【第一章完結】もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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エタってねえって!


第五話 通した袖の先

「待って……その、状況が飲み込めないのだけど」

 

目の前の少女、空崎ヒナ委員長はどうも困惑しているようだ。

無理もない。今起きたばかりなのにこんな事を言われたらそうなって当然だ。

 

「目下キヴォトスに迫っている、貴方が戦った謎の敵。私たちとしても即座に対応したいのですが、如何せん情報がありません」

「だから私に……なるほど、とりあえず状況は分かった。けれど、その……大した情報は私も持っていなくって」

「私たちは何一つ知りませんから、どんな情報でもありがたいです」

 

申し訳なさそうにもじもじしている風紀委員長をフォローするように返す。

しかしこれは嘘でも何でもない。

私たちは敵の姿形すら知らないのだから。

そんな状態で戦おうなど冗談じゃない。

 

「そうね……あれは人間と言うよりも……神話や、御伽噺の生き物の様な……」

 

信じ難い話ではあるがキヴォトスでは稀にある事だ。

砂漠の巨大な機械蛇や半透明の聖女服、果ては空に浮かぶ船と来たのだから、今更神話から生き物が飛び出して来ようと驚きはしない。

 

「それなら、トリニティの古書に情報があるかもしれませんね……名前や姿は?覚えていますか?」

「姿は、何と言えばいいのかしら……身体中に海産物を貼り付けた物で……巨大なタコの様な形をしていたけれど。それと名前だけれど」

 

「信徒の一人が『ティアマト様』と呼んでいた事だけは覚えているわ」

 

聞き覚えのある名前だった。

古い神話に登場する、海の象徴である神だったか。

それが神の名を付けられた化け物なのか、正真正銘の神なのかによって対応は変わるが……

 

「ありがとうございます。それと……辛い記憶かもしれませんが、戦闘の様子を教えてもらえませんか?」

「……ええ。勿論よ。私は先生の指揮の下、出せる限りの出力で銃を撃ち続けたわ。多分、1000発以上」

 

風紀委員長の最大火力と言えば、全速力の戦車数台を押し返すなんて噂される程の異次元である。

それを1000発、私なんかが喰らえば間違いなくミンチだろうが、その上で彼女は負けたのだ。

それ程の相手、と言う事なのだろう。

 

「初めは全く効いていなかった……けれど突然相手がうめき始めて、まともに銃弾が通り始めたのよ。先生もそれを見て戦闘スタイルを変える様指示をしていたわ。より攻撃的に、至近距離からってね」

 

敵が後々弱くなる。と、それだけ聞けば風紀委員長の攻撃が効いた様にも思えるが、それまで一切ダメージのなかった攻撃を受けて弱体化するか?と言う疑問が残る。

 

「でもその後……鯨の口が突然開いて、それで……先…生が、飲み込まれて」

 

彼女の顔がどんどんと青ざめていく。

どうも良くない記憶に触れてしまったらしく、落ち着かせる為に隣に寄り添い背中をさすってやった。

すると少しは落ち着いたのか、彼女は深呼吸をした後、顔に赤みを取り戻す。

 

「……ごめんなさい、これ以上は」

「十分ですよ。協力感謝します、風紀委員長」

 

ただ一つ不思議なのが、何故先生を飲み込んだのかと言う点。

どう考えても脅威に映るのは風紀委員長の方、それなのに恐らく後ろで指揮していたであろう先生の方を飲み込んだ……

考えられる可能性は、先生に危険を感じたか、何らかの理由で力を失い、それを取り戻す為先生を飲み込んだ。

後者であれば鼻から風紀委員長の攻撃は効かないと言うことになるが……あまり考えたくはない可能性だ。

そうなれば対処法は安全圏からのミサイル爆破くらいしかなくなってしまう。

 

「では、私はこれで」

 

椅子を立ち、そのまま病室のドアへと向かう。

取手に手をかけた直後、一つだけ言い残した事があったのを思い出した。

 

「先生には、すぐここに来るよう伝えておきます」

 

それだけ言い残して病室を去る。

ドアを閉める直前、か弱い泣き声がその隙間から聞こえた。

 

***

 

連邦生徒会長執務室、大窓から差し込む陽の光に照らされながら、車椅子の少女に服を着せる。

不知火カヤ、かつての同僚の姿は無惨としか言いようがなく、特に素肌は衝撃的な物だった。

半身の皮膚が爛れ、所々熱で癒着している。服が擦れるだけで痛むのだろう、袖を通すたび苦悶の声を上げていた。

 

「本当に……勝てるのですか?」

 

力無い下着姿の下半身にミニスカートを履かせながら、思わず私は聞いていた。

 

「……今更不安になりましたか?」

「いえ、そうではありませんが……」

 

今まで私達生徒は、先生の指揮の下戦ってきた。

どんな時でも彼が先頭に立ってくれていたから、勇気を持って向かえたのだろう。

しかし今回先頭に立つのは、身体が不自由な車椅子の少女。

私はどこかで、彼女に先生と同じ安心感を求めていた。

 

「まあ、私が頼りないのは分かります。私は所詮脱獄囚、経歴と言えば二度のクーデターくらいのものですからね」

 

冗談混じりに彼女は返す。

思えば、昔はこう言う冗談を言うような子では無かった。

だが今の彼女がおちゃらけていると言うわけでもなく、むしろ余裕が出来た故の行動と感じる。

 

「……ですがまさか、貴方がそんな事を言い始めるとは」

「……弱気になる私はそんなに意外ですか?」

「それは全く意外ではありませんよ。ただ……そうですね、貴方とは久しく指していないですから、忘れてしまったのでしょうか」

 

「強いですよ、私は」

 

指した、とはチェスの事を言っているのだと少し経って気づく。

確かに忘れていた。彼女は政略が苦手、人間関係が苦手、媚び売りも苦手……とことん政治家に向いていない人物だが。

盤と駒さえ用意すれば、誰よりも強いと言う事を。

 

「では始めましょうか。まずは敵を知る事から」

 

彼女が身に纏った服、それはいつか連邦生徒会長が帰ってきた時のために用意しておいた、デザインの違う予備の服。

肩賞の付いたマント、胸元に下げた少し変わった十字の装飾、ミニスカートに黒タイツを履き、頭には連邦生徒会のマークがついたベレー帽。

一瞬、居なくなった彼女の姿を重ねる程に、カヤはその服を着こなしていた。




カヤが着てる服は偽連邦生徒会長の服とほぼ同じです
マークがシャーケードの杖ではなく連邦生徒会な事以外は違いがないです
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