VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで 作:Amisuru
「──ってことで、後はあいつからの連絡待ちだよ」
はい。
いつもの場所に、いつもの3人です。
上手くいけばもうじき、
実況は
うん、色々あり過ぎてテンションがおかしなことになってるんだわ。許してちょうだいね。
「「…………」」
「どうした? 二人揃って黙りこくって。色々あったがめでたしめでたし、後はあいつが母親さえ無事に
「……ヒーロー、おめー今の話の後でよくそのテンション保てんな? 本当に一番頭のネジ外れてんのおめーじゃねーのか?」
「過ぎたことは忘れようぜ、ギーザー。中学生の頃にぶっ壊した親友の飛行機の話とか、ハイスクールのランチを13回奢らされた話とか、そういうのと一緒だよ」
「うーん、マクロスプラスの話はわたし全然わかんないな……」
何故マクロスプラスの話だって判るんだい……?
あの後、話が長丁場に及んだこともあって気付けば昼時になっていたので、渡良瀬とは駅前のファミレスで昼飯を食った後に別れた。今度は流石に俺の奢りとはいかなかったが。それどころか逆にあいつの方が全額払いたがるのを止めるのに苦労した。親の金だろって言ったら流石に大人しくなったけど。
何しろその親を相手に、
「……それにしても、想像の10倍くらい重たい事情だったなあというのが正直な感想です」
「ユメさんは知ってたらしいね、あいつと母親の間に色々あったの」
「うーん、知ってたっていうか知っちゃったというか……今となってはどっちでもいっか。わたしもギザさんも今や情報量おんなじだもんね」
「……なあヒーロー、本当に全部聞いちまって良かったのか? 確かにこっちは疑問が解けてスッキリしたけどよ、セリンのプライバシーっつーかそういうのは……」
「むしろあいつに頼まれたんだよ。自分が戻るまでに俺の口から皆に話しておいてほしいって。『
そう。
本当に、一切合切を話した。
今の二人のテンションがいつもに比べてやや下降気味なのも、まあ無理はない。ここでハイに持っていける奴の方が怖い。ああそうか、二人から見た俺がまさにそんな感じなのか。だけどごめんな、その段階はもう8時間前に突破済みだからさ……今更何とも思わないっていうかさ……。
「それともアレか?
「ちょ、ちょっとヒーローくん──」
「……バカ抜かせ。いいか、オレはな」
がしがし、と。
眼帯大男のアバターが、オールバックに固めた頭を無造作に掻きむしっていた。髪崩れ……る訳ないか。所詮
「
「そりゃ結構。ユメさんは?」
「……わたしはね」
と。
意外や意外、知らない間に渡良瀬の絆レベルをカンストさせてたお姉様の方が煮え切らない反応を見せていらっしゃる。これはどうしたことか。
「ちょっぴり気持ち、わかるかもなんだ。セリンちゃんのこと」
「……そうなの?」
「や、本気で
そう言って、栗毛パーマの幼女(23)もまた。
肩ほどに伸びた髪に指を入れ、行き場なく弄んでいた。
「わたし──ほら、なんにもないから。やりたいこととか将来の
「……ユメ」
「だから少しだけ、興味あったんだ。もう一つの世界──みたいなやつ。ロボットものなんて全然アンテナ外だったのに、この
「……俺、初めて聞いたな。そういうの」
「そだねえ、ヒーローくんにこういう話するのは初めてだったかもねえ──まあとにかく、わたしもセリンちゃんに対して思うところは何もないってこと。だからさー、早く会いたいなセリンちゃん。いつになったらお母さんとのお話終わるんだろうね?」
「……そうだな。流石にいい加減、ケリ付いててもいい時間の筈だけど──」
……とりあえず、ユメさんのことは一旦置いておこう。こっちもこっちで色々とありそうな気配はするが、今はそれより渡良瀬だ。
先程ちらっとお伝えした通り、既に
渡良瀬は堂々、単身で母親に挑むことを選んだ。兄貴には頼らず、自分一人で決着を付けるつもりらしい。
その意気や良し。当人同士の話し合いで丸く収まるのなら、それが一番互いにとって納得のいく形になるだろう。どうも兄貴の存在は飛び道具的というか、こいつ一人だけファンタジーの世界に住んでる感あるからな。一体デバイスの資金源は何処から出てきたんだろうか。渡良瀬の謎が解けたかと思ったら身内から謎が生えてくる……渡良瀬兄とは一体……うごご……。
「……しかし、説得ったってセリンは一体どうするつもりなんだ? マジで泣き落とし一択なのか?」
「……それなんだけどな」
さてここで。
今回の事態を微妙にややこしくしているかもしれない、新事実についてお伝えしておこう。
「
「はあ!?」
「あれ、とゆことは……」
「……そう、
思えば。
母親が渡良瀬を精神科へと連れて行った理由が、
つまるところ、渡良瀬にとって例の一件は意図的に引き起こされたものだが、母親はあくまで偶発的な事故だと思っている。よって渡良瀬がその真相を素直に打ち明け、もう二度と同じような真似は起こさないと伝えれば和解に向かうものかと思われるのだが──
「……親にとっちゃ、事故より辛い真実だろな、それは」
「……そうだな」
……改めて。
本当に、馬鹿なことをした。あいつは。
だがもういい。全ては過ぎたことだ。愛する女性に暴行を加えた罪を無二の親友に擦り付けようが、その一言で全部チャラに出来るのが親愛関係というものだ。いやこうやって叙述すると全然許されていいことじゃないなこれ。まあきっちりゴースト叩き落として命で責任取ったからセーフってことで一つ……。
とにかく。
渡良瀬と母親の間にも、
信じて待つしかない。今は。
──などと意識を新たにした、その直後。
来訪者を示す閃光が、部屋の入口に瞬いた。
「────」
──腰まで伸びた後ろ髪に、綺麗に切り揃えた前髪。
どちらも綺麗に黒一色で、日本人形か何かのよう。
睫毛の映える切れ長の目、整った顔の造形。『可愛い』よりも『美しい』の形容詞が似合いそうな、そんな少女。
それ以上に最早言うことなし。
──待ち人、来たる。
「
──やっ……。
やってしまった……ついに……あれほど気を付けていたのに……こいつの方にだって散々念を押していたのに……すまん渡良瀬……ガチでやらかした……。
「わー! セリンちゃーん! 会いたかったよぉーたった一日ぶりだけどー!」
「ったく、ハラハラさせやがって……おい、何固まってんだヒーロー。てっきり開き直って本名解禁したもんかと思ったんだがそうじゃねーのか?」
「……は? 開き直ってって……何?」
「覚えてねーのか? 昨日のセリンがログアウトする間際な、おめー何度も叫んでたんだぜ、『ワタラセ! ワタラセー!』ってな」
「ね。あんなパニクったヒーローくん初めて見たよね。やっぱそれだけセリンちゃんのこと……ねえ?」
「……ウソやん……」
全然覚えてない。ガチで。
えっ……ちょっと待って、俺そんなだった? マジ? この冷静沈着を絵に描いたような男が? 感情の揺るぎなさに定評のあるこの俺が? どんな怒りも6秒あればたちまち鎮められると評判のこの
ごめん全部ウソだわ。正直沸点低いのは自覚あります。はい。でもそれはそれとして、昨日のことはマジで記憶にない。記録映像とか何処かに残っていませんか。いやでも観たら自分が信じられなくなって気が狂いそうだからやめとこ……。
「…………」
そして何か言ってくれ
……いや呼ぶかっつーの。呼ぶ訳ないだろ、そんなの。
俺と
「…………」
……ていうかね。
いい加減なんか喋ってくれても良くない? 渡良瀬? 渡良瀬さん? おーい。
「……セリンちゃん?」
「なんだあ? また回線落ちか? それともなんかラグってんのか?」
ユメさんとギーザーが、それぞれ取り囲むようにセリンの顔を覗き込んでいる。俺も一人だけぽつんとしているのはどうかと思ったので、二人の間に割って入るかの如く、セリンの正面へと立って、言った。
「……セリン──」
結局そっち呼びかよ、と。
おっさんどものツッコミが、入るよりも早く──
「──あなた方が、リンちゃんの今のお友達なのですね」
いや──『誰か』ではない。それは正体が判らない何者かに対して使う言葉だ。
この声には聞き覚えがある。それこそまさに前述した、
「このような形でのご挨拶になることをお許し下さい。──わたくし、渡良瀬凛音の母でございます。あなた方にコンタクトを取る手段が他になかったので、こうして娘の姿を借りてお邪魔させていただきました」
──まさしく、
……なんで!?
意味が
「は──はじめまして。私がこのチームの責任者を務めております、『Geezer』と申します」
などと混乱の渦に呑まれている俺を他所に、
というかそうか、確かにアンタが応じるべきシチュエーションなのかこれ。仮にも
「……あの、本日はどういったご用件で……?」
「この度、娘から申し出があったのです。以前遊んでいたこちらのゲーム──『Wasteland Titans』でしたか? それをどうしてもまた始めたい、と」
「は、はあ……」
「ですが、あの子はその──前にこのゲームを遊んだ際、
「……ええ、まあ。本当に、つい先程の話ですが」
……そうか。きっちり母親と向き合ったのか、渡良瀬。
よく頑張った。一度は黙って誤魔化そうとしてたことを考えれば大成長だ。いやホントに、最初から母親に訴えてればここまで話拗れることもなかったと思います。そこはマジで反省してほしい。言い出せなかった気持ちは理解るけれども、それはそれとして。
で、母親がこっちの状況をある程度把握してるってことは──俺の口からギーザー達に説明が済んでる筈というのを、渡良瀬が母親に伝えたってことだ。つまりこの母親の謎ムーブは、実質渡良瀬との
「でしたら話は早いですわね。……聞けば、あの子があのような真似に及んだのは、こちらの遊戯でお友達と疎遠になったのがきっかけというではありませんか」
「……私もそう伺っております」
「ですからわたくし、直接この目で確かめたいと思ったのです。この3年間一度もそんなことを言い出さなかったあの子が、再びこの遊戯を始めたいと思うに至った理由──即ち、
そう言って、
2m越えの眼帯大男、その半分ちょいくらいの背丈しかない栗毛パーマの幼女、そして──
──
いや、これも
こんな考え方してるからリア友0人なんですよね。わかります。流石に
「……やはり、わかりませんわね」
やれやれ、と言うように首を振る渡良瀬マザー。そりゃそうだろう。仮に俺のアバターが顔を隠していようがいまいが、どの道それで結果が変わることなどない。
どれだけ緻密に造られていようと。実写と見紛うほどのクオリティを、誇っていたとしても。
アバターは所詮、
そんなものをいくら眺めたところで、俺達のことを理解なんて出来る筈がない。
「わたくし、今でこそしがない専業主婦ですが……3年前までは業界大手の人事部門に携わっておりまして。採用、教育、マネジメント──様々な人材と接して参りました。その上でわたくしが、人物鑑定において最も重要視していたもの──何だと思われますか?」
「……皆目、見当も付きません」
「
「……ご立派です」
偉いなギーザー。突然の自分語りにちゃんと付き合ってヨイショも忘れないなんて。アンタのことだからすぐに癇癪起こして『どういうことだ?』『何が言いてえ』とか突っかかり出すかと思ったのに。まあこれがまともな大人の対応ってやつだよな。別に桐生ちゃんがまともじゃないって言いたいわけではないのであしからず。
──などと、要領を得ない前振りに脱線しかけていた俺の意識が。
「──だからわたくしは、
戻ってきた。
「ギーザー様──と申しましたか。貴方、自分以外の方がこのゲームを遊んでいるところをご自身の目で見たことはお有りですか?」
「……いえ」
「
「…………」
「……あの子の悲しみも。だから──あの子はあんな、あんな馬鹿なことを……」
失礼、と一言挟んで、それきり渡良瀬母の動きがぴたりと止まった。
今の俺の目に、
だから、一々言葉にされずとも。
今のこの人が、ゴーグルを外して涙を拭いている最中なのだということくらいは判る。
当然それは、俺だけではなくギーザーやユメさんも同じことで。
故に、生まれた沈黙を破ったのもまた、彼女自身の声によるものだった。
「……理解っているんです、
「そんなことは──」
「現にあの子は、
「────」
「……あの日の真実も、今日の今日まで黙っていた。わたくしは親として、あの子の──リンちゃんの信頼を得ることに、失敗したのです」
……そうか。
それこそが、この人をこんな奇行に走らせた理由なのか。
負い目を感じていたのは、渡良瀬だけではなかった。母親の方もまた、娘に対して申し訳ない気持ちを抱いていたのだ。おそらく、真実を知る今日よりも更に前──
──自分の命を顧みぬほど、
この人はきっと、渡良瀬のことを
(……とはいえ──)
……それが結局、今の
渡良瀬の信頼を得ることに失敗したと、たった今この人は言った。けれどそれを言うなら、
だが俺は、そのことでこの人を責めようとは思わない。ましてや渡良瀬本人が、それを口に出来る筈もない。
どれだけ信じたくても──信じ切れる筈が、ない。
──先にこの人を裏切ったのは、
愛してくれる人がいたのに、そのことを忘れて旅立とうとした、世界で一番の大馬鹿野郎は、あいつだ。
どれだけあいつのことが大事でも、その事実からは絶対に、
ただでさえ全てを見極めようとしている人が、今目の前にいるのだから。
「それは──違います」
それでも、せめて。
解ける誤解は、この場で解いておくべきだと思った。
「渡良瀬は──あいつは、あなたを信じていなかったわけじゃない。自分のやっていることが間違っているという自覚があるから、言い出せなかっただけです」
「お、おいヒーロー──」
「あいつは言っていました。『お母さんは悪くない、私が全部悪い』──それに何より、あなたに貰ったあの言葉を──今でも大事に抱え持っている」
それは、昨日の晩に俺が成そうと思い立ったこと。
……実のところ、未だに更新のチャンスを諦めていないこと。
「『おめでとうリンちゃん。あなた、凄い子だったのね』──どうか、誇って下さい。その言葉にあいつは、確かに救われた筈なので」
「……貴方は──」
「
言いながら、
実のところ。
俺がアバターを
『Wasteland Titans』の主人公は、プレイヤーの設定した性別・年齢・国籍に合わせてある程度の外見パターンが用意されている。かくいう俺も
すると、何の因果か知らないが──
「──
まあ特徴ない顔してるもんな俺。そういうこともあるだろうと思って特に気にしたことはない。弄る手間が省けて助かったしな。俺は面倒が嫌いなんだ。
「……レッドヒーロー……そう、そうなの。
……?
なんか知らんが、妙にしみじみと噛み締めるような口調の渡良瀬母。ギーザーの時とえらい対応が違いません?
まあとにかく、こうして素顔を晒したのはせめてもの誠意だと思ってほしい。わざわざこうして足を運んで下さった
リベさんには見せたことあるけど。見せたっていうか、二人きりの時に無理矢理メットを剥ぎ取られたんだけど。『思った通りの顔してた。大人気取りのお子ちゃまの顔』じゃないんだよ。他人の
「……見事な胆力です。今のこの場は、意図的に
「……それはどうも」
花丸ってあなた。お母様、微妙に愉快なワードセンスをしておいででいらっしゃいますね? 渡良瀬がたまにトンチキなこと言い出すの、絶対あなたの影響でしょう。渡良瀬母娘似た者同士説がまた補強されてしまったわ。
が、残念なことにこの面接は
続くお母様の言葉は、賞賛ではなく失意に塗れたものだった。
「だからこそ──貴方の晒したその顔が、本物でないことが残念でならない」
「……そうですね。俺も出来ることなら一度、お母さんに直接ご挨拶に伺いたいと今は思っています」
何らおかしなことはないだろう。友達の家に遊びに行くことくらい。いやまあ、異性相手という問題はあるにはあるが、親のいる時間にお邪魔する分には過ちの起こりようも──
……いや
これ元ネタ鵺の陰陽師じゃなくてダンガンロンパなんだってね。渡良瀬に言われた後ググるまで知らなかったわ。ロボット物以外は門外漢ですまない……何ならロボ物自体も言うほど詳しくなくてすまない……。
「──まあ!」
でさあ。
急に渡良瀬母のテンションが爆上がりしたんだけどどういうこと?
「なんて話が早い──よもやわたくしが切り出すよりも早く、
「……はい?」
「本日はわたくし、その申し出のために
「──きょっ?」
それまで完全に背景と化していた23歳幼女の口から、人ならざる声が漏れ出た。
……というか、ちょっと待て。
何やら話が、思いもよらない方向へと進んでいっているような気がするぞ。
「本題に入りましょう。皆様方の都合が付くタイミングで構いません──どうか一度、
……きょっ……。
強制オフ会……!?
マジかこの人。そこまでやるのか。そこまでしないと俺達のことを信用出来ないのか──いや、待て。
昼にこんな喩えをしたよな。お母様から見たWTを遊ぶ渡良瀬の姿というのは、克服した筈の薬物に再び手を染める中毒者のようなものだと。
だったら、お母様から見た俺達というのは──
──
そりゃ信用出来るわけないよね! 事故でなかったとしてもね! どの道渡良瀬が
「な、何を勝手な──」
と、当然の如く抗議の声を上げたのはギーザーだった。そりゃそうだろう。このおっさんとユメさんからしたら完全に貰い事故だもんな。
君達が渡良瀬家へとお招きされることになったのは私の責任だ。だが私は謝らない。いや、俺は別に反対どころか賛成派なのでマジで謝る気ないわ。ごめんな二人とも、大人しく腹を括ってほしい。がんばれ♡ がんばれ♡
「……申し訳ありません。娘の友人関係にまで干渉するという行為が、醜い親のエゴだということは承知の上です。ですが、譲れない一線というものをどうかご理解頂けないでしょうか」
「し、しかし──」
「わたくしの要件は以上です。日時が決まり次第、彼の──レッドヒーロー様の方から、あの子に連絡を寄越して下さい。LANEで住所を送信致します」
「……質問いいですか」
が、それはそれとして。
譲れない一線と言うのなら、俺の方にもそれはある。
「……俺達がご自宅へと伺うのを拒否した場合、あいつは──凛音さんはどうなるんですか? 彼女から取り上げたデバイスの行方は?」
「無論、返す訳には参りませんわね。あの子には悪いですが、再処分という形になるでしょう」
「……実際に伺った結果、俺達があなたのお眼鏡に適わなかった場合は?」
「同じことです」
「……なるほど」
──OK、了解致しました。
やっぱり貴女は
何としてでも滅ぼして、
──
「近日中にお返事します。必ず」
「ヒーロー! 馬鹿野郎、勝手に決めんじゃ──」
「まあいいだろ、ギーザー」
実際、
とにかく、そんな訳の分からない状況がね。
面接一つで片付くのなら、面倒がなくていいでしょう。
「そりゃハナからセリンに素性割れてるおめーは関係ねーかもしれねーがな、こっちだって色々と事情が──」
「ぎょ、ぎょーかいおーて……じんじぶ……さいよう……お、おいのりめーる……」
「……どうやら、話を取り纏める時間が必要のようですわね?」
「ええ。そのようで」
「では、わたくしはこれにて。──色良い返事を期待しております。あなた、退出の動作を」
『ああ……ちょっと待ってね、何分久々に触るものだからどこを開くんだったか……ええと、これかな?』
と、最後の最後に謎の男性の声が
しかしそうか。てっきり御本人が頑張って覚えたか渡良瀬が代わりに操作してたかのどちらかだと思っていたんだが、もう一人いたな。現渡良瀬家のWT保有者が。お母様はあくまでゴーグルを着けていただけで、実際に操作していたのは渡良瀬父だったのか。アカウントだけは
安心したよ。お母様が
それはなんていうか色々と、
──などと、至極どうでもいいことを考えていた矢先。
着信を示す電子音が、傍らのスマホから鳴り響いた。
「悪い。ちょい離れる」
ジェスチャー
と言っても。
このタイミングの電話の主なんて、一々確かめるまでもなかった。
「──ハロー、囚われの
『ひ……陽彩くん、その……』
電話越しに聞こえる
『どうしてこうなったんだろう』とでも言いたげな、困惑と申し訳なさを滲ませる、揺らぎ切った声色だった。
『……後は、頼みます……』
「ナナミンの物真似か? その言葉は呪いだぞ」
『そんなんじゃないよぉ……どうしてこうなっちゃったの? 私のせいで、あなた達にまで迷惑が──こんな筈じゃなかったのに……』
「迷惑だなんて言うなよ、渡良瀬」
何度でも言うが。
お前のために使う時間なら、面倒だとは思わないんだ、俺は。
「必ず行くよ。最悪、俺一人だけでも。だから──大船に乗ったつもりで待っててくれ」
『……セリーヌ・ディオンの歌が流れるくらい?』
「タイタニックの話は別にしてなかったな……」
俺この喩えでタイタニック持ち出すやり取りもう10回近く読んだ覚えあるわ。コメディ物で。だから人によっては食傷ものかもしんないね。俺達なんか無駄に前振りまで用意してたからね。そこまでして擦りたいネタかこれ?
何のことだか思い出せない人は、次の台詞を参考に記憶を辿って下さいませ。俺誰に向けて話しかけてるんだろうな。イマジナリーお友達かな。もう一人のボク……。
「──
『……うん、待ってる。陽彩くん、私を──』
で、こいつはこいつで何を言い出すかと思えば。
内心痛さ丸出しだなと思ってた俺の、更に上を行く言葉を吐き出すのであった。
『──早く私を、殺しにいらっしゃい』
その言葉を最後に。
永遠の厨二病患者からの声は、途切れた。
「……さてと」
やることは決まった。目的地が決まると考えることが少なくなっていい。後はひたすら
で、とりあえず。
目下のところ、俺が解決すべき問題といえば──
「うわぁぁぁぁぁぁん!! 降りる! わたし船降りる! 今すぐ! ナウ!!」
「だああああ!! 落ち着けユメ! オレだって正直不安しかねーんだから──あんのバカヒーロー、どうなっても知らねーぞマジで! 責任取らねーからなオレは!
往生際の悪いこのダメ大人2名を、如何にして渡良瀬邸へと連行するべきか。
まあとにかく。
楽しい楽しい