もしもカヤに親友がいたら   作:あめざり

9 / 11
遂にここまで来た


第八話 夢ウツツ

以前一度だけ、ブラックマーケットに入った事がある。

中等部の時、私はゲヘナの出身で、周りの友人もヤンチャな子ばかりだった。

そんな環境にいるからか私も調子に乗っていて、悪い事をするのがかっこいいなんて子供っぽい事を考えていたりして。

ある日、友人に違法な改造弾を買いに行こうと誘われて、そのままブラックマーケットに足を踏み入れた。

最初の方はまだ良かった、初めてのアングラってやつに胸を躍らせてはしゃいで、ドブみたいな匂いも雰囲気があって良いものに感じられた。

昔のゲームが置いてあるゲーセンとか、変なキモい鳥のぬいぐるみばかり置いてるおもちゃ屋とか、勿論お目当ての武器屋とか、とにかく手当たり次第に回った。

だが、怪しい改造店に向かったあの時、あれが間違いだったのだろう。

その店は路地裏に建った屋台のような店で、ボロい機械人が店主をしている、そんな"いかにも"な店。

私達は調子に乗っていて、そこで改造銃やら弾やら、軍需品を両手が塞がるほど買い付けた。

幸いお金はあったから大丈夫だろうと、こんなボロい店で売っている商品は大して高くないだろうと。

本当に、調子に乗っていたのだと思う。

提示されたのは、子供目線から見ても明らかな、桁が一つや二つ違うような法外な金額。

当然払える訳もなく、私達はその場を立ち去ろうとした……だが店主は「商品を盗もうとした」とか見るからにおかしいイチャモンをつけて、マーケットガードに私たちを突き出した。

今思うとあれは、無知な子供を引っ掛けて捉える、そう言う商売をしていた店なんだろう。

キヴォトスの生徒は頑丈だ、だから治験とか兵器の性能調査にはぴったりの壊れないマネキンの用途で使われる。

それを流通させる、つまりは武器屋に見せかけた人身売買野郎だった訳だ。

私達はどこかも分からない施設に連れて行かれて、両手両足を鎖に繋がれて、仰向けのまま天井に付けられた白いライトで目を焼かれながら、本当に色々な事をされた。

本当に、色々な事だ。到底口に出したくもないような、語ったら確実に引かれるような事を。

強いて言うなら焼け焦げるように痛くて、押し潰されるように苦しくて、身体をクレヨンで塗り潰されるように屈辱的だった。

逃げ出す事すら嫌だった、外に出てまた騙されるくらいなら、ここにいた方がとまで思えた。

地獄も、長居すれば慣れてしまう。

 

別に、悲しい過去だなんて思っちゃいない。

キヴォトスでは見慣れる程に良くある、無知な子供を悪い大人が騙す構図。

私は数多あるそれの一つで、大して珍しいことでも、被害者面する様な事でもない。

そうだ、あれは私が悪い。

無知で馬鹿で蒙昧な私の自業自得だ。

大人が全員あんなのなんて思っていない。

きっと、子供を悪い大人から助けてくれる様な人もいるんだろう。

 

そんなことは分かっている。

それでも、一度植え付けられたトラウマというのはそう簡単には消えないもので。

 

特に大人と、鎖は嫌いだ。

 

***

 

思い切り力を込め扉を蹴破る。

手には拳銃を握りしめて、いるであろうカイザーの兵にいつでも銃口を向けられる様に。

伴篠ウツツ次長は私、尾刃カンナにとって数少ない尊敬できる相手だ。

いや、私だけではない。公安局に、ヴァルキューレに居る人間なら誰もが知っている彼女の背中。

連邦生徒会として書類仕事に追われながらも、戦闘員として現場にも立つその姿は、正に全警察官の憧れと言える。

……そんな彼女が拐われたというのだから、躍起にもなると言うものだ。

 

「何者だお前……」

 

施設の中にいたカイザーの兵士を、言葉を言い切る前に撃ち殺す。

全面捜査の末にたどり着いたのはアビドス自治区内の地下施設。

人目に付かないどころか人っこ一人いやしない、そんな場所。

ぱちぱちと点滅するライトと手元の懐中電灯を頼りに、施設の中を少し駆け足で歩き続ける。

迷路の様に入り組んだ通路を、私たちの足音のみが響く広間の中を、銃を片手に進んでいく。

やがてたどり着いたのは、床一面が砂で埋まった小部屋。

そこにウツツ次長は、服の一つも着ずに、両手と両足を鎖で縛られ、錆びた鉄の台の上に仰向けに寝かされていた。

私はすぐに駆け寄り、彼女の体を揺する。

首元には雑に打たれた注射針の跡、手足には皮が擦りむけた痛々しい傷があった。恐らく鎖を外そうともがいたのだろう。

 

「次長!防衛次長!分かりますか!」

 

大きな声で呼びかけると彼女はゆっくりと瞼を開け、そして私のことを見るや否や、「ひゅっ」と言う音と共に息を吸った。

 

「……いや、やめ…あ、あああ……」

 

身体が震えている、瞳孔が開いている、息が途切れ途切れになっている。

明らかに、助けを見た時の状態では無かった。

 

「私です、公安局長のカンナです!安心して!助けに来ました!」

 

いくら落ち着かせようとしてもその行動は止まらない。

さっきからずっと、痩せ細った身体を必死に動かして逃れようと足掻いている。

 

「やめてく……やめ…お金はらう……払います、から……!」

 

私の事を見る目はまるで何か、悪夢を見ているかの様で。

正に夢現と言った状態だった。

命乞いの様な事を呟きながら、必死に手足を鎖から外そうと引っ張っていた。

 

「……ゆるして!許して、ください!なんでもする!なんでも!もうやめて!はなして!お願いします!!」

 

首元の注射跡に目が行く。

もしかしたら彼女は幻覚剤か何かを投与され、起きながら悪夢を見ているのではないか?

咄嗟に腰にかけておいた鎮静剤を取り出し、次長の腕に打ち込んだ。

途端に彼女の身体は力を失い、そのまま台の上に倒れ込む。

 

(……助かった……のか?これは)

 

あそこまで取り乱している次長は初めて見た。

いつもは何があっても冷静で、感情を吐き出す姿なんて目にした事は一度もないのに。

そんな彼女がこうも追い詰められていた……一体何が行われていたのか、何をされていたのか、嫌な推測をしてしまう。

悪い考えを振り払って、チェーンカッターで彼女を縛っている鎖を切る。

救出に成功したら、すぐに防衛室長のセーフハウスまで連れて行く約束になっていた。

次長の身体を優しく持ち上げ、私はその場を後にした。

 

***

 

悪夢を見ていた。

押し寄せたカイザーの兵に身体を揺すられ、大声で何かを叫ばれ、注射を打たれる。そんな悪夢を。

だがその後、公安局長の姿が見えた。

そこからの眠りは安らかで、そのまま何時間でも寝ていたい様な気分だった。

……あ、でも、カヤの安否を確認しなければ。

寝ている場合じゃない、彼女の元に一刻も早く……

 

……

………!

 

瞼を開けると、暖かい色の照明が目に差し込んで来た。

悪夢で見た白色のものとは違う、目を焼かない様な優しい色。

ふと、腕に重さを感じる。

横を見るとそこには、カうつ伏せになって私の腕に乗っかりながら眠っているカヤがいた。

良かった、とホッと一息を吐く。カイザーの銃撃から守った甲斐があった。

そう言えば私はあの後どうなったのだろうか?銃撃に倒れ、その後誰かに助けられたのか?と思考を巡らせる。

ただどうも頭が回らない。

とりあえず立ち上がった方がいいか、そう思いカヤを起こさないよう慎重に腕を退けた。

だが少し刺激があったのだろう、パチパチと瞼を開け閉めしながら彼女が目を覚ます。

 

「……ウツツ!?良かった、私心配して!」

 

カヤは目を開けている私を見るなり飛び上がり、いつもの敬語を忘れながら涙混じりに言葉を繋げる。

 

「すみません……取り乱しました」

 

やがて落ち着いたのか、こほんと咳を一つしてからいつもの敬語で話し始める。

 

「色々伝えたい事はあるのですが……」

「……そうだ、遺物。シャーレで何か見つけた?」

 

真っ先に思い浮かんだ事を、思わず彼女の言葉を遮って問う。

連邦生徒会長の遺した何かを知る為に、私たちはカイザーと会ったのだ。

それが混濁した思考で思い出した、唯一と言っていい事だった。

 

「……ええ」

 

その返答に私は安堵した。

もしこれで何も見つからなかったら撃たれ損だ、これでようやく一歩進める。

 

「そこの机に置いてあります……取ってきましょうか?」

「大丈夫、もう歩ける」

 

カヤの心配はよそにゆっくりと立ち上がり、目的のものが置かれた机に向かう。

そこにあったのは一枚の『手紙』だった。

 

気を遣ってか、カヤは部屋から去っていく。

私はその手紙を手に取り、連邦生徒会のマークが押された封蝋を慎重に開け、中身を見る。

折られた紙を開き、そして深呼吸しながら、そこに綴られた文字を読む。

 

『ウツツちゃんへ。

 

これを読んでいると言う事は、私はもうこの世に居ないでしょう(これ一回言ってみたかったんだよね!)

さて、冗談はここまでにしといて、伝えておかなきゃいけないことが二つあるの。

一つは、外の世界から来る大人の事。

ウツツちゃんが大人を怖がってるのは何となく分かってたけど、それでも彼なら、先生ならきっと、ウツツちゃんの力になってくれると思うから。だから、安心して頼っていいからね。でも、ちょっと女たらしな所は注意だよ!

そしてもう一つは、カヤちゃんの事。

私はね、カヤちゃんとウツツちゃんの二人なら、私より凄い事が出来るんじゃないかなって思ってるの。だって二人はとっても仲良しで、お互いの苦手な事と得意な事がちょうど噛み合ってるんだから。だから何かするときは二人で!これを忘れないでね。

じゃあこの手紙の最後は、私の事を少し書こうかな。

私はね、子供の頃からずっと、キヴォトスから銃が無くなる事を願ってた。誰もが引き金を引く必要の無い、本当に平和な世の中になって欲しかったの。だから武器密輸は特に厳しく取り締まってた。けど現実は厳しいものでさ、そんなのは夢物語で終わっちゃう。それでも私は諦めきれなかった。だからそれを解決できるかも知れない道具を、一つだけ残しておくね。使えるのは本当なら大人だけだけど、ウツツちゃんなら使えちゃうかもね。

それじゃあ、私からウツツちゃんへの手紙はここまで。

用紙ギリギリになっちゃったな。もう少し書きたい事もあったけど、1枚だけって約束だから、ごめんね。

でもごめんねで締めるのはなんかイヤな感じだし、後もう一文だけ書こうかな。

ウツツちゃん、今までありがとうね。

 

"元"連邦生徒会長より。』

 

その筆跡は間違いなく、連邦生徒会長のものだった。

言葉遣いも間違いなく、連邦生徒会長のものだった。

 

「……引き継ぎ資料ですらない、こんなもの……遺されたってさ……困るじゃん、ねえ」

 

最期まで馬鹿な人だ。

超人の癖して心は子供、無邪気でいたずら心に溢れた一人の女の子。

手紙を読めば読むほど笑えてくる。

読みすぎて段々と退屈になってきて、寝起きな事も相まってあくびがたくさん出てしまって、そのせいか視界が滲んできて。

……彼女はもう居ないんだって、しっかり理解させられて。

 

「……連邦生徒会長が遺した物は三通の手紙と、謎のスマートウォッチ。それだけでした」

 

私が手紙を読み終わったのを見計らって、カヤが部屋に戻ってきた。

 

「三通?もしかして、他の二通に重要な事が書かれてたり?」

「……いえ、私に書かれた物は読みましたが、その様なことは全く。多分もう一通も同じですよ。私や貴方に書かれた手紙と同じ、戯言が書かれたくだらない手紙です」

 

彼女の意図が分からない。

手紙を三通寄越して、それとスマートウォッチ?キヴォトスの安定化にはクソの役にも立たない物ばかりだ。

超人にしか理解の及ばない何かがあるのか、それとも遺書でも遺したい気分だったのか。

 

「それで、これからどうするの?」

「分かりきっているでしょう。いつも通り、私達は働くだけですよ」




SRT再建の進行、シャーレやRABBITとの対立、そして連邦生徒会長から送られた残り2枚の手紙の内容
書くことが沢山ですね、大変大変。
今の所覚えておいて欲しいのはカヤと連邦生徒会長の会話くらいでしょうか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。