明治強者加茂憲倫   作:カツオのタタキ

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いくら軍艦ですよろしくお願いします。




第一話 血の夜

 

 明治の夜は、まだ深い。

 

 都では煉瓦造りの建物が軒を連ね、瓦斯灯が夜を押し返し、洋装の人間たちが往来を闊歩している。文明開化——その言葉の通り、人は闇を征したかのように振る舞っていた。

 

 だが、それは都の話である。

 

 山あいの村には、その光は届かない。

 

 夜は昔のまま。

 闇は昔のまま。

 そして、人の恐れもまた変わらずそこにあった。

 

 人は見えぬものを恐れる。

 見えぬがゆえに想像し、想像するがゆえに膨れ上がる。

 

 その恐れはやがて形を持つ。

 

 呪いとなって。

 

 その夜、加茂 憲倫(かも のりとし)が訪れた村は——

 まさに“それ”がよく育った場所であった。

 

 

 

 

 

 山道を一人の男が歩いている。

 

 墨染めの和装。

 裾は乱れず、歩みは静かで、無駄がない。

 足音すら、夜に溶け込むように抑えられている。

 

 月光が、その横顔を照らす。

 

 穏やかな顔立ち。

 だが、その目は異様なほど澄んでいる。

 

 濁りはない、迷いもない。

 

 ただ、静かに観察している。

 

「……ふむ」

 

 足が止まる。

 

 風が吹く。

 

 山を抜けた冷気が頬を心地よいと感じるほど優しく撫でる。

だが、その風の中に混じるもの。

 

 それを、彼は見逃さない。

 

「血の匂いだな」

 

 迷いのない断定。

この先にいる呪いの存在を彼は嗅ぎ分けた。

 

 歩みを再開する。

 

 一歩。

 

 二歩。

 

一切の違和感を見逃さぬよう辺りを警戒しながら。

 

 

 やがて視界の端に影が映る。

 

 小動物の骸。

自然の溢れるこの場所において特段変わったことではない。

 

 だが——

 

「……妙だな」

 

 しゃがみ込む。

 

 拾い上げる。

 

 軽い、あまりにも軽い。

 

 骨の形はある、だが中身(血肉)がない。

 

 視線を落とす。

 

観察する。

 

「……ほう」

 

 胴体だけが残っている。

手足がない。頭もない。

 

 だが。

 

 それは“切断”ではない。

 

 境界が曖昧だ。

削り取られている。

 

 いや——

 

「最初から、無かったかのようだな」

 

 存在ごと、抜き取られている。

 

 そこにあったはずのものが、“初めからなかった”かのように処理されている。

 

 その違和感、その異質さ。

 

 憲倫はそれを静かに地へ戻した。

 

 乾いた音が、夜に小さく響く。

 

「なるほど」

 

 口元が、わずかに緩む。

 

「奪う類か」

 

 視線を上げるわ山の奥。

闇に沈んでいる。

ただ暗いのではない。

 

 重い。

 

 濁っている。

何かが、溜まっている。

 

「よく育っておる」

 

 その声音には、わずかな愉悦が混じっていた。

憲倫は歩を進める

 

 

 やがて村が見えてくる。

 

 灯りはない。

 音もない。

 

 虫の声すらない、異様な静寂。

風だけが、空虚に吹き抜けていく。

 

 憲倫は足を止めた。

 

 村を見つめる。

 

 その在り様を、じっと観察する。

わずかな時間。

 

 そして——

 

「……手遅れのようだな」

 

 静かな断定。

そこに感情はない。

ただ事実を語っただけ。

 

「これは……分かりやすいな」

 

 足を踏み入れる。

 

 ぬるり。

 

 足裏に伝わる感触。

 

 血。

 

 まだ乾いていない。

 

 しゃがみ込む。

指でなぞる。

 

 粘り。

温度。

 

「ひと刻も経っておらぬな」

 

 立ち上がる。

 

 視線を巡らせる。

村は、“途中で止まっていた”。

 

 戸は開いたまま。

 草履は乱れ、片方だけが転がる。

 井戸の桶は倒れ、水が地に広がったまま乾きかけている。

 

 家の中。

 

 囲炉裏の灰はまだ温かい。

 

 椀が並び、食事の最中だったことが分かる。

 

 汁が残っている、箸が落ちている。

子供用の小さな器。

 

しかし。

 

 人がいない。

 

「……途中で消えたか」

 

 生活の流れが、唐突に断ち切られている。

 

 逃げた形跡はない。

 

 むしろ——

 

 その場で。

 

 奪われた。

 

 視線を落とす。

 

 血。

 

 重なっている。

 

 幾重にも。

 

 同じ場所に集中している。

 

「……内で奪い合ったな」

 

 恐怖が疑心を呼び、疑心が暴力を呼び。

 人が人を奪う。

 

 その連鎖。

 

 その果て。

 

 その時。

 ぴたり、と空気が変わる。

 

 背後。

 

 振り返る。

 

 それは、人の形をしていた。

 

 だが人ではない。

 

 骨のような外殻。

 歪んだ四肢。

 身体の各所に、不自然な膨らみ。

 

 取り込んだものが、形として浮き出ている。

 皮膚の下に、異物が詰まっているような違和感。

 

 顔。

 

 中央に裂けた闇。

 

 そこから、声が漏れる。

 

「……かえ、せ」

 

 ひび割れた音。

 

 乾いた執着。

 

「かえ、せ」

 

 繰り返す。

 

 ただ、それだけ。

 

憲倫は目を細める。

 

「ほう」

 

「言葉を発するが……理解している訳では無いか」

 

 呪霊が一歩踏み出す。

 

「かえ、せ」

 

 憲倫は、わずかに肩をすくめた。

 

「奪ったのは貴様の方であろう」

 

 返答は返ってこない。

 

 ただ繰り返すのみ。

 

「かえ、せ」

 

 その声の奥。

 

 奪う者と、奪われた者。

 

 両極の感情が混ざり合っている。

 

 濁った呪い。

 

「面白い」

 

 口元がわずかに上がる。

 

 瞬間。

 

 呪霊が消えた。

 

 視界から、完全に。

 

 上。

 

 空気が裂ける。

 

 振り下ろされる腕。

 

 質量を伴った一撃が、音を置き去りにして迫る。

 

「遅い」

 

 憲倫は半歩だけ身体をずらした。

 

 それだけで、直撃は外れる。

 

 地面が砕ける。

 

 乾いた土が弾け、砂塵が舞い上がる。

 

 衝撃が足元から伝わる。

 

 だが、その中心には既にいない。

 

 横薙ぎ。

 

 呪霊の腕が空気を押し潰しながら薙ぎ払われた。

 

 憲倫はわずかに膝を折る。

 

 それだけで、頭上をかすめていく。

 

 続けざまに突き。

 

 蹴り。

 

 乱雑な連撃。

 

 だがどれも、憲倫にとっては恐れるものではない。

 

 首を傾ける。

 

 肩を落とす。

 

 半歩引く。

 

 ただそれだけの動作で、すべてが外れていく。

 

「素直すぎるな」

 

 呟きと同時に、踏み込む。

 

 最短距離。

 

 呪霊の懐へ。

 

 拳が打ち込まれる。

 

 鈍い音。

 

 外殻に衝撃が走る。

 

 ひびが、わずかに広がる。

 

「……脆いな」

 

 続けざまに肘打ち。

 

 顎の位置を狙うように。

 

 だが形が曖昧なそれには、ただ“核へ近い部分”へと叩き込まれる。

 

 呪霊の体勢が崩れる。

 

 さらに踏み込む。

 

 蹴り上げ。

 

 下から打ち上げるように、胴を浮かせる。

 

 完全に間合いを支配する。

 

 呪霊の動きが、一瞬遅れる。

 

 その隙。

憲倫の掌から血が滲む。

 

 それが空中で細く伸びる。

 

「——赤血操術・血刃」

 

 一閃。

 

 鋭く形成された血が、刃となって走る。

 

 腕を断つ。

 

 遅れて、断面から黒ずんだ気配が噴き出す。

 

 だが一瞬の間を置き再生が始まる。

 

 呪霊の肉が粘つくように、元の形へ戻ろうとする。

 

 その前に。

 

「——血縛」

 

 血が、さらに分岐する。

 

 細く、しなやかに。

 

 脚に絡みつく。

 

 締める。

 

 捻る。

 

 関節の動きを奪うように。

 

 骨の軋むような音が響く。

 

 呪霊の動きが止まる。

 

「かえ、せ……!」

 

 初めて、声に“強さ”が混じる。

 

 暴れる。

 

 腕を振るう。

 

 だが、脚が動かない。

 

 均衡を崩す。

 

 憲倫は一歩も退かない。

 

 むしろ踏み込む。

 

 拳。

 

 打撃。

 

 連撃。

 

 外殻へ直接叩き込む。

 

 鈍い衝撃が重なる。

 

 ひびが広がる。

 

 血刃を再び創り出し、振るう。

その軌跡が呪霊の体を走る。

 

 刻む。

 

 削る。

 

 再生よりも速く。

 

 動きを削り取る。

 

 「ギィィィ!!!」

 

 拘束が軋む。

 

 血縛が、わずかに緩む。

 

「……ほう」

 

 憲倫の目が細くなる。

 

 次の瞬間。

 

 呪霊が力任せに引きちぎる。

 

 血の束が弾ける。

 

 脚が解放される。

 

 そのまま、後方へ跳ぶ。

 

 距離を取る。

 

 空気が歪む。

 

「これを対応するか」

 

 わずかに楽しげな声音。

 

 呪霊が再び踏み込む。

 

 今度は違う。

 

 軌道が変わる。

 

 一直線ではない。

 

 途中で捻る。

 

 角度を変える。

 

 読みを外そうとする動き。

 

 速い。

 

 先ほどよりも明確に。

 

 振り下ろし。

 

 回避。

 

 横からの打撃。

 

 さらに回避。

 

 だが。

 

 三撃目。

 

 わずかに頬を掠める。

 

 皮膚が裂ける。

 

 血が滲む。

 

 憲倫はそれを指で拭う。

 

 そして。

 

 笑った。

 

「よい」

 

「ようやく、少しは見てられる動きとなった」

 

 踏み込む。

 

 今度は、こちらから。

 

 速度が上がる。

 

 間合いが詰まる。

 

 拳。

 

 肘。

 

 蹴り。

 

 連続。

 

 休みなく叩き込む。

 

 呪霊が迎撃する。

 

 腕を振るう。

 

 両者の拳がぶつかる。

 

 衝撃が弾ける。

 

 その隙に、血刃。

 

 脇腹を裂く。

 

 さらに血縛。

 

 腕に絡みつく。

 

 脚をなぎ払い。

 

 体勢を崩す。

 

 踏み込む。

 

 打撃。

 

 叩き込む。

 

 削る。

 

 削る。

 

 互いに距離を奪い合う。

 

 わずかな均衡。

 

 だが。

 

 それは長く続かない。

 

 憲倫の踏み込みが、半歩だけ速い。

 

 懐へ。

 

 完全に入り込む。

 

 拳。

 

 連撃。

 

 肘。

 

 さらに血刃。

 

 すべてが一点へ集中する。

 

 核。

 

 そこへ。

 

 叩き込む。

 

 ぐらり、と。

 

 呪霊の身体が揺れる。

 

 動きが止まる。

 

 完全に、詰みの体勢。

 

 憲倫は、わずかに息を吐いた。

 

「……もう少し骨のあるものかと思ったが、期待した私が悪いか」

 

 指先から血を引き上げる。

 

 それを、圧縮する。

 

 細く。

 

 鋭く。

 

 極限まで。

 

 収束する。

 

「これで終いである」

 

 わずかに腕を引く。

 

 そして——

 

「——赤血操術・穿血」

 

 一閃。

 

 音を置き去りにする速度で放たれる血の弾丸。

 

 一直線。

 

 迷いなく。

 

 呪霊の中心へ。

 

 核を貫く。

 

 その瞬間。

 

 内部から崩れる。

 

 形が維持できなくなる。

 

 外殻が崩壊する。

 

 音もなく。

 

 ただ、崩れる。

 

 そして。

 

 消えた。

 

 そこには、何も残らなかった。

 

 

 

 静寂。

 

 風が戻る。

 

 村は、完全に死んでいる。

 

 憲倫はそれを見渡す。

 

「……妙であるな」

 

 血の流れ。

 

 争いの痕。

 

 だが、何かが違う。

 

 視線を落とす。

 

 足跡。

 

「草履ではないな」

 

 外の者。

 

 だが、それ以上は追わない。

 

 踵を返す。

 

 墨染めの和装が、夜に溶ける。

 

 この夜。

 

 一匹の呪霊により一つの村が消えた。

 

 そして。

 

 一人の術師が、その呪いを終せた。

 

 

数日が経ち。

加茂家本邸は、夜の静寂に沈んでいた。

 

 庭に敷かれた白砂は月光を受けて淡く輝き、その上に刻まれた紋様は一切の乱れなく整えられている。

 風は吹いているはずであった。だが枝葉は騒がず、音すらも統制されているかのようだった。

 

 人が住まう場所でありながら、この屋敷には“揺らぎ”がない。

 

 それが、加茂という家であった。

 

 その一室に、数名の術師が集っている。

 

「——此度の任務、当主殿が単独で解決されたとのこと」

 

 若い術師が口を開く。

 

 声には抑えきれぬ敬意が滲んでいた。

 

「村一つを覆う規模の呪いであったと聞き及びます」

 

「うむ」

 

 古参の術師が頷く。

 

「記録によれば、対象は二級呪霊。周囲の被害が拡大したことで規模が大きく見えていただけだ」

 

 若手が一瞬、拍子抜けしたような顔をする。

 

「二級……ですか」

 

「そうだ」

 

 別の術師が淡々と続ける。

 

「当主殿であれば、単独での祓除は当然の範疇だ」

 

「むしろ、問題にもならぬ」

 

 厳しい言葉。

 

 だがそれは貶しではない。

 

 “当主として当然”という前提の確認に過ぎない。

 

 若手はすぐに姿勢を正した。

 

「……失礼しました」

 

 側近が静かに口を開く。

 

「赤血操術の練度においても、当主殿は歴代でも抜きん出ている」

 

「術式の制御、応用、持続——いずれも高水準」

 

「一級術師として、術師として既に完成の域にあると言ってよい」

 

 誰も異を唱えない。

 

 それが評価であり、共通認識だった。

 

 だが——

 

「……ただし」

 

 古参が口を開いた。

 

 空気がわずかに変わる。

 

「ひとつ、難がある」

 

 若手が顔を上げる。

 

「難、ですか」

 

「うむ」

 

 古参は静かに頷いた。

 

「当主殿には、やや“遊ぶ癖”がある」

 

 若手が目を瞬く。

 

「遊ぶ……とは」

 

 側近が補足する。

 

「本来であれば即座に終わる戦いを、あえて引き延ばされることがある」

 

「相手の出方を見、術の性質を測り、最適解を“選び直す”」

 

「結果として、戦闘が長引くことがあるのだ」

 

 若手はわずかに息を呑む。

 

「それは……危険では」

 

「危険だ」

 

 古参は即答した。

 

「だが」

 

 一拍置く。

 

「当主殿は、その“余裕”を持っておられる」

 

 否定ではない。

 

 評価でもない。

 

 ただの事実。

 

「……妙だな」

 

 古参が続けた。

 

「妙、とは」

 

「戦い方だ」

 

 静かな声。

 

「常に、必要最小限で終えておられる」

 

「だが同時に、無駄を挟んでおられる」

 

 若手は理解が追いつかない様子で眉を寄せる。

 

「無駄……?」

 

「遊びだ」

 

 側近が言う。

 

「だが、その“遊び”すらも整いすぎている」

 

 沈黙。

 

「……まるで」

 

 若手がぽつりと呟く。

 

「最初から、どう動くか決めているかのような」

 

「近いな」

 

 古参は短く言った。

 

「当主殿は、戦っておらぬ」

 

 空気が張り詰める。

 

「……どういう意味です」

 

「“測っておる”のだ」

 

 静かな断定。

 

「相手の術、呪力の流れ、反応」

 

「すべてを観察し、その上で最も無駄のない形を選ぶ」

 

「戦闘というよりは——検分に近い」

 

 若手の背に、冷たいものが走った。

 

 

 

同じ頃。

 五条家本邸。

 広間には、数名の術師が集っていた。

「加茂の当主か」

 ひとりが退屈そうに言う。

「また一つ片付けたらしいな」

「ふん……」

 別の男が鼻で笑う。

「加茂にしては上出来だな」

「血に頼る術など、その程度のものだ」

 軽い嘲り。

 それが、この場の空気だった。

「一級として当然だ、まあ及第点だろう」

「それ以上でも、それ以下でもない」

 誰も否定しない。

 それが、この家の認識であった。

 ——だが。

「……妙だな」

 一人が呟く。

「何がだ」

「記録を見た」

 紙を軽く叩く。

「どれもやつの受ける任務は似たような終わり方をしている」

「それの何が問題だ」

「問題というほどでもない」

 一拍。

「ただ、揃いすぎている」

 沈黙。

「状況が違うにも関わらず、結果にばらつきがない」

「それにやつが任務で大きな負傷をしたという話を聞いたことがない」

「偶然だろう」

 誰かが言う。

「そうかもしれん」

 だがその男は、わずかに目を細め小さく呟く。

「偶然で済ませていいものか」

 それ以上は続かなかった。

 

 

 

 

 禪院家本邸。

「加茂の当主が動いたらしいな」

「は」

「結果は」

「問題なく祓ったとのこと」

「当然だ」

 吐き捨てる。

「それでこそ御三家だ」

 別の男が鼻で笑う。

「血を弄るだけの術師にしては、よくやっている」

「所詮は加茂だ」

 軽い嘲り。

 だが。

「……妙だな」

 一人が低く呟く。

「何がだ」

「戦いの記録だ」

「癖がない」

「癖がない?」

「あぁ、戦闘中に考え事をする悪癖はあれど攻撃に転じた際はな」

「強い術師ほど、何かしらの偏りが出る」

「だがあの男は、それが薄い」

 一拍。

「まるで“型”だけで戦っているようだ」

 沈黙。

「それの何が問題だ」

「……分からん」

 短く言う。

「分からんが、気に食わん」

 わずかに目を細める。

「底が見えぬものほど、厄介なものはない」

 それ以上、言葉は続かなかった。

 

 

 そして再び、加茂家本邸。

 

 す、と襖が開く。

 

「——当主殿」

 

 全員が頭を下げる。

 

 墨染めの和装。

 

 静かな足取りで現れた男は、室内を見渡し、わずかに笑った。

 

「賑やかであるな」

 

 軽い声音。

 

 どこか愉快そうにすら聞こえる。

 

「儂がおらぬ間に、随分と話が進んでおるようだ」

 

 加茂憲倫。

 

 その声音は、柔らかい。

 

「先の件は片付いた。問題はあるまい」

 

「は」

 

 短い応答。

 

「して」

 

 憲倫は腰を下ろす。

 

「何か気になることでもあったかね」

 

 一瞬の間。

 

 だが。

 

「いえ」

 

 側近が答える。

 

「問題はございません」

 

「そうか」

 

 くつり、と笑う。

 

 それ以上は問わない。

 

 まるで、すべて分かっているかのように。

 

 沈黙が落ちる。

 

 誰もが、何かを言いかけて、やめる。

 

 言葉にしてしまえば、それが“形”になってしまう気がした。

 

「……では」

 

 憲倫が立ち上がる。

 

「次はもう少し、骨のあるものを期待したいところであるな」

 

 軽口。

 

 だが、その響きは軽すぎる。

 

 それが、逆に異質だった。

 

 誰も、返せない。

 

 そのまま、彼は去っていく。

 

---

 

 誰もが思う。

 

 ——当主は強い。

 

 それは疑いようがない。

 

 だが同時に。

 

 違和感を覚えるものも少なくない。

 

 

 

 





加茂憲倫
つい戦闘中に観察したり、相手のレベルに合わせて戦闘しちゃうお茶目っ子。正直、最後の穿血だけで祓えたしなんなら普通に呪力操作+肉弾戦でなんの苦労もなく祓えた。小さい時は戦闘中に無駄口を吐いてよく舌を噛んでいた。今は噛まずにいっぱい喋れるらしい。

呪霊
時代が進むことによって土地が奪われ自然が奪われ、人間が争いそれ由来の恐れから生まれた。2級呪霊。

五条家
どんな任務も欠損もなく怪我もなく帰ってくる主人公に違和感。

禪院家
うちにとってはとるに足らない術師だろうけどなんか不気味かも!ちょっと気持ち悪いって思ってる
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