もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

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第二話 "超人"

1年生の間、やる事はずっと変わらなかった。

仕事、訓練、仮眠をとってまた仕事。その繰り返し。

カヤと私の違いと言えば、訓練の時間が仕事に置き換わっているくらいだろうか。

気づけば私達2人は連邦生徒会の中でも指折りの優秀な生徒として覚えられていた。

そして2年生になった時、私達の実力は役職として評価されることとなった。

 

『防衛室長:不知火カヤ 防衛次長:伴篠ウツツ』

廊下に張り出された大きな紙に、私達の名前が連なっていたのだ。

どうも1年の初めに解決した事件や、その他治安改善に尽力した成果が認められての防衛室配属らしい。

2年で幹部の座に登り詰めるというのは歴代でも珍しい事らしく、周りも驚いた様子であった。

だがそれ以上に驚く事が……

 

「新しい連邦生徒会長、2年生ってほんとなの?」

「ほんとらしいよ!てっきり先輩達がなると思ってたのに!」

「どんな人なんだろうね、やっぱりキリッとした感じ?」

 

……連邦生徒会長は新3年生が継ぐのが今までの常識である。

これはくだらない伝統などでは無く、連邦生徒会長はあらゆる能力が高い優秀な生徒を前連邦生徒会長が選出するからであり、それ故3年生と関わる機会も多く能力をよく知られていてかつ経験豊富な一つ下の後輩が選出されるのが当然であったからだ。

 

だが今年の連邦生徒会長は2年生、それはつまり彼女が3年生を凌駕する能力を持ち、前連邦生徒会長との繋がりもあった正真正銘の超人であるという事なのだ。

連邦生徒会内はその話題で持ちきり、少し経つと私やカヤ、それから主席行政官の立場に立った七神リンと言う生徒の事など皆思考から外れていた。

 

***

 

2年になって初めての会議は、去年までとは別物であった。

なにせ席に座っている主要メンバーがほとんど違う。

連邦生徒会長、主席行政官、防衛室長……その全てが見慣れない顔ぶれだ。

ああいや、カヤの事は嫌と言うほど見慣れているけれど。

 

「それでは始めに連邦生徒会長、新任挨拶をお願いします」

 

その言葉に呼応し彼女が立ち上がった。

空色のロングヘアに桃色のインナー、色味はちょうど私とカヤの髪色と同じに見える。

3年生に見間違える程貫禄のある立ち姿、一瞬で会議室の空気が変わった。

 

「まず一つ、私がここに立てているのは主席行政官であるリンちゃ……七神リンさんを初めとした方々の支えあってこそだと考えています。決して、私1人で手に入れた地位ではありません。その上で、この地位を任されたからには、キヴォトスをより良い方向に導き、責任ある立場としての自覚を持ちながら業務に臨んでいきます。皆さん、今後1年間、宜しくお願いします」

 

挨拶を締め、綺麗な礼をした後席に座る彼女。

そこからはいつもの通り会議が進行し、様々な議題が持ち寄られて行く。

キヴォトスの治安改善案から始まり、七囚人やSRTなどについての話も浮上してきた。

後はアビドスの砂漠化についてだとか、カイザーPMCなど企業勢力との関係構築だったりとか、聞き飽きた内容が耳に入る。

ただ、いつもより会議がサクサクと進む。

それは恐らく、新しい連邦生徒会長が出尽くした案をまとめ上げ、それぞれが納得できる案を考え出してくれているからだろう。

案を出せば彼女がまとめて改善してくれる、会議では無く連邦生徒会長と言う意見箱にそれぞれの意見を書いた紙を入れているような、そんな不思議な気分になる。

 

そして会議時間が3時間を超えるかと言う時、全ての議題が出尽くした。

つまりはこれで会議が終了という事になる。

普段は8時間行って次回に持ち越しになるのが当然の会議が、たった3時間で終わってしまったのだ。

普段は死んだ顔で書類整理をしている生徒達が久々に笑顔で帰宅して行く。

その光景はまるで、仕事の事を忘れて普通の青春を送っている生徒のようだった。

私もその中に混ざりたいなと、少し思ってしまったり。

 

「ウツツ、どうかしましたか?」

 

いつの間にか後ろに立っていたカヤが不思議そうにそう呟く。

 

「仕事の続きですよ。貴方には防衛次長として、私のサポートをしっかりして頂かないと」

「そう、だね。……ごめん、少しぼーっとしてたみたい」

 

普通の青春に背を向けて、防衛室まで歩いて向かう。

別に仕事が好きなわけじゃ無い。

でも、キヴォトスの青春を守る為には、誰かが青春を捨てなくちゃならないんだ。

そう。誰かが、やらなければ。

 

***

 

2年生になり、私には防衛室長と言うポストが回ってきた。

自分の実力で掴み取った喜び、人生初と言ってもいい達成感。

自己肯定感が低い私でもこの時は流石に自分を褒めた。

仕事部屋も大きな個室にアップグレードされ、もう資料の山の上にコーヒーカップを置く事も無く悠々自適に高級なコーヒーを嗜む事が出来る。

不自由の無い、ほぼ理想通りの生活を送れている。

 

……一つ、愚痴を言うのであれば。

 

「カヤちゃん!カヤちゃんカヤちゃん!」

 

新しく来た連邦生徒会長がしつこい。

去年も同じ様な事を考えていた気もする、私は何かに憑かれているのだろうか。

 

「ああもう!何ですか連邦生徒会長!」

「さっきも言ったでしょ?私には連邦生徒会長じゃ無くて立派な名前が……」

「何をしに来たのですか!!」

 

叫んだせいで手元が狂い、ハンコが少しずれてしまう。

いつもの会議の様な優秀で凛々しい連邦生徒会長は一体どこに行ったのやら。

 

「何をしにって、それは当然カヤちゃんと遊ぼうと思って」

「私も貴方も今日の業務がまだ残っているでしょう!」

「私はもう明日の分まで終わらせたから暇で……」

 

その上この女、無駄にクソ程優秀なのだ。

それが災いして空いた時間をダル絡みに割いてくる。

なんて奴に神は能力を与えているんだ。

喉奥に愚痴を溜めていると、防衛室の扉が開いた。

 

「カヤ、頼まれてた資料持って来たよ」

「あ!ウツツちゃんだ!聞いてよ〜カヤちゃんが全然かまってくれなくって〜!」

「うげっ……」

「すみませんが連邦生徒会長!防衛次長には私の手伝いをしてもらっている最中なんですよ!暇つぶしの矛先を向けるのはやめて頂けますか!」

 

まったく、これでは仕事どころの話ではない。

ただでさえ睡眠を取れていないのに、この女をどうにかしなければ今日は徹夜が確定してしまう。

……そうだ。

 

「……では連邦生徒会長。この資料の山を片付けてくれるのなら、その後思う存分遊んであげましょう!」

 

この後1時間も経たないうちに今日の仕事は全て終わった。

本当にふざけるなよあの女。

 

***

 

コツン、コツンと、駒が盤を叩く音が防衛室に響き渡る。

仕事を終えた私と連邦生徒会長は共にチェスを嗜んでいた。

遊ぶとは言っても外に出て何かする程の余裕もない為、部屋の中で出来るボードゲームに収まったと言うわけである。

ただ理由はそれだけでは無い。

何を隠そう、私はチェスが物凄く得意である。

無名の生徒から唐突に連邦生徒会長の座についた、まさに超人と言える彼女の鼻っ柱を折ってやりたいと、私のちっぽけなプライドが企んでいたのだ。

それなのに……

 

「ま、また負け……?」

 

勝てたのは最初の一戦のみ、彼女がルールを半分も覚えていない時の話だ。

それ以降の9戦は全て敗北。それもどんどんと実力を伸ばし、今では圧倒的な実力差が付いてしまっている。

 

「もうやめ!やめです!1対9で貴方の圧勝ですよ!」

「あはは……カヤちゃんも強かったよ……?」

「……気を遣われる方が悔しいのでやめてもらえますか」

 

少し気まずい空気になってしまった。

いや、なってしまったと言うか私がそうしたのだ。

たかがボードゲーム一つでこんなにムキになってしまうなんて、防衛室長としてふさわしい振る舞いとは言えないだろう。

……だから分かっている、この考えはここで吐き出すべきではないと。

紳士的に、後味が悪くならない様済ませるべきだと。

 

「……貴方はどうして、そんなにも優秀なのですか」

 

それでも毒が漏れ出てしまう。

 

「仕事も、対人関係も、こんなボードゲームでさえも超人的で、恐らく私が勝てる所なんて一つもないのでしょうね」

 

ずっと思っていた事だ。

こんなにも優秀であるのなら、本当に超人なのだとしたら、私なんて要らないのではないか。

ここ一年間仕事で成果を出し、2年生になり防衛室長と言う役職も与えられ、少しづつ育って来た自信を全てへし折られた様な感覚。

 

「なぜ貴方は、ボードゲーム一つにおいても、私に負けてくれないのですか……」

 

涙が溜まっているのを感じる、悔し涙だろうか。

溢れない様目を細めて連邦生徒会長の顔を見る。

滲む視界の奥で、彼女が答えを発し始めた。

 

「私は負けちゃいけないの。だって私は『連邦生徒会長』だから、皆んなの期待とか責任とか、そう言うのを背負わなきゃいけないから。責任を背負う人間がへなちょこだったら、皆んな心配になっちゃうでしょ?」

「ではもし負けてしまったら、その時はどうするのです」

「責任を取るよ」

「……何の」

「負けた責任を」

 

私は私の、認識の甘さを理解した。

分かっていなかったのだ、連邦生徒会長と言うキヴォトスのトップに立つものにかかる重圧を。

超人にしかトップは務まらず、トップを務めるには超人であり続けるしかない。

一般生徒が仕事でミスした時の責任は、私のような幹部が取る。

幹部がミスした時の責任は、連邦生徒会長が取る。

では連邦生徒会長がミスした時の責任は、誰が取るのだろう。

無論、連邦生徒会長自身だ。

 

「もしそれが、物凄く大きな責任だとしたら?何度謝っても許される事のないような、そんな身に余る責任を負ってしまったら?」

 

先ほどまでとは一転、私は彼女が心配になった。

もし何か重大な事が起きたら、その責任を取らなければならなくなったら、彼女の性格的に潰れてしまうのではないかと。

 

「カヤちゃん。責任はね謝って取るものじゃないの。言葉だけじゃ無く行動で示した時初めて、責任を取ったって言えるんだよ」

「……そういう、ものなのですか」

「今は分からなくていい。いつかカヤちゃんが大人になって、責任を取らなくちゃいけなくなったら分かる時が来ると思うから」

「先生の様な事を言うんですね、貴方は」

 

本心であった。

どこか掴めないと言うか、立っている場所が、見ているところが違うと言うか、一言で言うなら大人びている。

そんな彼女の発した大人びた一言に、私は教育を感じたのだろう。

 

「そう?じゃあ将来は先生になろっかな〜!」

「会長、いらっしゃいますか?緊急の案件ですので至急来て頂けると……」

 

彼女が壮大な夢を語っている最中、リン行政官が扉を開けて入ってくる。

私と対面で座っている連邦生徒会長の姿を見るなり、リン行政官は彼女を引きずる様に連れて行ってしまった。

泣きながら扉に向かって行く彼女を、思わず呼び止める。

 

「……連邦生徒会長!」

 

その呼びかけにリン行政官も一瞬足を止め、2人の視線がこっちに向いた。

 

「またいつか、ここへ来てください。次は負かしてやりますから」

 

満面の笑みで手を振って返す彼女。

扉が閉まった後、私は長い間棚にしまってあったチェスの教本を取り出した。

 

***

 

ここ1ヶ月、カヤは少し変わった。

具体的にはより仕事に熱心に。ただそこに必死さは無く、追われていると言うよりも打ち込んでいるといった感じである。

そしてもう一つ。

 

「カヤがチェスしてるの、1年ぶりに見た……」

 

そう、最近彼女は暇があればチェスの教本を読んでいたのだ。

今日は本では無く机に盤を出して遊んでいる様だが、なんとも懐かしい光景である。

と言うのも彼女、一年生の前半は毎日のようにチェスをしていたのだ。

防衛室長になってからは忙しく出来ていなかったらしいが、仕事を早く終わらせてまでやろうとするなんて……何か目標でも出来たのだろうか。

 

「まあ色々とありましてね。上達意欲が湧いてきたのですよ」

「1人じゃつまんない、でしょ?」

 

そう言って彼女と向かい合わせに座り、チェス盤を囲む。

 

「貴方とやっても同じようなものですよ。だって貴方、チェス弱いじゃないですか」

「うぐ……」

「実戦なら強いんですけどね、貴方は。チェスだとどうしてこんなにも弱くなるのやら」

 

戦いの中で一瞬で判断するのと盤面全部を見てじっくり考えるのは、なんと言うか感覚が違うのだ。

駒がどう動けるかまで考えるのは、私には少し複雑すぎる。

 

「そう言うカヤも実践だと弱いじゃんか。何あの射撃精度」

「その話はしないでくださいよ……」

「まあ仕方ない、カヤは体が弱いから」

「……うるさい」

 

またカヤが拗ねてしまった。

少しからかうとすぐこうなるので厄介である。

 

「……ではうるさい貴方に命令です。七囚人の対策法案関連の資料を持ってきなさい」

「カヤは重いもの持てないからね。こう言う資料は私が持ってってあげないと」

「うるさいと言っているでしょう、分かったらさっさと資料室に!」

 

言われるがまま防衛室を出て資料室に向かう。

2年になってからカヤにこうやってこき使われることが多くなったが、1年の時のカヤと比べればまだ良い方だ。

あの時の彼女はすぐに自分には能力が無いとか卑屈になってしまう、そんな自信の無い人間だった。

ただ今の彼女は防衛室長に選ばれ成果を出して行くうちに少し自信が付いたのか暗い感じは薄れ、私への当たり方もフランクになった気がする。

 

カヤの機嫌の治し方を考えながら、資料室を歩き回る。

確か頼まれた資料はB-6にあった筈。

薄い記憶を頼りに目的の場所まで向かうと、そこには既に先客がいた。

 

「ウツツ次長、お疲れ様です」

「リン行政官もお疲れ様。そっちは資料探しの最中?」

 

彼女は私を見るなり軽く礼をした。

七神リン主席行政官……今の連邦生徒会で私やカヤに並ぶ優秀さで、連邦生徒会長と最も親しい人物。

あまり個人的な交流は無いが、会長が防衛室に遊びに来る時はかなりの確率で一緒に居るので顔を見る機会自体は多い。

 

「ただの休憩ですよ。ここは静かですから……気が休まると言うか」

 

彼女の顔を見ると、目元に隈が濃く残っていた。

髪の手入れも雑になっている。

防衛室もだが行政官の仕事も相当忙しいのだろう。

 

「そう言う貴方こそ何をしに?」

「カヤから資料を頼まれて。七囚人対策法案のやつ」

 

ここにきた目的を思い出し棚を見ると、端のめくれたラベルが貼られている資料があった。

頼まれていたものである。

私はそれを手に取り、脇に抱えた。

 

「じゃあ、私はこれで」

 

そう残してその場を去ろうとした時、後ろからリン行政官の声が聞こえてきた。

 

「少し……話しませんか。防衛室に着くまででいいので」

 

私は少し困惑しながらも頷き、彼女と2人で資料室を出た。

それにしてもリン行政官がこんな事を言ってくるなんて、一体何事なんだろうか。

少なくとも普段の彼女ならこんな事は言わない。

 

「それで、話って?」

 

思い切ってストレートに聞いてみる。

変に回りくどく聞くよりもこっちの方が効果的だろう。

 

「七つの古則、その二つ目を知っていますか?」

「うん。『理解出来ないものを通じて私たちは理解を得れるのか』……たしか文自体は未完成、だったよね」

 

古則については以前何かの図書で目にした事がある。

他には『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』と言うものがあったりする。

古則の内容は全体的にパラドックスの様な、一見矛盾したものが多い。

それについて矛盾しているのか、実は矛盾していないのかを話し合うと言うのをやらせたかったのだとしたら、設問者は中々いやらしい性格をしている。

 

「ええ、それに関して連邦生徒会長から……『宿題』を渡されまして」

「宿題?」

「不完全な二つ目の古則に、私なりの文字を入れて完成させろ。要約すればそんなところです」

 

設問者と同じで、連邦生徒会長も中々いやらしい性格をしているらしい。

 

「そこで質問なのですが……ウツツ次長なら、どの様な文字を入れますか?少しヒントと言うか、他の方の意見を聞きたくなりまして」

 

いやらしい質問を投げかけてくる人がここにも一人いた。

実際私は答えに困っている。

10秒、20秒とどんどん時間が過ぎていく。

この問いは別に、回答者に捻った答えを期待している訳でも、何か正解がある訳でもない。それはリン行政官も同じだ。

ただ『私の』意見を聞きたいだけで、鼻から正解なんか求めちゃいない。

私は未完成の文章に、思ったままの文字を入れた。

 

「……『理解出来ない真実を通じて、私たちは他者の理解を得れるのか』かな。真実は人それぞれ違っているから、ある人にとっての正しいことも他の人から見たら理解できない。だから人はすれ違う。ただもし、ある人の真実を通して他者の理解を得れるなら……みたいな?」

「……なるほど、ありがとうございます。参考にさせていただきますね」

 

気が付けば防衛室の前まで来ていた。ドアノブに手をかけてから、リン行政官に別れの挨拶をする。

 

「それじゃあ、また」

「ええ、お付き合い頂いてありがとうございます」

 

正面を向きなおしドアを開けると、コーヒーで一服しているカヤがいた。

私の姿を見るなり文句が一つでは済まなそうな顔をする。

 

「遅いですよ。どこで油を売っていたのですか」

「ごめん、リン行政官と少しね」

 

持ってきた書類をカヤの机に置き、期限直しのために残り少なくなっていた彼女のカップに追加でコーヒーを注ぐ。

 

「一体彼女と何を話していたのですか?」

「なんか……二つ目の古則の話。なんて文字を入れるかって、急に話を振られて」

 

そこでふと、気になることができた。

カヤは優秀だ。私よりも上の立場にいるのだから、連邦生徒会内でも評価は非常に高い。

そんな彼女は、二つ目の古則にどんな文字を入れるのだろう。

 

「……カヤならさ、何て入れる?」

 

思い切って聞いてみることにした。

 

「あなたは何と答えたのですか?」

「え?確か『理解出来ない真実を通じて、私たちは他者の理解を得れるのか』だったっけ」

「なるほど、なかなかに貴方らしいですね。それで、その答えはもう出たのですか?」

「いや……さっき考えたばかりだし」

 

回答を上手いことずらされている気がする。

ただ、いまさら聞きなおすのもくどい気がするのでそのまま話を続けることにした。

 

「そうですか。では先ほどの質問の代わりに、その問いへの私なりの答えで返しましょうか」

 

そういうと彼女はコーヒーカップを机に置き、瞼を開けて翡翠色の目を見せる。

 

「まず、真実など視点によって変わるような相対的なものです。だからこそ相手がまったく同じ視点から物事を見ていないと食い違いが生じる。だからこの問いの答えは『否』」

 

ほとんど私がリン行政官に語ったのと同じ内容だ。

私もこの問いが『正』になることはないと考えている。

というよりも、そう考えていたからこの分が浮かんだと言ってもいい。

 

「ですが、連邦生徒会の幹部である私たちでは、少し答えが異なります」

 

カヤが仕事をしているときと同じような、真剣な目つきで私を見つめる。

 

「私たちは人を先導する立場。ですから、食い違いを恐れて譲歩などしてはいけません。相手とのすり合わせなどではなく、無理やりにでも自分の真実を理解させなければならない。当然そのためには、私たちは最善の真実を見ていなければいけませんがね」

「……それがカヤの、答え?」

「はい。同時に私たちの仕事でもありますがね」

「じゃあ最善の真実を見つけるためにも、仕事にもどろ」

「……そうですね」

 

そう言って私たちは机に座り、手慣れた手つきで書類をさばき始めた。

いつの間にかカヤの目はいつもの細目に戻っている。

 

今思えば……私はこの時のカヤの言葉の意味を、しっかりと考えるべきだったのだろう。

真実を理解できないのは、何も凡人同士だけじゃない。

どんな大人でも、超人でも、相手のすべてを理解することはできないのだ。

それを思い知ったのは、三年生が始まって少し経った頃。

 

……連邦生徒会長が失踪した、あの日の事だ。

 

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