VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

13 / 26
『ごっ……ぎが、ががぎご……』

 

 

 ──駅の入口から出てくる人の群れを眺めて、あれでもないこれでもないと見分していく。

 今更ながら、何か目印になる物でも身に付けてもらえば良かったかもしれない。ハット帽とかサングラスとか咥えタバコとか。いや最後のは装飾物(アクセサリ)とはまた別物だな。そもそも今のご時世ファッションとしても許されないだろ。条例違反で即しょっ引かれるわ。

 まあそれはそれとして、言われていた通りの特徴の人物がようやく目に付いた。

 身長は170台後半、緩めのパーマが掛かった色落ち気味の金髪ツーブロック。剃ると言っていた髭は宣言通りに消え失せているようで、よく見ると微妙に剃り残しがあったりする。だらしねえぞ、おい。

 そしてこれは、本人の口からは出てこなかった特徴になるが──目付きが微妙に悪い。黒目が若干上向いている、いわゆる三白眼というやつだ。派手な髪色と合わさって、その辺の輩かチンピラに混ざっていてもおかしくない風貌をしている。

 ……そりゃ、家庭訪問に難色示す訳だよな。お母様の鑑定眼とやらが、外見ではなく内面の方へと向けられることを祈っておこう。

 俺の推測が正しければ、そうなる筈だ。今日の()()は。

 

 

「あー……」

 

 

 で、そんな輩様が俺の姿を見つけてジロジロ眺めてくるという。

 普段だったら勘弁してくれよって言いたくなるシチュエーションだが、ここで日和っていてはお話にならない。それに、何より──

 

 

 ──このおっさん相手に一度でもビビり散らすなんて、死んでも御免だね。

 

 

 

 

 

「……ヒーロー、か?」

「意外と若々しいな、ギーザー。もっと老けてるかと思ってた」

「……おめー、マジで生身(こっち)WT(あっち)も変わんねーんだな……腹立つくらいにいつも通りだぜ……」

 

 

 

 

 

 という訳で、はい。

 とうとう我々、出会ってしまいました。現実(リアル)で。

 

 

 

 

 

 

 

 ──少々時間を巻き戻して、前回の続きから。

 

 

「わァ……ぁ……」

「泣いちゃった」

「ちゃった、じゃねーんだよこのボケ。おめーマジでどういうつもりだヒーロー? 本気でセリンの家まで押し掛けようってのか? オレたち二人連れて?」

「そりゃ、お呼ばれしちゃったからにはな。断ったら失礼に当たるだろ」

「失礼なのはどう考えてもあの母親の方だろーが! わざわざ人様のこと呼び付けてきやがったかと思えば、断ったら娘のゲーム(いのち)はねえぞとかやってること無茶苦茶だろ! あのババア一体何様のつもりだ!?」

「お母様のつもりなんじゃねえかな……」

 

 

 ババアなんて汚い言葉使うなよおっさん。俺からしたらアンタだってジジイみたいなもんなんだから。20歳以上歳離れてるんだよな、今更ながら。話題はともかく言動の方に大人(それ)らしさが全然ないけど。

 

 

「大体な、おめーはなんでそんなに落ち着いてんだヒーロー! このままだとおめーの大事な大事なセリンちゃんがチームからいなくなんだぞ!? いや、それどころかまたWT(ウェイタン)を遊べなくなる羽目に──」

「なんで失敗前提で話が進んでるんだよ。普通に(ツラ)通してお母様の許可貰ってくればいいだけの話だろ。後その言い方茶化してる感じがしてムカつく」

「口を開けば皮肉ばっかのおめーが言うなクソガキ! 逆に聞くがな、おめーのその自信は一体何処から出てきてんだ!? だってオレらは──」

「無職、フリーター、成績下降中の高校生。まあまともな集まりではないわな」

理解(わか)ってんなら──いや無職じゃねーって言ってんだろーが! 何度も言うがな、オレはあくまで充電中──」

()()()()()()()()()()()()()お母様(あのひと)の肩書きに惑わされるな、ギーザー」

 

 

 そしてそこで就活失敗(トラウマ)ほじくり返されて泣いてる、幼女のお姉さんも。

 まずは黙って、俺の話を聞きなさい。

 

 

「お母様がわざわざ俺らのとこまでやって来たのは、渡良瀬(あいつ)の──セリンの()()が起こったのは、ブレイド(昔の友達)と疎遠になったのがきっかけだって知ったからなんだろ。なら、俺達が証明するのはたった一つのシンプルなことでいい」

「……ってーと……」

()()()()()()()()()()()()()()()。またあいつに孤独を味わわせて、同じような事態を招いたりしないか──あの人は多分、そういうことを確かめたがってる」

 

 

 元人事部のキャリアウーマンではなく、人の親として。

 お前達は本当に、()()()()()()()()()()。問われるのはきっと、そういう資質の部分の筈だ。

 だったら──勝算はある。

 ()()の部分で戦うのなら、俺は絶対に勝たなくちゃいけない。

 昨日の晩に立てた誓いが、ハリボテでないことを証明するためにも。

 

 

「だからそんなに泣くことないぞ、ユメさんも」

「ひ゛ーろ゛ーく゛ん゛……」

「声汚っ」

 

 

 これで分身(アバター)の方は真顔なんだからシュールこの上ない。VRゲームでプレイヤーの表情まで再現しようと思ったらどんだけデバイスに金掛かるんだろうね。技術だけならVtuberとかの使ってるやつそのまま流用すればいいんだろうけど。フルダイブ式なんて夢のまた夢だな。俺が生きてる間に実現するんだろうか。

 

 

「ユメさん、なんか知らんけどいつの間にか渡良瀬(あいつ)と滅茶苦茶仲良くなってただろ? その自慢のコミュ力をお母様にも発揮してみせろよ。終わる頃には母娘纏めて絆レベルMAXだ」

現実(リアル)でそんな上手くいくならわたしは就活全滅してないんだよぉ……何が潤滑油だよぉ……わたしが滑り散らしたのは面接の受け答えだけだよぉ……」

「ウィットに富んだ受け答えだな。ヨシ!」

「何見てヨシって言ったんだおめーは?」

 

 

 自虐ネタが言える余裕があるなら問題ないだろう。ユメさんが泣いてるのはいつものことだしへーきへーき。どの口で女を泣かせる趣味はないとか言ったんだろうな俺な。

 

 

「で、ギーザー。アンタもそのまま、俺に言ってたことをお母様へと伝えればいいだけの話だ」

「……あ?」

()()()()()()()()()()()()だよ。渡良瀬(セリン)みたいな奴らの受け皿になるんだろ? 立派な心意気じゃないか、堂々と胸張っていけよ」

 

 

 そう、ある意味では俺以上に有利な材料を持っているのがアンタなんだギーザー。何しろ()()()()だからな。このおっさんの命名した──いや実際は盗作(パクり)なんだっけか? 元ネタ知らんけど──とにかく、『無罪(イノセンス)モラトリアム』という名前に惹かれて、ユメさんとリベさんという人材が集まり、そして見事リベさんは羽ばたいていった。正しく()()を果たしたのだ。昼間の馬鹿がやろうとした、単なる贖罪とは違って。

 そういう訳で、このおっさんは無意味に俺達を縛り付けている訳ではないのだ。渡良瀬の意思を尊重して、あいつの気が済むまで付き合ってやれる存在になれる。その事実はきっと、お母様の信頼にも繋がることだろう。

 流石に俺も渡良瀬も、()()()()()ってワケにはいかないしな。

 そのくらいは承知していますよ、俺も。

 

 

「……違う、そんなんじゃねえ。オレは、本当は、そんな立派なもんじゃ──」

「……?」

 

 

 なんか急に小声でぶつくさ言い始めたぞこのおっさん。全然聞き取れないけど。WTやり始めてから露骨に耳悪くなったような気がするわ……年中ゴーグル付けて耳元で音拾ってるからだなきっと。多分他のプレイヤー連中も似たような症状抱えてると思います。

 で、わしゃわしゃと髪を掻きむしったかと思うと、眼帯大男はヤケクソ気味に大声を上げまして。

 

 

「──あー、クソッ! わーったよ、行きゃあいいんだろ行きゃあ! でもなヒーロー、オレのせいでセリンがWTやめる羽目になろうがマジで責任取らねーからな! いいか、オレちゃんと言ったかんな!?」

「自信満々に情けないこと言うなよ、大の大人が。そんなに人様に誇れない仕事してるのか? やっぱり桐生ちゃんなのか?」

「ヤの付く仕事でもねーし誓って殺しもやってねーよ! ただ──ただな……」

 

 

 逆ギレ気味の声量が瞬く間に萎んでいった。勢いの持続力が短過ぎる。エイシンフラッシュよりも使える足短いんじゃないかこのおっさん?

 余談ながら、俺の口から時々出てくる競馬ネタとかスポーツネタなんかもこのおっさんの影響だったりする。おかげでロボ物以外の余計な知識が増えてしまったわ。流石に90年代くらいの古いネタまでは追いきれてないけど。

 

 

「……確認しとくがな、ヒーロー。セリンがその──()()()()()()をしでかした理由ってのは、あいつが3年前に読んでたロボゲ転生ものの影響受けたのが原因で合ってるんだよな?」

「ああそうだよ。タイトルまでは聞かなかったけど」

「……いやまさかな、まさかだろ。一巻だけで打ち切り食らったし、こんなところにドンピシャで読者がいるわけが……」

「……ギーザー?」

 

 

 まーた独り言モードが始まったよ。歳取ると独り言が増える傾向にあるって聞くけどどうやら本当らしいな。そのうち見えない(イマジナリー)お友達と話し出すとか勘弁してくれよ、あれ本来子供独特の現象なんだから。もう一人のボク……。

 

 

「……なんでもねーよ。で? 肝心のセリン()っつーのは一体どこなんだよ。流石に飛行機とか使わされる距離なら考え改めんぞ」

「東京の国領……調布って言った方がまだ伝わるかな。東京って言っても23区以外は知名度そんなにないもんな」

「あ? んだよ同郷じゃねーか。オレ住んでんの町田だぞ町田、電車で一時間も掛からねーわ」

「神奈川じゃん」

「だああああ絶対言うと思ったわこのヤロー!! 調布も町田も大して距離変わんねーくせにおめーらだけ一丁前に都民ヅラしてんじゃねーぞコラ! 瓦斯よりゼルビアの方がJ1でも順位上なんだぞ!? あァ!?」

 

 

 でもアンタら評判悪いじゃ……いや、言うまい。それは本当に戦争になる。人間関係を円滑に進めたいなら政治と宗教とスポーツの話はしてはいけません。リア友0人からの忠告です。

 まるで俺がこれで友達無くしたみたいじゃん。最初からそういうの関係無しにぼっちですが何か? べ、別に泣いてなんかないんだからねっ!

 ……ぐすっ……。

 

 

「……うそ、ギザさんて町田勢なの……? わたし相模原だからおとなりさん……」

 

 

 あ、放置してた幼女姉様(ユメさん)が復活した。俺が脳内で泣き始めた途端に泣き止んだなこの人。ユメさんの涙を俺が吸い取った可能性が微粒子レベルで存在する……?

 

 

「良かったなギーザー。真の同郷が現れたぞ」

「だから神奈川じゃ……あー、もういいわめんどくせえ。つかなんだ、オレら全員会おうと思えば余裕で会える距離にいたのな」

「まあ、こんなきっかけがなければわざわざ現実(リアル)で会おうなんて思わないよねえ。めんどくさいし」

「そうだな……」

 

 

 この頃お前やたら面倒を擦るようになったなとお思いの諸君。

 安心してくれ。ここにいる奴らは全員面倒が大嫌いだ。

 そんなんだからいい歳こいて、猶予期間(モラトリアム)なんてものに甘んじている訳だからね。

 

 

「で、結局行けるのかユメさん? さっきは冗談で流したけど、マジでキツけりゃ俺とギーザーだけで何とかしてもいいんだぞ」

「……オレは強制連行なのかよ」

「当たり前だろ。自分の立場思い出せよ、隊長(リーダー)

「……ううん、わたしも行く。こわいけど──行く」

 

 

 と。

 幼女の大きな青い瞳に、決意の焔が宿ったような気配がした。

 まあ完全に気のせいだけどね。ただの分身(アバター)だもんね。

 

 

「……わたし、あの子の()()()だもん。可愛い妹がピンチなのに、一人だけお留守番なんて──してられない」

「……ユメ」

「わたし……わたしだって、このままでいいなんて思ってないんだから──」

 

 

 ──『停滞(ステイシス)』という言葉が。

 日中ぶりに、頭の中に蘇ってきた。

 俺だけじゃない。きっとユメさんも、ギーザーだっておそらくは抱えている。無罪(イノセンス)なんて御題目を掲げておきながら、決して消し去ることの出来ない──

 

 

 

 

 

 ──『このままでは駄目だ』という気持ち。

 

 

 

 

 

 もしも、心に死というものがあるのだとしたら。

 この気持ちを失くしたその時に、俺達は本当の意味で、()()()のだと思う。

 

 

 

 

 

 ……なあ、渡良瀬。

 俺が想像してたのとは、微妙に違う形だけど──

 

 

 ──お前がきっかけで、俺達の何かが動き出そうとしてるような、そんな気がする。

 世界の引き金(ワールドトリガー)が引かれたような、そんな気配が。

 うん、これ言いたかっただけなんだわ。ごめんね。

 

 

「決まりだな。わた──セリンに連絡入れてくるわ」

「あ? ちょっと待てやヒーロー、まだいつ行くか決めてねーじゃ──」

「いつ?」

 

 

 これは異なことを仰る、ギーザー。

 わざわざ話し合うまでもないことに、一々時間を割こうだなんて。

 

 

 

 

 

()()()()()()()。どうせ二人とも朝から暇だろ? 毎週そうなんだから」

 

 

 

 

 

 ちょうど夜になったらリーグ戦も始まるしな。

 昨日はどうでもいいなんて言ったが、ここまで来たならせっかくだ。きっちり4人で迎えてやろうじゃないか。

 絶対女王(ミス・パーフェクト)の復帰戦ってやつを、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 かくして今に至る。

 そう、昨日の今日なのである。流石に急過ぎるかとも思ったが、渡良瀬を通した母親からの返答は『花丸です』であった。向こうも早期決着がお望みという訳だ。面倒がなくて大変助かります。

 渡良瀬邸への二人のエスコート役は当然、現地人である俺が担うこととなっている。住所の方も既に確認済みだ。と言ってもぶっちゃけ、俺がいなくても余裕で辿り着ける筈なんだけど。

 何せもう、こっから見えてますからね。家が。

 

 

「乗り換えが微妙にダルかったぜ。特急どころか急行すら止まんねーのな、国領(ここ)

「ま、誰もが不満点に挙げるとこだなそこは。でもまあ、その分新宿とか渋谷に比べたら静かで落ち着いてるだろ。住みやすくて良いところだと思うね、俺ん()からは微妙に離れてるけど」

「あん? おめーこの辺じゃねーのかよヒーロー、セリンと高校一緒なんじゃねーのか」

「あいつが遠くから通ってるんだよ。大体、高校入ったら学区も何もないんだからクラスメイトでも家遠くて当たり前だろ」

「ってことはアレか、愛しの()()()()()()()と二人仲良く登下校みてーなイベントは起きねーってワケか。持ってるようで持ってねーなーヒーロー」

「やっぱアンタもう帰れ。俺一人で行く」

 

 

 ユメさんといいこのおっさんといい、どうもこいつらは俺も渡良瀬の関係を()()()()()()へと持っていきたがっている節がある。どうして世の中の連中ってのはこんなにも他人の色恋沙汰に興味を示すのかが謎だ。クラスの誰々と誰々が付き合ってるとか知らんし興味もないわ。

 まあそういう情報を仕入れてくるような友人(ダチ)もいないんだけどな! ガハハ!

 

 

「大体、二人仲良くっていうならアンタらの方こそ一緒に来ればよかったじゃんかギーザー」

「あァ?」

「ユメさんだよ。町田と相模原なんだろ? 橋本あたりで待ち合わせして、二人で京王線乗ってくればあっさり合流出来たのに」

「あー……そりゃオレも考えたんだけどな、なんつーかよ……」

 

 

 行き場なく視線を彷徨わせ、ぼりぼりと頭を掻くギーザー。WT(あっち)の方でも見た仕草だが、今度はしっかりと髪が指に合わせてわしゃわしゃと動いている。

 その事象が改めて、ここが現実(リアル)なのだということを俺に教えてくれる。

 

 

「……その、見た目()()()だろ、オレ。昔っから女相手にすっと露骨にビビられたりすんだよ。もしユメ(あいつ)とそうなったりしたら最悪だろ、だから先におめーと会ってりゃあ、ユメのやつも安心して寄ってくるんじゃねーかって……」

「そんな気遣える意識があるならその派手な髪の色何とかしろよ。お母様達もドン引くぞ」

「おめーが朝から行くなんて言わなけりゃ美容院行って黒染めする時間取れたんだよ! 早い方がいいの一点張りでゴリ押ししやがって、普通に昼過ぎからでも良かっただろーが!」

「文句は先方に言ってくれ。時間はお母様(あっち)からの要望なんだから」

 

 

 ていうか、輩に見える自覚あったんだなギーザー。言っても本当にそういう雰囲気が漂ってるのは首から上だけで、服装の方は他所行きらしくぴっちりとして落ち着いた色合いで纏めてあるんだけど。これで柄入りジャケットにダボダボのデニムとかだったら擁護のしようがなかった。完全に半グレの出来上がりだわ。

 

 

「ま、いずれにしても気の回し過ぎだろ。だってあのユメさんだぞ? 一昨日も散々嬲られてたじゃんか、アンタの顔がチンピラ丸出しなくらいで日和るようなタマじゃないと思うけどね」

「だったらいいけどよ──おい待て、誰の顔がチンピラ丸出しだっつーんだコラ?」

「そうやって凄んだら益々構成員へと近づいていくぞ桐生ちゃん」

「誰が元東城会四代目会長だ誰がァ!!」

「……あのぉ〜……」

 

 

 ひょっこり、と。

 いつもの如く(あお)り合いへと発展しかけた俺達の間に、おずおずと手を挙げて入り込む──

 

 

 

 

 

「もしかしなくても、お二方──ギザさんとヒーロー……()()、でしょう……か?」

 

 

 

 

 

 ──ふわふわの服に身を包んだ、栗毛パーマの()()()()の姿があった。

 背丈は思っていた通り、160かそこらといったところ。緑のニットセーターに白のロングスカートを合わせて、顔には赤いハーフリムの眼鏡が掛かっている。顔付きは正におっさん(ギーザー)の対局と言うべきか、愛らしさに全振りした大きめの垂れ目に、柔和な印象を与える緩々の口元。渡良瀬の他人に与える印象が『美しい』の一言で表せるのならば、目の前のこの女性(ひと)に相応しい形容詞は、紛れもなく──

 

 

 ──『かわいらしい』の一言に尽きる、お姉様だった。

 断じて、幼女(ロリっ子)などではあり得なかった。

 

 

「……ユメ、さん?」

「わぁーよかったぁー! 全然関係ない人達だったらどうしようって思ってた! そう、そうです! 羊宮結愛(ようみやゆめ)! 名前から取ってそのまんまで『YUME』です! うわー、ホントにWT(あっち)とおんなじ顔してる! すごーい!」

「お、おう……そういう貴女は、WT(あっち)よりも随分と大きくなられましたね……?」

「当たり前でしょー? 現実(リアル)であんな見た目してるオトナがいたらテレビで引っ張りだこだよ。アバター(あれ)はあくまで理想のわたしなのです。本物の方はなんていうか、こんなもんだよ」

「いやぁ……おめー、思ってたよりも断然……」

「うわ、年甲斐もなく(スーパー)サイヤ人みたいな髪の色してるおじさんがいる」

「ばっ──う、うるせーなこのヤロー! 流石にもう髪で遊ぶ歳じゃねーことくらいオレだって理解ってんだよ!」

「いいんじゃない? いわゆるちょいワルって感じで。似合ってないとは言ってないでしょ、ギザさん」

「お、おぉ……そうか……?」

 

 

 何微妙に照れてんだおっさん。それこそ年甲斐もなく。

 だがまあ、良かったじゃないか。アンタの心配が杞憂に終わったみたいで。ユメさんも現実(リアル)がどうこう言ってた割には全然いつも通りのノリだし、なんていうか普通にもう()()()()()だ。チームルームに集まりだらだらくっ(ちゃべ)るだけの謎の集団、我ら『イノセンス・モラトリアム』の。

 いや、チーム練とかもたまにはやってますよ。極稀に。流石にこれからはもう少し頻度増えると思うんで勘弁して下さい。

 そうじゃないと、あいつの仲間(パートナー)なんて名乗る資格ないもんな、俺達。

 

 

「……ていうか、ユメさん……なんで本名パなした?」

「え、ふたりともまだバラしてないの? なにそれわたしだけ勇み足じゃん」

「いやだってよ、必要ねーだろ別に。おめーだってフツーにオレのことギザさん呼びじゃねーか」

「じゃあそのノリでセリンちゃんのおかーさんにも素顔で名乗るの? どもー『Geezer』でーす! って。それはなんか違うと思うなあ、こっちだってもうセリンちゃんの本名知っちゃってるワケだし」

「ああ……そういや普通に、お母様が初っ端ゲロってたっけ……」

 

 

 内心おいおいって思ったのを思い出したわ。いやでも、苗字の方は先にバラしたの俺なんだよな。何なら普通に『凛音さん』とか言っちゃってたし、お母様のことをどうこう言える立場じゃなかったわ。ごめんな渡良瀬、お前の個人情報はもうガバガバです。

 

 

「そ・れ・にぃ〜……」

 

 

 と。

 WT(あっち)の方では見せたこともない邪悪な笑みを浮かべて、赤眼鏡のお姉様が俺の方を見ていた。

 いやまあ、分身(アバター)ちゃんは表情反映されないんだから見せようがないんですけどね。

 

 

「わたし、知りたいなあ──『R()E()D()H()e()r()o()()()()()()

「──!?」

「ははぁ……なるほどなるほど、そういうことな……」

 

 

 それに呼応して同様の笑顔を浮かべる、ノンデリ昭和金髪クソ親父。

 こっ……こいつらまさか──ずっとこの機を窺っていたとでもいうのか!? 合法的に俺の本名を知る機会を!?

 

 

「乗ったぜユメ。()()()()()なら別に知られても支障ねーしな」

「いやちょっと待──」

大佛洸一郎(おさらぎこういちろう)。かぐや様の方じゃねーぞ、サカモトデイズの方で覚えろ。洸の字はアレだ、ひびき洸のアキラ」

「うーん、ライディーンの話はわたし全然わかんないなぁ──なんて話は置いといて! 改めまして羊宮結愛、苗字はひつじの宮殿でしょ? 名前の方は……これ言うの割と恥ずかしいな、結ばれる愛と書きます」

「かっかっか、おめーの名前も割と大概だな? 結愛(ユメ)ちゃんよ」

「ギザさんうっさい! とにかくほら、わたしも恥ずかしい思いしたんだからヒーローくんも道連れです! ハリーハリー!」

「ごっ……ぎが、ががぎご……」

 

 

 追い詰められたあまり攻撃力2950の通常モンスターみたいな声が出てしまった。今すぐ召喚してこの世の全てを破壊し尽くしてしまいたい。誰を生贄に捧げるかって? 目の前の大人(バカ)二人だよ。

 しかし残念なことに、この世界はカードゲームのモンスターが実体化するようなファンタジック空間でもなんでもないので。

 俺の破壊衝動を代わりに引き受けてくれるような()()()は、存在しなかった。

 

 

「……赤嶺、陽彩。太陽の(よう)に彩りの(いろ)で……陽彩(ひいろ)

 

 

 渋々。本当に渋々、口にした。

 暫しの沈黙が生まれた後、俺の言葉を咀嚼し終えた大人(バカ)どもの顔が──

 再び先の、邪悪スマイル(にやけ面)へと戻っていった。

 

 

「わはははは! それでまんま『あかひいろ(レッドヒーロー)』ってか! いよっ、トゥルーヒーロー! フォーエバーヒーロー!」

「あっはっは! ギザさん、ドンブラザーズの話はわたし全然わかんなーい!」

「殺す!!」

「バカやめろ! おめーその名前でその単語口にするんじゃねえ!」

「うーん、ガンダムWの話も全然わかんないなぁ──でもでも、ヒイロくんにこれ言われたひとって絶対死なないんだよね? 実質守護(まも)る宣言みたいなものじゃない?」

「やかましいぃぃぃぃ!! 死ねえぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 ごめんな渡良瀬。本当に、()()が起こってしまった。

 それでも行くよ。必ず行く。絶対に、俺一人で──

 

 

 

 

 

 この大人(バカ)どもを纏めて片付けた後でな!!

 殺す!!!!!!

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。