは到底信じ難いもの……だが逆に、想定し続けてきた未来でもあった。

だからこそ、その危険を口にし続けて来た私を呼んだのだろう。

 

「敵はゲヘナ風紀委員長でも勝てなかった未知数の存在、だから……」

「部隊として戦う必要がある。しかしそれを指揮できる先生が居ない、だから私を指揮官としてFOX小隊を運用しよう……中々な大役を任されたものですね」

「……セリフを横取りしないで」

「あまりに予想しやすかったので、ね?」

 

そうだ、ここまでは予想が付く。

しかし相手の能力も何もかもが未知数な以上、この先は正直どうしようもない。それはウツツも同じだろう。

そもそも街の混乱などで本格的な調査の行われていないであろう現状では、誰もそれを知らないのだ。

 

「それで、ここからのプランは?」

「それを聞くためにここに来たんだよ」

 

つまりここからは既に私の出番と言う事らしい。

だが正直な所、彼女が必要なものを分かっていないとは思えなかった。

言うなれば答え合わせ、と言った所だろう。

 

「……まあ、貴方も分かっている事でしょうが」

「当然。だからこれで大丈夫なのか聞きたい」

「その……私達はまだ分かっていないんだが……何をするんだ?」

 

困った表情でユキノが声をかけて来た。

確かに、彼女に対してはまだ何も話していない。

ウツツとしても無闇に話せないだろう。

 

「乳に脳の詰まった女を玉座から引きずり落としに行くんですよ、もう一度ね」

 

***

 

「敵襲!敵襲だ!」

「い、今すぐヴァルキューレを呼べ!」

「ただでさえ人手が足りていないと言うのに無理ですよ!」

「早くリン先輩に伝え……!」

 

埃を被っていた二丁を両手に持ち、片っ端から戦闘員を排除する。

私達が居るのは連邦生徒会本部。銃を持ってそんな所に突撃する理由なんて一つしかない、クーデターだ。

以前はカヤが単独で内部から起こしたクーデターだが、今回は堂々の正面突破。

代行執務室まで武力で一直線である。

 

「それにしても……もっと手こずると思ってたわ」

 

クルミが盾を下ろしながらぽつりと呟く。

確かにこの戦いは手応えが無いと言うか、最早蹂躙であった。

 

「天下のSRTがこの程度苦戦してもらっては困りますよ。それに、今の連邦生徒会にまともな戦力は残っていないでしょうしね」

「……成程。各地の混乱に対応する為ヴァルキューレの人手が足りないと読んだわけだな?」

 

私も成程、と心の中で手を叩く。

学園が動くのはせいぜい自治区のみ、その他の治安維持はヴァルキューレの仕事だ。

連邦生徒会時代はこのシステムに苦しめられたが、逆に考えればキヴォトス全域の混乱であればヴァルキューレの仕事は何倍にも膨れ上がる。

自治区という決められたエリアがないのだから。

 

「読みでも何でもありません……以前、ヴァルキューレの手が回らなくなった事態ありまして……ただのパターンと言うか、何と言うか」

 

カヤの顔が一気にどんよりとする。

正直私も昔の激務は思い出したくもない。

シャーレも確かに忙しかったが、昼に差し入れに行けるだけの余裕があるだけ十分天国であった。

 

「そう言えば……この車椅子、どうしたの?」

 

矯正局で初めて見た時からずっと疑問に思っていたことを聞く。

 

「お察しの通り、あの時の爆発です。まあ元々は死ぬ覚悟でしたし、生きているだけ御の字でしょうか」

 

今度はユキノの顔に陰りが見えた。

確かに彼女も守れなかった側の人間であるし、思う所があるのだろう。

もちろん私も例外ではない。

 

「ま、まああの時は少し気が触れていたと言いますか……そんな顔をしないでください……」

 

私たちの気持ちを察してか、そんなことを言うカヤ。

 

「安心して下さい、もう絶好調ですので。ですから今回は無血で解決してやりましょう、ね?」

「……了解」

 

車椅子を押し廊下を、段差を、エレベーターを進む。

やがてどんどんと見慣れた景色になっていった。

何度も訪れた連邦生徒会長代行執務室、その扉の前に立つ。

鍵を銃で壊し、勢いよく蹴破って中に押し入った。

 

「カヤ……突然姿を見せたと思えばこんな事をして……」

「アイスブレイクの予定はありませんよ、連邦生徒会長代行?」

 

リンはどうも状況を飲み込めていない様子である。

横にいる護衛も今までの道中で起きた惨状を聞いているのか、手が震えてまともに狙いすらつけられていない。

 

「どうして……もう一度クーデターを」

「全く……貴方が今起きている問題を解決出来ると言うのであれば、私は今頃牢屋でランチタイムだったのですがね」

 

最早この部屋に敵は居なかった。

焦りもせずにゆっくりと車椅子を押し、リンの座っていた席の横に向かう。

 

「まあ、貴方がこの様な事を苦手とするのは知っていますから、責めるつもりもありませんよ。後は私にお任せください」

 

リンはその言葉を聞き、ユキノ達が銃を向けるまでもなく席を立った。

 

「……ここから見る景色は格別ですね。昔を思い出します」

「私はあまり思い出したくないけど……」

「ほう、そんなにシャーレの居心地が良かったのですか?先生に甘やかされたりして?いやはや、リーダーがこれではFOX小隊もねぇ……」

「甘やかされてないし……!結構激務だったんだよ!」

 

とてもクーデターを起こしているとは思えない、和やかな空気が執務室に流れる。

革命は革命でもこれでは大富豪の方だ。

 

「さてさて、早速"元”代行さんに命令です」

「……何ですか」

 

「着替えを一着、用意していただけますか?」

 

***

 

何度も何度も繰り返している。

痛み、苦しみ、久しく見ていなかった自分の血と、絶対に見たくなかった先生の血。

何度も愛銃をふるった、腰の両翼をはばたかせた、それでもいつも届かない。

幾度か繰り返し、それが夢だと知りながらも。

 

怖かった。先生の居ない現実よりも、いずれ失うのであっても一緒にいられる夢の方がマシだった。

しかし段々と、夢の景色が霞んでくる。

眠りから覚める時が来たのだろう。

恐々と目を開けると、そこは知らない天井であった。

 

「……!委員長!目を覚ましたんですね!」

「……アコ?」

 

彼女は私の手を握りしめながら、今にも涙を流しそうな顔で声を上げる。

 

「私は……どれくらい……」

「3日ほど……救急医学部の皆さんも目を覚ますかわからないとおっしゃっていたので……てっきりこのまま」

 

私が現実から逃げている間に、いらぬ心配をかけてしまっていたらしい。

 

「……ごめん、アコ」

「委員長が謝る必要は……!」

「……っ、ごめん、ごめんなさい……私、先生の事守れなかった……」

 

思わず感情が溢れる。

二度と救えないあの人が、最後に見せてくれた笑顔が脳裏をよぎり決壊する。涙として、言葉として。

 

私は弱かった。

未知の敵に対して何もできないまま、先生の事を奪われてしまった。

もう少しだけ強ければ、何度考えたことだろう。

だがその少しだけすら夢の中で叶うことはなく、無力だという現実だけが押し寄せる。

 

「私がしたことなんて……全部無駄で……」

「無駄なんかじゃありません!」

 

アコがいきなり声を張り上げる。

あまりに唐突なことで、驚いた私はびくりと肩を震わせた。

 

「実は、委員長に会いたいという人がいます」

 

話の先が見えないが、勢いに圧倒されとにかくうなずく。

病室の扉がガラガラと音を立て開き、その先から水色の髪をした女の子が現れた。

 

「初めまして、連邦捜査部シャーレ所属、伴篠ウツツです」

 

その声には聞き覚えがあった。

エデン条約調停式の際、私の事を援護してくれた部隊のリーダーと同じ声。

彼女は私の目を見て、椅子に座る。

 

「教えてください。貴方が戦った相手について」

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