VRロボゲの元絶対女王を隣の席の俺が幸せにするまで   作:Amisuru

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『ゲーム世界へと転生した俺、前世の知識と経験で無双する〜最強ゲーマーは生まれ変わっても最強です〜』

 

 

 ……いやはや、お見事。

 お荷物なんて言って悪かったよ、ユメさん。いや、この一年間戦力的には、紛れもなくそうだったんだけど。

 そんなものは全部、()()()()でチャラってなもんだろ。

 見せ場を奪われたのはまあ、悔しいけどさ。少しだけ。

 俺個人の願望なんてものは、最早どうでもいい。

 これでようやく、渡良瀬は。

 『serin』として、俺達の元に──

 

 

「……では、気を取り直しまして」

 

 

 とまあ、すっかり全てが終わった気でいたものだから。

 涙を拭いたお母様の放った言葉は、それはもう俺をガン萎えさせるものでありました。

 

 

「続きましては──ギーザー様。()()()()()()()()()()

 

 

 ええ……(困惑)。

 ごめんなさい。流石にその、思ってしまいました。まだ続けるのこの面接(イベント)? もう終わりで良くない? さっきのユメさんの一撃でもう決着付いてない? 貴女さっき言いましたよね? 娘をよろしくお願いしますって。『もういい……もういいだろ!』って銃弾ぶち込みたい気分だわ今。映画もう観たかな皆。俺はまだ観れてない。

 

 

「仰りたいことはよく判ります、レッドヒーロー様」

「人の心を何度も読まないで下さい。赤嶺陽彩です」

「失敬、陽彩くん──ですがあくまで、わたくしが認めたのはまだユメ様のみということです。貴方もまだ、見極めを済ませた訳ではないということをお忘れなく」

「……承知致しました」

 

 

 いやまあ、冷静に考えればその通りなんですけれども。さっきのユメさんの完勝っぷりを見せつけられた後で、尚も俺達の前に立ちはだかってくるのかと考えると……再生怪人か何かを見ているような気になると言いますか、同じ敵と何度も戦うのは読者の飽きを加速させるだけだと言いますか……いや誰だよ読者って。思考が微妙に良くない方へと行ってんな、反省しろ赤嶺陽彩。

 この人には紛れもなく、本気になるだけの理由があるんだから。俺だってそれを、茶化す訳にはいかない。

 人としても、あいつの仲間(パートナー)としても。

 

 

「──そういうことらしいから、決めてこいよギーザー」

 

 

 とにかく、そうと決まればまたしても俺は成り行きを見守るしかない。丸投げの意味も込めて、隣に座るおっさんの肩にぽんと手を乗せた。

 とはいえ正直、心配はしていない。昨日もちらっと触れた通り、このおっさんもお母様に対して切れるカードは持っている。ユメさんと違って渡良瀬との絆レベルを上げる時間は取れなかった筈だが、そのあたりは実績と話術でカバー出来るだろう。年の功ってやつの見せ所だな。

 

 

「…………」

「……ギザさん?」

 

 

 で、なんか知らんけどおっさんの反応(リアクション)が薄い。俺だけじゃなくてユメさんの呼びかけまでもスルーするとは一体どういうことか。まーだ部屋入る前のローテンション引き摺ってんのか?

 ……待てよ。部屋入る前で思い出したけど、そう言えばこの親父。

 ()()()がどうとか、宣ってたような──

 

 

「……奥様。お話の前に一つ、娘さんに確かめたいことがあります」

 

 

 などという、俺の懸念を他所に。

 いつもの粗雑な口調を投げ捨てた金髪ツーブロックの男は、言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「──セリン。おめーが影響受けたっつー転生物の題名(タイトル)、教えてくんねーか」

「……隊長さん? 何を──」

「答えてくれ。頼む。……違うなら違うでいいんだ」

 

 

 ユメさんとのイチャコラタイムを終わらせて立ち見へと戻った渡良瀬を、じっと見据えるギーザー。こんな時に何をとしか言いようがない問いかけだが、隣の親父に冗談やおふざけの空気は微塵もない。

 それを察したであろう渡良瀬も、また一つ。

 自身の傷を、俺達へと曝け出した。

 

 

「……『ゲーム世界へと転生した俺、前世の知識と経験で無双する〜最強ゲーマーは生まれ変わっても最強です〜』よ」

「……ありがとよ」

 

 

 その題名(タイトル)は。

 俺にもまた、聞き覚えがあった。

 覚えているだろうか? 『クロガネの執行者』──俺があの持久走の日に、渡良瀬へと勧めた小説。その作者が約4年前、WTリリースの少し後に刊行した作品だ。

 内容は読んで字の如く、星の数ほど転がっているゲーム転生無双物だが──流石に別作品での実績がある作者の書いた代物だけあって、読み物としてのクオリティは確かに高かった。残念ながら売り上げは振るわず一巻で打ち切りと相成ったようだが、これが切られるならあれとかそれとか先に切った方が良くない? と思うくらいには完成度の高い一作だった。

 それでも俺は、クロガネの方が好きだったけど。正直、今時のライトノベルにしては序盤から鬱展開だわ雰囲気も殺伐としてるわ死人はわんさか出るわのR17.5みたいな作風ではあるのだが、それでも文章の端々に作者の情念というか、()が籠もっている感じがしたのだ。それに比べると後発の最強なんちゃらは、なんていうか──

 別にこの人じゃなくても書けるよな、これ。

 そんな感じの作品に、思えてしまったのだった。

 

 

 その作品を最後に、件の作者は4年間、新作を発表していない。『クロガネの執行者』の刊行も、依然として止まったままだ。主人公とヒロインがついに結ばれいよいよ最終決戦間近という、最高に続きが気になる引きで終わったというのに。

 作者の名は、小佐内ガイ。

 名前の由来は、表紙裏に書かれた著者紹介欄曰く──

 

 

 『幼い(Guy)』。

 ──『こどもおじさん(Geezer)』だそうだ。

 

 

「──始めて下さい、奥様」

 

 

 そんなことを思い出している間に、おっさんの面接タイムが始まってしまった。こっちはまだ振り返りモードから脳味噌切り替わってないってのに。おかげでまた一つ、余計なことを思い出してしまったぞ。

 例の最強なんちゃらの題材として扱われていたゲーム、今思えば完全に──W()T()()()()()()()()()。荒野を舞台にしたロボット物で、主人公は企業に金で雇われた傭兵。流石に固有名詞はある程度原型留めないように弄ってはいたが、WTプレイヤーが読めば一目で察せられる程度には、まんまだった。

 なので、おそらく。

 小佐内ガイは当時、WTにドハマりしていたという疑惑がある。

 実際、ファンの間ではこんな話が定説になっていたりする。小佐内先生が本を出さなくなったのは、『クロガネの執行者』がそれなりにヒットして生活に余裕が出来たのもあるだろうが──それ以上に。

 WTにがっつりハマり過ぎて、小説を書く意欲を失ってしまったのではないか、と。

 それで一度、熱狂的な先生のファンがXwitterの本人垢に突撃するなんていう事件もあったりした。しかし小佐内ガイという人は著作の宣伝行為以外で呟くことを滅多にしないタイプの作者であり、他創作者との交友も皆無という謎多き人物。先述の突撃行為も先生からのレスポンスは一切なく、ここ数年は呟きも完全に止まっている。一部では死亡説すら流れているくらいの──過去の存在。

 それが俺の知る、小佐内ガイという創作者の全てだ。

 だが──

 

 

「……では、御伺いさせていただきましょう。ギーザー様、貴方が『Wasteland Titans』というゲームを始めたきっかけというのは──」

「いえ──奥様。まずは私も、自己紹介から始めさせていただきたいのです。先のユメ──()()()()と同じように」

「ぎ、ギザさん……?」

「……いいでしょう」

 

 

 信じられないものを見るような目で、奥のユメさんがギーザーのことを眺めている。よもやこのおっさんの口から『羊宮さん』なんて呼ばれ方をする日が来るだなんて、想像したこともなかっただろう。俺ももしおっさんから『赤嶺くん』とか呼ばれたりしたら、全力でこいつをぶん殴る自信がある。正気に戻れという意味で。

 ──今。

 俺の中に一つの、馬鹿げた妄想が芽生えつつある。

 自称無職ではないというギーザー、その『本職』は一体何なのか。

 定職に就いているというのなら、何故この男は当たり前のようにいつ如何なる時もWTにログインしているのか。

 以前、俺とこのおっさんの間で交わされた、こんなやり取り──

 

 

 

 

 

『……なあギーザー、本当にまたリベさん級の凄腕が釣れると思ってるのか? 柳の下にいつも泥鰌はいないって諺を知ってるか?』

『バーカ、その手の分野でオレにマウント取ろうなんざ20年早えーんだよ。それに分かんねーぞ? 何処から化け物が生えてきてもおかしくねーのが──』

 

 

 

 

 

 ──()()()()()()、というのは。

 諺に関すること──或いは、そういった言い回しや表現といった、言葉に連なるありとあらゆること。

 ()()()においてこいつは、絶対的自負を持っている──そういうことなんじゃないのか?

 

 

 と、なれば。

 ギーザーの就いている、職業というのは──

 

 

 

 

 

「御名前をお聞かせ下さい」

「大佛洸一郎です」

「御年齢は?」

「38です」

「御職業は何を?」

()()()()()

 

 

 そうして、あっさりと。

 たった今俺が辿り着いたばかりの推測を、この男は明らかにした。

 

 

 

 

 

「──ペンネーム、小佐内ガイ。貴女の娘の──凛音さんが影響を受けたという作品、その執筆者です」

 

 

 

 

 

 堂々と、告白した。

 『私は貴女の娘の仇のようなものです』と。

 

 

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