VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで 作:Amisuru
『新機動戦記ガンダムW』の第一話を観ていないと理解に苦しむシーンが最後にあります。
未視聴の方は検索掛けるなりAI様に聞くなりした後にご覧下さい。
──しあわせだった。
本当に。
夢のような、時間だった。
だから、一夜が明けた今。
眠りから目覚めた私は、夢から醒めなければいけないのだと、思った。
「──一番初めの問いかけに、答えていなかったわよね。
それは、彼と私の間に初めて生まれた繋がり。
恥ずかしくて、情けなくて、みっともなくて──
本当にどうしようもない、泣き虫女の最初の記憶。
「私──あんなことがあった今でも、ずっとずっとWTが好きだった。どうしたって、忘れられない思い出だった。だから──
「…………」
「私は──私自身の手で、宝物を壊してしまったんだ──って」
まぶしかった。
輝いて見えた。
本当にそれが、かつての自分だなんて信じられないくらいに。
──私にとっての、
今となっては手が届かない、遥か彼方の星だった。
「だから──あなたからも逃げた。誰にももう、掘り起こしてほしくなかった。『serin』という名のタイタン乗りはとっくの昔に死んでしまって、ここにいるのは何者でもない、
「…………」
「……そう、思いたかった」
過去の自分から逃げ出して。
光り輝く思い出に、蓋をして。
そうして目を逸らし続けていれば、いつの日かきっと、WTに代わる何かに出会えるんじゃないかと、信じたかったのだ。
「けれど──私はあなたに、出会ってしまった」
「…………」
「あなたの誘いに心惹かれて、私は結局、
……ここに関しては、少しだけ。
彼にはまだ、言えない嘘が混ざっている。
とてもじゃないけど、このタイミングで口に出来ることではないし。
私の中でもまだ、整理の付いていない感情だけれど。
「『イノセンス・モラトリアム』──たった一日だけの借宿だったけれど、そこは私の知るWTとは、まるで異なる
「…………」
「……たのしかった。本当に──いつまでもそこに、いたかった」
ネバーランド。
そこに住んでいる者達は決して、歳を取ることがないという──
いつまでも、子供のままでいることが許される空間。
私にとってつくづくお誂え向きの場所だったなと、今にして、思った。
「……お姉様がね? あなたのいない間、私に言ってくれたの。『ここは『イノセンス・モラトリアム』──あなたがここで立ち止まることを、わたし達は赦します』って」
「…………」
「……でもね。昨日の電話の後、改めてよく、考えた」
見つめ直した。
自分の振る舞いを。
私が母に対して行った、最低最悪の裏切りのことを。
「……私、あんなことがあったのに──お母さんを泣かせて、悲しませて。仕事だって辞めちゃったのに──
「…………」
「……だから私は、
そうして、私はそれを見た。
公園の端にぽつんと並ぶ、二匹の動物達。その紛い物。
もう二度と私が跨ることのない、幼い子供たちのための遊具を。
「──私にとってのWTを、あのカルガモと鯨にする時が来たんだよ」
朽ち果てて、錆び付いて。
そのうちいつか、捨てられて。誰の記憶にも残らない。
それが卒業するということ。
これが、私の出した結論。
彼に与えてもらった一夜の間に、辿り着いた──覚悟の正体だ。
「…………」
私の演説は、これで終わり。
それを聞いた彼は、ただ静かに──目を閉じて黙り込んでいる。
……いったい今、彼の中にはどんな感情が渦巻いているだろう。
今度はもう、感想なんて求めないけれど。
彼の口から吐き出される言葉は、私の心をいとも容易くぐらつかせてしまうから。
「だから──ごめんなさい。隊長さんとお姉様にも、悪いことをしたと伝えておいてくれないかしら」
「…………」
「赤嶺くん、あなたにも──でも私、たとえWTを辞めたとしても、あなたのことだけは──」
「……渡良瀬」
「──え」
勢い余って、余計なことまで口走りかけた舌が。
その四文字を呼ばれただけで、止まった。
「……6秒だ。6秒間だけ、俺に数える時間をくれ」
「……え? えっ?」
「いーち、にーい、さーん、しーい……」
突然、謎のカウントが始まってしまった。
彼は一体、何を──
……ちょっと待って。
6秒──
私、知ってる。聞いたことがある。
これは──いわゆる、アンガーマネジメントというやつだ。
人の怒りの感情というのは、きっかけとなる出来事があってからおよそ6秒でピークに達して、その後は緩やかに収まっていくのだという。なのでその6秒を意図的にやり過ごすことで降って湧いた怒りを鎮めて、冷静な自分を取り戻すための儀式──それがこの、6秒計測という行為の意味。
「ごー──」
……つまり、今。
彼はその儀式を行わねば、冷静さを取り戻すことが出来ないほどに──
「──ろー…………く」
──
腹の底から、怒り狂っている。
……何に対して?
そんなのはもう、考えるまでもない。
彼の目が、開いた。
私だけを、見据えていた。
「……なあ、渡良瀬……」
「は──はい」
思わず敬語になってしまった。
だって、その。
彼の今、吐き出した声が。
直後。
カーディガンに覆われていない襟首を、がしりと掴むものがあった。
えっ。
──えっ!?
ああああ赤嶺くん!? ダメよそんな、いきなりこんな公衆の面前で──いや待って別に今周りに誰もいないわねじゃなくて! こういうのはもっと段階を踏んでからというか、私達まだそういう関係には至っていないというか──
──なんて、刹那のうちに思い浮かんだことの全てが。
てんで的外れな妄想だったことを、私はすぐに知ることとなるのだった。
「お前それ言うの一日遅えんだよこんのクソボケがァァァァァ────ッ!!」
「ああああああああああああああ!?」
いやあああああああああああ!!
揺れてる! 脳が! 世界が揺れてる! 前後に高速でがっくんがっくん揺れてる! あなたの顔がまともに見えないわ赤嶺くん! うわコンポタ缶落とした! もう中身空だから別にいいんだけど! いや良くないわよきちんと拾い直してゴミ箱に捨てないとうわあああ!!
「なァ──にがカルガモと鯨だ!? あァ!? 良い感じにポエムで〆りゃ上手くいくと思ってんじゃねえぞ永遠の厨二病患者が! 大体な、自分の機体にドイツ語で『
「あっ……あなただってそのっ、プロッ……! というか赤嶺くん、これ、その、止めっ……!」
「俺のは
「つっ……追放物になってる……!?」
おまけにタイトルがちょっと如何わしいのだけれど! なんていうかその、
あとごめんなさいね! 誰が提唱者なのかなんてこれっぽっちも興味ないのだけれど!
「ぜー……ぜー……ぜぇー……」
「うっ……うぅ、うぇ……」
ようやく、私の首元に生じた局地的大地震が収まる。
吐きそう。ホントに。昨日の持久走の後みたい。いや、あっちとは微妙に質が異なるわね。昨日のそれは胃の中が空っぽになるような感じだったけれど、今日のこれは……その、三半規管が……平衡感覚が……うぉ、おぇ……。
で、そんな私を前にして彼がどうしたかと言うと。
「……お前の
「そっ……そこまで言うことある……?」
「あるから言ってんだよ、馬鹿。ぶわぁぁぁ──か」
一欠片も心配してくれることなく、容赦ない追い討ちを浴びせてくるのだった。
拝啓、お父さん。お母さん。お兄ちゃん。
私の友達になってくれた筈の男の子は、小学生みたいないじめ方をしてくる
「……ひっく、ぐすっ……うっ……うぅっ……」
訂正。
泣きそうなんかじゃなかった。もう泣いてた。とっくの昔に。
だって、こんなの──耐えられない。
他でもないあなたに、こんな責められ方をするなんて。
鬼。悪魔。DV男。
あなたは何回、私のことを泣かせたら気が済むの?
「だって──だってだって、仕方ないじゃない……!」
「何が」
「一体、私にどうしろっていうの……? 恥も外聞もなくお母さんに泣きついて、お願いだからまたWTで遊ばせてほしいって言えばいいとでも……!?」
「そうだよ。それが正解だ。今すぐママんとこ行って全力で頭下げてこい。一人じゃ不安なら兄貴も呼べ、絶対力になってくれる」
「そんな──そんなの、最低じゃない……!」
それこそ今更、もう遅い──だ。
百歩譲って、母に黙ってあの宝箱を開く前なら。兄から貰ったデバイスを手に取り、
二度目の裏切りを、働く前なら。
私が母に許されることも、あったのかもしれない。
けれどもう、その世界線は閉ざされてしまった。
私が自分で、閉ざしてしまった。
だから──私はちゃんと、罰を受けるべきなんだ。
「……お前さ。モラトリアムがどうとか言ってたけど」
一転、静かな声。
腹の底に溜まっていた鬱憤を全て吐き出して、落ち着いたのだろうか。
「そもそもお前、この3年間ずっとやってただろ、
「……ぅえ?」
「
「そ、そんな理屈──」
「……それにな。何よりお前、やってることが完全にブーメランなんだよ」
「……は?」
そう言って、彼は。
私たちの間にずっと空いていた、一人分の隙間を埋めるように。
再び私の襟首を掴んで、ぐい、と顔を近づけてきた。
──
「
──瞬間。
周りの景色が、切り替わったような気がした。
白塗りのタイルに覆われた、私の
そこで私も、
チーム戦なんて存在しない黎明期から、ただ刃を交えるだけで通じ合えた
「
──
「肩を並べて共に走り抜く、
「──あ──あぁ、ああぁぁあ……」
──
私、どうして、こんな──自分のことしか、見えていなくて──
すぐ目の前に、あの日の私がいることさえも、気付いていなかったんだ。
──
自分自身を捨ててしまうほど、悲しい記憶だった筈なのに。
私──あの日の私と同じ気持ちを、あなたに味わわせようとしていたんだ──
「うっ……うぁ、うあぁあぁ……」
──最低だ。
私はもう、どうやったって、最低なんだ。
全てが彼の、言う通りだった。
今更良い子ちゃんぶろうとしたって、もう遅いんだ。
お母さんのことを裏切った、最低の娘になるのか。
ともだちのことを裏切った、最低の女になるのか。
私はもう、どちらかを選ぶしかないんだ──
「……現状を把握出来たところで、改めて聞こうか」
いつの間にか。
彼の指は、私の首元から、離れていた。
「──
それは、昨日。
私が彼に投げかけたのと、同じ言葉だった。
ああ──なんてことだろう。
こんなにも愚かな私に。あなたを裏切って、自分だけで勝手に満足しようとしていた、私に。
あなたはまだ、選択の機会を与えてくれるというの?
私の意思で。私が本当に、望んでいることを──
「……やめたく、ない」
そう思ったら、もう。
本心なんて、最初から決まり切っていた。
「私──まだまだずっと、あなたと遊んでいたい」
もう、大人になんかなれなくたっていい。
子供で、幼稚で、先のことなんか何も考えていない──
「あなたと、みんなと、一緒に──ずっとずっと、あなた達の
──その呼び名は、クラスメイトの
『REDHero』のあなたのために、用意した呼び名。
……そんな建前で誤魔化せば、呼ぶことを許されるだろうという悪戯心が生み出した──
──他の何よりも大切な、あなたのための
この名前で、あなたを呼ぶということは。
今の私は──『serin』だ。
その名前をもう一度、背負うという証。
「……よく言えました」
それで、ようやく。
彼の声に、ささやかな暖かみが宿ったような気がした。
それはどこか、安堵にも似た感情が乗っているようで。
ふっと、思った。
──もしかしたら、だけれど。
彼が何より、怒っていたのは。彼のことを放り出して、何者でもない私へと戻ろうとしたことに対してではなく。
自分の本当の願望を抑えつけて、吐き出さない──
──
……そういう風に、解釈してしまうのは。
我ながら、いささか自惚れが過ぎるかしらね?
「とりあえずこれ使え、これ」
「……ふぇ?」
「お前にマウント取られたのが腹立ったからな、わざわざ用意してきたんだよ。……『こんなこともあろうかと』ってやつだ」
そんなことを言って、彼が懐から取り出したのは。
『REDHero』の彼にはてんで不釣り合いな、一枚の白いハンカチだった。
……ああ、そうなのね。
やっぱりもう、あなたの中でも
事実だからしょうがないけど。
悲しいどころか、逆に嬉しいまであるけれど。
──ねえ、陽彩くん。
あなたの言う通り、私──
だからきっちり、責任を取ってほしい。
「……ふいて」
「は?」
──多分、きっと、本気でやることになるなんて思っていなかったと思う。
私だって、冗談半分のつもりだったから。
「……私が泣いたら、やってくれるって言ってた。だから今、言って。
「……マジか? 今? 今やるのか……?」
「今がいいの。……今だから、いい」
あなたに全てを打ち明けた、今だから。
あの日に死に損なった私は、今度こそ、
あなたにあの言葉を、口にしてもらうことで。
「今度こそ、ちゃんと──私を、
……もしこの場に、
いきなり物騒な会話を始めて、ごめんなさいって思う。
でも私達、
ついて来られる人だけ、ついて来てちょうだい。OK?
「……お前今、最高に痛いこと言ってるぞ」
「痛くていいもん。永遠の厨二病だもん。あなたが自分で言ったんだもん」
「ああ……そんなこと言ったね、言いましたっけね……」
「そうだよ。だから──ね?」
理解ってるわよね? と。
圧を掛けるように、顔を突きつけた。
後もう少し突き出せば、別の何かが起こりそうなほど、近く──近くまで。
「…………」
あ、指じゃなくてハンカチ使うのね。
……指でも良かったのに。
でもそれじゃ拭い切れないか。今の私の顔、きっとぐじゅぐじゅだものね?
だから今日は、これで我慢してあげる。
──いつか私が、また泣いたら。
その時はちゃんと、あなたの指で拭ってね。
そうして彼は、私の耳元へと唇を近付けて。
照れ臭そうに、囁くように、その言葉を口にするのだった。
という訳で。
私は彼に、殺されました。
もう言い訳の余地がないです。友達だとか
──不肖、渡良瀬凛音は。
クラスメイトでチームメイトの、赤嶺陽彩くんを。
愛しています。心から。
何千何万回生まれ変わっても、愛し続けると誓います。
評価、並びにお気に入り登録お待ちしています。