【第一章完結】もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第七話 大海のサンクトゥム攻略戦

がたがたと揺れ続ける機内の中、二丁のショットガンを胸に抱える。

そこは上空数百メートル、SRT謹製ティルトローター機の座席だ。

 

「緊張しているのか?」

 

隣に座っていたユキノにそう問われる。

そうだ、私はとても緊張している。何せキヴォトスの命運がかかった重要な作戦の直前だ、緊張しないわけがないだろう。

心を落ち着けるため、頭の中で作戦内容を反芻する。

 

OPERATION:HomeComing、その最初にあるのが塔の攻略だ。

全高1000m、半径50m、頂上がドーム型になっている、いかにもと言うような禍々しい見た目。対象……ティアマトが建造、拠点としたであろうそれの名称をカヤは『大海のサンクトゥム』とし、攻略の道筋を立て始めた。

まずは配置、と言ってもこれは単純で、オトギが塔から1km離れたビルの屋上で待機、その他は全員内部に突入だ。

作戦会議でも役員達に伝えたことだが、塔の内部を検査できない以上攻略自体に未知のリスクが伴う。

であるならば、塔攻略に必要な時間と要素を最低限にする事が最善のリスクヘッジとなる訳だ。

そこから導き出されたのが、下からではなく頂上から直接突撃すると言うもの。

相手に知能が存在する事、塔の形状を模していることを踏まえて考えた時、攻められやすい低層には居ないだろうと想定しての作戦だ。安直だが変に裏読みして外しても面倒……カヤはそう言う作戦の立て方をする子だ。

だがもし何かトラブルがあっても予備プランが……

 

「何者かからの攻撃を受けました!!対ショック体勢!!」

 

……うんざりするほど綺麗な即落ち2コマだ。

揺れると言うよりも振りまわされているような衝撃を感じながら、吹き飛ばされないよう必死に近くの手すりを掴む。

 

「作戦変更!!予備プランに移れ!!」

 

警報音に負けない程の大声で私は叫んだ。

予備プランの概要、それは大海のサンクトゥム中部への正面衝突。

出来る限り姿勢を維持し機体ごと塔に突っ込む、正真正銘ゴリ押しである。

 

***

 

頭が揺れる、視界が掠れる、どうやら予備プランは成功したらしいが……そのダメージは相当なものだった。

すぐに体に力を入れ立ちあがろうとするが、どうも膝の力が抜けてその場にへたれこんでしまう。

そりゃあそうだ。回転するヘリが壁に激突して放り出されたんだぞ。どこに何をぶつけたのかもわかりゃしない。

 

(……そうだ、銃……私の銃は……)

 

何者かの襲撃を警戒し、あてにならない視界と共に手探りで直前まで握っていたそれを探す。

一応ここは敵陣のど真ん中だ。弱った私たちを狙ってくる可能性は非常に高いと言えるだろう。

這いずるような姿勢で進みながら立体であろうものに片っ端から触れていくと、その中の一つにとても握り慣れたものがあった。

それも二丁、おありがたいことに一か所へ固まっている。

 

敵は……まだ来ていない。

と言うよりも静かだ。鼓膜が破れているのかと思ったが、追突した機体の軋む音は嫌と言うほど鮮明に聞こえる。

まさか、この程度警戒されていないのか?

それとも誘き出されているのかは分からないが……妙な気分である。

 

「……ッ…ゲホッ…FOXα、無事か?」

 

ユキノがふらふらと揺れながら私の方へと歩いてくる。

同じようなダメージを受けて私が立てていないのは恐らくブランクの差だろう。

ここ数日は鍛えていたが、それでも1ヶ月以上の不摂生と怠けの分は流石に取り戻せていない。

 

「無事……他の二人は?」

「まだ機内に残っている……がそっちはFOX2に任せてあるから心配しなくていい」

 

一瞬機体の方に目を向け、すぐ私の事を見下ろす。

そして、瓦礫辺を払ってから目の前に手を向けてきた。

 

「立てるか?」

「……勿論!」

 

その手を強く握り、ユキノの力を借りながら立ち上がる。

先程までは少し緊張があったが、馬鹿みたいな特攻のおかげでそれも吹き飛んだ。

 

「……FOX小隊各員、無事か!?」

『こちらFOX2、無事です』

『FOX3、私も無事よ』

「……FOX1、無事だ」

「よし……」

 

まだ少し混濁している意識を、深呼吸して元に戻す。

それから伸びをして身体の凝り固まりを取り除き、両手で頬を叩き気合を入れた。

 

「ではこれより、大海のサンクトゥム攻略戦を開始する」

 

***

 

未観測だった塔の内部に入り分かったことがいくつかある。

まずは通信が繋がらないこと……だがこれは事前段階である程度は予想出来ていた。

内部観測が不可能なのは電波の透過を許さず吸収するから、ならば内部からの電波通信も不可能では無いのか?と言う至極単純な仮説。

だからこそ本来のプランでは頂上のドームに風穴を開ける予定だった。そうなれば電波の吸収もクソもない。

しかし中途半端なところに穴を開けると今回のような問題が起こる。

穴と私達の間に電波吸収素材が置かれている状況……ルーターとスマホの間に洗面所があると通信が悪くなるあれと同じだ。

だからこそティアマトとの戦闘エリア内に穴が必要、となれば開けるしかない。

と言うことで私たちはティアマトがいるだろうと想定している頂上を目指している訳だが……

 

「また足に昆布が……クソ……」

 

今ユキノが愚痴っているのが二つ目の問題、塔内部の構造ではなく材質があまりに予想外だった事である。

固める前のかまぼこのようなぬかるみ、亀の甲羅を重ねたような凹凸、イカの肌のようなぬめり、果てにはぴちぴちと動く新鮮なタコの触手がそこら中に生えているのだ。

単に登るだけとは思っていなかったが方向性があまりに予想外すぎる。

これではもはやエ○トラップダンジョンだ、どうやらティアマトのデザインセンスはゴミらしい。

だが風紀委員長と神話の内容と合わせて考えるに、こいつは海関連のものしか扱えない縛りでも持っているのかもしれない。

なにせ海をつかさどる神だ。その条件下においては最強、と言うことなのだとすると……

 

「……全員止まって」

 

唐突にニコが静止を促した。

それに従って動くが、他隊員はまだ何が何なのか分かっていない様子である。

無論、私も含めて。

 

「何か……来る」

 

その一言で全員が警戒体制に入る。

前方は暗闇で何も見えない、だが耳を澄ますと確かに何か音が聞こえた。

ぺたぺた、と。足音のような足音ではないような曖昧さを孕んだ音が。

 

数秒後、闇の中から姿を現したのは、全身から腐った魚のような匂いを放つ化け物。

腕や足、臀部からヒレを生やし、顔はさながら人間の水死体だ。

 

「きっもちわるっ……何なのよアレ!」

「……ティアマトの手下か何かだとは……とにかく警戒態勢!」

 

銃のグリップを強く握り締め、引き金に指を添える。

すぐに撃ってもいいが、この距離だと相手が高速で動いた場合に弾が外れる可能性が高い。

 

「十分引き付けてから撃つ……耐えるようならFOX3が前で抑えて」

 

距離にして20m程、相手は未だ変わらない歩幅で一歩一歩詰め続ける。

15、10、まだだ……あと数歩……

 

「……撃てッ!!」

 

私たちの間の距離が目算で5mになったその時、これまでこらえていた一言を放つ。

瞬間響くのは複数口径の弾丸による衝撃音。

相手の表皮から火花が散り、薬莢が重力に従い落下する。

一見この攻撃を耐えることなど不可能、そう思えるが……火花が散るということはほとんど貫通はできていないということ。

 

「……効いていないか……FOX3!」

「わかってるわよッ!!」

 

クルミが声を荒げ前方に突進、それに続き私も近づく。

乱射が効いていないのであれば狙うのは弱点、クルミが抑えている間に探し出し撃ち抜くしかない。

先の射撃が当たっていないのは側面か背面、ならばそこにあると仮定する。

前面にある場合やそもそも弱点がない場合もあるがそんなのは考えても無駄だ。そうなればどちらにしろ勝てない。

 

人間であれば背骨や股間あたりが弱点……だがこんな硬度の表皮を通してダメージを与えられる気はしない。

ならばこの状況における弱点は表皮のない部分、それを探す。

そして見つける。首の付け根にある薄ピンクの部位、こいつの魚のような特徴から考えるにえらだろうか。

これが見た目だけのものなのか機能があるのかはわからないが、とにかく今狙えるのはここしかない。

 

右手のショットガンを向け一発、効果があったのか呻き声をあげる相手。

だが私のほうを向いたせいで次弾が当たらない……のであれば!

弾切れの右を投げ捨て空いた手で相手の頭を思い切り掴み固定、剝き出しのえらに左の一発を叩き込む。

それが致命打となり、相手はクルミの盾へもたれかかるように倒れた。

 

「ほんと、一体何なのよ……」

「もしこのレベルの相手がぞろぞろと出てくるなら……FOXα、弱点は首の付け根か?」

「うん。正確に言うならここ、内部が剝き出しのえらの部分」

「問題は正確に撃ち抜く難易度だな。FOX3の盾なら抑えられるが……」

「2体以上出てこられるとどうしようもないですね……」

 

オトギの狙撃であれば正面から撃ち破れる可能性もあるが、試していない以上は何とも言えない。

それ以外ならタイミングを調整し、背後で手榴弾を爆破させる方法……これは現実的じゃ無いか。

 

「とにかく上に行こう。早く通信を確立したい」

 

これ以上考えても仕方ない。

それに対策であれば通信でカヤやオトギも含めて練ったほうがいいだろう。

 

 

 

足元に注意しながら上へ上へと進んでいく。

不安とは反対に先ほどの半魚人は現れる気配すらなく、今のところは順調だ。

そうなると奴は1体だけの特別性なのか、それとも油断したところで一気に投入し潰しに来るつもりなのか……真相は不明だが最悪を想定すべきだろう。

 

それにしても、私たちは今どの辺りにいるのだろうか。腰に下げておいた高度計に目をやる。

針が刺した数字は880m、ドームの高度分も考慮すると、もうすぐ頂上に着くころか。

 

「FOX2、ドローン展開準備」

 

ならそろそろ作戦を次段階に進めよう。

頂上ドームに穴を空ける方法、それは爆弾を積んだドローンによる突撃だ。

通信が不可能な以上、先ほどやったようなヘリでの突撃は無理筋。定刻に外から穴を空けるのも考えたが、内部が未知数な以上タイミングの合わせが厳しいと判断。

消去法でドローン突撃に決定したわけだ。

 

ニコが背中に背負ったバッグから慎重にドローンを取り出し、操作用コントローラーを握る。

電波障害対策のためにドローンはマイクロファイバー通信、SRTで埃をかぶっていた一世代前のものを引っ張り出してきた。

ドローンのプロペラが4つ同時に回転し始め宙を舞う。

コントローラーに搭載されたモニターがドローンカメラの映像を映し、どんどんと未知のエリアを踏破していった。

そして……時間にして1分弱、時計回りに曲がり続けた坂道の先から、水平の地面が顔を覗かせる。

 

「恐らくここが頂上かな……高度950m、ドームの高度は50m程みたい」

「ティアマトらしき姿は?」

「今のところは……居ないかな。今のうちに爆破を実行するね」

 

直後、上の方から大きな爆発音が鳴り、さながら地震のような揺れが響いた。

 

「爆破成功、ドーム側面に穴が開いたよ」

「よし、私たちも上に上がろう」

 

焦らずゆっくりと、4人で固まりながら坂を上がっていく。

少しするとモニターと同じ、頂上の光景が目に映る。

 

(……本当にいない、カヤの読みが外れた?)

 

ドローンの死角を移動し映らないよう動いていた可能性も考えていたが……どうやら本当にいないらしい。

目算だが私たちが不時着したのは500mと少しの地点、つまり上半分にはいないということになる。

 

ドーム内はさながらアクアリウムのようだ。

薄紫の光に包まれ、空いた穴から極光が差し込んでいる。

どこか浮世離れした景色、美しいと同時に不気味だった。

 

「……とにかく、カヤと通信を繋げよう」

 

通信状態を確認し、インカムの周波数を合わせる。

すると耳元にザザザ……と、ノイズ交じりの音が聞こえ始めた。

 

『…エ……ギ…反……位…は貴……足元………!!』

「こちらFOXα、通信はどう?聞こえてる?」

『…早…中…か……れて…!』

「何?ノイズが酷くて聞こえな……!」

 

揺れ、先ほどの爆発よりもはるかに大きい、足元がひっくり返るようなものが襲い来る。

あまりに突然の出来事だった。それもどんどんと大きくなっている。

恐らく震源は中央方向……つまりは私が立っている場所……!

 

刹那、地面から何かが飛び出した。

私は間一髪それを避け、数瞬前まで立っていた場所に目をやる。

 

そこに立っていたのは、風紀委員長から聞いていた姿とは違う、人の形をした素体にあらゆる海の生き物を縫い付けたような異形の化け物。

そいつは空いた穴から差す光を背に、両手であろう部位を広げ笑った。

 

「総員戦闘態勢!!今この瞬間より、ティアマトとの戦闘を開始する!!」




多分後六話くらいか……?
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