VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

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『目は口ほどに』

 

 

「──ってことで、後はあいつからの連絡待ちだよ」

 

 

 はい。

 いつもの場所に、いつもの3人です。

 上手くいけばもうじき、()()()()4()()になる筈の我々『イノセンス・モラトリアム』でございます。

 実況は(わたくし)『REDHero』こと、赤嶺陽彩でお送り致します。Check it out(チェケラ)

 うん、色々あり過ぎてテンションがおかしなことになってるんだわ。許してちょうだいね。

 

 

「「…………」」

「どうした? 二人揃って黙りこくって。色々あったがめでたしめでたし、後はあいつが母親さえ無事に陥落(おと)せば作戦終了(ミッションコンプリート)だ。ハッピーエンドだよ。だろう?」

「……ヒーロー、おめー今の話の後でよくそのテンション保てんな? 本当に一番頭のネジ外れてんのおめーじゃねーのか?」

「過ぎたことは忘れようぜ、ギーザー。中学生の頃にぶっ壊した親友の飛行機の話とか、ハイスクールのランチを13回奢らされた話とか、そういうのと一緒だよ」

「うーん、マクロスプラスの話はわたし全然わかんないな……」

 

 

 何故マクロスプラスの話だって判るんだい……?

 あの後、話が長丁場に及んだこともあって気付けば昼時になっていたので、渡良瀬とは駅前のファミレスで昼飯を食った後に別れた。今度は流石に俺の奢りとはいかなかったが。それどころか逆にあいつの方が全額払いたがるのを止めるのに苦労した。親の金だろって言ったら流石に大人しくなったけど。

 何しろその親を相手に、一対一(タイマン)張るために帰った訳だしな、あいつ。

 

 

「……それにしても、想像の10倍くらい重たい事情だったなあというのが正直な感想です」

「ユメさんは知ってたらしいね、あいつと母親の間に色々あったの」

「うーん、知ってたっていうか知っちゃったというか……今となってはどっちでもいっか。わたしもギザさんも今や情報量おんなじだもんね」

「……なあヒーロー、本当に全部聞いちまって良かったのか? 確かにこっちは疑問が解けてスッキリしたけどよ、セリンのプライバシーっつーかそういうのは……」

「むしろあいつに頼まれたんだよ。自分が戻るまでに俺の口から皆に話しておいてほしいって。『仲間(チームメイト)に隠し事はしたくない』だとさ」

 

 

 そう。

 本当に、一切合切を話した。渡良瀬(あいつ)の事情に関しては。

 ()()()に至るまで、全てを。

 今の二人のテンションがいつもに比べてやや下降気味なのも、まあ無理はない。ここでハイに持っていける奴の方が怖い。ああそうか、二人から見た俺がまさにそんな感じなのか。だけどごめんな、その段階はもう8時間前に突破済みだからさ……今更何とも思わないっていうかさ……。

 

 

「それともアレか? 渡良瀬(あいつ)()()()()()()があったからって、何かあいつに対する見方が変わったりするのか? 希死念慮持ちは元であってもノーサンキューか? 隊長(ギーザー)

「ちょ、ちょっとヒーローくん──」

「……バカ抜かせ。いいか、オレはな」

 

 

 がしがし、と。

 眼帯大男のアバターが、オールバックに固めた頭を無造作に掻きむしっていた。髪崩れ……る訳ないか。所詮人形(アバター)だもんな。

 

 

()()()()()()の受け皿にでもなればいいと思って、このチームを続けてんだ。誰が追い出したりするかよ、むしろ何処にも逃がしゃしねーって決意が固まったぜ」

「そりゃ結構。ユメさんは?」

「……わたしはね」

 

 

 と。

 意外や意外、知らない間に渡良瀬の絆レベルをカンストさせてたお姉様の方が煮え切らない反応を見せていらっしゃる。これはどうしたことか。

 

 

「ちょっぴり気持ち、わかるかもなんだ。セリンちゃんのこと」

「……そうなの?」

「や、本気で()()()()()()があるとか、そんな訳じゃないよ? ……ただ、さ」

 

 

 そう言って、栗毛パーマの幼女(23)もまた。

 肩ほどに伸びた髪に指を入れ、行き場なく弄んでいた。

 

 

「わたし──ほら、なんにもないから。やりたいこととか将来の()()()()とか、そういうの」

「……ユメ」

「だから少しだけ、興味あったんだ。もう一つの世界──みたいなやつ。ロボットものなんて全然アンテナ外だったのに、このWT(ゲーム)始めたのもそういうこと」

「……俺、初めて聞いたな。そういうの」

「そだねえ、ヒーローくんにこういう話するのは初めてだったかもねえ──まあとにかく、わたしもセリンちゃんに対して思うところは何もないってこと。だからさー、早く会いたいなセリンちゃん。いつになったらお母さんとのお話終わるんだろうね?」

「……そうだな。流石にいい加減、ケリ付いててもいい時間の筈だけど──」

 

 

 ……とりあえず、ユメさんのことは一旦置いておこう。こっちもこっちで色々とありそうな気配はするが、今はそれより渡良瀬だ。

 先程ちらっとお伝えした通り、既に(あれ)から8時間が経過している。土曜も夕方までバイトを入れているユメさんがこの場にいるのがその証拠だ。ちなみにギーザーは以下略。土日も変わらずお休みとは随分とホワイトな職場ですこと。逆にアンタの就業時間いつだよマジで。深夜勤か?

 渡良瀬は堂々、単身で母親に挑むことを選んだ。兄貴には頼らず、自分一人で決着を付けるつもりらしい。

 その意気や良し。当人同士の話し合いで丸く収まるのなら、それが一番互いにとって納得のいく形になるだろう。どうも兄貴の存在は飛び道具的というか、こいつ一人だけファンタジーの世界に住んでる感あるからな。一体デバイスの資金源は何処から出てきたんだろうか。渡良瀬の謎が解けたかと思ったら身内から謎が生えてくる……渡良瀬兄とは一体……うごご……。

 

 

「……しかし、説得ったってセリンは一体どうするつもりなんだ? マジで泣き落とし一択なのか?」

「……それなんだけどな」

 

 

 さてここで。

 今回の事態を微妙にややこしくしているかもしれない、新事実についてお伝えしておこう。

 

 

渡良瀬(セリン)の母親──というか身内一同は、あいつが()()()()()()WT(ウェイタン)に潜り続けてたとは知らないんだ。ただの長時間プレイによる事故だと思ってる」

「はあ!?」

「あれ、とゆことは……」

「……そう、()()から伝えないといけないんだ、あいつは。これが説得にあたってプラスになるのかマイナスになるのか、正直俺には判断が付かない」

 

 

 思えば。

 母親が渡良瀬を精神科へと連れて行った理由が、()()()()()()()()という時点で察しが付いていてもよかった。

 つまるところ、渡良瀬にとって例の一件は意図的に引き起こされたものだが、母親はあくまで偶発的な事故だと思っている。よって渡良瀬がその真相を素直に打ち明け、もう二度と同じような真似は起こさないと伝えれば和解に向かうものかと思われるのだが──

 

 

「……親にとっちゃ、事故より辛い真実だろな、それは」

「……そうだな」

 

 

 ……改めて。

 本当に、馬鹿なことをした。あいつは。

 だがもういい。全ては過ぎたことだ。愛する女性に暴行を加えた罪を無二の親友に擦り付けようが、その一言で全部チャラに出来るのが親愛関係というものだ。いやこうやって叙述すると全然許されていいことじゃないなこれ。まあきっちりゴースト叩き落として命で責任取ったからセーフってことで一つ……。

 とにかく。

 渡良瀬と母親の間にも、親愛関係(そういうもの)があるのだと。

 信じて待つしかない。今は。

 

 

 

 

 

 ──などと意識を新たにした、その直後。

 来訪者を示す閃光が、部屋の入口に瞬いた。

 

 

「────」

 

 

 

 

 

 ──腰まで伸びた後ろ髪に、綺麗に切り揃えた前髪。

 どちらも綺麗に黒一色で、日本人形か何かのよう。

 睫毛の映える切れ長の目、整った顔の造形。『可愛い』よりも『美しい』の形容詞が似合いそうな、そんな少女。

 

 

 それ以上に最早言うことなし。

 ──待ち人、来たる。

 

 

()()() ……あっ」

 

 

 ──やっ……。

 やってしまった……ついに……あれほど気を付けていたのに……こいつの方にだって散々念を押していたのに……すまん渡良瀬……ガチでやらかした……。

 

 

「わー! セリンちゃーん! 会いたかったよぉーたった一日ぶりだけどー!」

「ったく、ハラハラさせやがって……おい、何固まってんだヒーロー。てっきり開き直って本名解禁したもんかと思ったんだがそうじゃねーのか?」

「……は? 開き直ってって……何?」

「覚えてねーのか? 昨日のセリンがログアウトする間際な、おめー何度も叫んでたんだぜ、『ワタラセ! ワタラセー!』ってな」

「ね。あんなパニクったヒーローくん初めて見たよね。やっぱそれだけセリンちゃんのこと……ねえ?」

「……ウソやん……」

 

 

 全然覚えてない。ガチで。

 えっ……ちょっと待って、俺そんなだった? マジ? この冷静沈着を絵に描いたような男が? 感情の揺るぎなさに定評のあるこの俺が? どんな怒りも6秒あればたちまち鎮められると評判のこの(わたくし)が?

 ごめん全部ウソだわ。正直沸点低いのは自覚あります。はい。でもそれはそれとして、昨日のことはマジで記憶にない。記録映像とか何処かに残っていませんか。いやでも観たら自分が信じられなくなって気が狂いそうだからやめとこ……。

 

 

「…………」

 

 

 そして何か言ってくれ渡良瀬(セリン)。いやもう誤魔化す必要ないか? ガチで開き直って呼んじまうか? 渡良瀬(そのまんま)で。でも報復で赤嶺くんとか呼ばれたら詰むんだよな俺。何しろこいつの基本呼称(デフォルト)が陽彩くんだから。フルネーム開示は流石に一線越えるだろ。だから俺もうっかり名前とか呼ばないように気を付けないと、こいつの──

 ……いや呼ぶかっつーの。呼ぶ訳ないだろ、そんなの。

 俺と渡良瀬(こいつ)は別に、彼氏彼女でも何でもないんだから。

 

 

「…………」

 

 

 ……ていうかね。

 いい加減なんか喋ってくれても良くない? 渡良瀬? 渡良瀬さん? おーい。

 

 

「……セリンちゃん?」

「なんだあ? また回線落ちか? それともなんかラグってんのか?」

 

 

 ユメさんとギーザーが、それぞれ取り囲むようにセリンの顔を覗き込んでいる。俺も一人だけぽつんとしているのはどうかと思ったので、二人の間に割って入るかの如く、セリンの正面へと立って、言った。

 

 

「……セリン──」

 

 

 結局そっち呼びかよ、と。

 おっさんどものツッコミが、入るよりも早く──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あなた方が、リンちゃんの今のお友達なのですね」

 

 

 渡良瀬(セリン)のアバターから、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いや──『誰か』ではない。それは正体が判らない何者かに対して使う言葉だ。

 この声には聞き覚えがある。それこそまさに前述した、渡良瀬(あいつ)の悲鳴が聞こえて記憶が飛ぶ寸前に耳にした──

 

 

「このような形でのご挨拶になることをお許し下さい。──わたくし、渡良瀬凛音の母でございます。あなた方にコンタクトを取る手段が他になかったので、こうして娘の姿を借りてお邪魔させていただきました」

 

 

 ──まさしく、()()()()の声であった。

 

 

 

 

 

 ……なんで!?

 意味が理解(わか)らない。勇者に討伐を任せた筈の魔王が直接王様の城に乗り込んできたような状況だろこれ。おまけにその魔王が勇者の格好してるっていう。これだけでなんか短編一本書けそうじゃないですか創作者の皆様方。

 ()()()()()()? 渡良瀬は一体どうなったんだ? 討死(失敗)したのか? 倒したと思ったラスボスに身体乗っ取られるとか、何処のジョナサンとDIOだよ。いや最近だと炭治郎と無惨の方が通じやすいのか? 助けて珠世様! 渡良瀬(にんげん)に戻る薬を早く持ってきて!

 

 

「は──はじめまして。私がこのチームの責任者を務めております、『Geezer』と申します」

 

 

 などと混乱の渦に呑まれている俺を他所に、(いち)早く対応に動いたのはギーザーだった。うわ、あのおっさんが他人に敬語使ってるよ。初めて見るわこんな姿。

 というかそうか、確かにアンタが応じるべきシチュエーションなのかこれ。仮にも隊長(リーダー)だもんな。俺のしゃしゃり出る幕じゃないわな。正直不安しかないがここは任せた。

 

 

「……あの、本日はどういったご用件で……?」

「この度、娘から申し出があったのです。以前遊んでいたこちらのゲーム──『Wasteland Titans』でしたか? それをどうしてもまた始めたい、と」

「は、はあ……」

「ですが、あの子はその──前にこのゲームを遊んだ際、()()ありまして。そのことは皆様、聞き及んでおいでなのですよね?」

「……ええ、まあ。本当に、つい先程の話ですが」

 

 

 ……そうか。きっちり母親と向き合ったのか、渡良瀬。

 よく頑張った。一度は黙って誤魔化そうとしてたことを考えれば大成長だ。いやホントに、最初から母親に訴えてればここまで話拗れることもなかったと思います。そこはマジで反省してほしい。言い出せなかった気持ちは理解るけれども、それはそれとして。

 で、母親がこっちの状況をある程度把握してるってことは──俺の口からギーザー達に説明が済んでる筈というのを、渡良瀬が母親に伝えたってことだ。つまりこの母親の謎ムーブは、実質渡良瀬との()()()()ということになる。つーかそうじゃなきゃ渡良瀬(あいつ)のアバター使える訳もチームルーム(ここ)に来られる訳もないしな。自発的に協力してるのか諸々の負い目で逆らいようがなかったのかは知らんが。多分後者だろう、あいつの性格からして。

 

 

「でしたら話は早いですわね。……聞けば、あの子があのような真似に及んだのは、こちらの遊戯でお友達と疎遠になったのがきっかけというではありませんか」

「……私もそう伺っております」

「ですからわたくし、直接この目で確かめたいと思ったのです。この3年間一度もそんなことを言い出さなかったあの子が、再びこの遊戯を始めたいと思うに至った理由──即ち、()()()()()()()を」

 

 

 そう言って、渡良瀬(セリン)──いや渡良瀬母か。お母様は俺達の顔を順々に見回していく。

 2m越えの眼帯大男、その半分ちょいくらいの背丈しかない栗毛パーマの幼女、そして──

 

 

 ──装飾物(アクセサリ)のヘルメットに覆われて、表情など窺いようもない『REDHero()』の顔を。

 

 

 いや、これも初期装備(デフォルト)なんだけどさ。アバターっつったってWTってそもそも一人称ゲーじゃん? どうせプレイ中殆ど自分の姿見る機会なんかないんだから一々外見凝るの面倒じゃね? と思って。だから皆よくやるよなあって思う。他人からどう見られるかってそんなに大事かね。

 こんな考え方してるからリア友0人なんですよね。わかります。流石に現実(リアル)じゃ清潔感とか最低限のことは気遣ってるから勘弁してほしい。整髪料とかそういうのは一切使う気ないけど。面倒なので。

 

 

「……やはり、わかりませんわね」

 

 

 やれやれ、と言うように首を振る渡良瀬マザー。そりゃそうだろう。仮に俺のアバターが顔を隠していようがいまいが、どの道それで結果が変わることなどない。

 どれだけ緻密に造られていようと。実写と見紛うほどのクオリティを、誇っていたとしても。

 アバターは所詮、分身(アバター)だ。本物ではない。それも本人の好きなように、自由に見た目を弄れるような代物なのだ。

 そんなものをいくら眺めたところで、俺達のことを理解なんて出来る筈がない。

 

 

「わたくし、今でこそしがない専業主婦ですが……3年前までは業界大手の人事部門に携わっておりまして。採用、教育、マネジメント──様々な人材と接して参りました。その上でわたくしが、人物鑑定において最も重要視していたもの──何だと思われますか?」

「……皆目、見当も付きません」

()です。『目は口ほどに物を言う』なんて諺がありますわね? 自分に自信を持っている者の目には、それ相応の力というものが宿っている。その逆も然り──わたくしもこの言葉を座右の銘として、20年余りの企業勤めを乗り越えて参りました」

「……ご立派です」

 

 

 偉いなギーザー。突然の自分語りにちゃんと付き合ってヨイショも忘れないなんて。アンタのことだからすぐに癇癪起こして『どういうことだ?』『何が言いてえ』とか突っかかり出すかと思ったのに。まあこれがまともな大人の対応ってやつだよな。別に桐生ちゃんがまともじゃないって言いたいわけではないのであしからず。

 ──などと、要領を得ない前振りに脱線しかけていた俺の意識が。

 

 

 

 

 

「──だからわたくしは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ()()()のことに話が及んだのを察して。

 戻ってきた。

 

 

「ギーザー様──と申しましたか。貴方、自分以外の方がこのゲームを遊んでいるところをご自身の目で見たことはお有りですか?」

「……いえ」

()()()()()()()()()。あのおぞましいゴーグル──それが、あの子の目を隠してしまって。すぐ目の前にあの子がいるのに、まるで()()()()にいるかのような、あの断絶感──あの子の喜びも楽しみも、わたくしは何一つとして共有することが出来なかった。そして──」

「…………」

「……あの子の悲しみも。だから──あの子はあんな、あんな馬鹿なことを……」

 

 

 失礼、と一言挟んで、それきり渡良瀬母の動きがぴたりと止まった。

 今の俺の目に、現実(リアル)の渡良瀬母の姿は当然ながら映っていない。だが俺達には想像力(イマジネーション)というものがある。人間の誰もが持っていて然るべき、()()()()()()()()()()()()()というやつが。

 

 

 だから、一々言葉にされずとも。

 今のこの人が、ゴーグルを外して涙を拭いている最中なのだということくらいは判る。

 

 

 当然それは、俺だけではなくギーザーやユメさんも同じことで。

 故に、生まれた沈黙を破ったのもまた、彼女自身の声によるものだった。

 

 

「……理解っているんです、()()を恨むのはお門違いだということは。仕事にばかりかまけて、あの子のことをちゃんと見てあげられていなかった──あの子の()()()足りえなかった、わたくしにこそ非があるのだということは」

「そんなことは──」

「現にあの子は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「────」

「……あの日の真実も、今日の今日まで黙っていた。わたくしは親として、あの子の──リンちゃんの信頼を得ることに、失敗したのです」

 

 

 ……そうか。

 それこそが、この人をこんな奇行に走らせた理由なのか。

 負い目を感じていたのは、渡良瀬だけではなかった。母親の方もまた、娘に対して申し訳ない気持ちを抱いていたのだ。おそらく、真実を知る今日よりも更に前──

 ──自分の命を顧みぬほど、別の世界(WT)へとのめり込む娘の姿を目の当たりにした時から。

 この人はきっと、渡良瀬のことを()()()()()()()()()が強迫観念になっている。自身の経験──キャリアウーマンとして数多の人材を見てきた筈の自身の目が、肝心の実の娘に向けられていなかったという後悔。それがこの、過剰と言うべき干渉行為に繋がっているのだ。

 

 

(……とはいえ──)

 

 

 ……それが結局、今の渡良瀬(あいつ)の意思に反するような結果になってしまっているのは、皮肉と言うより他にないのだけれど。

 渡良瀬の信頼を得ることに失敗したと、たった今この人は言った。けれどそれを言うなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうでなければ、わざわざ自分の目で俺達のことを確かめようだなんて思わないだろう。母娘揃ってとんだブーメランの使い手だ。子は親を映す鏡とはよく言ったもんだな。

 だが俺は、そのことでこの人を責めようとは思わない。ましてや渡良瀬本人が、それを口に出来る筈もない。

 どれだけ信じたくても──信じ切れる筈が、ない。

 

 

 

 

 

 ──先にこの人を裏切ったのは、渡良瀬(あいつ)だ。

 愛してくれる人がいたのに、そのことを忘れて旅立とうとした、世界で一番の大馬鹿野郎は、あいつだ。

 どれだけあいつのことが大事でも、その事実からは絶対に、()()()()()()()()()()

 ただでさえ全てを見極めようとしている人が、今目の前にいるのだから。

 

 

 

 

 

「それは──違います」

 

 

 それでも、せめて。

 解ける誤解は、この場で解いておくべきだと思った。

 

 

「渡良瀬は──あいつは、あなたを信じていなかったわけじゃない。自分のやっていることが間違っているという自覚があるから、言い出せなかっただけです」

「お、おいヒーロー──」

「あいつは言っていました。『お母さんは悪くない、私が全部悪い』──それに何より、あなたに貰ったあの言葉を──今でも大事に抱え持っている」

 

 

 それは、昨日の晩に俺が成そうと思い立ったこと。

 渡良瀬(あいつ)に、人生最大の幸福を齎すという──

 ……実のところ、未だに更新のチャンスを諦めていないこと。

 

 

「『おめでとうリンちゃん。あなた、凄い子だったのね』──どうか、誇って下さい。その言葉にあいつは、確かに救われた筈なので」

「……貴方は──」

戦友(ともだち)です、あいつの。このゲームの──そして、現実においても」

 

 

 言いながら、()()()()()()()()()()()

 実のところ。

 俺がアバターを初期設定(デフォルト)から弄らなかったのには、もう一つ理由がある。

 『Wasteland Titans』の主人公は、プレイヤーの設定した性別・年齢・国籍に合わせてある程度の外見パターンが用意されている。かくいう俺も現実(リアル)の自分に合わせて、『15歳・男・日本人(ジャパニーズ)』の設定でアバターを構築した。

 すると、何の因果か知らないが──

 

 

 

 

 

「──赤嶺陽彩(レッドヒーロー)。あなたの娘──()()()()のクラスメイトです」

 

 

 

 

 

 アバター(そいつ)の顔は、赤嶺陽彩(リアルの俺)と瓜二つだったのだ。

 まあ特徴ない顔してるもんな俺。そういうこともあるだろうと思って特に気にしたことはない。弄る手間が省けて助かったしな。俺は面倒が嫌いなんだ。

 

 

「……レッドヒーロー……そう、そうなの。()()()()()()()──」

 

 

 ……?

 なんか知らんが、妙にしみじみと噛み締めるような口調の渡良瀬母。ギーザーの時とえらい対応が違いません? 渡良瀬(あいつ)お母様に俺のことなんて言って伝えたの?

 まあとにかく、こうして素顔を晒したのはせめてもの誠意だと思ってほしい。わざわざこうして足を運んで下さったお母様(あなた)に対しての。ギーザーやユメさんにだって晒したことなかったんだからさ。

 リベさんには見せたことあるけど。見せたっていうか、二人きりの時に無理矢理メットを剥ぎ取られたんだけど。『思った通りの顔してた。大人気取りのお子ちゃまの顔』じゃないんだよ。他人の装飾物(アクセサリ)を勝手に脱がせられる仕様ってゲームとしてどうなんですか? 運営見てるか? 速やかに修正しろ。

 

 

「……見事な胆力です。今のこの場は、意図的に()()()()()()()で進めさせていただいたのですが──そんな中でも貴方は、臆することなく自身の意見を主張した。これが本物の面接だったなら、大きな加点になっていたでしょう。花丸を差し上げます」

「……それはどうも」

 

 

 花丸ってあなた。お母様、微妙に愉快なワードセンスをしておいででいらっしゃいますね? 渡良瀬がたまにトンチキなこと言い出すの、絶対あなたの影響でしょう。渡良瀬母娘似た者同士説がまた補強されてしまったわ。

 が、残念なことにこの面接は本物(リアル)ではないので。

 続くお母様の言葉は、賞賛ではなく失意に塗れたものだった。

 

 

「だからこそ──貴方の晒したその顔が、本物でないことが残念でならない」

「……そうですね。俺も出来ることなら一度、お母さんに直接ご挨拶に伺いたいと今は思っています」

 

 

 娘さん(あいつ)の友人として。

 何らおかしなことはないだろう。友達の家に遊びに行くことくらい。いやまあ、異性相手という問題はあるにはあるが、親のいる時間にお邪魔する分には過ちの起こりようも──

 ……いや()()ってなんだよ。馬鹿か? 俺は今一体何を想像した? 忘れなさい赤嶺陽彩。忘れろー、忘れろー、忘れろビィィィッム!!(CV神谷明)

 これ元ネタ鵺の陰陽師じゃなくてダンガンロンパなんだってね。渡良瀬に言われた後ググるまで知らなかったわ。ロボット物以外は門外漢ですまない……何ならロボ物自体も言うほど詳しくなくてすまない……。

 

 

「──まあ!」

 

 

 でさあ。

 急に渡良瀬母のテンションが爆上がりしたんだけどどういうこと?

 

 

「なんて話が早い──よもやわたくしが切り出すよりも早く、()()()()からその提案を頂けるなんて」

「……はい?」

「本日はわたくし、その申し出のために()()()の前へと参ったのです。ギーザー様、レッドヒーロー様、そしてそちらの──ユメ様でよろしかったでしょうか?」

「──きょっ?」

 

 

 それまで完全に背景と化していた23歳幼女の口から、人ならざる声が漏れ出た。

 ……というか、ちょっと待て。

 何やら話が、思いもよらない方向へと進んでいっているような気がするぞ。

 

 

 

 

 

「本題に入りましょう。皆様方の都合が付くタイミングで構いません──どうか一度、()()()()()()()()()()()。距離的な問題があるのでしたら、アプリを用いたオンライン面談でもいい──わたくしは一度でいいから、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 ……きょっ……。

 強制オフ会……!?

 マジかこの人。そこまでやるのか。そこまでしないと俺達のことを信用出来ないのか──いや、待て。

 昼にこんな喩えをしたよな。お母様から見たWTを遊ぶ渡良瀬の姿というのは、克服した筈の薬物に再び手を染める中毒者のようなものだと。

 だったら、お母様から見た俺達というのは──

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そりゃ信用出来るわけないよね! 事故でなかったとしてもね! どの道渡良瀬が()()()に行きたがるほどヤバい代物だっていうのは変わってないもんねWT!

 

 

「な、何を勝手な──」

 

 

 と、当然の如く抗議の声を上げたのはギーザーだった。そりゃそうだろう。このおっさんとユメさんからしたら完全に貰い事故だもんな。

 君達が渡良瀬家へとお招きされることになったのは私の責任だ。だが私は謝らない。いや、俺は別に反対どころか賛成派なのでマジで謝る気ないわ。ごめんな二人とも、大人しく腹を括ってほしい。がんばれ♡ がんばれ♡

 

 

「……申し訳ありません。娘の友人関係にまで干渉するという行為が、醜い親のエゴだということは承知の上です。ですが、譲れない一線というものをどうかご理解頂けないでしょうか」

「し、しかし──」

「わたくしの要件は以上です。日時が決まり次第、彼の──レッドヒーロー様の方から、あの子に連絡を寄越して下さい。LANEで住所を送信致します」

「……質問いいですか」

 

 

 が、それはそれとして。

 譲れない一線と言うのなら、俺の方にもそれはある。

 

 

「……俺達がご自宅へと伺うのを拒否した場合、あいつは──凛音さんはどうなるんですか? 彼女から取り上げたデバイスの行方は?」

「無論、返す訳には参りませんわね。あの子には悪いですが、再処分という形になるでしょう」

「……実際に伺った結果、俺達があなたのお眼鏡に適わなかった場合は?」

「同じことです」

「……なるほど」

 

 

 ──OK、了解致しました。

 やっぱり貴女は大魔王(ラスボス)ですよ、お母様。

 何としてでも滅ぼして、世界(わたらせ)を救わないといけない──

 

 

 ──勇者(ヒーロー)パーティの、()()()()だ。

 

 

「近日中にお返事します。必ず」

「ヒーロー! 馬鹿野郎、勝手に決めんじゃ──」

「まあいいだろ、ギーザー」

 

 

 実際、渡良瀬(あいつ)のやったことを思えばこんなチャンスすら与えられずに捨てられていてもおかしくはないのだ。この人がガチのマジの毒親だったら──いや逆か? 娘のことを想う親ほど二度とWTなんか触らせないか? 事態が複雑化し過ぎて最早何が正解なのか判らん。ここまで来ると理屈ではないんだ、多分。

 とにかく、そんな訳の分からない状況がね。

 面接一つで片付くのなら、面倒がなくていいでしょう。

 

 

「そりゃハナからセリンに素性割れてるおめーは関係ねーかもしれねーがな、こっちだって色々と事情が──」

「ぎょ、ぎょーかいおーて……じんじぶ……さいよう……お、おいのりめーる……」

「……どうやら、話を取り纏める時間が必要のようですわね?」

「ええ。そのようで」

「では、わたくしはこれにて。──色良い返事を期待しております。あなた、退出の動作を」

『ああ……ちょっと待ってね、何分久々に触るものだからどこを開くんだったか……ええと、これかな?』

 

 

 と、最後の最後に謎の男性の声が渡良瀬(セリン)のアバター越しに聞こえてきたかと思うと、直後にセリン──もとい、渡良瀬母の姿はブロックノイズの中へと掻き消えた。宣言通りに退出(ログアウト)したという訳だ。

 しかしそうか。てっきり御本人が頑張って覚えたか渡良瀬が代わりに操作してたかのどちらかだと思っていたんだが、もう一人いたな。現渡良瀬家のWT保有者が。お母様はあくまでゴーグルを着けていただけで、実際に操作していたのは渡良瀬父だったのか。アカウントだけは渡良瀬(セリン)のものを利用してここまで辿り着いた、と。

 安心したよ。お母様が渡良瀬(あいつ)のスーツを着て動かしてたとかじゃなくって。

 それはなんていうか色々と、家元(うわキツ)案件だからな。

 

 

 

 

 

 ──などと、至極どうでもいいことを考えていた矢先。

 着信を示す電子音が、傍らのスマホから鳴り響いた。

 

 

「悪い。ちょい離れる」

 

 

 ジェスチャー動作(コマンド)から『離脱中!』を選択。両腕を×の字に交差して固まる我が分身(アバター)を他所に、ゴーグルを外してスマホの画面を確かめる。

 と言っても。

 このタイミングの電話の主なんて、一々確かめるまでもなかった。

 

 

 

 

 

「──ハロー、囚われのお姫様(プリンセス)

『ひ……陽彩くん、その……』

 

 

 

 

 

 電話越しに聞こえる()()()の声ときたら、それはもう、恐縮の至りといった具合で。

 『どうしてこうなったんだろう』とでも言いたげな、困惑と申し訳なさを滲ませる、揺らぎ切った声色だった。

 

 

『……後は、頼みます……』

「ナナミンの物真似か? その言葉は呪いだぞ」

『そんなんじゃないよぉ……どうしてこうなっちゃったの? 私のせいで、あなた達にまで迷惑が──こんな筈じゃなかったのに……』

「迷惑だなんて言うなよ、渡良瀬」

 

 

 何度でも言うが。

 お前のために使う時間なら、面倒だとは思わないんだ、俺は。

 

 

「必ず行くよ。最悪、俺一人だけでも。だから──大船に乗ったつもりで待っててくれ」

『……セリーヌ・ディオンの歌が流れるくらい?』

「タイタニックの話は別にしてなかったな……」

 

 

 俺この喩えでタイタニック持ち出すやり取りもう10回近く読んだ覚えあるわ。コメディ物で。だから人によっては食傷ものかもしんないね。俺達なんか無駄に前振りまで用意してたからね。そこまでして擦りたいネタかこれ?

 何のことだか思い出せない人は、次の台詞を参考に記憶を辿って下さいませ。俺誰に向けて話しかけてるんだろうな。イマジナリーお友達かな。もう一人のボク……。

 

 

 

 

 

「──W()a()s()t()e()l()a()n()d()()()()()()()、渡良瀬。勿論、中身はちゃんとお前でな」

『……うん、待ってる。陽彩くん、私を──』

 

 

 

 

 

 で、こいつはこいつで何を言い出すかと思えば。

 内心痛さ丸出しだなと思ってた俺の、更に上を行く言葉を吐き出すのであった。

 

 

 

 

 

『──早く私を、殺しにいらっしゃい』

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に。

 永遠の厨二病患者からの声は、途切れた。

 

 

「……さてと」

 

 

 やることは決まった。目的地が決まると考えることが少なくなっていい。後はひたすら()()へと向かって突っ走るだけでいいもんな。

 自分探し(モラトリアム)だなんていう、何処に向かって走ればいいのか答えの見えない問題と違って。

 で、とりあえず。

 目下のところ、俺が解決すべき問題といえば──

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁん!! 降りる! わたし船降りる! 今すぐ! ナウ!!」

「だああああ!! 落ち着けユメ! オレだって正直不安しかねーんだから──あんのバカヒーロー、どうなっても知らねーぞマジで! 責任取らねーからなオレは! 隊長(リーダー)なんてクソ食らえだ!」

 

 

 往生際の悪いこのダメ大人2名を、如何にして渡良瀬邸へと連行するべきか。

 まあとにかく。

 楽しい楽しいオフ会(リアイベ)編、はっじまーるよー!!

 

 

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